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第三十四話 稲垣家の面々

 俺が、舞香親衛隊として登校するその日の朝のこと。

 珍しく朝食の席に、うちの家族四人が集合していたのだ。


「珍しいな、夕食以外で四人揃うなんて」


 父の稲垣朔太郎が驚いている。


「今日はね、穂積のお迎えがくるのよね」


 なぜかニコニコしている、母の稲垣穂邑(ほむら)


「お迎え? だから穂積くん、早起きしてバタバタしてたの? あたしも目が覚めちゃったよ」


 これは妹の稲垣穂波。

 現在中三で、俺と同じ高校を目指して勉強中の受験生だ。

 髪の毛を短く刈っているのは、我が家の血筋は代々、髪の毛が太いからなのだ。

 伸ばしたら大変なことになる。


 穂波がまん丸い目をくりくりさせて、俺に迫る。


「ねえねえ穂積くん、お迎えってなに? どうしたの? 友達と学校行くの? いいなー。車で行くの?」


 賑やかだ。

 穂波は声も大きいし、おしゃべり好きなのだ。


「まあ大体そんなとこ。でもあんまりいいものじゃないよ」


「そお?」


 俺ははぐらかす。

 広義では、友達が迎えに来るようなものだ。


 状況を正確に把握しているのは、俺と母だけなのだ。

 母は面白いことが大好きなので、ニコニコして米倉家からの提案を受け入れた。


 息子が米倉令嬢の親衛隊になりますとか言われて、面白そうで引き受ける母親っているんだな……!


「何事も経験だよ、穂積! みんなができることじゃないんだから、これは楽しまなくちゃ!」


「我が母ながらすごいポジティブシンキングだ……」


「父さん、穂邑さんのそういうところが好きで愛をプレゼンしまくって結婚したんだぞ。いいだろう」


「あの時の朔くんのプレゼン、笑えたよねー。最初笑えたのに、次々くるプレゼンにだんだんドキドキが増してくの。あんな体験、先にも後にも無かったわ」


「穂邑さんに特別を提供できたことを今でも誇りに思ってるよ」


「うふふ、私もあなたが旦那様でよかった」


「おい朝から子供の前でイチャイチャしてるんじゃないぞ」


 俺は突っ込んだ。

 ちなみに穂波はこの二人に多少毒されているので、「父さんみたいな彼氏探す!」と言って聞かない。

 多分、凄くレアだと思う。


 ということで、父はさっさと出勤して行ってしまった。

 朝九時から夕方五時までの仕事で、多少残業して帰ってくるが、驚くべきことにたいてい夕食には戻ってくる父親なのだ。


 母は在宅での仕事なので、ずっと家にいる。

 だから、見送りは毎日のことだ。


 家の前にリムジンが停まり、穂波が驚愕した。


「なにこれ! なにこれ! ヤのつく仕事の人の車? でっかーい! ピカピカしてる!」


 そして、降りてきたのが芹沢さんだったので二度びっくり。


「運転手がきれいな女の人だ! かっこいー!」


「ありがとうお嬢さん。いい妹さんですね稲垣くん」


「は、はあ」


 さらに、芹沢さんがドアを開けると、そこから舞香が降りてきたから穂波は三度びっくりした。


「うおいー! 穂積くん、あの、あの、あの人が迎えに来たの!? 女の子じゃーん! しかも超お嬢様じゃーん! ええーっ!? どゆことー!?」


 分かるまい……。

 俺にもまだ事実として理解できていないのだ。


「それじゃあ、息子をよろしくお願いしますね」


「はい、お預かりします。それに、お嬢様がいつもお世話になっていますから」


「まあ、うちの穂積が? うふふ、やる時はやる子だったのね。母さん信じてたわ」


 くっ、親からの信頼の視線が重い!

 いやまあ、やる時はやるけどさ!


「穂積くんがんばれー! 目指せ、たまのこし? ぎゃくたま? のりたま? ええと、とにかくそんなの!」


「やめろ穂波! 洒落にならんから!」


 ちなみに穂波の言葉を聞いて、舞香はちょっと頬を赤くして口をむにゅむにゅ言わせていた。

 なんだろう、舞香がもじもじしている。


「で、では、穂積くんをおあずかりします!」


 舞香が俺の名前を口にした時、ちょっと声が裏返った。

 なんだなんだ。

 母がすごくいい笑顔になる。


 穂波は首をかしげるばかりだ。


 そんなわけで、俺は車中の人となり……。


「いい妹さんね、稲……ほ、穂積くん」


「よ、米倉さん、それはこう、あの、照れくさいので……」


「あ、そ、そう? そうだよね? うふ、うふふふ、稲垣くん、いい妹さんだよね。お母様も素敵。あの方が噂の?」


「は、はあ、父に愛してるをプレゼンされて付き合って、そのままスピード結婚した母です」


「素敵……」


 素敵なのか……?

 いやまあ、結婚して二十年近く経つのに、未だに子供の前で平気でイチャイチャするからな。

 ある意味素敵なのかも知れない……。


「なんかまあ、『親であることと夫婦として愛し合うことは並行できるの。っていうかやんなくちゃって意識して意地でやってるのよねー』とか言うから。凄いっちゃあ凄いのかも」


「愛情を意地で維持する……なるほど、なるほど……」


 なんで舞香の目がキラキラしてるんだろう。

 それに今、地味にダジャレになってたような。


 だけど、俺はそれにかまっている余裕がなくなって来ていた。

 いよいよ学校が近くなり……。


 そして俺は、舞香親衛隊男子部の最初の一人(最後の一人でもあるかもしれない)として校門に降り立つことになるのである。





 というようなことを思い出しつつ、放課後に舞香を待つ俺。

 今日は帰りも一緒なので、この十分間をやる必要は無い気がするんだけど……。

 舞香にとって大事な儀式みたいなものらしい。


 さて、彼女がやって来た。

 今日も楽しくお喋りするとしようか。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 稲垣家、まるで少女漫画かアメリカのホームドラマに出てくる仲の良い家族だ(´ω`) あ、そういえばなろうでも転生主人公の家族の何割か何%はこんな感じですよね。逆タイプのも結構あるけど(>ω<…
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