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背に腹はかえられない おまけ

「たしかに今まで先輩が着ていた戦闘服とは趣が異なりますね、ドレス姿もお似合いですけど」


 ミカが言うとおり、シシーがこれまで着ていた戦闘服はタイトな黒の上下の上に東方大陸の衣装の1つ、『キモノ』と呼ばれる大きな袖が特長の衣を纏っていたものだった。夜色の地に赤の流線紋様が躍ったそれの右腕を邪魔にならぬよう黄色の紐で括り上げ、腕を守る赤をポイントに使った黒の手甲が目立ち、同様のデザインの防具で左腕と両足も保護していた。

 それに比べると、今シシーが着ているドレスは華やか過ぎて防御力に欠けている。


「懇意にしてる裁縫系のアトリエ生が作った物なんだけど、礼だって言われて押し付けられて、そのまま忘れてたやつなんだよ」

「勿体ないです~、良い物なのに~」

「そうです~、ちょっと見ただけでも魔法耐性とか~、物理防御力がすごく高いですよ~」

「縫製も丁寧で~、さりげなく入ってる刺繍も完璧です~」

「これなら服に動きを~、阻害される事もなさそうです~」


 職人として見るべき所はきっちり見ていた2人の言葉は的確だった。


「うん、あの兄妹の腕は確かだからね。……ただ、進んで着ようとは思わないけど」

「やはりドレスでは動きが制限されてしまいますか?」

「いや、今日の恰好でも軽々とフリージア教官から逃げ去った先輩だぞ、それは無いだろ」


 1人が聞くが、すぐに別の1人が否定する。

 ロングスカートで足下はサンダル、それも若い女性が好みそうな華奢なデザインのサンダルで逃げ去った今日の鬼ごっこを、彼はミカ同様に見ていたのだ。それに裾の長いドレスで見えないが、おそらく踵の高い靴を履いているのにシシーが何の苦も無く歩けていたのを確認してもいた。


「これくらいなら問題にならないよ、本気勝負は無理だけど」

「じゃあどうしてですか~?」

「いや、好んでドレス着て戦闘する人っていないでしょ?」

「いえ、騎士学科や戦士学科では少数ながらいますよ? 簡略化されて動きやすいようにデザインされた物でしたが」

「え、いるの!?」


 ミカから衝撃の事実を聞かされて、しばし絶句するシシー。


「はい~、わたし達も知ってますよ~」

「戦っている時でも~、女らしさを忘れたくないという~、乙女心なんだそうです~」

「そういう防護服を作ってくれる~、兄妹の工房があるそうで~」

「人気だそうです~」


 ハニーとメープルの情報から、間違いなく某兄妹の暗躍をシシーは確信した。


「たぶんそれ、このドレスを作った兄妹の工房だわ……2人はその兄妹と面識ある?」

「ないです~」


 同じタイミング、同じ動作で否定する2人の声は、やはり同様にシンクロしている。


「じゃあ、帰ったらあの兄妹にも2人を引き合わせるから、覚悟してね」


 何を覚悟すべきなのか分からず、頭上に疑問符を浮かべて首を傾げる2人にシシーは言う。


「あの兄妹、個性的でアクが強い上に『可愛いもの大好き、ドレス作りたい病』を患ってるから、2人を弄くりまわすと思う」

「えぇ!」

「アハハハ、私も通った道だから頑張って」


 むなしいシシーの言葉が響く。肩に乗っているグリューネがシシーを慰めるようにすり寄っている光景が印象的だった。

 その姿に「いったい何をされるんですか~!」と、不安を募らせる小人族2人であった。

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