005 三人の実力
地上に出たあたしたちは、歩いて首都防衛軍の宿舎まで戻った。瞬間移動ばかりじゃ足腰弱っちゃうし、それに、地上の様子も肌で感じておきたいからね。
あの“大蛇”は稀に地上にも出てくることがあるらしいし、それなら地上の状態も確認しておく必要があるし。あたしは魔力で見られるから必須ではないんだけど、エイコさんとトワさんはそんなに魔力を広げられないからね。
宿舎に戻ってからは、初めて見た“大蛇”に対する報告と、明日からの行動計画のためにミーティング。防衛軍の瀬田さんも参加してる。っていうか、何かをとっても聞きたそうに、そわそわしてる。
とりあえず瀬田さんのことは横に置いて、あたしたち冒険者パーティーで報告会。
「あの大蛇……どう見ても海竜だったわね」
エイコさんが言って、トワさんとあたしが頷く。
「え? 海竜? あの、米軍艦をも沈めたと言う?」
さっそく、瀬田さんが割り込んで来た。別に構わないけどね。
「うん。アタシらも聞いたことしかないけど、その特徴に一致してるよな」
トワさんが言った。
「海竜の特徴を聞いたことはないですか?」
「ありますが……まさか地下鉄に入っているとは……」
瀬田さんも聞いたことはあるらしい。
海竜は、異変の後から海に現れるようになった海棲生物で、体長約二〇メートルの蛇のような身体に、飛べるんじゃないかと思えるほどの大きなヒレを持っている。実際には飛べないらしいけど。ある程度の魔法を使い、口から水を吐いたり、その水を凍らせて攻撃したり、身体を凍らせると自ら魔法で熱を発して溶かしてしまう。
……と言っても、あたしは今まで遭遇したことはないから、聞きかじりの知識だけどね。
「皆さん、詳しいですね」
「本条王国には、海竜を撃退した人が二人もいますからね」
「え? 海竜って人間で撃退できるものなんですか? それに海竜の生息域は海、ですよね? 本条王国は内陸、いや、確かに海岸もありますが、それでも日本近海に海竜が現れたことは……」
瀬田さんがあたふたしている。そんなに焦ることじゃないよ。
「その話は置いておいて、今はあの大蛇、海竜をどう退治するか、です」
エイコさんが話を戻した。
「え? 海竜が地下鉄に入り込んだ理由とか原因とかは?」
瀬田さんが聞いたけれど、それは今は大した問題じゃない。海竜が地下鉄の軌道にいた、という事実があるんだもん。あたしたちは学者じゃなくて冒険者、依頼された“大蛇”を討伐することが最優先。
海竜が地下鉄に入り込んだ理由が討伐に役立つなら調べるけど、それほど役立つとも思えないし。
「はぁ、考え方がクールなんですね」
瀬田さんが感心したように言ったけど、そうなのかな? 当たり前のことと思うけど。まあ、いっか。
「それで、まずは戦力分析だけど、魔力障壁を使っていたのは事実?」
「うん。それに魔道具で魔力を無効化しようとしたのに、それも防いだし。魔法使いとして、割と上の部類に入ると思う」
エイコさんに、あたしは答えた。今まで相手にした動物には、あんなに魔法を上手く使うのはいなかったよ。
「それなら、ミキはほぼ無力化されている?」
「それはない。別に魔力の直接攻撃でなくても魔法使いには戦い方があるし」
崩れたりしたら困るから避けたけど、そこら辺の岩をぶつけるとか、水に電流を流すとか。あ、でも海竜って電撃には強いって先生が言ってたっけ。
他にも、エイコさんに撃ち込んでもらった魔鉱石で、海竜の居場所は五〇キロメートル以内なら、筒抜けだし。………………って。
「ああああああああああっ」
がたんっ。
思わず叫んだあたしに、みんながびくっとした。
「何? どうしたの?」
エイコさんが聞いた。ちょっと引いてる。
「ああ、うん、最後にエイコさんに撃ち込んでもらった魔鉱石の弾丸、魔道具にしとけば海竜の魔力を無効化できたのに、って」
そうだよね。『ここで逃したらまた探すの大変。だったら居場所だけでも判るように』って魔力を込めた魔鉱石を撃ち込んでもらったけど、魔道具を撃ち込んでもらえば良かったんだよ。失敗したぁ。
「今からそいつを魔道具にできねーの?」
「うん。手元にないと。手元じゃなくても、身体からの魔力が届く範囲じゃないと。それに、近くにあっても体内じゃ無理かな」
動物の体内にあったら、あたしの魔力が魔鉱石まで届かない。しかも、他者の魔力に影響を与える魔道具にするなら、魔力でなく魔力にする必要があるんだけど、魔鉱石の魔力を魔力にするのは特殊だから、どっちにしろ手元にないとなぁ。
「けれど、魔鉱石のお陰で海竜の位置は捕捉できるのよね」
「うん」
「それは次に使えるわね。その前に他の情報も整理するわよ。トワはどうだった?」
「剣がまったく通らなかったな。あれ、鱗を身体強化してるんじゃねーかな」
「トワの剣も通らないということはそうよね」
トワさんは、武器や防具を魔力で強化することができる。って言うか、エイコさんとあたしもできるけど。武具強化は、本条王国の冒険者組合で、正式な冒険者として認められるための最低条件なのよね。だから、本条王国の冒険者は、駆け出しでも他の国の冒険者よりも実力的には上になる。経験を積むとその差はなくなるけど。
おまけにトワさんは、武具だけでなく身体強化もできる。武具強化した上で身体強化して振るうトワさんの剣に、斬れないものはあんまりない。
それを弾くのだから、海竜も身体強化をしていると見て、まず間違いない。
「わたしの銃弾も通じないし。ムクオさんのマジックバレットなら魔力障壁も身体強化も関係ないんだけど」
マジックバレットは、魔力防御も物理防御も突き抜けるからね。あれで心臓を撃ち抜けば、どんな生物でもイチコロだし、心臓を外しても体内の数ヶ所から数十ヶ所を焼くなり感電させるなりすれば、それに耐えられる生物がいようはずもない。
でもこれ、難しくて本条王国でも一人しか使えないのよね。先生すら使えない、防御もできない、必殺の魔法。
それは置いといて。
「それらを踏まえて、討伐計画を立てる必要があるわね」
報酬額から考えると、あまりのんびりとしてはいられない。次の遭遇で片をつけたい。いや、遭遇を待つつもりもない。
あたしたちは海竜を倒すための計画を立てた。
「あの、色々とお尋ねしたいことがあるのですが……」
一応納得する計画を立て終わったところで、瀬田さんが控え目に言った。
「何ですか?」
「えっとですね、その、冒険者として秘密でしたら答えていただかなくても構わないのですが……」
「とりあえず、言ってみてください」
「はい。いくつかあるのですが、まずですね、エイコさんの使っている拳銃、銃声がしないのですが、普通の銃とは違うのですか?」
「ああ、これはミキの造った魔銃です」
エイコさんは魔銃を出してテーブルに置いた。
「魔銃、ですか」
「はい。説明はミキにしてもらった方がいいかな?」
エイコさんに視線で促されて、あたしは瀬田さんに向き直った。
「えっとですね、これは銃身に満たした魔力で銃弾を撃ち出してます。火薬を使っていないので音はしませんね」
空気を押し出す微かな音はするけどね。撃鉄は、弾倉の弾丸を銃身に押し出すだけで、射出するのは銃身に込めた魔力を使う。
「はぁ、そうなんですか。でもそれ、六連装のリボルバーですよね? 弾を込めずに六発以上撃っていたように見えたのですが」
「ああ、それは瞬間移動で直接装填しているんです。中折れ式のリボルバーなので、普通に装填することもできるんですけどね」
エイコさんが弾倉を開けて見せ、閉じる。今は弾丸は装填されていない。エイコさんなら、ホルスターから抜くまでの間に装填できるから、普段は安全のために抜いているんだって。銃身に魔力を込めないと弾丸は発射されないんだけど。
エイコさんの瞬間移動は、範囲は一メートル程度と狭いんだけど、速度と精度がとてつもなくすごい。小さな弾丸を六発、一瞬で狭い弾倉にぴったりと転送するんだから。
あたしも即時の瞬間移動や精密な瞬間移動は可能だけど、両立はできないんだよね。瞬時に瞬間移動すると雑になるし、精密性を心掛けると時間がかかる。数秒のことだけど、エイコさんは本当に瞬時だもんね。
「はぁ、瞬間移動ですか。エイコさんも魔法使いなのですか?」
「いえ、わたし程度では魔法使いは名乗れませんよ。瞬間移動も、ごく近距離しかできませんから」
「そ、そうなんですね。それからですね、トワさんの剣なんですが」
「アタシ? アタシは剣を振ってるだけで兵隊さんが疑問に思うことなんてないと思うんだけど」
「いやいやいや、そんなことありませんよっ。あの硬い大蛇……海竜の鱗に何度も斬り付けて、刃こぼれもありませんよね?」
「あ、それは魔力で強化してるんだよ。これで剣自体の強度も増すし、斬れ味も上がる。それでも、雑に扱うと刃こぼれしたり最悪折れることもあるけどね」
そうならないのは、トワさんの剣の扱い方が上手いから。あたしじゃ多分、強化してもこうはいかない。
「魔力で強化なんてできるんですね」
「これできないと、冒険者として登録させてもらえないからね。本条王国じゃ」
「そ、そうなんですね。それと、ものすごい速度で海竜の周りを斬りまくってませんでした?」
「ああ、それはエイコさんの弾丸の装填と同じ。瞬間移動を使っているんだよ」
そう。トワさんが海竜に対して瞬時に多方向から斬り付けられたのは、それが理由。距離は三メートル程度と、エイコさんよりは遠距離までいけるけど、あたしよりは短い。そして、常に自分を瞬間移動の対象にしているから精度は無関係で、戦闘したまま連続転移できる。
あ、東京に来る途中で襲って来た野犬の攻撃を直前で躱したのもこれ。伊来さんには跳び退いたように見えただろうけど。
「トワさんも瞬間移動できるんですか。でもやっぱり魔法使いでは……?」
「名乗れないよ。これくらいじゃ」
「そうなんですかぁ。そういえばミキさん、私も一緒に瞬間移動してましたよね?」
「はい」
「瞬間移動って他の人間を連れては行けないのでは?」
「できる人は少ないですけどね。できなくはないんです」
実際、あたしがやっているわけだし。
「できる人が少ない、限られた人しかできないってことは、やっぱりミキさんもすごいんですね」
「ミキは本条王国でも最大級の魔法使いだかんね。並の魔法使いじゃ足元にも及ばないよ」
トワさんが余計なことを言った。
「そんなことないです。先生にはまだまだ及ばないし、魔力総量もアデレードさんには劣るし」
「はあ、さすがは魔法と冒険者の発祥の地ですねぇ……」
瀬田さんはしきりに感心しているけれど、冒険者の発祥は本条王国じゃないよ。組合を作って組織化したのは、もしかしたら初めてかも知れないけど、日本の他の国や地域でも同じ頃に似た組織はできたそうだから、初めてかどうかは定かじゃないし。
でも、瀬田さんがこう言うってことは、組織として一番有名なのが本条王国冒険者組合なんだろうなぁ。その名を貶めないように、今回の依頼も完遂しなくちゃね。
==登場人物==
■ムクオ
名前のみ登場。「異世界転移~」の登場人物。ファイアーボールの使い手だったが、兄にその弱点を指摘され、修行を積んだ結果、不可避の魔力の弾丸“マジック・バレット”の魔法を編み出す。
==用語解説==
■海竜
異世界転移の後、海に出現するようになった巨大な海棲生物。体長二〇メートルの長大な身体を持つウミヘビのような生物で、翼のように巨大な一対のヒレを持つ。




