普通はしません おまけ
「分野が違っても密接な関係があるのは理解しましたが、それじゃ今まではどうされてたんですか?」
「先輩に卒業までのあいだで作れるだけ作ってもらってたのを使って、それが尽きたらしょうがないから品質を下げて別な人が作った物を使ってたよ」
「品質を下げる?」
「コップ一杯に注げる水の量は決まってるでしょ? あれと同じ理由。耐えられる魔力量を超えたら砕けるんだよね。だから仕方なく」
「力と力が釣り合っていなければ、強い方が弱い方を打ち砕いてしまうんですか」
この説明だけではいまいち解りづらい者がいたようなので、カトレアが筋肉脳でも理解できる別の説明も付け加える。
「魔剣はただの剣用の鞘には収まらないだろう? 専用に誂えた力のある鞘には収まっても」
「あ、そういう事なんすね」
「そういうこと。独りだけの力じゃ錬金術は製品出来ないから、アタシらは横の繋がりを大事にするんだよ。ただ、見つけるまでが大変なんだ」
だから2人が見つかって良かった、と心からカトレアとシシーは言う。
「それでもアトリエ生どうしなら情報も入ってきやすいんだけどねぇ…………あちこち飛び回って不在がちになるシシーはともかく、アタシや他の奴らにも2人の情報が入らなかったのが不思議なんだけど」
特に知っていたらしいミカへとカトレアは視線を向けたのだが、このセリフに小人族の2人が恥ずかしそうに、その理由を話しはじめた。
「わたし達~、田舎に住んでいたもので~」
「語学の習得が間に合わなくて~。会話は大丈夫なんですが~」
「文字がまだつたなくて~、入学の時にお店の経営は~」
「無理だとされたので~、最近まで寮生だったんです~」
それは仕方の無いことだった。国や種族が違えば言語も変わるのだから。
アトリエ生になるには専門分野のマイスターが必要なのだが、2人は技術面では申し分なしと判断されても、工房経営のためには語学力に難有りとされたための措置だったのだろう。
「その時に縁が出来たので僕らは2人を知っていたんですけど、先輩達の事情を知らなかったのでエスピル先輩の工房に伺った時も話題にしなかったんです」
「そういう事なら仕方ないねぇ。……それにしても、苦労しただろう。アタシはこの大陸の生まれだから話せたけど、2人は別の大陸の出じゃないかい?」
小人族は南方大陸と東方大陸に多い。
「はい~、南から来ました~」
「まずわたし達がいた村では~西の公用語話せる人がいなくて~、お国から留学の推薦を頂けた時は~後先考えずに飛びつきましたが~」
「時間が無かったせいか~、お城のスパルタ教育は辛かったです~」
よほど辛かったのか2人からは哀愁が漂っていたが、シシーは最後のセリフに疑問を持った。
「どうして時間が無かったの? 国からの推薦って1年前には選考終わってるはずじゃない?」
シシーの言うとおりである。普通は入学までの1年間で語学を叩きこんだりするのが普通だった。
「はい~。本来は別の人が選ばれてました~」
「けど~、後から選考委員を買収してた事が~」
「分かったそうで~、取り消されたんです~」
「それで~、わたし達が繰り上がりました~」
不正行為の発覚が入学間近だったのだろう。そのせいでハニーとメープルは苦労するはめになったのだ。それを察した面々は、口々にねぎらう言葉を2人にかけるのだった。
「あ、あと2人も貢物作るの手伝ってね」
「え、でもわたし達~、まだ大したもの作れませんよ~」
「基本的なものしか作ってません~」
「大丈夫さ、マイスターを持ってるなら技術の習得は早い。頑張りな」
ハニーとメープルの受難はまだまだ続きそうだった。




