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第八十一話 お墓の水やり

 お寺についたので、トモロウとともに桶に水を入れる。


「うちの菩提寺は地方でさー。もう何年も帰ってねえの」


「そうなんですか」


「そうだよー。両親別居でもうそれどころじゃねえからさ。そもそも親父の方と母親の方とどっち行くのさ。親権っつーの? それは母親が取れるみたいだけど、だからって親父の方行かないのはフェアじゃないっしょ。どっちも俺に取っちゃ親なんだし。でも親父の方行くなっつわれたら、フェアにどっちも行かないことにするわけよ」


「大変ですねえ。失礼ですけど、トモロウさんそんな難しいこと考えてる風に見えなかったですよ」


「あっはっは、めっちゃ失礼だな! でもそんなもんよ。誰だってシリアスな問題はあるでしょ。でもそればっか考えてたら自分がハッピーになれないじゃん。それはそれ、これはこれよ」


 何気に人生の師匠みたいなことを言ってくる人だな。

 参考になるぞ。


「穂積くんあれでしょ。これから人の上に立つでしょ」


「まだわかんないですって」


 俺が桶を持ってるというのに、トモロウも桶を持っている。

 そんなに水はいらないと思うんだけどなあ。


「自分の機嫌はさ、自分で取んなきゃ損するよ? デートの時、女の子を接待するじゃん? 向こうはお客さんだから機嫌取るけどさ、そのためには俺らがセルフケアしないと。人付き合いはみんなそんなもんでしょ」


「今日は語りますねー」


「暇になったんだもん。しゃーないっしょ」


 二人ならんで、うちの墓石に水をガンガンかける。

 おお、こりゃあ気持ちいい。


 あとは適当に手を合わせて拝む。

 お供え物は邪魔になるらしいから、うちではやらない主義。


 灼熱の墓石が、一気に水で冷やされてじゅわっと水蒸気を上げる。


「直射日光にさらされるところにあるからなあ、墓石。そりゃあ熱くなるよ。バーベキューできそう」


「わっはっは! 穂積くんそれはヤバいでしょ! ご先祖の石でバーベキューとか!」


「でも石焼だと遠赤外線とか出てそうじゃないですか? 絶対肉の中までしっかり焼けますよ」


「マジで!?」


 完全に馬鹿話になってしまった。


「墓石はまずいけどさ、ちょっと今度試してみようよ。石焼バーベキュー」


「やりますか。じゃあ、うちの男ども集めておきますんで」


「いいね。俺もダチに声かけておく」


「トモロウさん男友達いたんですか」


「いるよ!? あんま多くはねえけど、腹を割って話せるならちょっとでもいいっしょ。君みたいなのがいれば、友達はいっぱいはいなくていいし」


 俺のこと買ってる……?


「まあ、つーてもナンパ仲間でな……。俺は頭脳型だけど、そいつは体育会系のパワーと回数でこなすやつで百人当たれば一人落とせるとか」


「すげえー」


 想像もできない世界だ。

 とりあえず、男同士のバーベキュー大会の話で盛り上がり、俺はFINEの男どもにその連絡を流した。


 佃と掛布は暇だったらしく、すぐにOKが来る。

 明日にも開催しそうな雰囲気だ。


 少し遅れてから、布田が参加表明をした。

 水戸ちゃんを連れてくるなよ……?


「うちも来るってよ。肉が食いたいらしい」


「トモロウさんの友達、めちゃめちゃ食べそうですね」


「あいつは食うねー。負けないくらいこっちも食わないとな!」


 二人で笑いながら、桶に残った水を近くの墓にも掛けて、これで墓参りは終了となった。

 あちこちに、もう長いこと墓参りが来てないらしい墓がある。


 草と苔に覆われかかっていて、見てるこっちが寂しくなる。


「まあ、うちの墓もあんなんなってるだろうな。諸行無常ってやつよ」


「トモロウさんそんな言葉を知ってたんですか」


「知ってるよ!? 君、さては俺のことおバカだと思ってるでしょ」


 脇腹を突かれたので、俺はくすぐったくて彼から離れる。


「やめてくださいよー」


「いいじゃんいいじゃん! リア充様のオーラを、この俺にも分けてほしいなー。あー、俺も早く本命に会いたーい!!」


 寺の門をくぐって外に出るところで、横合いをあまり背の高くない女の子が抜けていくところだった。


「お」


「あっ」


「あれ? 春菜ちゃんじゃん」


 トモロウが名を呼んだ通り、それは麦野春菜だったのだ。


「あんた馴れ馴れしいわねー。春菜を名前呼びしていいのは舞ちゃんだけなんだからね?」


「俺はみんな平等に名前で読んでるんだよねー。いいじゃんいいじゃん」


「よくなーい」


 麦野に軽く腹パンされて、トモロウが笑った。


「あ、そうだ。春菜ちゃんさ、バーベキュー来ねえ? 俺と穂積くんと、彼のダチと俺のダチ集めて石焼バーベキューすんの」


「えっ、バーベキュー!? 春菜、そういうの結構好きなんだけど」


 これは麦野が来るの確定だな!?

 俺は素早くFINEに入力する。

 宛先は布田だ。


稲穂『水戸ちゃんつれてこい』

お麩田『言われなくてもついてくるぞ』


 ついてくるのか……!!

 ということで、予定日は明日。

 いきなりバーベキューすることになってしまったのだった。



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― 新着の感想 ―
[良い点] トモロウ、学年分歳食ってるだけじゃないくらい立派な(面もある)先輩ですね♪(^_^)v [一言]  俺が桶を持ってるというのに、トモロウも桶を持っている。  そんなに水はいらないと思うんだ…
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