番外話:再会(後)
「その前に、普津沢先輩」
「?? なんで良いところで止めるの梅ちゃん」
「まぁまぁ慌てない慌てない。ひと休みひと休み――」
「イッ○ュサーン!?」
「さて、冗談はそれくらいにして」
「冗談か」
「どうも調べたところによると、田井中のいた学校には……天才と呼ぶべき生徒が何人かいたらしい」
「キ○キの世代!?」
「それを知って、私は思うのだ。もしかすると、私を含め……肘川になんやかんやあってそういう天才が集まっているのは……何かの前兆ではないかと」
「なに、か?」
「フッ、その正体は分からんが……まぁここは肘川。何が起こっても、不思議ではあるまい」
「まぁ、そうですね。で、それと田井中さんにどういう関係が?」
「もしかすると田井中は、そんな、何かのために集結した天才の中でも……特に、肘川市という環境や、♰カオスオーナー♰が呼んだりする不可思議な事件を無意識の内に感じ取り、向かおうとしてしまう性質を持っているのではないかと私は考えている」
「……なるほど。呼んだりするんじゃなくて……感知して、わざわざ踏み込むか。確かにそれなら事件との遭遇回数が多いのも頷けるね」
「しいて言うなら田井中は……そうだな。
♰カオスオーナー♰ならぬ♰カオスライナー♰といったところか?」
「♰♰はつけるんだね」
♪私の何を気に入ったのか 君は私を選んだね
他にも選んだ人はいたけれど とにかく私は嬉しかった
分からないなりに全力だった
あなたの世界に 憧れてたから
だけどあなたはそれ以降 私に何も教えてくれない
あとはワールドガイドを参考に 声なき声がそう言っていたよ
あなたは忙しい それは解ってる
でもだからって でもだからって
グループのルールさえ教えないのはないんじゃない?
♪ある時 私は気づいたの 私の好きなパロディが
ワールドガイドに載っていたのを 私もやりたいと思ったよ
こういう感じかと思いつき
掲示板に 載せてはみたけど
あまり反応する人いない いてもなんだか指摘だけ
あとは自分で考えなさいと 突き放された気がしたよ
みんな忙しい それは解ってる
でもだからって でもだからって
血の通った助言をしてくれたっていいんじゃない?
♪誘ってくれたグループが どうも私に合わなくて
さすがにキレて呟いたのを 君は非難をしてきたね
結局抜ける事になり
最後に君にも 文句を言ったよ
鬱な人を見かけたので 私は己の傷開き
解り合おうとしたけれど その時 君はこう言ったね
『○○○さんやけに真面目www』
――私、なんでわらわれたの? 傷ついたよ酷く
嗤うと笑うは違うのだと 君は私に言うけれど
そもそもわらうこと自体 この時は間違いだと思うんだ
前々から私は呟いたよね
リアルで鬱な事 続いてるって
そんな私をわらうのか もう君とは解り合えない
それともあのグループは そもそもその業界は
そんな人達が集まって動いているとでも言うのかい?
♪ついでに君は こうも言ったね
○○さんもwww 使うじゃないかと
いやちょっと待ってと思ったよ
確かにその人時々は wwwを使うけれど
本当にシリアスな場面では 1回も使った事ないぞ?
あなたは今まで本当に その人の事を見てきたのかい?
♪訊かない私も 悪かったけど
それでも説明 してほしかった
私 初心者 前に言ったよ
それでも助けてくれないのかい?
キレてしまったのはさすがに 私が悪いと思うけれど
しかしだからと言って 私を神経質だと言わないでおくれ
それ神経 逆撫でする台詞
※
「「「エル・オー・ブイ・イー・ちっこいズー!!!(野太い涙声)」」」
聞いただけでなんだか悲しくなる曲を、信者達は号泣しつつ聴いていた。今ではこういう曲が流行っているのだろうか。謎だ。
まぁとにかく、ツ○ッターは危険だって教訓かな(メメタァ
それはさておき。
俺は椎名と二手に分かれて捜索していた。
早くしないと酷い形で返り討ちにされかねない犯人を。
しかし観客が多すぎる。出入口で持ち物チェックをした限りでは凶器らしき物を持ち込もうとした者はいなかったらしいが……まさかこの場には当然のようにある何かに偽装して持ち込まれたか。もしくは体内にしまってあったりしたとでも言うのか。だとしたらマズい。もしも細菌兵器の類であったならば防ぎようがない!!
「FOOOOOOOOO!!!!!! イエーイ日本!!!!!! 来て良かったぜぇFOOOOOOOOO!!!!!!」
と俺がどう犯人を見つければいいのか悩み始めた時だった。
ここにいるハズのない存在――ついこの間、地下世界で、少女時代の姿ではあるが見た……アイツの声がしたような気がした。いやそんな馬鹿な。アイツは俺や、自分の家庭教師であったヤツの故郷であるこの国を、俺やヤツに裏切られたせいで嫌っていたハズ。
しかし、もしもという場合もありえる。
普通はありえないかもしれないが、試しに声がした方を向いて――。
「FOOOOOOOOO…………ッッッッ!?!? た、タイナカ!?!?!?」
……なんでアイツがここにいるんだ。
しかも、周囲は持っているペンライトを持たずに。
かつてとある傭兵部隊と、俺が関わったクーデター事件において。
軍部に裏切られた、中東の小国イクスサンドロス王国の王女――シャーネ・オルトロス・ローレリアン・イクスサンドリア(25)がッッッッ。
※
tamaさんに何かされたような気がするけど……魔法でも使われたのか、よく思い出せないまま。師匠と二手に分かれ、俺はくろすけと一緒に会場内を回る事になった。会場内は熱気に包まれ、正直上着を脱ぎたいところだけど……あ、アレが未来でも有名なコ○ケ雲? 雨じゃなくて汗が降ったりしないよね?
『く、くさい……うるさい……あつぃ……まぶしい……しぬぅ……』
そ、そういえば、くろすけは人間よりも五感が鋭敏な犬だった。
犯人を見つけるのにくろすけの存在は必要不可欠だけど、早くしないと会場の熱気とかにやられちゃうかも。早く怪しい客を見つけないと――。
《ミライニウム反応検知! ミライニウム反応検知!》
骨伝導で未来人探知機が……敵を探知するために上司に持たされたヤツが反応をした!? ま、まさか……俺やtamaさん以外にも未来人が――ッ!?!?
「こ、これ……アイドルの歌じゃないよね真子!?」
「FOOOOOOOOO!!!!!! 分かってないねぇおじいちゃん!! ちっこいズの良さってモノがよ!!(倒置法」
「…………おじい、ちゃん?」
ろ、老人なんてこの会場にいたかな……って、ええええッッッッ!!!?
な、なんでここにいるんだ!?
お、俺がいた、未来のIGAのパトロンの一人!! 御地井グループ会長である御地井真子さん……それも若い頃のがッッッッ!?!?!?
はっ! そ、そういえば梅ちゃん先輩の発案した時空転移システムは、真子さんが学生の頃には、大体は完成していたとか未来で聞いていたけど……それで来たのかな!?!?(名推理
と、という事は隣のメガネくんは……その祖父の御地井礎普夫さん!?!?!? ていうか、前から思ってたけどややこしい名前だなッッッッ!!!!
「ん? なんか視線が…………ッッッッ!?」
と、そんな俺の視線にいい加減気づいたのだろう。
真子会長(今は違うけど)が俺の方を向き……固まった。
同じ未来人として、俺に何かを感じ取ってくれたのかな?
※
「いやぁ、まさかここでお前と会えるとは思わなかったぞタイナカッ」
な、なんでコイツ。
「まさか人を殺す仕事から警備員へと転職していたとは……うんうん。私としてはそっちの方が健全で良いと思うぞッ」
お、俺に対してここまでフランクなんだ?
「な、なぁ王女殿下?」
「ここでは一人の、この国のサブカルチャーのファンだ。昔のように、シャーネと呼び捨てで構わんぞ」
「……シャーネ、お前」
俺は頭を押さえつつ言った。
というか護衛はいないのか護衛はッ。
「俺とアイツと、ついでにこの国を嫌ってなかったか?」
「…………私も、大人になったのだ」
いかにもヲタクなファッションをしたシャーネが……最後に見た時は、俺を睨みつけながら泣いていたあの少女と同一人物とは思えないほどに明るい笑みを浮かべながら言う。ヲタクなファッションじゃなければ絵になっただろうに。
「私は王族に生まれた事を恨んだ。自由はほとんどないし、腹を割って話せる友はなかなかいない。近づいてくるヤツらは私に媚びへつらう程度の低い連中ばかり。私の家庭教師だったアイツ……イズル先生は、そんな私を解放しようとして、どういうワケだかクーデターを企てて、そしてタイナカはイズル先生を……殺す事で、狂気から解放してくれた。それくらい、今なら私だって理解できる」
そしてシャーネは、これまでの事を話した。
そんな中で……俺は、改めてあの時の事を思い浮かべた。
シャーネが最も気に入っていた、俺と同郷の家庭教師イズル。
アイツは俺によって、あの最終局面で殺される前……笑っていた。
そして、彼を殺した俺に。
シャーネは当然ながら殺意を向けた。
しかし、人は時間と共に変わるようだ。
当時は集団行動が苦手で、学生時代も、あまり友人と話した覚えがない俺が……IGA忍者として、まだほんの数年だが働いている内に……いつの間にかみんなと連携して戦えるようになっていたように。
彼女も、この数十年で変わったのだ。
まぁ俺の場合は、時に、それだけ敵が強大だった……というのもあるだろうが。
「そうか。それは何よりだ」
「タイナカは……何か変わったか?」
「…………そうだな」
今度はシャーネが訊いてきた。
俺は、一度間を置いてから答えた。
その間に。
IGAに所属してから出会ったり、まさかの再会を果たしたりした連中の事を、頭に思い浮かべながら。
「賑やかで退屈しねぇ職場に転職できたって、ところか」
「そうか。それは何よりだッ」
すると彼女は、俺が言った台詞を返した。
そしてさらには「転職先が天職で良かったなッ!」と、まるで自分の事のように下手な洒落まじりで喜んでくれたところで……俺は、違和感を覚えた。
周囲をよく観察する。
右斜め前方の女性客。
彼女のペンライトに……光が灯っていなかった。
電池切れだろうか、と一瞬思った。
だが違う。アレは……ペンライトじゃなくサイリウム。
世の中には、同一の物だと思っている人もいるだろうが……まったく違う。
ペンライトは電池で光り。
サイリウムは化学反応で光る。
この、コンサートのボルテージが最高潮になった時にそれが光っていないとは。
俺はアイドルのコンサートにあまり詳しくないのだが、盛り上がる場面で、盛り上がらない出来事が起こるのは良い事ではないだろう。
というかファンであれば、ここぞという時に……サイリウムの場合は折って光らせるのではないだろうか。にも拘わらず、未だにサイリウムを折ろうとしないとは……まさか、アレはサイリウムじゃなくッッッッ!?
「まぁ待て、タイナカ」
思わず走り出そうとした俺を、シャーネが肩を掴んで止めた。
「オイ、今は構ってる余裕なんてないぞ」
俺は小声で文句を言った。下手をすれば大勢の観客が…………ん?
「どうしたんだ、その……サイリウムか?」
シャーネが懐から、数本のサイリウムを出した。
ワケが分からず、いったいどういうつもりだと、俺は問い質そうとする……だがその前にシャーネが口を開いた。
「信者の中に、いつまで経ってもサイリウムを光らせない変なヤツがいたからな。気になって、試しに近づいて確認したら……驚いた事に、祖国で嗅いだ覚えがある毒ガスのニオイがかすかにしたから、すり替えといた。私がペンライトと間違えてコンビニで買ってしまったサイリウムとなッ」
「…………お前ってヤツは」
ああ、そういえば戦時中……コイツは護身のために、少量ならば死にやしない毒ガスを、耐性をつけるために嗅ぐ、という狂気じみた訓練をしていたっけな。
いや、今はそんな……ここでは無駄な回想はいい。
できれば観客や、脅迫状を見てしまったちっこいズ関係者に見られずに、目の前の女性客を無力化しなければ。
※
結局、今回の事件はシャーネのおかげですんなり解決した。
ちなみに件の毒ガスであるが、予想通り、サイリウムの要領で、プラスチックの棒を折る事で周囲に拡散させるというエグい仕様だった。でもってその毒ガスの入手経路だが……どうやら普津沢の部下の調べによると、テロリストにもなった新興宗教【救国の光】の残党がバックにいるかもしれないらしい。どうやらあの組織は台所に出るG並みにしぶといようだ。もしや教祖奪還のために動いているのかね。
そして、その毒ガスの末路だが、さすがに事件の事を公表すると、ちっこいズの今後の活動にどう影響があるか分からないため、犯人を気絶させ、別室に運ぶ際にシャーネから預かり……観客にその存在を知られないよう注意しつつ、普津沢経由で一時的に参課で預かってもらう事になった。
事件を公表するか否かについては、コンサート終了後、普津沢がちっこいズの仕掛け人である沙魔美ちゃんと……いろんな意味で慎重に話し合って決めるそうだ。
そして忘れてはならない、犯人の、事件を起こした動機であるが。
「息子が……息子がちっこいズにハマって破産して……自殺したのはお前らのせいだぁぁぁぁ――――ッッッッ!!!!」
との事だ。
まさに、ちっこいズの人気が出すぎた弊害だ。
息子がハマりすぎた故の自業自得だとも思うのだが、まさか本当に破産するヤツが出てくるとは……さすがのちっこいズも思わんだろう。
もしかすると、今回の事件を教訓に、ちっこいズのグッズの販売方法などが……今後変わる可能性があるかもしれないな。
何はともあれ、これで依頼は完了だ。
椎名が魔法にかけられて(なんだかメルヘンな言い方だなオイ)一時的に意識を失ったり、もう二度と会う事はないと思っていたヤツに会えたりと、いろいろ忙しかったが……被害者ゼロで解決する事ができて本当に良かっ……そういえば、そのシャーネはどこ行った?
※
ちっこいズのコンサート会場から……私はすぐに退散した。
と言っても、現在進行形で誰かに追われている、などの理由からではない。
マスコミとかが駆けつけて、お忍びでこの国に来ている事がバレないようにするためである。
まだまだ私の国は、メジャーではない。
だが万が一という事もある。もしも私をよく知るマスコミに囲まれ、私の存在が晒されれば。マスコミが……もう充分我が国は復興したというのに、充分に我が国を取材せず、私が復興のために動かず他国で遊び惚けているという、間違った情報を流す可能性は捨てきれない。
いや、遊んでいるのは確かだが。
たまには王族だってハッチャケたいのだ。
他国の王族もやっている事だろう。来日時にはッ。
読者の声「そこまでやってない」
正直にこの国に来日すると言ってから来るべきだったかもしれんが、ウザいSPをつけられるかもしれないからお忍びで来たが……まぁ、タイナカの元気そうな姿を見れただけ儲けものだ。
アイツが良い仲間に囲まれて、幸せそうで……本当に、良かった。
「あ、そうだ。最後にアキバでも寄ろうかな?」
だがせっかく日本に来たのだ。
毒ガス事件を解決したし、もう少しいても……罰は当たらないよな?
~Fin~
真子「未来の話! せぇ~の! ミラバナ~~♪」
椎名「いやだからやらないっスよ!?」




