貴方は不幸でいる必要はないのです
「わたくしは、貴女の事を一番にしてあげられませんの。でも貴女が本当に救われるのは、誰かの愛情が必要なのですわ。でも、これだけは分かって欲しいの。わたくし、貴方に幸せになって頂きたいと願っていますの。あの日、貴方を救ったのはわたくしではなく、貴方自身ですのよ?勇気を出して、幸せになりたくて、屋敷を飛び出してきたのでしょう?それを忘れないで下さいまし。
わたくしの言葉が今、貴方に届かなくても、いつか貴方が誰かに愛された時に届いて欲しい。貴方は幸せになって良いのです。不幸でいなくて良いのですよ」
「私なんかが愛されますか?親にだって愛されなかったのに……見た目も美しくて身分も高くて、全て持っているお嬢様には分りっこないです。町でだってお嬢様の良いお話ばかりで、皆に愛されているのに!」
(え?
初耳ですわ?)
マリアローゼの涙が一旦引っ込んだ。
「良いお話…?」
「……平民の子供を守る為に、命を懸けたって……全て持ってるのに、何でそんな事を……」
わなわなと唇を奮わせるステラは、今にも勿体無い!と叫びだしそうだ。
マリアローゼは涙を拭って答えた。
「それは、わたくしの幸せのためですわ?」
「?」
ステラは何言ってるんだこいつ、みたいな顔で首を傾げた。
伝わらなかったので、マリアローゼは説明をする。
「わたくしの目の前でその少女がもし殺されていたら、わたくしの一生の心の傷になったでしょう。もしかしたら、外に出る事が出来なくなったかもしれません。悪くもない周囲の人を責めたりしたかもしれません。命を捨てるほどじゃないと思われるかもしれないけれど、わたくしはわたくしのせいで罪もない人が殺されるのは嫌なのですわ」
ぽかーんと口を開けた後で、ステラが恐る恐る訊いてきた。
「…で、では……お嬢様が魔法で船を沈めたという話は……?」
「正確には魔法ではありませんけれど、概ね事実ですわね……えっ?町でそんな噂が?」
マリアローゼに聞き返されて、ステラは慌てて両手を胸の前で振った。
「いえ、町では原因不明の沈没で、我が領の騎士達が救助したと……その際にお嬢様も救出された事になってるかと思います……でもお屋敷では……」
とりあえず、街ではヤバいお嬢様という噂ではなかったと知って、マリアローゼはほっと胸を撫で下ろした。
「良かったですわ……ああ、それとステラ、全ての人に愛されるなんて事は無理ですわ」
「えっ」
えっ、お前そうじゃん、みたいな顔でステラが疑わしそうな反応をするが、マリアローゼは首を横に振った。
「人の感情はどうしても、羨望から嫉妬に変わったりしますもの。恵まれているというだけで、憎悪の対象にもなるのです。意味も無く金持を羨んで嫌ったり、意味も無く貴族というだけで嫌う人はいるのですよ」
(心当たりありますわよね?)
実際にステラがそうなのだから、これは敢えて言葉にして確認しなくても分かるだろう、とマリアローゼは断じた。
「人と比べてしか自分の幸せを計れない人もいますもの。人より多くあれば幸せ、人から取り上げれば幸せ。そんな考えを持つ人は本当の幸せを得られるのかしら?もっと良い物を持っている人が現れると、途端に不幸になったりするのじゃないかしら」
「……そうかもしれませんけど、無いよりは幸せですわ……」
「ええ、そうですわね。だからといって他人の物を羨んだり、奪ったりしても幸せにはなれないのです。それで幸せを感じる方が得られる幸せは、紛い物ですわ。夢と同じでいつかは醒めるのです。分かち合う事が大事なのですわ。そして、分かち合いたいと思える大事な人達がいること」
ステラは静かに呟いた。
「……大事な…人」
「ステラ。貴方を大事にしない人は、貴方を含めて切り捨てなさい。これから共に過ごす家族も友人も、貴方が自由に選んで良いのですから」
「……私なんかが選ばれるでしょうか?……」
暗い…海の底より暗い瞳で闇を背負って言うステラの前で、マリアローゼは暑苦しく行こうと思った。
頑張れ!諦めるな!と繰り返すうざいスポーツ選手を思い出しながら、マリアローゼは拳を握る。
(ここは、熱く!応援しまくってみましょう)
「大丈夫ですわ!選ばれますわ!まずは騙されたと思って、笑顔で挨拶を心がけなさいまし。ごめんなさいとありがとうも忘れずに、きちんと相手に伝わるように目を見て笑顔で!言うのですわよ!」
「あ……は、はい」
「いいですか?人間関係は積み重ねですのよ?一夕一朝には参りませんの。わたくしが応援しております事忘れずに、明日から実践なさって!それから…き」
筋肉!と言いかけて、マリアローゼは口を噤んだ。
相手は女子だったので、筋肉が恋の邪魔になる可能性もあるのだ。
(筋肉はまずいですわ、筋肉は…!
わたくしのおばかさん!)
「…き?」
聞き返されて、マリアローゼは咄嗟に答えた。
「綺麗ですわ!ステラは。これからどんどん綺麗になりますもの。大丈夫ですわ!」
ラクリマ夫人も細くてスラッとした美人だったし、ステラも長身でスラッとして手足が長いので、バレリーナに向いてそうだ、とマリアローゼは頷いた。
言われたステラは真っ赤になった後で、わあ……と泣き始めた。
「あ、あら……そんな、泣かないで、ステラ……」
慌ててマリアローゼはハンカチを取り出して、ステラの涙を拭う。
ステラはしばらくわんわんと子供の様に大声で泣き続けた。
某暑苦しいテニスプレーヤーの動画を、疲れたら見るっていう外国人の動画がお気に入りです。
あきらめんなよ!
ステラはいつかステラ視点での物語を書きたい子です(モブだけど)彼女の選ぶ結末が結構好きなので。あとは、帝国へと逃げた義妹は皇帝の愛人の座を得る悪女になるという正反対の人生を送る予定ですが、破滅確定ですし、二人は今後顔を合わせる事は一生ないです。




