ヴォルカニオン
しかし、その直後。アイアースは「げっ」と声をあげる。
アイアースは、ヴォルカニオンは当然目立たない姿で来るものと思っていた。
いたが……実際に見えたのは、ドラゴンそのものの姿で悠々と飛来するその姿。
「ド、ドラゴンだあああああ!?」
「全員家の中に……いや、逃げろ!」
「うわあああああああ!」
大騒ぎである。まあ、仕方がない。あまりにも仕方のないことだ。
どう見てもドラゴンそのものな真っ赤なドラゴンの巨体が一直線に向かってくるのだ。
何事であるかをさておいても、非常事態であるのは間違いないように思えるだろう。
「アイツはただやってきただけ」と言っても誰も信じないのは確実だ。
だからこそアイアースは飛翔すると、ヴォルカニオンの方向へと飛んでいく。
その判断の速さゆえか、幸いにもヴォルカニオンがフレインの町上空に辿り着くよりも先に目の前に行くことができたが……そこで見たのは、ヴォルカニオンの如何にも不機嫌そうな顔だ。
「……何故我の前を塞ぐ。焼かれたいのか」
「何故はこっちの台詞だ。なんで化けてこねえ」
「化ける必要が何処にある。私はこの姿に誇りを持っている」
「そうじゃなくてよお。配慮とかあんだろ。俺様もドンドリウスもやってんぞ」
「何故我が譲らねばならぬ? 我に配慮を要求するのであれば焼き砕くまでだ」
「おお、そうかよ……でも町には入れねえからな。でかすぎるからよ」
「そうか」
そう頷くとヴォルカニオンはアイアースをそのままにフレインの町の眼前まで飛び、其処に着地する。流石に慣れたものでふわりと地響き1つなく降り立つと、ヴォルカニオンはそのよく通る声でフレインの町へと呼びかける。
「聞け、モンスターども。我は『爆炎のヴォルカニオン』。所用により此処に滞在する。質問は許さん。我の気に障れば焼かれると知るが良い」
「暴君がよお……」
「距離感はこのくらいで正しい。下手な慈悲はつけあがらせる原因だ」
「そんなんだからテメエの姿が『ドラゴン』として人間の間で有名になるんだろうがよ……」
火を吹く最強モンスター、ドラゴン。その絵姿通りの姿をしているヴォルカニオンは、そうして語られるドラゴン本人である。
たまたま生き残った人間が語り伝えたのだろうが……まあ、ドラゴンスレイヤー物語などの創作で「ドラゴン」が倒されていると知ればヴォルカニオンは直々に焼きに行きかねない。さておいて。
「それで? キコリは目覚めたか」
「目覚めてねえよ」
「ふむ……何かあれば呼べ。キコリのこと限定でな」
「呼ばねえよアホがよ」
呼んでその辺を踏み潰されても困る。だからアイアースは絶対にヴォルカニオンは町の中には呼ばないと決めていた。






