番外話:再会(中)
「これは……IGA局員ごとの、一年間の事件遭遇回数?」
「フッ、そうだ。そして普津沢先輩……田井中の所を見てくれ」
「どれどれ……えっ!? 俺より多い!? なんで!? まさか……田井中さんは♰カオスオーナー♰の上位互換な存在なのか!?」
「フッ、おそらくだが……私は、それとは違う存在だと思う」
「違う存在? いったい何だって言うんだい梅ちゃん」
「フッ、それはな――」
後半へ~~続くッ!(ディーノ(ォィ
「へぇー、あなたも未来人なんだー」
「二人もいるなら、まだ他にもいるかもしれないねーtamaちゃん」
「し、しぃぃーーーーッ! た、tamaさんもmawoお姉ちゃんもそれをこの場で言わないでほしいっス! 秘密なんスから!」
椎名は俺から離れた席で、普津沢の娘と、義妹にして異世界魔王だという少女・mawoちゃんの質問攻めにあっていた。というか聞こえてるからなッ。
ちなみにくろすけは、普津沢のもう一人の義妹であるmaiちゃんと、観客の中に姉がいるという未央ちゃんに捕まっていた。まだ成体ではないから、カッコ良いよりは可愛いの方が出ているくろすけは、女の子には人気のようである。
「わぁ~♪ 可愛いワンちゃんでちゅね~♪」
『なんやこのネーチン。男みたいに硬い胸やな』
「クソがあああああ!!!!」
「きょうもmaiちゃんはせいじょううんてん、のまき」
……………………この温度差。訂正すべきか。
「……田井中さん? 聞いてますか?」
「ん? ああ、ちゃんと聞いてる。犯人がいったいどんな手段を使ってコンサートを妨害してくるかの、俺の予想だったな」
というか今は、周りを気にしている暇はあるまい。
俺は普津沢と一緒に、警備の配置の確認をしつつ、犯人の妨害の手段についてをじっくり、コンサート開始前まで話し合った。
椎名達には後で伝えるか。
あいつらが離れられる隙があるとは思えない。
※
「ていうか、なんでアタチをおねえちゃんって呼ぶの?」
mawoちゃんが俺を――椎名正義を見て質問してきた。
この時代の彼女がそのワケを知らないのは当然だ。なにせtamaさんが青春を過ごした未来よりも、もっと先の未来で……身寄りがない俺を育ててくれた人達の一人がmawoお姉ちゃんだったんだから。
でもタイムパラドックスを起こさないためにも、さすがにこの事は言えな――。
「あっ、そうだ!」
しかし言うのを断ろうとしたその時! tamaさんが悪い笑みを見せた!? マズいマズいマズいマズいマズいマズいマズいマズいッッッッ!!!! でも逃げようとする前に捕まった!!!!
「私をおばあちゃん呼ばわりした罰としてぇ……私をおばあちゃん呼ばわりする証拠たる、あなたの過去を包み隠さず見せなさいっ!!」
「え、ちょ、tamaさ……アバババババババババババババッッッッ」
な、なんか頭がぼーっとして、きた……――。
※
二一XX年。
IGAは相変わらず日本の平和を守護っていた。
途中、何度か……あらゆる特殊能力者でもどうにもできないレヴェルの大災厄が起こったものの、それも特殊能力者と常人の知恵と技術を結集させ、なんとか鎮圧した。
だがある日、世界はまたしても危機を迎える。
世界が、時折……塗り潰される。
平和であった日常から、荒廃した非日常へと。
当時のIGA参課は、これを、過去から行われた、過去から見た未来である現在の改変であると結論づけた。
そして事件解決のため、タイムマシン関連のあらゆる情報を集め……IGAは、かつて危険すぎるとして封印された、梅発案のタイムマシン技術が正体不明の集団に悪用されていた事実を突き止めた。
そして、そのタイムマシンは……使える者の条件が非常に厳しいモノだった。
だがIGAはなんとか、長い長い時間をかけ、使用者に相応しい人材を局員の中から見つけ出した。
それが、椎名だった。
先の大災厄の末に親を亡くし、以来、当時の普津沢家が後見人となる事で今まで生きてきた秘蔵っ子。
そして普津沢家が保護するからには、その家と関係が深く、さらには確実に長く生きるメンツと会う事もある。椎名にとってそれはtamaやmawoであった。
tamaの場合はもう孫がいるほどの老女となり、顔も変わっていたが、その美貌と監禁癖その他諸々は健在であり、mawoに至っては……あまり見た目に変化はなかった。当然か。
椎名はそんな普津沢家にて、mawoに対して特にベッタリだった。
小さい頃から彼女は椎名の姉代わりだったから。そしてmawoとしても初めての義理の弟キャラの登場で新鮮さを感じ、お姉ちゃんぶって……どこぞのごちそううさぎ(ぇ)のヒロインの一人の如く少々調子に乗っていた。
だが椎名がmawoにベッタリだったのは姉代わりだったから、だけではない。
かつて彼は、見たからだ。
世界が塗り替わる、その瞬間に。
黒き魔王と呼ぶべき存在に。
自分を庇って……mawoが惨殺された場面を。
※
「ッッッッ!!!!」
魔法で椎名の記憶映像を見終えた瞬間。
tamaは、そのあまりにもショッキングな椎名の生い立ちに。そしてそれ以上に、親友のあまりにも惨い最期に……衝撃を受け、悲しみで顔を歪ませた。
言うまでもないが、彼女はヤンデレである。
しかしだからと言ってそれは=悪性というワケではない。
確かに愛する手段は悪いかもしれないが、より深く人を愛すること自体は断じて悪ではない。さらに言えば彼女にも、母親同様、大切なモノのためであるならば、世界を守ったり逆に破壊したりするくらいのぶっ飛んだ思考回路があるだろうが、基本的に大切なモノとこの世界で平和に、少々スパイスが効きすぎてる感じもある日常を送りたいと心の奥底から願っている。
だからこそ。
己の関係者が惨殺されるシーンは悲しかった。
できる事ならば今すぐ時を超え、その黒い魔王を殺してしまいたいとさえ思う。だが無理だ。椎名の記憶映像で見た限りでは……相手は、未来で自分を待っている母親から聞かされた、ありとあらゆる強敵さえも、超越した存在のように感じた。無論、現在の全盛期の母親でも勝てないかもしれない。それだけ相手は強すぎた。でもこのまま手をこまねいていて本当にいいのだろうか。
まだ少女であるtamaには、何が正解なのか分からない。
でもせめて。
今の親友の存在だけは感じたくて。
彼女は咄嗟に。
自分の隣に座るmawoを強く抱き締めていた。
「???? た、tamaちゃん?」
いきなりのハグに困惑し……思わず、日曜夜六時台のおかっぱ少女のような声色を出しつつ親友を凝視するmawo。ハグされて悪い気はしないが、いったい何がどうなってるのか不明なため反応に困る。
だがその親友が、己の肩に顎を乗せつつ、嗚咽を吐き始めたので……とりあえずmawoは抱き締め返す事にした。
mawo「アタチがオバサン呼ばわりされる気持ちがわかった?」
tama「うん。わかったよ。ごめんねmawoちゃん」




