力の一片すらも残さないほどに
そう、シャルシャーンが完全ではない以上、手は最初から1つしかなかった。シャルシャーンはそのためにずっと策を練っていた。だからこそ、シャルシャーンはキコリへと呼びかける。
「今アレを倒せるのはキコリ……君だけだ。ボクたちは全員、君がアレに一撃を喰らわせるのを支援する!」
「ああ。分かった。やってやるさ……!」
何を求められているかは分かっている。キコリの得意技は多くない。そして切り札と言えるのは、たった1つだけ。だから、キコリは翼を広げて飛び立つ。
「その翼……やはり貴様は我か」
「お前と一緒にするな!」
叫ぶ飛ぶキコリに、ゼルベクトの身体から現れたレルヴァたちが飛んできて……同時にキコリの身体からも無数のレルヴァが現れ迎え撃つ。
「皆、頼む!」
レルヴァたちにそう頼みながらキコリは更に高く飛翔し、ドンドリウスの発動させた岩の槍がゼルベクトを貫き飛ぼうとした翼を穴だらけにする。その傷も一瞬で回復するが……次の瞬間には天から降り注ぐ光の雨がゼルベクトを貫く。
「させませんよ。貴方はそこに居なさい」
「ハ、ハハ! まだ出力が上がるか! しかし!」
動きは見えている。自分に向かって飛んでくる小さな影。それに向かって、握り潰すようにゼルベクトは腕を振るって……その手に、三叉の槍が突き立つ。
「……馬鹿な」
「馬鹿はお前だよ」
そう、それはアイアース。キコリと同時に飛び、ゼルベクトの目を惑わしていたのだ。ドンドリウスとユグトレイルの広域攻撃も、それを誤認させる隙を作るための目くらましに過ぎない。
だからこそ、通じた。ゼルベクトがその適応力と再生力に胡坐をかき、こちらを舐めているからこそ、キコリはゼルベクトにすでに取り付いていた。
「貴様……!」
現れようとするレルヴァたちを、キコリの中から現れるレルヴァたちが抑え込む。
簡単だ、簡単な話だ。世界から魔力を無限に供給し、ゼルベクトにたった一撃をぶち込んでやればいい。
何度も何度も使った魔法だ。どうすればいいかは分かっている。
だから、キコリはイメージする。イメージは、完全に破壊されたゼルベクト。
もう蘇らないくらいに、力の一片すらも残さないほどに徹底的に。
世界に二度と迷惑をかけないくらいに完全に、完璧に。
「ブレイク」
破壊魔法ブレイク。キコリがずっと持っている、最大の必殺魔法。それがゼルベクトに叩き込まれて。
「死ね、ゼルベクト……! 今度こそ、一切の塵すら残さずに!」
限界など、1秒もたたずに超えている。だがそれでもキコリはゼルベクトに「破壊」の力を流し込む。壊れて、壊れて無となって消えろと。完全なる消滅をイメージして。
「ああ、なるほど。貴様は我の力をそう使うのか」
崩壊を始めたゼルベクトが、そう嗤った。






