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第六十八話 雨の日は上映会

 目覚めたら雨だった。

 せっかくプライベートビーチに来たというのに!

 なんということだろう。


 だけど、俺の気持ちは晴れやかだ。

 昨夜、舞香とたくさん話をしたのだ。

 彼女の特撮に対する愛の深さも分かったし、どこまで知識があるのかも分かった。


 戦隊の方専門らしく、メタルヒーローはあんまりだった。

 俺はむしろ、ちょっと前まではメタルヒーロー専門だった。

 そっちの方が、やや年長向けの作品だったからだ。

 かつて背伸びしたいお子様だった俺は、メタルヒーローへの傾倒を深めていたというわけだ。


「ジャンル違い……だけど、だからこそぶつかり合わないんだよな。俺達は相性がいい……」


 そんな確信を抱く俺なのだった。




 雨ということは……。

 勉強日和である。


「じゃあね、穂波さんの勉強は私が見ます」


「よろしくお願いします」


 うちの両親とそんなやり取りをしている芹沢さん。

 穂波は刑を宣告された被告人みたいな、絶望に満ちた顔をしていた。


「なんで……なんでプライベートビーチに来てまで受験勉強を……。そりゃああたし、受験生だけどぉ……」


「穂波、芹沢さんほどの人を家庭教師につけようとしたら、時間辺りかなり掛かるんだぞ。これはありがたい機会だよ」


「そうそう。たっぷり勉強してね」


 両親ニッコニコ。

 芹沢さんは拘束時間あたりで給料が入るから、家庭教師をしてても護衛をしててもいいわけで。


 穂波以外はウィンウィンの関係だ。

 かくして、断末魔の悲鳴を上げる穂波は勉強部屋へと連れて行かれてしまった。


 この別荘そんなものがあるんだなあ。


「昔、お兄様が勉強大嫌いでね。それで、夏休みの間勉強部屋に閉じ込められて、家庭教師とマンツーマンで勉強させられたことがあったの」


 舞香の説明に、俺と麦野が震え上がる。


「恐ろしい……」


「人間の考えることとは思えない……」


 こんな事は言っているが、麦野は学年でもトップに近い成績である。

 いつ勉強してるんだ。


「でも、兄さんのことでしょ? 一日三回は脱走を試みたって。で、一回は成功するからそのまま夜まで戻ってこないの」


「米倉家の警備網をくぐりぬける御曹司……!!」


 とんでもない話だなあ。


「ねえ、それよりも二人とも! せっかく、今日は雨なんだし……」


 舞香の目がキラキラしている。

 とてもいいことを思いついた、と言う顔だ。


 麦野がそれを見て、肩をすくめた。


「春菜には理解できないことを提案してくる気がするんだよねー」


「ライスジャーが放映から半年経とうとする今日このごろ、振り返り一挙上映会をします!」


「ほらぁ」


 麦野が半笑いになった。

 それに対して、俺は大いに盛り上がる。


「いいねー! 楽しみ!」


「いいわよ。春菜もセキハンジャーっていうの? それになったでしょ。自分がやったのが何なのか知っておいてもいいし。舞ちゃんも楽しそうだし付き合ったげる」


 基本的に付き合いのいい麦野なのだった。





 上映は、別荘の二階にある会議室で行なわれた。

 プロジェクターが設置された大きな部屋で、そこに動画を映して上映会をするのだ。


「私が動画サイトに登録してるの。これはそのままなら連続再生してくれるから、本当に便利なの」


 ドリンクの用意よし。

 作りたての山盛りポップコーンよし。


 会議室の明かりを消して、いざ、ライスジャー上映会。


 日本の水田が、次々イナゴに襲われるというショッキングな幕開けから、ライスジャーの物語は始まる……!


 最初こそ、「お子様向けでしょ」みたいなスタンスだった麦野。

 途中からはすっかり入り込んで、笑ったり怒ったり泣いたりしている。

 とても感情移入が強い人だ。


 ちなみに舞香は最初からクライマックス状態で、ライスジャーを応援するちびっこモードなのだ。

 何度も繰り返し見ているっぽいから、どこで盛り上がるかが分かっている。


 俺も当然知っているが、舞香は盛り上がりの直前、俺を小突いて「来るよ来るよ」とか言うのだ。

 うんうん、マナーとしてはどうかと思うけど可愛い。

 すべて許される。


 うちの学校のみんなも、学年一の才媛である彼女に、まさかこんな一面があるなんて想像もしていないだろう。

 俺だけが知っている秘密だ。


 上映会は、小休止を二回挟んで行なわれた。

 一話あたり23分として、それが二十一話。

 483分間の、八時間に及ぶ上映会だ。


 すべてが終わって外に出ると、夕方だった。


「ああ……。頭がふらふらする」


 麦野がよろよろしながら、自室に戻っていった。

 夕食まで仮眠するらしい。


 ライスジャー初体験の彼女に、あんなハードな上映会をして良かったのだろうか?

 舞香はその辺、ちょっとめんどくさいオタクっぽいので麦野の疲れには気が及んでいない可能性がある。

 あとで俺がフォローしておこう。


「良かった……」


 こと、特撮に関してだけは無限の体力を持っているらしい舞香。

 うっとりとした表情で呟いた。


「一気に見るとなかなか見応えあるね。起伏がすごいから体力も持っていかれた。次話からいよいよ、チョウリュウジャーが本格参戦だっけ?」


「そう、ついに五人目の戦士! ええと、明後日? 絶対見なくちゃ!」


 力強く答える舞香なのだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 長粒米。サフランイエローでしょうか?
[一言]  かつて背伸びしたいお子様だった俺は、メタルヒーローへの傾倒を深めていたというわけだ。 ↑ え、そうだっけ!?Σ(゜Д゜)……言われて見ればそんな気もするエピソードがあったような?近年メタル…
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