第九十一話 二本同時上映
予告編はアニメ映画だったり、併映するメタルヒーローのオリジナル映像作品のものだったり。
俺はメタルヒーローも嗜んでいるのだが、舞香はこれまで、戦隊もの一筋。
だが、彼女は予告の最中、俺の肘をちょんちょん、と突いてきた。
「穂積くん、メタルヒーローものってどうなのかな? 穂積くんが好きなら、私も見てみようかなって……」
「見たことなかったの?」
「小さい頃に見たのが怖くて、それから見てないの……」
メタルヒーローものは、小学校中学年からを対象にしているようなドラマチックな作品が多いから、小さい子が見ると怖がる展開もあるかもしれないな。
「面白いよ。結構ドラマとかしっかりしてて。一話完結じゃなくて、続き物なんだ」
「へえー……。それって、次の週が楽しみで落ち着かなくなりそう」
「なるなる。じゃあ、撮りためたのがあるから今度一緒に見よう」
「うん! ……あの、見るって穂積くんの家で?」
「うおっ」
とんでもないお誘いをしていたことに気づく俺。
年頃の女の子に、うちくる? っていうのは凄く大胆なお誘いだ!
そして、映画中のお喋りは厳禁。
俺達はちょっと顔を赤くして、静かになる。
だけどまあ、周りは別に静かでもないわけだ。
子ども達が、映像を見てうわーっとか、おーっとか騒いでいる。
興奮状態で、親にも止められないよな、これは。
映画は、子ども達にとってリアルな体験なのだ。
エネルギーが有り余ってる子達が、衝動を押さえきれるわけがない。
ついに本編が始まると、耐えきれなくなった子ども達が、うわーっと叫びだした。
ヒーローの名を呼ぶ。
そう、最初の順番はメタルヒーローだ。
子ども達の圧倒的元気さに、舞香が笑っているのが分かる。
「ほんとにヒーローショーみたい」
「うん。ヒーローショーみたいなんだよね」
普段なら、23分ほどに凝縮されたメタルヒーローの話が、45分近くまで拡大され、予算もついてしっかり描ける映画版。
なかなか規模の大きな話が展開されている。
それでも45分だから、凄まじい早回しではあるんだけど。
子どもの集中力を考えると、この辺が限界だとは思う。
二時間の映画って、俺もなんかお尻が痛くなってくるし。
やがて、メタルヒーロー映画の上映が終わり、小休止となった。
子ども達の集中力を回復させる時間だ。
そして、この間に、財力がある親は子どもに引っ張られて物販に連れ出されていく。
会場をでなくても、館内でオリジナルグッズが買えるのだ。
商売が上手い……!
「舞香さん、どうだった?」
「見たことなかったから、登場人物の把握に時間がかかったかな? でも、お話の基本は戦隊と一緒だもんね。面白かったよ。確かにちょっとだけ年長さん向けかも」
「本編は一から描いてるから、そっちからの方がいいかもね。よし、編集しとく」
「楽しみにしてるね……!」
既に、俺の家に彼女が来ることが確定事項に。
しかもやって来て、恐らくはリビングでメタルヒーローを見るという変則的おうちデートだ……!
ライスジャー・THE・MOVIEが始まる前から、興奮してきてしまった。
ちなみに、映画中はちょっと無言だったためか、ポップコーンがかなり減っている。
俺も食べたのだが、舞香がひたすらもしゃもしゃ食べていた。
彼女、健啖なんだよなあ……。
見た目からは分からないけど、本当によく食べる。
食べた分動いてるからだろうけど、きっと他の女子から見たら、どれだけ食べても太らないように見えるのは羨ましいことだろう。
だけど舞香の生活をやってみたら、誰だって音を上げるに違いない。
「さあ、いよいよだね……」
舞香が鼻息を荒くする。
45分の映画の後でも、少しも疲れた気配はない。
小休止はすぐに終わり……。
ライスジャー・THE・MOVIEが始まった。
ストーリーは、宇宙からやって来た宇宙バッタが世界中の作物を食い荒らすというもの。
この宇宙バッタとコウガイ帝国が手を結び、ついに日本が標的に!
ライスジャー五人が勢揃いし、宇宙バッタとコウガイ帝国を迎え撃つのだ。
だが……宇宙からやって来たのはバッタばかりではなかった。
宇宙バッタによって全ての作物を荒らされてしまったとある星から、希望の象徴として一台のバトル耕運機が送られてきたのだ……!
バトル耕運機はライスジャーと友情を交わし、その身を新たな武器とし、グランドコンバイナーVを強化することとなる……!!
ちなみに、物語全般のテーマは、宇宙で育てられる作物についてである。
ロマンあふれるテーマだ。
勉強になるなあ。
そしてそのテーマから、戦いの最後の舞台は宇宙となる。
ライスジャー、宇宙へ!
今までで最大規模の壮大な戦闘が幕を開け……。
そしてここからが応援上映(非公式)の本番開始なのだ!




