トナカイのルドルフ
まるで隠すように抱えられて、運ばれた部屋は大変に豪華だった。
金銀財宝がギラギラと光を放ち、部屋の中央に1人の少年が立っている。
「殿下、お連れ致しました。ですが、護衛を取り逃がしたので、時間は無い物とお思い下さい」
「よい、下がれ」
騎士が部屋を出て行き、少年と二人部屋に取り残されたマリアローゼは、少年を見た。
「我はフォールハイト帝国第十五皇子ルドルフである。顔を見せよ」
横柄な物言いだが、マリアローゼはぽかん、と口を開けて少年を見ていた。
ルドルフ……ルドルフ!?
マリアローゼの脳内に再生されていたのは、記憶の中で遊んでいたオンラインゲームである。
丸々としたトナカイのルドルフのきぐるみが可愛いゲームだった。
「おい」
声を荒げたルドルフに、マリアローゼはささっと帽子を取ると、優雅にお辞儀をしてみせた。
「ルドルフ殿下、お初にお目にかかります。わたくしがご所望のマリアローゼ・フィロソフィですわ」
(攫ったんだから、知ってますよね?)
と言うように挑む目つきを向けるが、丸々としたほっぺに、丸い団子鼻、赤い出来物は不健康だが、ルドルフという名前には丁度いい丸さだ。
特に、ベルトのような装飾の上にぽよんと乗った丸いお腹が、きぐるみらしさを演出している。
(きっとトナカイの角をつけて、お鼻を赤く塗ったらお似合いになるわね?)
じっ……と腹の辺りを凝視され、ルドルフは居心地の悪さを感じて背を向けた。
「どうせ、皇子の癖に、見た目が悪いと思っているのだろう!」
いきなりのネガキャンである。
マリアローゼはすっかりきぐるみトナカイで頭が一杯になっていたので、こてん、と首を傾げた。
「いいえ?特には。可愛らしいと思いますけれど」
「何だと!?……な?……」
自分が何に怒っているのか分からなくなったようで、ルドルフも首を傾げた。
可愛いというのは男にとって褒め言葉ではないのだが、ずっと見た目を揶揄されていた身にとっては聞きなれない言葉だった。
「皆は我の見た目を馬鹿にするが、お前は違うのか……?」
「皆?それは世界中が全てですの?」
不思議そうに問いかけるマリアローゼに、ルドルフは目を伏せた。
何かを思い出して、苦々しくもあり、悲しくもある、そんな表情で床を見詰めている。
「……母上は別だ。病弱でずっと後宮の奥に閉じこもっているが、我の心配を、している」
「愛されておいでなのですね」
マリアローゼの言葉に、眩しそうな表情をして、ルドルフは目を瞬いた。
まるで初めての言葉を聞いたように、素直にこくん、と頷く。
「勉強をしろ、剣の稽古をなどとうるさい事は言わぬ。ただ、我の身を案じて、健康であってほしいと…そう」
「素敵なお母様ですのね」
うるさい事、って貴方皇子でしょう、と突っ込みそうになったが、不得手な物は仕方が無い。
努力しないで逃げ回るのは頂けないが、皇帝の座を望まないなら話は少し変わってくる。
「殿下はお母様を愛していらっしゃいますか?例えばですけれど、皇帝の座とどちらが大事ですの?」
「それは……!母上に決まっている。母上を喜ばせたいから皇帝になりたいのだ」
マリアローゼはこくん、と頷いた。
「それでは、皇帝となるのをお諦め下さいませ」
「な?何故そうなる!?話を聞いていたか!?」
慌てるルドルフにマリアローゼは頷いて、椅子を薦めた。
「まずは、お座りになって」
他人の部屋だが、そこは気にせずにマリアローゼも座る。
勢いに押されたようで、ルドルフは素直にマリアローゼの指示した椅子にちょこん、と座った。
人の家で主人かの様に振る舞う系幼女…!




