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第十八話 稲芹麦同盟締結

 ポロッと舞香との秘密を漏らしてしまった俺だけど、考えなしというわけじゃない。

 彼女と過ごす10分間の時間が禁止され、芹沢さんが外された。

 これは、俺と舞香の関係に気付いた誰かの仕業だと思ったからだ。


 誰かってのは、麦野が言ってた清香さんという人だろう。

 十中八九舞香のお母さんだ。

 なんか、舞香も「戦隊ものを見るのをお母様に止められてた」って言ってたしな。


 情報を集めて、なんとか清香さんに接触して、舞香を自由にしてあげないといけない……!


 俺は強く決心したのだった。

 10分間禁止令の翌日の話なので、即断即決だ。


 今日登校してきた舞香は、誰が見ても明らかに元気がない。

 覇気がない。


「米倉さん大丈夫?」


「保健室行きましょう?」


「ううん。平気ですから」


 舞香が、取り巻きたちの申し出をやんわりと断る。

 あの中で、舞香が心を許せる相手はどれだけいるんだろう。


 少なくとも、俺をじろじろ見てくる麦野は舞香のことを心から案じてるよな。


 そしてここで偶然、舞香と麦野が同時に俺を見て……。


 舞香の口が何かもの言いたげにむにゅむにゅする。

 麦野は露骨に口をパクパクさせて何か言ってる。


「……ある意味モテ期かなあ……。それにしては問題が面倒くさすぎる」


 俺は思わずつぶやいた。

 その後、佃が俺の発言について、「親友の俺を差し置いてモテ期だとこの野郎!!」とか追求してきたが。





 授業中に、女子から手紙が回されてきた。

 うちの学校、授業中のスマホは厳禁だからな。

 見つかり次第、授業中の間は取り上げられてしまう。

 放課後は返してもらえるけど、その間のFINEの確認はできないから大変困る。

 これ、学校と親の取り決めなので子供としては逆らえないのだ。


 ということで……。

 授業中の連絡方法は、自然と昔っぽい、ノートの切れ端とかを使った手紙のやり取りになる。


 ……なんか凄くいい紙が回ってきた。

 これって便箋じゃないの?


 俺にこれを手渡した女子が、首を傾げている。


「ねえ、なんで稲垣くんあてなの?」


「俺も知らないよ」


「手紙で告るとか? もしかして……!」


「知らない知らない」


 色々詮索されかけたので、慌てて話を遮って手紙を広げた。

 隣の女子もスッと覗こうとしてくるので、腕で隠す。


「けちー」


「お前なー。これ、麦野さんとかの手紙だったら超怖いぞ。盗み見たやつを生かしておかないタイプだぞ」


「ヒェッ」


 隣の女子が震え上がった。

 おお、麦野は恐れられている……!


 男子の前ではぶりっ子、女子の前では恐怖の親衛隊長。

 すっごい二面性だな。


 だが、彼女のおかげで俺は安心して手紙を読めるというものだ。

 どれどれ……?


『これを読む者へ。目的の人以外だったら私が持つぜんぶの力を使って潰します!!』


 怖え前書きだな!!

 そして、肝心な部分は丁寧に折り込まれていて見えないようになっている。

 これを広げると、本文が読めた。


『放課後顔を貸して。昨日のところへ』


 麦野の手紙だなこれ。

 隣の女子、命拾いしたな……!

 覗いていたら終わりだったぞ。



 そしてあっという間の放課後。

 ショートホームルームが終わると、みんなめいめいに帰ったり部活に向かったり。


 俺はと言うと、舞香が立ち上がり、取り巻きが集まってくるよりも速く動いた。

 サッと舞香の席の前を横切り……。


 こける!


「ぐわー!」


 派手に転んだ。


 もちろん、これだけ目につくことをすればクラス中から注目される。

 しかし何よりも大事なのは……。


「だいじょうぶ?」


 舞香がすぐさま駆け寄り、助け起こしてくれた。


「ありがとう」


 俺は彼女の手を借りて起き上がりつつ、授業中に作った手紙を握らせる。


「大丈夫。絶対なんとかする」


 彼女にだけ聞こえるように囁いた。

 舞香の目が丸くなる。

 そして、口元が緩んだ。


「ありがとう……!」


 その日の舞香との接触はそれだけだったけど、収穫は十分だ。

 手紙には、俺が舞香の立場のことをどうにかしてみることを書いてある。


 舞香としても、芹沢さんが協力者なのはよく分かっているらしい。

 これに麦野を加えることができれば、舞香の立場を良くすることができるかもしれない。


 まずは、舞香のお母さんであろう清香さんという人物を調べなくてはなのだ。


 俺はその足で、教員昇降口に向かった。

 麦野がいる。


「来たね。あんたが本気だってのは春菜もよく分かったよ。舞ちゃんの前ですっ転ぶとか思ってなかったもん。あれはなかなか凄い」


「転びざまを褒められてもなあ……。でもありがとう。必死に考えた結果があれだよ」


「うん。春菜も、あれ素じゃないかとか思っちゃったよ。あんたならやれるかも知れない……」


「ああ、米倉さんの自由を勝ち取るんだな」


「そういうこと……!」


 ということで、俺達は周囲の目に止まらぬよう、別々に校門を出た。



むぎゅ『裏口まで回ってきて!』


 なんだろう?

 裏から出ればよかったのでは?


 俺が首を傾げながら向かうと、そこにはワンボックスカーが止められていた。

 俺、この車知ってる。ハイパーエースだ。

 横の窓から中を覗けないようになっている。


 怪しい。

 俺はじりじりとハイパーエースに近づいた。

 すると、ガラリとその扉が開く。


 突き出してきた手が俺の腕をとった。


「ぎゃー!」


「少年シャラップ! 中に入れー!」


「そ、その声は!」


 驚く間もなく、中へと引きずり込まれてしまった。


 そこにいたのは、ゆるっとした感じのブルーのカットソーを身に着けた芹沢さんだった。

 きれいな首筋とかがあらわになっている。


 そして、麦野もいた。


「揃ったようだねえ」


 芹沢さんが腕組みしながら言った。


「芹沢さん、あなたはクビになったはずでは……!」


「誰がなるかー! 私は一応、縁故採用なの! あと、在学中の学費とかお世話になったから、その分にお返しとして働いてるわけ。人聞きの悪いこと言わない!」


 コネか……!

 だが、芹沢さんが元気そうで良かった。


「旬香さん、ほんとにこいつと知り合いだったのね……。春菜びっくり」


「そうだよー。なんていうの? 共闘関係? 少年が最初に接触してきてね。舞香さんのために何かしたいって言うんだよ。そりゃあ可愛い舞香さんのためだもん。お姉さんは協力しちゃうよね」


「もしかして、最近舞ちゃんのお肌がつやつやしてたのは」


「少年のおかげだね」


「なんてこと! 春菜にはできなかったのに! 一体舞ちゃんに何をしたの!」


「何って……デートとか?」


「あっ芹沢さん」


 麦野の目がすごいことになった。


「おーまーえー! いつの間に舞ちゃんとデートなんかしてるのー!! 何よ、何してるのよー!」


「うわー! 麦野落ち着けー!!」


 掴みかかられて大変なことになった。

 間に芹沢さんが入って、力づくで麦野をもぎ離す。

 基本的に麦野のパワーはスーパーベビー級でとても弱いので、簡単に離れさせることができるようだ。


「助かった……」


「うんうん。年頃の男子としては、意中じゃない女子に迫られても反応しちゃうから大変だよね。むぎむぎはおっぱいとか大きいし」


「はっ」


 麦野が慌てて胸元を隠す仕草をする。


「見てない見てない! 芹沢さんも人聞き悪いこと言わない!」


「あっはっは、ごめんごめん! それでさ、多分、稲穂くんもそのつもりだと思うんだけど」


 彼女が、俺をFINEのときの名前で呼んだ。

 俺は頷く。


「はい。この三人で協力しましょう。それで、米倉さんを自由にする」


 この時、稲芹麦同盟が生まれたのだった。

 ちなみにここで、三人が参加するグループチャットを作った。

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― 新着の感想 ―
[一言] 主人公に対する嫉妬よりも親友の幸福を選んだんやね(≧▽≦) ところで授業中に回して来た手紙はいっそ封蝋でもしてやらないと犠牲者が出そうですねwww(ノ´∀`*) 気付いてしまって取り上げた先…
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