番外話:再会(前)
「ほぅほぅ……フムフムフーム♪」
「どうしたの梅ちゃん? 今のライダーの中間フォームみたいな声出して」
「フッ、普津沢先輩。どうやら私は……田井中の秘密を知ってしまったかもしれないッ」
「えっ? 田井中さんの秘密?」
「ああ。このデータを見てほしい」
中編へ~~続くっ!(ディーノ(ォィ
「みんな~、今日は『ちっこいズ』のライブに来てくれてありがとー! ちっこいズの監禁担当、『未来から来た監禁姫』、tamaだよー!」
「今日はみんなの生命エネルギーを、ごっきゅんごっきゅん吸い取っちゃうお! ちっこいズの魔王担当、『異世界の妹系魔王』、mawoだお!」
「会場にいるお兄さん達のハートを、私が癒してあげるからねー! ちっこいズのリーダー、『絶壁のブチギレ妹』、maiだよー!」
「おかねとけんりょくがだいすき。ちっこいずのあざとたんとう、『あらふぉーぎわくのはらぐろようじょ』、みおだよー」
「「「ウオオオオオオ!!!!(野太い声)」」」
色鮮やかに照らされた、ステージの上。
そこには、これまた色鮮やかな衣装に身を包んだ……四人の女の子がいる。
普津沢がプロデュースしているという……ロコドルとかいう種類のアイドルの内の一つ『ちっこいズ』の四人だ。
「tamaちゃーん! 俺のことも監禁してくれー!!(野太い声)」
「mawoちゃーん! 俺の生命エネルギーを、一滴残らず搾り取ってくれー!!(野太い声)」
「maiちゃーん! そのカッチカチの胸板で、俺をボコボコにブン殴ってくれー!!(野太い声)」
「mioちゃーん! 俺のことも誘惑して、沢山貢がせて破産させてくれー!!(野太い声)」
そんな彼女達へと、これまた色鮮やかなペンライトの光と共に……野太い声援が飛ぶ。野太い声でなければ……祭りの夜に神に献じる舞を踊る巫女と、それを見て歓声を上げる、ちょうちんや松明を持った人達の構図に見えなくもない。
その声が野太くなければ。
裏社会で長い間活動していた俺には縁のない世界だった。
彼女達が可愛い事は理解できる。だがそこまで騒ぐほどだろうか。
……あれか?
俺の友人の中にいる、現在も世界で活躍する女優。
彼女の周囲にはいつもキャーキャー騒ぐ連中がいた。
無論、彼女に嫉妬し……避けていたヤツもいたけどな。
その、前者のような存在だろうか。
何にせよ、俺には理解できない世界だ。
「それでは先ずはこの曲から聴いてください。今度発売する新曲になります。――『すれ違い』」
「「「ウオオオオオオ!!!!(野太い声)」」」
しかし俺は、ここにいなければいけない。
IGA所属の忍者としてではなく、探偵の田井中堅斗として。
上司としてではなく。
アイドルプロデューサーとしての普津沢からの依頼により。
ちっこいズへと脅迫状を送った犯人を……ちっこいズの戦闘力高めな子から守るためにッ。
※
UMA共との戦いが終わり。
そしてついでに言えば宇宙怪盗絡みの事件(ジャガンジャの森参照)も終わってしばらくしてからの事。
昨日、普津沢が俺の事務所に出向き、警備の協力を依頼してきた。
なんでも彼は忍者以外に、アイドルのプロデューサーもしているらしく、そしてそのアイドルグループへと昨日、脅迫状が届いたからだ。
俺は耳を疑った。
普津沢がまさかそんな副業をしていたのかと。
いつも飄々としていて。時に、修羅場を越えてきた結果なのか……敵に対して、俺以上に凄まじい殺気や敵意を放つ普津沢が。
ホント、人は見かけによらないな。
それはともかく。
彼がジッパー付きの透明な袋に入れて持ってきたその脅迫状には『ちっこいズの活動を永遠にやめなければ、次のちっこいズのライブに惨劇をもたらす』……そう書かれていた。
「……で、その犯人を探し出してほしい。そういう依頼か?」
「はい。その犯人の身の安全のためにッ」
「………………普津沢、もう一度いいか?」
「ですから、その犯人の身の安全のためにッ」
「……………………アイドルの、じゃなく?」
「彼女達は大丈夫です。とても戦闘力が高い子もいますのでッ」
「………………………………だいたい理解した」
どうやら脅迫した犯人が、目も当てられない末路を迎える可能性が凄まじく高いらしい。そしておそらくだが……普津沢の言葉遣いからして、アイドルの内の誰かもしくは宇宙最強の奥さん……沙魔美ちゃんに、脅迫状を見られた可能性がある、か。何度か彼女に会った事があるが、あの性格ならおそらく、普津沢の危機感なども問答無用で共有しそうだな。
※
そして今日の早朝、俺は弟子の椎名と、同じく弟子となった、IGAが誇る忍犬の一匹である〝くろすけ〟と共に会場へと向かった。
〝くろすけ〟は、普津沢と同じくIGAでは課長職に就いている忍犬・カゲさんの後継者候補の一匹にして、息子だ。なんでも、今年中に引退するカゲさんに代わる人材……否、犬材を選ぶために、いずれ試験を行うようなのだが、その前に、候補者にそれなりにスキルアップしてもらうため、くろすけの場合は、俺の探偵事務所に研修でやってきたのだ。
くろすけはまだ小さい。
下手をすると向かう途中で、歩きスマホ(絶対するなよ)をしている連中に蹴られてしまうかもしれないため、彼は今回、椎名の背負っている鞄に入って会場まで移動した。
「いやぁ、楽しみっスね師匠!」
道中、椎名は笑顔を俺に向けつつ言った。
「まさかちっこいズと会えるとは思わなかったっスよ!」
「……オイ、遊びに行くワケじゃねぇぞ?」
というかコイツ、ちっこいズのファンなのか。
いずれにせよ浮かれている状態で警備ができるのか……今の内に事務所の留守番でも頼もうか。いやそれだとコイツの監視ができねぇ。なにせコイツは、梅ちゃんの予想が正しければ――。
「分かってるっスよ! ただ同じみr……じゃなくて! え、えぇっとぉ……お、俺、アイドルのコンサートは初めてっスから見るのが楽しみなだけっス! 仕事はちゃんとするっス!」
…………コイツ。
本当に迂闊すぎるんじゃないか?
某魔人探偵並みに迂闊すぎないか素性トークしてしまうのッ。
というか椎名には悪いが……もうほとんどのIGA忍者は(浅井などの新人は、まったく気づいていなさそうだが)椎名の正体が未来人だと知っている。
主に梅ちゃんの、ある日の休憩時間の発言が原因で。
――異星人でも異世界人でもなければ……そうだな。あとは突然変異した人間か未来人辺りかな、椎名青年の正体は。フッ、もし後者ならば……素性をそう簡単に話さないのも納得だ。未来の情報を安易にバラせば、その未来が変動しかねない。元の時間軸に戻れなくなる可能性があるからなッ』
でもって原因は、梅ちゃんの発言だけではない。
椎名自身の……迂闊すぎる発言もまたその原因だ。
おそらく椎名が言いたかったのは、普津沢の娘……現在は赤ん坊である方の彼女ではなく、魔法を使って未来から来た方にして、件のグループの構成員の一人でもあるtamaちゃんに会いたいとかだろう。
椎名が何のためにこの時代に来たかは知らんが、この時代に、未来人は自分一人というのは辛いのかもしれない。俺は、ある暗殺の依頼を完遂するため単独で……自分以外が全て敵となりうる世界に行った事があるから、気持ちは、ある程度だが理解できる。おそらく椎名は、同じ未来人である、彼女に会いたいのだろう。同じ未来人として、気持ちを、ほんの少しでいいから共有してほしいのかもしれない。
ちなみに梅ちゃんは、椎名の素性トークを聞いてしまって以来、椎名が知る未来の情報に興味を持っていたようだが……タイムパラドックスが起こるかもしれないからというのも、もちろんあるが、彼女曰く『未来の情報をカンニングしてIQを下げる趣味が私にあると思うか?』という事で、自白剤などを使って、椎名の口を割らせようとは……もう思っていないらしい。
『カバチタレてる場合やないやろ、シーナ』
するとその時、椎名の後方……ではなく鞄から声がした。
くろすけが首に巻いた、梅ちゃん特製の、首輪型の動物語翻訳機が代弁した……くろすけの言葉だ。なぜ関西風なのかは知らん。
それと言っておくが……くろすけは未来人の概念が分かるほど大人ではないので問題ないだろう。椎名としては。
『そんなんで犯人見つけられるんかいな』
「み、見つけてみせるさ! 養母さんの名にかけて!」
「そこは爺さんじゃねぇか?」
思わずツッコんでしまった。
娘の郷美が探偵モノの作品が好きで、一緒に見た事もあるから……ある程度知識があるせいで、ついつい探偵関連についてはツッコミを入れてしまう。
「というかくろすけ、お前はお前でそういう挑発めいた発言を……犯人に向けては滅多に言うなよ。犯人の注目を自分に集中させたい時はともかくな」
『せ、せやかてクドウ』
「俺は田井中だ」
※
とにもかくにも。
喋っている間に、コンサート会場へと着いていた。
昨日の夜からスタンバイしていたであろう、なぜか天空映画の目玉焼きトーストやアルプスアニメのチーズトーストをその場で作り食べていたファン達を横目に、通行許可証を会場のスタッフへと見せ、バックヤードに入る。バックヤードには、たくさんの警備員がいた。同僚のIGA局員も数名まじっている。正直、俺達は必要なのかとちょっと思ったが、特殊能力を持った犯人である可能性も考えれば……一応は俺達も呼んだ方がいいだろうなと考え直す。
いや、もしかするとだが。
これは椎名へ向けた、普津沢の温情である可能性もあるかもしれん。
普津沢も椎名の正体については知っている。なので俺と同じく、椎名には気持ちを共有する存在が必要だと思ってくれたのかもしれない。
まぁ会わせたところで、そのtamaちゃん……未来から来た方の普津沢の娘が椎名の気持ちを共有してくれるとは限らないワケだけどな(台無し
十分もかからず、ちっこいズの控室の前に着く。
会場の警備の打ち合わせについては……ここで改めて、普津沢と行う事になっている。そして俺がドアをノックしようとした時だった。
《ミライニウム反応検知! ミライニウム反応検知!》
突然、椎名のズボンのポケットから機械音声がした。
椎名は慌てて「あわわわっ! マナーモードにしていたのになんで!?」と言いつつ、ポケットから通信端末と思われる金属製のプレートを出し、ボタンを押して黙らせた。というか椎名、それはもしや……自分以外の未来人に反応をするのか? 音声の内容からして。だとしたら迂闊すぎるぞッ。
「ッ!? と、というかまさか……犯人は未来人じゃッ!?」
オイお前、俺とくろすけの存在をすっかり忘れてんじゃねぇよ。
『コイツ、ほんまアホやな』
くろすけ。同感だが敢えて言ってやるな。
「だぁれ? 外でうるさい着信音鳴らして…………ッ」
するとその時、俺達の存在に、椎名の通信端末の音で気づいたのだろう。入る予定だった控室から、十歳前後の少女が、不快そうな顔のまま出てきた。
なんとなく、沙魔美ちゃんの面影がある少女だ。
そうか、この子が……この時代ではまだ赤ん坊であるハズの彼らの娘。
その子は椎名を見た瞬間、何かに気づいたのか、目を見開いた。
もしかして、未来人同士で、シンパシーのようなモノを感じ取ったのか。
「た、tamaおばあさまっ」
しかしそんな彼女の様子に気づかず、椎名は感極まったのかその場で泣き出した……のだが、
「ねぇ君、問答無用で今から一不可思議年ほど死臭漂う牢屋辺りに監禁されたいのカナぁ?」
その普津沢の娘――tamaちゃんが、おばあさん呼ばわりされてご立腹な顔をしたため、一瞬にして涙は引っ込み、青ざめ「ご、ごめんなさいごめんなさい許してくださいtama様神様仏様!!!!」とスライディング土下座&謝罪をした。というか、その歳で不可思議なんて単位を知っているとは驚きだ。
『やっぱアホやろコイツ』
鞄の中で、くろすけはキメ顔でそう言った。
tama「未来の話!」
mawo「せ~のっ!」
tama・mawo「「ミラバナ~~♪」」
椎名「コッ○カーイ!? いや、やらないっスよ!?」




