第八十五話 バーベキューの終わり
FINEの反応がすっかりなくなったけど、多分これは、舞香が寝たんだろうなあ。
今日の深夜くらいがスイスの朝だと思うんで、そうしたら怒涛のメッセージが見られそうな気がする。
飯テロ画像をたくさん流したからね。
「じゃあ、お開きってことで! おつかれっしたー!」
トモロウが締めの挨拶をして、みんなでわーっと拍手をした。
後片付けはきちんとやる俺達なのだ。
ゴミ袋にゴミを回収し、秋人さんの車に放り込む。
ごみ処理料金は割り勘。
機材はばらして、油がついたものはめいめい、分担して持って帰って洗う。
「ほええ、しっかりしてるなあ。俺のダチなんか、めんどいのはその場に放りっぱで帰ってたわ」
稗田が驚いている。
「こういうのは、まあ育ちが出たりすんよねー。ここって南美ちゃんが借りた場所でしょ。ってことは、せっかくやってくれた人の顔潰すわけにはいかないじゃん」
「そりゃそうだわ」
トモロウの説明に、うんうん頷く稗田。
「トモロウくんえらーい。アタシ、彼に乗り換えよっかなー」
「いやいや、心愛ちゃんは俺と合わねーべ。付き合う前から分かるのは俺、付き合わない主義なの」
「ええー、つめたーい」
「俺のナンパはほれ、真面目なやつだからね」
このやり取りに、佃が解せぬ、という顔をした。
「このチャラ男、ちょっと見直しかけたんだけど、むしろどういうキャラなのか分かんなくなったぜ……」
「人によって、善人だったり悪人だったり、色々に見える人だと思うなあトモロウさんは」
ちなみに粟森心愛さん、佃とFINEのアドレス交換していたようだ。
粟森側から、「お試しでどう?」みたいなのがあり、佃がホイホイ乗ったらしい。
真面目なお付き合いを所望する掛布は断った。
「ま、ま。今度俺が合コンセッティングしてあげっから。穂積くんの友達なら俺の友達と一緒だし」
「なんだって!?」
「合コン……!?」
トモロウの言葉に、佃と掛布がどよめいた。
「あ、穂積くんは来るなよ? 本命いる奴が来る場所じゃないから。本命逃がすと一生後悔すんぜ。証拠はうちの母親」
「サラッと重い話しないでくださいよ」
笑うに笑えない。
ちなみに、ガッツがあるナンパ青年の稗田、麦野にもアタックしたみたいだ。
結果は撃沈。
「春菜ね、なんか霊感でピーンとこないと付き合わないことにしてるの。まだ付き合ったこと無いけど」
振られ慣れているようで、稗田はケロッとしていたが。
「ダメ元でアタックするのは基本でしょ。1%可能性があれば、いつかは成功するし。かかるの俺の体力だけで、減るもんじゃないし」
前向きだ……!
だが、稗田のアタックは別の方向で実を結んだ。
「へえー、ナンパねー。面白そう。僕にも教えてもらっていい?」
「秋人さんもやってみますか? 俺でよかったら付き合いますよ!」
おおっ、稗田と秋人さんが意気投合している。
バーベキュー、おかしな繋がりができる場所だなあ。
水戸ちゃんというステディがいる布田も、粟森心愛からのアタックをされたらしい。
あいつ、長身でガッチリボディなので、そういうの好きそうな女子は多いかもな。
彼氏が迫られていると言うのに、水戸ちゃんは余裕そのものだったようだ。
布田もまた、紳士的に粟森の「お試しでどう? 二股でもいいし」というアタックを断った。
「俺、真実の愛が既にあるんで」
「あたしと唐人、ウンメー的な愛で結ばれてるもんね……!」
粟森を目の前にして、キラキラしながら見つめ合うバカップル……!!
「つ、強い」
流石の粟森も、これにはたじろぐばかりだったようだ。
この二人、カップル強度みたいなのがめちゃめちゃ強いんだな。
ちょっとあやかりたいもんだ。
さて、いよいよ解散となり、みんなめいめいに帰途につく。
俺の横を行く佃と掛布、ちょっとふわふわしている。
「心愛さん、可愛かったなあ……」
佃は女子に色々と騙されそうなタイプだよな……!
だが、本人がテンション上がってる状態に水を差すと、色々禍根を残しそうだ。
武士の情けだ。冷静になるまで放っておいて、ダメージを受けたらフォローしよう……。
「合コン……。一生縁が無いと思ってたけど……。人生って分からない」
掛布は掛布でウキウキしている。
まだ合コンは可能性があるかもだし、分からないよな。行ったこと無いけど。
トモロウは有言実行なので、間違いなく夏休み中に合コンは開催されるだろう。
進捗はFINEで聞くことにするのだ。
夏休みは終わりが見え始め、新学期の準備もしなくちゃいけなくなる。
この夏、舞香とやりたいことは……。
予定があと一つあるな。
早くスイスから帰ってこないものか。




