先輩なので!
マリアローゼの持ち込んだ昼ご飯のナンは、子供達の心を鷲掴みにした。
従者も修道女も皆一緒になって、ナンに齧り付いたのである。
お別れの時に泣いてしまう子供達もいたが、また来ると約束すると皆笑顔で見送ってくれて、マリアローゼ一行は冒険者ギルドへと向かった。
そのまま真っ直ぐ南北に縦断する街道を南端まで行くと、大きな冒険者ギルドが建っている。
「まあ!あのお魚の骨は魔獣のものかしら?」
予想通り興味を持ったマリアローゼに、シルヴァインはふふっと笑い声を漏らした。
「どうだろうね?聞いてみるといいよ」
言いながらマリアローゼを抱っこして馬車を降りると、扉の前にちょこんと立たせた。
ノクスが扉を開けると、マリアローゼはとことこ中へと入って行く。
「おお!あんたが姫様か!」
(何故、ここでは姫と呼ばれるのでしょう……王族ではないのに……)
疑問はありつつも、マリアローゼはスカートを広げてお辞儀をした。
「お初にお目にかかります。フィロソフィ家末娘のマリアローゼで御座います。ええと、ヴァロさん、でしたかしら?」
「おう。そうだが、呼び捨てで構わんよ」
「そういう訳には……」
年上の、使用人ではない相手を呼び捨てにするのは気が引けるのである。
商会の人間ならば雇用主と労働者という区切りは出来るのだが、ヴァロは違う。
戸惑っているとヴァロがマリアローゼをひょいと抱き上げた。
「呼ぶまでおろさねーぞーー」
「そんな、ずるいですわ!」
「そーだそーだ横暴だー!」
「ひげもじゃー!」
「殺すぞ?」
冒険者達の野次が飛ぶ。
野次の合間にユリアの恐ろしい声が聞こえて、マリアローゼは観念したように笑顔のむさい冒険者ギルド長の名を呼んだ。
「ヴァロ!」
「おうよ」
一瞬眼鏡の小学生が探偵をしている漫画が頭を過ぎった。
呼ばれたヴァロはニカッと笑って、マリアローゼを床に降ろす。
「いやージェレイドの奴からずっと話を聞いてたからなあ。この世界で一番可愛らしいってもうしつこいくらいにな。だが、嘘じゃなかったようだな」
ガハハ、と豪快に笑う姿に殺意が消えたのか、ユリアがうんうんと頷いて同意を示している。
「おじさま、わたくし聞きたいことがございますの!あのお外に掲げられているお魚は魔獣ですの?」
興味津々に聞かれて、ヴァロはまたガハハ、と笑った。
「公爵家の姫君が興味持つもんじゃねえと思うがな、そうかそうか。あれは外洋に出ると出会う魔獣で怪魚って言われてるもんだ。倒して船上で捌いて食糧にする事が多いが、一回り大きい奴だったんで、飾りに持ち帰ったんだって話だ。先々代か、その前のもんだな」
「まあ……!」
マリアローゼは胸の前で小さな手を組んで、キラキラとした目で見上げている。
「わたくしも早く冒険に出たいですわ!」
ヴァロは、マリアローゼの言葉に大きな肩を竦めた。
「他の冒険者ギルドの奴らからも言われてるから、7歳には登録してもいいが、下積みは大事だぞ?どんなにつまらない仕事でもこつこつやるのが肝心だ」
「ええ。でも人の役に立つお仕事ですもの。些細な事でもつまらなくなど、ありませんことよ。立派なお仕事ですわ!」
幼い少女の無垢な言葉に、底辺の仕事をしている、冒険者が胸を押さえる。
ユリアは心臓を打ち抜かれた者達を見て
(分かるぞ…!!)
と自信満々に頷いた。
「何でユリアさんがそんな偉そうな顔をしてるんですか」
少し呆れたような笑顔を見せるカンナに、ユリアが開き直った。
「マリアローゼ様が素晴らしい事に、気づいたのは私の方が先なんで!先達なんで!先輩なんで!」
「じゃあ、ユリアさんより私の方が先輩ですね」
カンナの秒殺に、ユリアがむぐぐ、となり、へらりと笑顔を浮かべた。
「この話題は止めましょう」
切り替えの早さにも定評があるユリアなのである。
バーローではありません。




