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第七十九話 やっぱりお面は買わなくちゃでしょう

 告白は終わった……。

 何もかも上手く行った!

 これにて物語、一巻の終わり!!


 ……っていう風にはなんないんだよなあ。

 これは現実なんで。


「えっと……そろそろ降りる?」


「そう……だね? まだ花火続いてるみたいだけど」


「降りながら見よう、降りながら。花火が終わった頃合いで、屋台も引き上げちゃうから」


「ええっ、そうなの!?」


「花火が終わるともう遅い時間だろ? みんな、あれを合図にして帰っちゃうからさ。それで屋台も終わっちゃうんだ」


「そっかー……」


「ほら、あのさ、今のあればっかりで、屋台をちゃんと回れてなかったから」


「そうなの? まだお店があるって言えば……あっ、うちわもらったお面屋さん」


「そう、それ!」


 ということで。

 カラカラと下駄の音も軽やかに、石段を駆け下りる俺達なのだ。

 そして、花火が鳴り響く中をお面屋さんへとやって来る。


 この前は早足で通り過ぎたから、じっくり見られなかった。

 今は時間がある。


「やっぱりあった」


「あった……!」


 二人で並んで、数々のお面の中央部に飾られたそれを見る。


 ライスジャーお面……!!

 これ、絶対に版権から許可もらってないやつだ。


「すみません、このハクマイジャーのお面いくらです?」


「え? ハクマイジャー? どれだっけそれ」


 おいおい!?

 売り物のキャラクターの名前くらい覚えていてくれ……!


 とりあえず、500円ということは分かった。


「じゃあこの白いのと黒いの下さい」


「はいどうも。千円ねー」


 安いなあ……。

 いや、版権取ってないからだと思うけど。

 ちゃんとしたのなら、お値段四桁にはなるだろう。


「はい、舞香さんにはハクマイジャーをプレゼント!」


「やった……!」


 舞香が小さくガッツポーズした。

 めちゃめちゃ喜んでる。


 お面をガッツリと被って……うわ、顔が収まるのか!

 顔小さい……!


 俺はクロマイジャーのお面を、真横につける。

 普通に被るのはさすがにちょっと照れくさいからな。


「穂積くん、あれあれ! わた……がし……? 袋がライスジャーだよ!」


「うん、あれも絶対版権取ってないね! マルの中にCって書いてないもんな」


「……本当はファンとして、こういうのを買うのって良くないんだろうけど……これはこれで、今しか手に入らないんだよね」


 俺も舞香も、複雑な気持ちである。

 だが、買ってしまう……!


「これ買った分、公式にもお金落とそうね……!」


「ああ。バイトがんばる」


 俺は決意するのだった。




 花火そっちのけで、屋台を回る俺達。

 綿あめを食べつつ、イカ焼きを買い、お好み焼きに焼きそば……。


「ソースとマヨネーズの味! こっちはお砂糖の味!」


 今まで口にしたことがないであろう、ジャンクな味に、舞香は驚きの声を上げた。


「悪くない味。でも、ここまで味が強いといつも行ってるレストランのお食事、味がわからなくなりそう」


「そうかもね」


 二人で顔を見合わせて笑う。

 すると、そこを通りかかる誰か。


「あれ? 米倉さん!? うわ、浴衣すごい。超キレイ……」


 クラスメイトの女子と男子。

 カップルみたいだ。


「こんばんは」


 舞香が上品に返事をした。

 なかなかこういう時、こんばんはって出てこないよな。


「そっちは……まさか、米倉さんの彼氏?」


「ええっ!?」


 なんで男の方が驚いた声を上げるんだ。

 ええと、ここはどういう反応をしたほうが。


「そうだよ」


 舞香がにっこり微笑みながら返した。

 うおっ、男らしい!

 これは俺も応えなくてはなるまい。


「そういうことになったんだ」


 俺が顔を上げると、二人は驚きに声を上げた。


「うっそ!! 稲垣くん!?」


「稲垣と、米倉さんが!? マジで!? ……あ、いやそこまで意外じゃなかったな。なんか明らかに仲良くなってたもんな」


「あ、そう言えば……」


 こらこら!

 何を納得してるんだ!


 これには、舞香も目を丸くしているではないか。


「ええと……あのう。私と穂積くんがって、いつからそう思ってたの?」


「期末テストのちょっと前くらいから」


 二人が声を揃えて、そんな事を言う。


 期末テストのちょっと前って何だよ。


 つまりこれって、俺と舞香以外はなんとなく、付き合いそうだなって思ってたってこと?

 マジで?


 いやいや、俺が死ぬような思いで舞香に告白したのは意味があった。

 もしも舞香が同じ気持ちでいてくれたのなら、それって凄く嬉しいことだもんな。


 俺達とカップルは、差し障りのないような事を話し合い、すぐに別れた。

 お互い、デートの途中なんだものな。


「稲垣、頑張れよ」


 彼氏の方に応援された。

 俺は既に頑張ってるぞ……!

 何せ、高校一年だってのに、米倉グループのインターンに……。


 ……って、おい。

 それってつまり、米倉の方でも俺と舞香がそうなるかもって思ってたわけじゃないのか!?


 ええええ、知らないのはもしかして、俺達だけだったり!?


 思わず舞香を見たら、彼女も目を見開いて、何かに気付いたようだった。

 同じことを考えていたか……!


「穂積くん」


「うん」


「私達って……すっごく鈍感……だったり……?」


 そうかも知れない!

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― 新着の感想 ―
[一言]  カラカラと下駄の音も軽やかに、石段を駆け下りる俺達なのだ。 ↑ そういえばかなりの段数があったみたいですが手摺りついているんでしょうか?(´・ω・`)走るの想像するだけでちょっと恐いんだゾ…
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