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テロ確定?

 学園ではよく行われる強制校外実習。

 あらかじめ伝えられていれば、そのために転移法陣が発動したのだと皆が思い込み、術の発動を阻害される危険性は無くなる。さらに、時空の魔法を発動させた後に転移法陣を完成させれば、術が上書きされて痕跡が消え、時空の魔法で転移させられた生徒の行方を追えず、救助は難航する。


「転移法陣=強制校外実習っていう、思い込みを利用されたかぁ」


 呟くシシーの声は感心していた。これが事実なら、学園の教育方針に対する痛烈な皮肉になるだろう。学園全体が思い込みにより、完全な油断をしていた事になる。


「念のために聞くけど、普通に転移法陣で飛ばされて、1か月間アタシらが眠らされた後に、ここへ飛ばされたっていう可能性は無いんだね?」

「その可能性は低いだろう。1年や、貴方たちのようなアトリエ生ならばともかく、転移に慣れた俺たち3年が飛ばされた影響で気を失う事は皆無だ」


 迷宮の罠には転移の罠もある。慣れない者が飛ばされると気絶する事が多々あるのだ。魔物が闊歩する迷宮で気を失って転がっているなど、「さあ、どうぞお召し上がり下さい」と、魔物に言っているようなもの。そうならないようにする為に、強制校外実習では転移法陣を用いて生徒を飛ばし、身体を慣らさせるのだ。


「それに1か月もの間、昏睡させられてたなら身体に違和感があるはずだよ。倦怠感とか強張りとか。そういうのあった?」


 ポーションで回復させようとしても、その場で行うのは覚醒させてしまうから無理であるし、一緒に転移してきて回復させたのなら、その者の気配を感じ取れないのはおかしい。それ故、長期間眠らされていた証拠が身体に残っているはずなのだが、全員が思いおもいに無かったと答える。


「でしょう。……ついでに言うなら、私はその手の薬に高い耐性があるから、簡単には眠らされないよ」


 その間に1戦くらい交えているはずだ、と言葉を続けるシシーに誰もが納得する。

 『アーラ』を名乗る者ならば、それくらい出来て当然だという世間の認識なのだ。逆に言えば、そんな事も出来ないのでは『アーラ』を名乗る資格が無い。


「という事で、エスピル先輩がおっしゃったその線は、完全に消えましたね」

「事故という線も必然的に消えます」

「理由は消費する魔力が半端なものではないから、時空の魔法と転移法陣、2つを同時に行うなど不可能だからだ」

「時空の魔法については、意図的に発動させなければいけませんし……」


 一同は深い溜め息を吐く。なんだか、とても面倒な事になってきた。


「あ~、少なくとも2人? になるのかい? 犯人は」

「いえ、普通に転移法陣を発動させた所に、時空の魔法使いが被せてきた、という可能性もあります」


 考えれば考えるほど分からなくなっていく。そもそも、この面子が飛ばされた理由が分からない。いや、もしかしたら他にも飛ばされた生徒が居たのかもしれないが、生きて蜂殺迷宮に今居るのは、シシーに保護されて此処にいる20人だけだ。

 学科も違う、学年も違う、これまでに面識がある者も少ない、共通するのは同じ学園で学ぶもの同士だという事と、学園西側に居たという事だけ。しかも、西側に居たのは単なる偶然でしかないのだ。


「……ここに居る全員、魔力が高いですね」


 何か他に共通する事はないか、と全員を見比べていたブランが呟いた。


「そういえば、確かに」

「魔力判定でいうならBクラス以上、だな」

「シシーさんは別格ですが」


 シシーの魔力はSS、もしくはそれ以上だろう。大きすぎて見ただけでは正確には分からない。


「魔力で飛ばす者を選んだとしても、目的がさっぱり分かりませんね」


 転移先は1か月後の蜂殺迷宮、階層はバラバラ、いったい何をしたいというのだろうか?


「殺すのが目的にしては、私を飛ばしたのが理解出来ないし」


 最下層に飛ばされはしたが、迷宮主の真ん前に直送された訳でもなければ兵隊の守護領域内でもなかった。そんな場所へ飛ばしたら『アーラ』ならば脱出は容易いし、その過程で他の生徒を保護するくらい、犯人でも容易に分かるだろう。

 確実に殺すのを目的にしていたのなら、『アーラ』を除外してしかるべきだし、全員を違う階層に飛ばしたりせずに、迷宮主の前に放り出すだろう。その方が確実である。


「ふるいにかけたとか?」

「何のために?」

「公国が跡目争いの決闘の為にとか?」

「学園を敵に回してまでやるような事じゃないと思うが」

「と言いますか、滅亡まっしぐらですよ」

「愚行の極みです」


 過去に学園を悪質な手段で利用して敵に回した国があったが、その結果滅亡している。それは学園が武力に訴えた訳でもなければ、学園の在る王国や周囲の国を頼った結果でもない。

 学園がした事は、その国の者の入学を一切受け付けなかった、ただそれだけだ。

 アドフィス学園は時代の最先端の学問や研究、技術を学び開発する場所だ。その教えを教授できなければ、その面で他国よりも劣っていく事になる。自国で補おうとしても、まず下地が違う。

 学園には先人達が遺した多くの教えと、それに伴う貴重な文献や資料が存在し、世界中から集まる豊富な人材が居る。真似して出来る事でもなければ、簡単に追いつける差でもない。それに、その国の者であっても他国に亡命し、2度とその国へ戻らない事と技術供与しない事を神の名の下に誓約すれば入学を許されたのもあって、その国からはどんどん優秀な人材が流出していった。

 謝罪して赦しを請えばいいものを、無駄な意地でそれを拒否した結果、その国は衰退していき、滅んだのだ。

 もし、学園がこれに味を占めて、神殿のようにその威光を振りかざし、叡智を盾に横暴な振る舞いをしていたら、学園は今日まで存在しなかっただろう。各国の懸念を知っていた学園は『学園の存在意義と尊厳を脅かされない限り、我々もまた、他者を脅かさず、ただ叡智の先駆者であり続ける』と、神の名の下に誓約した。

 神の名の下になされる誓約は最も重い。反故にすれば名に誓った神から神罰が下されるのだから。それは死、ただの死ではなく、魂の消滅を意味するものだ。

 それがあってか学園は政治や他国に干渉しないし、また、させない。敵に容赦はしないが誠意をもって公正に平等であり続ける故に、各国から敬意を表されている。


 そんな背景のある学園であるために出てきたレウス達の言葉だ。


「だよねぇ。アタシも本気で言ったわけじゃないから安心しな」


 あくまで現状で推測できる可能性を言ってみただけなのだ、カトレアは。


「思ったんですが~、1か月も行方不明じゃ~」

「学園大騒ぎですね~」

「…………レイとルカが怒り狂ってそうだ……」

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