第40話:激突
UMA図鑑ごぉるでん(ぇ
『どうだ? 間に合ったか?』
田井中達がいるピラミッド周辺から、およそ五百メートル後方。
そこには相変わらず、なぜか口頭ではなく機械が紡ぐ音声で会話をする、田井中達の上司たる存在……みんなに〝カゲさん〟と呼ばれる者と、その秘書官がいた。
「はい。ギリギリセーフのようですね」
秘書は双眼鏡で田井中達の状況を確認しながら、隣で車椅子に乗っている上司に話しかけた。
「それにしても、さすがはカゲさん。前回の仕事で大ケガを負いながらもこの能力……まだまだ現役でいけるのでは?」
『いや。もう限界だよ』
秘書から褒められ、少々嬉しく思いながらも……敢えて上司は否定する。
『昔は何度も使えたが、今はもう使っただけで疲労困憊だ。そろそろ……IGAの引退を考えないといけないよ』
※
上司からのさりげない援護のおかげで、IGA局員達は大幅に、味方を奪り還す事に成功した。しかしその直前、田井中と如月の体から突然力が抜けた事で、極端というほどではないがそれなりにパワーバランスが崩れ、その穴を埋めるために他の局員がひと苦労する羽目になった。
田井中と如月はそれを見て、悔しい気持ちを覚えた。
だがどうしても、体が言う事を聞かない。精神波動による圧力と少し似ている。だが頭の方は問題ない。ならば何が起きているのか。
「キャス子! アカネさん! 如月先輩達を診察!」
それを見かねた梅は、また新たに一人、味方を奪り還しながら指示を飛ばす。
アカネとキャサリンはすぐに動いた。そして二人で協力し、田井中と如月の体を触診し、続いて専用の機械を用いて診察し……すぐに原因は分かった。
「ああ、これって」
「疲労……デスね」
「ひ、疲労?」
「どういう、事だ?」
まさかの原因を知り、田井中達は怪訝な顔をしながら訊ねた。
するとアカネは苦笑しながら「精神波動に無理やり耐え続けてた、からだね」と結論づけた。
「アノ精神波動、一種の電磁波デス。そして電磁波は……物質に大きく影響を与えマス」
「うん。そしてその電磁波……途中で出力を上げられたりしたんだよね? 遠くでビッグフットの声を拾って確認したけど。たぶんだけど……今まで二人が『サエギレール改』無しで浴び続けたその電磁波は、常人にはもう耐えられるレヴェルじゃなかったんだよ」
「デモ、我慢して浴び続けて……無理に動いて……OVER LOADッ」
「うん。我慢して時間を稼いでくれたのはいいけれど……同時にそのせいで全身に疲労が知らず知らずの内に蓄積していって、ここに来てついにって感じだね」
我慢も考えものだった。
しかしそのおかげで、こうして仲間を奪還できる状況を作れたのだから……プラマイゼロに限りなく近いだろうか。
「デスがそれも、参課製の栄養ドリンク『ゲンキニナールNT』さえ飲めば一発で大丈夫デス!!」
いや、そのプラマイゼロも……IGAにとってはすぐ取り返せる数字だった!!
キャサリンは持っていた鞄の中から二本の小瓶を取り出し、その中身の液体を、少しずつ田井中と如月の口の中に流し込んだ。ファンタジー世界で言うところの、ポーションに近い性質を持ったその液体が、二人の細胞へと少しずつ力を与え……たのだが、
「……ふぅ。少しは、マシになった」
「ああ……なんとか、また戦えそうだ」
二人の顔色は、少々悪かった。
中身がまずかったのではない。
先ほどまで二人を襲っていた疲労感が尋常じゃないほど多すぎたせいで、完全に抜けきらなかったのだ。
「……帰ったら改良しよっか」
「……そうデスね、アカネさん」
その様子を見ながら、局員二人は固く決意した。
同時に、そこまでの疲労感を覚えながらも先ほどまでぶっ通しで戦い続けていた二人の頑固さに対して、少々呆れつつ。
※
田井中達が回復している間に、事態は転換点を迎えていた。
なんとついに……ビッグフットによるマインドコントロールを受けていたIGA局員を全員奪り還したのだ。
しかしその代償として、多くの『ゲンキニナール』シリーズが消費された。
もうここからは、そう簡単に大ケガを負う事は許されない。消毒と包帯を巻く事はできるだろうが……ほぼ一瞬の回復は見込めない。
「さぁ、お前の王様ごっこもここまでだなビッグフット!!」
だが、ようやく戦いに終わりが見えてきた。
ビッグフットがいるピラミッドまでまだまだ遠いが、それでも構わないだろうと思い……そのまま梅は声を張り上げ啖呵を切る!!
「神妙にお縄につけぃ!!」
「ぐっ!! まだだぁ!!」
ビッグフットは自分が追い詰められるとは思っていなかったのだろう。
悔しさと怒りで顔を歪ませつつ、最後の抵抗とばかりに、梅以上に声を張り上げ……最後の切り札をついに切った!!
「来い!! アガルタに住まいし幻獣共よ!!」
そして、その言葉と同時に。
圧が。
周囲の圧が。
――変わった。
そして気がつけば。
周囲に、それらはいた。
まず現れたのは、ビッグフットと同じタイプの獣人共。
世間ではアルマス、アゴグウェ、イエティ、イエレン、イエロー・トップ、オンバス、オラン・ペンデク、カクンダカリ、カラノロ、キコンバ、グラスマン、スカンクエイプ、シベリアの雪男ことチュチュナー、デビルモンキー、ビッグヘッド、ヒバゴン、ブラジリアンビッグフット、マホーニ、ヤマゴン、ヨーウィ、ンボンガなどと呼ばれる存在。さらには堕理雄と戦ったモンキーマンまで。
その総数、千体以上ッ!!
次に現れたのは……彼らとはまた別の意味での獣人共。
イヌ男、オウルマン、オオカミ男、カエル男、コウモリ男ことオラン・バッチ、イヌの頭部と、ビッグフットに似た体を持つシャギー、トカゲ男、ビッグフットのような体型で翼竜のような翼を持っているバッツカッチ、ヒツジ男、ブタ男、モスマン、ヤギ男、ワニ男などなど。
こちらも総数、千体以上ッ!!
次は恐竜・翼竜系のUMAが現れた。
竜脚類のアイダハルに、サイのような一本角を生やすエメラ・ントゥカ、翼竜のオリチアウ、コンガマトー、ローペン、ステゴサウルスの如き見た目のムビエル・ムビエル・ムビエルにムフル、ブロントサウルスの一種と考えられてるモケーレ・ムベンベ、ケニアのリフトバレーで目撃されたディメトロドンやエダフォサウルスに似たリフトバレー・モンスター、トラコドンにそっくりなキーハンマー……日本では〝スクリューのガー助〟と呼ばれたヤツなどなど。
全部で三百匹以上ッ!!
その次は、爬虫類系のUMAが現れる。
巨大トカゲのゴウロウ、ゴロー、ブル、ジャイアント・モニター、ワニ、もしくはサンショウウオのような見た目のシールキー、巨大な黒ヘビことナガ、アガルタの出入口付近で戦った巨大ワニことマハンバ、恐竜に見えなくはないが、脚の生え方からして爬虫類であろう、背板に似たタテガミを持つングマ・モネネ、コンゴの大蛇ンガコウラ・ンゴー、これまたメジャーなツチノコなどなど。
全部でこれまた三百匹以上ッ!!
次は哺乳類系のUMAが現れた。
堕理雄でも手に負えんほど巨大なネコのような見た目のヴァッソコ、エイリアンビッグキャット、ガッシングラム、ヌンダ、人面ライオンと言うべきマンティコラを筆頭に、バクに似た見た目のガゼカ、ウシの仲間であろうクッティング・ヴォアに、カギ爪を持ったヤギことクロウ・ゴート、アリクイとジャッカルの特徴を持つサラワ、ジェヴォーダンで大暴れしたとされるジェヴォーダンの獣に、ハイエナとオオカミの特徴を併せ持つシュンカ・ワラキン、オオカミに似たワヒーラ、ウシに似てはいるがチュパカブラのような特徴を持つホダッグ、背骨に沿って鋭いトゲを生やす、ブタやイノシシに似たレイザーバック・ホッグ、カワウソに似たUMAであるマイポリナに、ケニアのナンディ地方に生息している巨大熊ナンディ・ベア、巨大なカンガルーであるステヌルスや、巨大カンガルーにヤマアラシのようなタテガミとガラガラヘビのように音が出る尻尾を足したヴィルコ・モンスター、巨大なコウモリことアフールに、単眼のコウモリことポポバワなどなど。
こちらは五百匹以上!!
次に現れたのは鳥類系のUMAだ。
ネイティブ・アメリカンのイリニ族に伝わる伝説の怪鳥ピアサバードに、コンゴに生息する巨鳥ンゴイマ、マダガスカル島にいたとされる、ダチョウに似たUMAことエピオルニスなどなど。
こちらは二百羽以上!!
虫系のUMAは、これまた多い。
巨大なミミズやイモムシのようなアファンク、アフリカのザイールやコンゴに生息する巨大なクモことチバ・フーフィー、モンゴルに目撃者はいるものの、学者は誰も見つけられていないモンゴリアン・デス・ワームなど。
千匹以上!!
妖怪みたいなUMAもいる。
五メートル近くも身長がある骸骨のような姿で、燃えるように輝く目、長い舌、黄色く大きい牙を持つウェンディゴ、地上にて生け捕りにするのに苦労した幽霊の如きシャドーピープル、そしてウマに悪魔のような翼と尻尾がついたジャージー・デビルなどだが……こちらは十匹と少ない方だ。
しかし、それでも総合すれば……絶望的に、そしてアホかと思うくらい多い。
だが、それでも。
IGA局員は……一部新人は、あまりの多さに絶望してはいるものの、そのほとんどは余裕の表情だった。
多勢に無勢な逆境など。
今の今まで何度も経験してきた。
それに今度は、仲間がいる。
全国各地から集結したIGAのほぼ全戦力が。
その代わりに、全国の犯罪発生率は若干増えるかもしれない。
しかし地上には、育児休暇を取っている局員や、そもそも、IGAに正式に所属していない戦闘要員が数多くいる。
もしもという時は彼らが頑張ってくれる。
だから、ほとんどの局員は。
全力で、目の前の敵と……心置きなく対決できるのだ。
「もうこうなったら、恥もプライドもあったモンではなぁい!! 総力戦だ!! ここにいる連中を皆殺しにしろ!! かかれェェェェ――――ッッッッ!!!!」
ビッグフットが、精神波動を用いてUMA共に号令を下す。
「フッ! 正直に言えばUMAを生け捕りにしていろいろ研究したいし、そもそも連中は操られているだけッ!!」
自分達に向かってくるUMA共へ、いろんな感情を抱いているかのように見えるタイプの仏像のような悟った顔を向けた梅が、他の局員だけでなく、自分にも言い聞かせるかのように声を張り上げた。
「操っているビッグフットと、テリトリーに侵入した我々がこの場にとってのよそ者だろうが……今回ばかりは仕方あるまい!! ここからは、お互いの種族のための生存競争!! 少しでも躊躇えば我々が滅びる!! これからの日本……いや、世界のためにも…………………………行くぞォォォォォ――――――ッッッッッッッッ!!!!!!!!!!」
『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』
そして、ついに。
相容れない両者は激突する。
人間とUMA。
それぞれの未来をかけた、最終決戦の幕は……ついに開いた。
スーパーなヒーローの大戦っぽさを……書けたらいいなぁ(ぇ
ちなみにカゲさんに精神波動による能力封じが効かなかったのは、彼の声自体にそういう力があるからです(ぇ




