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第十話 最終確認とプライベートそんなんなんですね

 GW初日。

 まさか俺が、高校生活一年目にして女性と待ち合わせすることになるとは思わなかった。

 まあ、その相手はクラスメイトの護衛をしている人なんだけどな。


 俺がスマホを見ながら、待ち合わせ場所の広場前にいるとだ。


「お待たせ。と言ってもほとんど待たせていないと思うけど」


 聞き覚えのある声で、ごくざっくばらんな言葉が耳に飛び込んできた。

 顔を上げると、見覚えがあるような無いような女性が。


「えーと」


「私よ。芹沢旬香。二回会ったでしょ」


「お、おお」


 俺は間の抜けた返答をした。

 彼女は、髪をナチュラルな感じで流して、いつもとは違ったメガネをしてる。

 クリーム色のサマーニットっていうの? それにネイビーのパンツルックのかっこいいお姉さんだったのだ。

 シュッとした体型が出ててドキドキする。


「芹沢さんかあ……。びっくりした」


「そう? そう言えばいつものスーツとはちょっと雰囲気違うもんね」


「あのー、いつものメガネは?」


「あれは目を守るために防弾レンズ入ってるの。その他もろもろの多機能レンズよ」


 あのメガネ、護衛のための装備だったのか……。


「度はちょっと入ってるけどね? 一応近眼だし。ただ、プライベートまであんなごついの掛ける必要ないでしょ」


 鼻に跡がつくんだよねえ、とか言いながら、彼女は歩き出した。

 俺も後をついていく。


 おや……?

 これはもしやデートでは。


「言っておくけれど、デートではないからね? 君のデートは、舞香さんとヒーローショーに行くときがそうでしょ」


「お、おう。心を読まれていた……。いましたか」


「敬語はいいよ。私だって大学出たばかりだし。さあエスコートをしてみて。舞香さんをどういうコースで連れ回すのかな?」


 連れ回すとは言い方が……!

 だけど、コースの下見は絶対に必要だ。

 芹沢さんには練習台になってもらおう。


「えーと、まずはそこのオシャレな喫茶店でクレープを食べて……」


「ブッブー!! 指導!」


 あっ、いきなり芹沢さんから柔道っぽいペナルティが入った!


「な、なんで?」


「慣れないことしなくていいの! お洒落なお店で美味しいもの食べることなんて、あの子は何度も普通にしてるんだから。君より経験値高いんだよ? 君がやることは、君しかできないことでしょ」


「お、おう」


 なるほど正論だあ。

 スマホでメモをとる俺。


「よーし、実践してみせろ少年!」


「うす!」


 なんというかとても体育会系なノリだ。

 正直苦手なんだけど、相手がお洒落なお姉さんなら話は別だ。

 我ながら現金だなあ。


 そう思いながら、普通に東遊デパート近くにある電気屋にやって来た。


「……なんで電気屋なの?」


「おもちゃコーナーがあるんだけど、直接触れるんだよね、戦隊グッズ」


「な……なるほど」


 ちょっと呆然とする芹沢さん。

 俺にしかできないことをしろって言ったじゃない。

 とすれば、俺がいつも周回しているコースを案内するしかない。


 一直線におもちゃ売り場に行くと、そこには色とりどりのパッケージが並べられている。

 米食戦隊ライスジャーのみならず、同時期に放映するもう少し年齢が高い層向けのヒーロー物、いわゆるメタルヒーローのおもちゃもある。


「おお、もうコダイジャーのグッズが出てるのか」


「コダイジャー……?」


 コダイジャーとは、ライスジャー四人目の戦士。

 ライスジャーはハクマイジャー、セキハンジャー、クロマイジャーの三人でスタートした。

 そして追加戦士が二名登場するんだ。


 既に、コダイジャーとチョウリュウジャーの二人が出ることは分かっている。

 コダイジャーは多分、今回の放送の予告に登場するはずの新戦士。


「へえ……コダイジャーブレスが試せるのか……。いいな……!」


「お、おい少年! いや、舞香さんがこういうの好きだというのは分かってるけれど……こう、あまりにも独特というか」


「コダイジャーの変身も変わらないのか? ──クックオーバー!!」


 叫びながらブレスを付けた腕を上に掲げる。

 このブレスは、タッチ式と音声認識方式の二通りを選べるんだ。


「コダイジャー!」


『ライスジャー・チェーンジ!』


 ブレスが唸って光る。

 これをちびっこたちが見ていたようで、


「すげえー!」


「へんしんポーズかっけー!」


 とか騒ぐ。


「こんどはぼくにかしてー!」


「よーしよし、順番に変身しような」


 俺はお子さんに優しく声をかけてブレスをつけてあげる。


「くっくおーばー! こだいじゃー!」


「おお、ちゃんとコダイジャーを履修してるのか。偉いぞお子さん!」


「うぃーちゅーぶででてたもん!」


「そっかー! なかなか変身ポーズかっこよかったぞ!」


「ほんと!? やったー!!」


「つぎおれ、おれー!」


「よーしよし」


 しばらく、おもちゃ売り場でお子さんたちと戯れる俺なのだ。

 ついつい夢中になってしまった……!


 戻ってくると、芹沢さんが目を丸くしている。


「君って凄いんだねえ……。なるほど、君しか舞香さんをエスコートできないね、こりゃあ……」


「いやー、なんか自分の世界に入っちゃってすみません」


「いいのいいの。私にはよく分かんない世界だけど、君がこっちに凄く造詣が深いらしいことはよく分かったから。いやあ……大したもんだわ……」


 おお……。

 引かれないで感心されている。

 俺の趣味を公言して引かれないのは初めてかも知れん。


 舞香は同類だしな。


「いいんじゃない、このデートコース。あの子も絶対満足すると思うよ?」


「あざます!」


 どうやら合格点をもらえたらしい。

 ならば、ついに本番だ。



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― 新着の感想 ―
[良い点] クックオーバー!したい。 [気になる点] 古代米、好き。 [一言] 音声認識方式のブレス、欲しいw
[一言] 君がこっちに凄く造詣が深いらしいことはよく分かったから。いやあ……大したもんだわ……」 ↑ 因みに、お姉さんの護衛対処なお嬢様もダラダラ見てるだけの万年新米には及びもつかない深い知識を備蓄し…
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