第七十二話 告白計画!
真夏の日のファミレス。
一瞬夕立があった後は晴れ上がり、すぐに蒸し暑くなった。
麦野がやって来ると、水田トモロウの姿を見て露骨に顔をしかめた。
「ウエー。あんた、友達は選んだほうがいいよ。なんでこいつなのよー」
「こいつ!? ひでえー」
トモロウ、大げさに嘆いてみせる。
夏祭りまで、あと数日。
俺の決意を伝えて、その上でみんなに相談すべく、俺は仲間達を集めたのである。
その仲間が、麦野とトモロウというのがアレだけど。
ちなみに、布田と水戸ちゃんは日本一有名な遊園地に遊びに行っているらしく、ネズミの帽子を被って二人での自撮りを送ってきた。
佃が「嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬ォォォォォ」とか書き込んでるけどちょっと落ち着け君。
「トモロウさん、確かに女にはだらしないけど男には結構誠実なんだって」
「あたし女でしょー!? こいつに狙われたらどうすんのよー!!」
「いやー、俺、君みたいな素でハートが強そうな子はマジ苦手なんで……」
あー、そうねー。
トモロウは揺らぐ女子の不安さにつけ込んで落とすからね。
麦野はめちゃめちゃハートが強いから、その隙がないね……!
よく、強がってるキャラは実は内心では救いを求めてたり……とかあるけど、麦野の場合は家庭も円満だし、舞香という親友はいるし、その親友を守るという役割を自負しているし……。
人として安定してるんだよな、こいつ。
むしろ、舞香のほうが自分を出すところがない分、不安定だと思う。
最近はなんだか、舞香も落ち着いてきた気がするけど。
どこかで吐き出せてるのかな?
「俺はさ、穂積くんをリスペクトしてるわけ。最近、見てる深夜アニメも割と被ってるって分かったしさ。同じ趣味の男って大事だよな!」
トモロウが肩を組んでくる。
うおっ、この人、女子とデートでもないのになんでめっちゃいい匂いの香水つけてきてるんだ。
これを見て、麦野は何もかもを理解した顔をした。
「実は舞ちゃんに近い人種だったわけね……。あんたそういうのオープンにした方が幸せになれるんじゃないの?」
あっ、トモロウが心臓を串刺しにされたみたいな顔をした。
一撃で殺しに行くなよ麦野ー。
「えっと、ともかく! ここに集まってもらったのは他でもないんだ。決意表明っていうか」
「へえ、なになに?」
「なになに?」
麦野とトモロウが同じ聞き方をしてきた。
麦野、大げさに顔をしかめる。
「舞香さんに告白します」
俺は勇気を振り絞って口にした。
まさしく決意表明だ。
ここが、ポイント・オブ・ノーリターン。
もう止めることはできない。
麦野は真面目な顔でそれを聞いて……。
「なーんだ」
鼻で笑った。
な、なんだとーっ。
「絶対、あんた舞ちゃんに告白すると思ってたんだよね。いいんじゃない? 舞ちゃんも多分ずーっと待って……」
ここでトモロウが言葉を被せてきた。
「麦野ちゃん、それは野暮でしょ。言うもんじゃないって」
「そ、そお? ま、まあ稲垣くん、頑張れば?」
な……なんの話だ……!?
舞香がどうしたって言うんだろう。
「よっしゃ、穂積くん。俺が告白の文言みてやっから。どらどら?」
「こんな感じでですね」
「どれどれ?」
俺のスマホを、トモロウと麦野が左右から覗いてくる。
「あひー、何よこれ、読んでてこっちまで恥ずかしくなる」
麦野が赤くなって離れた。
もじもじしている。
「いやいや、いんじゃね? これくらいクサイ方がいいって。夏祭りだろ? ドラマチックにしといて損はねえべ」
百戦錬磨のトモロウの言葉である。
だけどこの人の言葉、舞香に通じなかったような。
「男は本命の前ではみんなバカになるからね」
「その言葉は含蓄が深いなあ」
俺は感心してしまった。
つまり、現場に行ったら俺もバカになるということでは?
告白の言葉なんて、頭から綺麗サッパリ消し飛んでしまうかも知れない!
「あのさ、穂積くん。本命の前で冷静でどうすんだよ」
急に、トモロウがシリアスな顔になった。
「そんだけ好きなんだろー? バカになって行こうぜ! 備えアレばうれしいなって言うじゃん。あれ? 違うっけ? まあいいや。備えていって、全部無駄になるとしても当たってぶつかって、気持ちを伝える材料の1%とかにでもなりゃバッチリじゃん!」
「いいこと言うわねーこのチャラ男」
麦野には、一応の先輩に対しての経緯の欠片も無いのな。
「まああの、一応経験者なんで」
トモロウはなんで麦野にへこへこしてるの。
「後で聞いたんだけどさ、目を回した俺を女子達を指揮して保健室に連れてってくれたんでしょ。マジありがとう……」
「勝負が終われば敵でもただの人間でしょ。助けるのに理由はいらないわ」
「麦野が男前なこと言ってる……」
という辺りで、注文をしていないことに気づいた。
それにしても、俺はなんてメンツを集めたんだ。
告白のことで頭がいっぱいで気が回らなかったらしい。
とりあえず。
「ポテト大盛り三皿で! あとドリンクバー三つ! 今回は俺の奢りだから」
「ゴチになります!」
「微妙な奢りねえ」
三人でだべりつつ、ポテトフライを平らげる作業が始まるのだった。




