黄昏れる男性陣
女性陣がゴーレム作りに勤しんですぐの男性陣。
「無いなら作る、というのは職人ならではですね」
「本当に。あの2人も嬉々として励んでいる所を見ると『職人なんだなぁ』って、改めて実感しますね」
「さっきまでは、迷宮での生産なんてとんでもない! って感じだったのに……」
「魔力と体力が尽きても、その度にアイテム使って回復させると言われて怯みませんでしたからね……」
「逆にやる気を漲らせていたような……」
「未知への挑戦を恐れていては、職人であれないという事なのか?」
「それを言うなら俺たち戦闘職もじゃ?」
「……そうですね」
なんとなく女性陣の方が逞しいと感じる男性陣だった。少し、ほんの少しだけ、自分たちが情けないような気がするのは何故なのだろう……。
「とりあえず、任せられた確認作業をしましょう」
「そうだな」
最寄りの街までのルート、所要時間、そこで買い揃える物、そこから帝国までのルート、道中で危惧すべき事など、考えるべきことは沢山あるし、どれも蔑ろにして良い物では無い。
「耐熱アイテムはハニーさんに任せるとして、食糧ですね。水はどうします?」
「それなら俺たちで賄える。水属性が3人居るし、5人で火、水、風、地、光、闇の属性が揃っている。全員がトップクラスの成績だから安心してくれていい」
「それは助かります。あと砂除けの外套も要りますよね、アラン」
「はい。それがないと全身砂まみれです」
砂嵐に遭遇したら地獄ですよ、と経験者が語ると、それだけなのに非常に説得力がある。
「なら、その時は地魔法でドームを作ろう」
「それが良いです。下手に動いて吹き飛ばされると、広大な砂漠では再合流は難しいですから」
最悪、そのまま干からびてミイラになるとアランは言う。砂漠は魔獣の領域であるから魔獣に襲われるとも。
「グリューネさんと一緒なら魔獣は牙をむきませんから、はぐれない様にするのが重要ですね」
魔獣は治療師であるスライムを絶対に襲わない。むしろ危険が迫れば身を挺して守るぐらいだ。
はるか昔の時代、魔獣も理性無き魔物として呼ばれていた混沌の時代とは異なり、今では闇雲に人を襲ってきたりはしない。長い年月をかけて住み分けが成され、魔獣は魔獣のルールに従って暮らしているので、彼らの領域を荒らさなければ襲われる事も無い。一部の高い知性を持った魔獣は人と上手く共存すらしている。
なので人を理由も無く襲うのは、魔獣の社会に適応できないあぶれものなので討伐しても問題無いのだが、その魔獣ですら紋章持ちのスライムを絶対に襲わないのだ。さらに治療してもらう際には、対価となり得るものを持参するという。そうしないと最弱のスライムは、なかなかレベルを上げられないから魔獣たちの暗黙の了解になっているらしい。この暗黙の了解もあぶれものの魔獣は守るのだから、どれだけ魔獣がスライムを大事にしているのかを窺えるだろう。
そういう理由から、シシーは貴重な素材をグリューネから譲られて保有しているのだと、彼らはシシーから説明を受けていた。
「その素材を放出させて路銀にしてしまうのは申し訳ないですが……」
「それ以外に方法がないからな……」
後継者争いが勃発している状況では迷宮への立ち入りが禁止されている可能性があるのだ。というか絶対禁止しているだろう。そんな所へ蜂殺迷宮の素材を持ち込んだら、捕まる。捕まったら身元がバレて、後継者争いが継続中ならそれに巻き込まれるという図式が完成する事になる。それだけは嫌だと、全員の意見が一致していた。
なので迷宮の素材は使えないのだ。シシーとカトレアは個人的な理由で欲しそうにしていたが、迷宮が不安定な状態にあると知ってからは諦めている。
「雑用を進んでこなすしかないのでは?」
「あとは盗賊の類が出た時くらいですかね? オレたちが活躍できるのは」
「ですが、シシーさんは当然として、カトレアさんも強くていらっしゃるような……」
「エスピル先輩の戦闘力はBランク相当ですからね……」
カトレアは力に恵まれた獣人族である事を活かして、自分で鍛冶の素材を入手しに行ってるうちに自然と強くなっていったらしい。
「で、でも、ハニーちゃんとメープルちゃんなら!」
「そうです! あの2人なら守ってあげられそうです!」
小人族の2人に救いを見出した一部の声は、別の誰かによって消された。
「あの2人の俊敏性はAランク相当だぞ。その辺の盗賊相手なら簡単に逃げられるだろう。魔法も使えるし」
「オ、オレたちの存在意義って……」
「……雑用を頑張りましょうね。気が利く男は好感度が高いですよ」
彼らの一部は無力感に苛まれる。一応は学年トップクラスの実力を有しているのだが、相手が悪い。
1人は強者の証『アーラ』を名乗る者で、1人は腕を切り落とされても怯まず、彼らに激を飛ばす気丈夫な熊の獣人、見た目はか弱い2人は、速さに長けて魔法も使える小人族。加えて全員が錬金術師見習い。
彼らの見せ場は少なさそうだった。一部のうな垂れる野郎は放置して、話を進める残り。
ミカとアランのマップで出口までの経路を確認、戦闘時の連携をどうするか、お互いの能力の把握、街で済ませておくべき事などを話しているうちに、時間はあっという間に過ぎていく。そろそろカトレアが宣言した時間になる頃合いだった。
「あ、そうだ、迷宮から最寄りの街までどれくらいかかる?」
「そうですね、徒歩2時間くらいです」
「いま何時でしょう? 場合によっては、ここを出て、野営をして夜が明けてから街に向かった方が良いかもしれませんね」
1人が持ち物の中から魔道具の時計を取り出して日時を確認する。彼らの認識では、まだ陽が沈んでいないくらい、遅くとも陽が沈んだばかりだろうと思っていた。その時までは――――。
「――あれ?」
「どうした?」
「自分の目がおかしくなったのでしょうか? これ、どう見えます?」
「どうって、日付と時間が…………」
「……この時計、失礼ですが壊れていたりとかは?」
「魔道具ですので、ちょっとやそっとでは壊れませんよ?」
誰もが口をつぐんだ事で静寂が生まれる。
異変を察して、それまでうな垂れていた野郎も近寄ってきて時計を覗き込むのだが、言葉も無くそれを凝視する事になる。
「……この時計が正しいなら、僕らが飛ばされてから1か月経過していますね……」




