第九十三話 上映終わって
会場が明るくなると、みんなホッとしたような空気に包まれた。
子ども達は45分間の緊張から解放され、わーっと動き出す。
俺の隣で、舞香も大きく伸びをした。
「んーっ! 楽しかったー!」
「でしょう。楽しんでもらえて嬉しい」
「デートのメインディッシュだもんね。結構なお点前でした」
「お茶みたい」
二人でけらけら笑う。
席を立ち、階段状になった映画館の中を降りていく。
この時間が名残惜しい。
楽しかった上映ともおさらばなのだ。
来年もまた来よう。
ただ、その時はライスジャーは上映していない。
また新しいヒーローがやって来るのだ。
会場を出た舞香の足取りが、なんだかふわふわしている。
まだ、夢の世界にいるような気分らしい。
「映画館で、大勢と一緒に見る映画って凄いんだねえ……。それにとっても賑やかで、私が知っている映画とは何もかも違ってた」
「ちびっこ達がいる応援上映はちょっと特殊なパターンだと思うけどね……! でも、みんなライスジャーが好きで来てるから、本気の応援になるよね」
「うんうん! 宇宙バッタかあ……。今度また、ショーをやって見る時に作ってみてもいいかなあ」
「またやるの? やるなら付き合うけど」
「うん、穂積くんならそう言うと思ってた。ううー、映画の話をしたくてたまらないよう」
「鑑賞後の感想戦は醍醐味だよね……! じゃあ……そこのコーヒーショップでする?
「する!」
二人で手をつなぐのも忘れて、ショッピングモールに入っているコーヒーショップに向かうのだった。
残り時間を気にしながら、コーヒーショップに長居する。
コーヒーをお代わりして、スナックを買って、かわりばんこにトイレに立ったり。
何ていうか、いつまでも一緒にいたいんだけど、それは叶わないってことがお互い分かってて。
だから、ずっと向かい合ってお喋りをしていたい。
しかし生理現象は容赦しないのだ。
「ま、またちょっと」
舞香が恥ずかしそうな顔をして立ち上がった。
やっぱり、カフェインとりすぎは良くないな……!
今度のデートでは、ノンカフェインで行こう。
そして舞香が戻ってきたら、入れ替わりで俺もトイレに立つのだ。
「穂積くん、戻ってくるの早い……。男の子っていいなあ」
「そう……?」
立ったままできるからなあ。
だけど、隣の器とは距離が近いし、そもそもセミオープンだからスッと真横の奴のナニが見えてしまうんだぞ。
いや、そんな殺伐とした話は今はしなくていいな。
もっと彼女との距離が近づいたら、男の苦悩みたいな話をだな。
──あれ?
距離が近づくってつまりどういうことだ?
苦楽をともに……はもうしている。
一緒に清香さんに立ち向かったり、ヒーローショーをやったり、お互いのピンチを救いあったりした。
いちゃいちゃ……はしている。
映画どころか付き合う前にデートもしているからな!
「おや?」
「どうしたの?」
「いや、その、俺と舞香さんの間がどれくらい近いのかなって思って、今までのことを考えてたら、めっちゃくちゃ近いんじゃないかって思って……」
「近い……! 近いかも。かも……!」
「付き合う前からさ、大体イベントこなしてない?」
「こなした! こなしたかも。でも、まだまだこなしてないのもあるでしょう?」
「まだこなしていないイベント……!」
「その……。クリスマスとか! 初詣とか!」
「ああー……!! 冬休みに、イベントが重なってるのかあ……!」
「それで、初詣が終わったら頃にはもう、ライスジャーも終わりだね……。私達のライスジャー」
「うん。特別な戦隊だった。俺達にとって」
二人向かい合ってしんみりする。
しんみりしながら、フライドポテトを二人でつまむ。
もりもり食べる。
「なんかさ、俺達、今日はめちゃめちゃ物食べてない?」
「食べてるー」
舞香が緩い感じで返事をしながら、三本くらいまとめてポテトを食べた。
すっかり砕けた感じになったなあ。
クラスでは憧れの存在みたいだった彼女が、こうして頬杖をついて、適当な話をしながらポテトを食べたりする。
誰もこんな姿見たこと無いんだろうなと思ったりする。
「あっ」
窓に映った自分を見て、舞香がハッとした。
「は、はしたない」
慌てて指を拭いて、襟元とかを整えた。
「そうかな? 俺は別にいいと思う!」
「それはそれ、これはこれ! 米倉の人間として、常に外では誰かに見られているっていう緊張感を持つように……! これはお父様の受け売りだけど」
「話を聞くだけだけど、舞香さんのお父さんって凄そうだね……」
「うん。優しいんだけど、お母様の何倍かくらいの凄みがある」
「やばい」
清香さんを遥かに超える次元の凄みとは、一体……!!
興味が沸いてくる。
そんな話をしていたら、あっという間に刻限がやって来た。
楽しかったデートも、終わり。
そして、そろそろ、夏休みも終わり。
二学期がやって来るのだ。
次回でラストであります!




