表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/94

第一話 運命の日、屋上にて

 聞いて欲しい。


 今日も一人弁当しようと屋上に行ったら、クラス一の美少女と名高い米倉舞香(よねくらまいか)がいたんだ。

 美しい黒髪を風に遊ばれながら、いつもの毅然とした表情を保ち、彼女は────。


 変身ポーズをしていた。


 ────変身するのか!?

 いや、その様子はない。

 ひとしきり、ポーズを終えた後、彼女は満足げに微笑んだ。


 そこで俺が登場だ。


「!?」


 バンッと開かれた扉に、舞香が飛び上がるように驚く。

 じっと俺を見る彼女。


「い……いつからそこに?」


 舞香の、まるで紅でも引いているかのように赤くふっくらした唇から漏れたのは、びっくりするくらい細い、怯えた声だった。


 そうか、俺は彼女の、見てはいけない秘密を見てしまったのだ。

 舞香は恐れているのかも知れない。

 自分の秘密を知られたことで、今まで築いてきた日常が崩れてしまうことを。


「見たよ」


 舞香が息を呑む。

 そして悲しそうな顔になった。

 俺はこの時、強く思った。

 ──彼女に、そんな顔をさせてはいけない。


 だから俺もまた、彼女が取っていたのと同じポーズをする。

 そう、寸分たがわぬ、同じポーズ。

 あの番組で毎回流れているこの、一連のポーズからのアクションだ。


「スチーマーブレス!」


 右腕にブレスレットがあると仮定して、それを左手で触れながら、腰を大きくひねる。

 そして右腕を高らかに頭上へ。


「クックオーバー! ライスジャー!」


 これこそ、ただいま絶賛放映中、米食戦隊ライスジャーの変身ポーズなのだ。

 俺ももちろん、毎回リアルタイム視聴している。

 こうして見栄を切った後、蒸気に包まれてライスジャーは戦闘スーツに身を包む。


 だが、今は現実だ。

 蒸気なんて現れないし、俺も変身しない。


 屋上を静寂が包み込む中、俺は思った。

 やっちまった……と。

 米倉舞香のポーズが、ライスジャーのそれによく似ていたから、思わず反射的に俺も返してしまった。


 もしかしてあれは、舞香がやっているという日舞の動きの一つかも知れない。

 だとしたら、ライスジャーだと早合点してポーズを決めた俺はなんなのだ。あほではないか。


 案の定、舞香は目を瞬かせて、俺を見ていた。

 そして、キッと眉尻を吊り上げる。


「ライスジャーって……。稲垣穂積(いながきほづみ)くん、あなた」


 米倉舞香、俺の名前を覚えててくれたのか。

 俺、ちょっと感激。


 だが、歩み寄ってくる舞香の目が怖いぞ。

 なんて真剣な目をしてやがるんだ。


「は、はい」


 舞香が俺の肩越しに、扉を閉めた。

 まるで、俺に壁ドンしているような姿になる。


 怖いほどの真剣さをたたえた目が、ちょっと潤んだように見えた。

 舞香の頬が赤くなっている。

 こ、これは────!?


「もしかして、ライスジャー、好きなのっ!?」


「大好きです!」


「白派? 赤派?」


「黒派」


「通ね……!!」


 彼女が俺の手を握りしめた。

 興奮で鼻息が荒くなっている。

 うわあ、手の平が柔らかい!


 米倉舞香のきれいな顔が、まるでキスでもするかのような距離にある。

 俺は一瞬、彼女に見とれてしまった。

 舞香、やっぱり肌が白くてきれいだなあ。


「白……」


「そうなの!!」


 舞香が離れて、叫んだ。


「私は、白なの! ハクマイジャーが、好きなのーっ!!」


 お、おお……!


 空に向かって咆哮を上げる、米倉舞香。

 彼女はまるで、何かから解放されたかのように見えた。


 この日、俺はクラス一の美少女の意外な素顔を目撃してしまった。

 そして、彼女からクラスで唯一の理解者だと認識されてしまったのだ。


 米倉舞香。

 艶やかな長い黒髪、切れ長な目、白い肌にしなやかな身のこなし。

 成績優秀、スポーツ万能、家柄はとある会社の社長令嬢だとか。

 そんな誰もが認める完璧超人の彼女は────特撮オタクだったのだ。



 そしてこの日から、俺と舞香の秘密を共有する毎日が始まったのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
新作から遡って読ませていただきました。 佛田さん辺りが頭抱えそうな企画の戦隊だー! あ、今特技監督も変わってるのかな?
[一言] 文化資本高い上級国民と付き合えるなんて勝ち組ね!
[良い点] 新連載おめでとうございます♪(≧▽≦)☆ のっけから幸せな青春スタート!(。>﹏<。)アニメ一話目みたいな映像が浮かんだところで短めのAパート終わってオープニング♫ [一言] 黒、古代米…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ