第39話:反撃
ふぅ。
ようやくここまで書けた。
だけど次回はまた大変だ(ぇ
「梅ちゃん、そういえばシェイプシフター……いや、それよりも前、元いた世界でUMAと戦っていて思ったんだが――」
時は、昨夜にまで遡る。
見張り番として起きていた田井中達の会話に、目が冴えてしまって眠れない梅が加わったところで、田井中はこの際だからと、この事件が起きてから抱いていた疑問を口にする。
「――どの個体も、どういうワケだか同じ癖がある。これは推測だが……連中は誰かによって、現在進行形で操られているとかじゃねぇか?」
「同じ癖、だと?」
田井中の意見を聞き、梅は腕を……胸元を強調するように組んで、思考の海へと没入した。
これまで、モニター越しに見たUMA。
アガルタの出入口……おそらく黒幕が、地上とを繋ぐための道として、わざわざ造ったと思われる地下水路を塞いでたマハンバ、そしてアガルタで遭遇したUMAの動きを思い返す。
(確かに、言われてみれば……というか逆に、言われなきゃ気づかないレヴェルで分かりづらいが……攻撃の際の、間の空け方などが似通っている気がするなッ)
「ああ、言われてみれば……そんな気もしますね」
堕理雄も、梅と同じ結論にほぼ同時に至った。
「これだけ似通っていると……確かに誰かに操られている事を疑います……けど、現在進行形で、操られている……ようはマインドコントロールなどの精神干渉系の能力の事を言っているんですよね? でしたら操っている黒幕が、たまたま同じ癖を覚えるようにUMA達を調教しただけっていうセンもありそうですよ」
「俺だって、そう思いたい」
堕理雄の指摘を聞いて、田井中は不快にこそならなかったが、代わりに深刻そうに、顔をさらに強張らせた。
「だが、同じ場所に到達していたハズの、他のIGA局員と未だに連絡が取れない……この状況を踏まえると、どうだ?」
「え、ちょ……待って田井中くん」
田井中の意見を聞いた、彼の同級生にして同僚でもあるアカネは……想像したくない可能性に思い当たり、顔を青くした。
「まさかみんな……すでに、敵のマインドコントロール下に入ったって事なの?」
「「!?!?!?」」
アカネの意見により、思わぬ点と点が舞台裏で結ばれているかもしれない可能性に思い至り、梅と堕理雄は同時に顔を強張らせた。
――もしも本当に、田井中の推測が当たっているならば、もはやこの事件は……すでに詰まれたも同然なのではないか。
もはやどう対処すればいいのか、想像がつかないレヴェルの事態だった。
一時的に撤退しようにも、そもそも出入口がどこにあるのかが不明である以上、それは不可能。
自分達が操られる前に黒幕を倒せばどうにかなるかもしれないが、果たしてそれは現実的な策なのか。
あまりにも絶望的な状況を前に、梅達の思考が空回りを始める。
だがそんな中で田井中は「ところで梅ちゃん」と、まるで世間話でもするような調子で話しかけてきた。
「死んだフリ、ってのはできるかい?」
※
「んなっ!? ば、馬鹿な!? き、貴様……なんで生きている!?」
胸元を刺されて死んだハズの梅が、田井中と如月の背後から、彼らも被っている珍妙なデザインの帽子を被った状態で現れ、ビッグフットは、目が飛び出るのではないかと思うくらい瞠目した。
「貴様らがサマレと呼んでいた連中の、かろうじてまだ意識があったヤツの視界によれば……その女は胸を刺されて死んでいたッッッッ!!!! 死んだと思って、俺が思わずマインドコントロールを解いた……かろうじてまだ生きていた個体が、野生の本能で、最後の力を振り絞ってお前達の殺害を決行したとしか思えない状況だったッッッッ!!!! なのになぜ生きて……ッッッッ!?!?!?」
だが途中で、ビッグフットは気づく。
梅達が死んだと思われる状況が起こる前。
彼女らは煙幕に包まれ見えなくなっていたのではなかったか?
「ま、さか!?」
「フッ! ご明察だッ!!」
ビッグフットが何に思い至ったかを表情から察し、梅はニヤリと笑ってみせた。
と同時に、彼女の背後から……さらに三人の男女が現れる。
同じく死んだと思われていたアカネ、キャサリン、ハルキ……同じく珍妙なデザインの帽子付きでの登場だった。
そして、ついに役者が揃ったところで……梅は田井中と一度視線を交わしてからタネ明かしを始めた。
「フッ。お察しの通り、あのサマレとの戦いの時に私が放ったのは『クズセール』だけではない。もう片方の手に持っていたのは……みんなご存じ、現代の煙玉こと『メチャケムール』ッ。そして、煙によって周囲の視界を完全に遮断した後、私はあらかじめ位置を把握していた部下達に近づき、一緒に死んだフリをするよう指示を出し……ちょっとの量のお湯ですぐに元の大きさに戻る参課特製の新素材『ユデモドール』で作った、自分達の偽物の死体『メチャニテール』を放り水筒の中の湯をかけ、それに刃物で傷をつける事で自分達の死を偽装したってワケだ」
「ちなみに今まで隠れていられたのは、同じく参課で開発した『イロヌケール』という液体のおかげだよ!」
「梅先輩が、かの魔人探偵に出タ液体ヲ参考にして作った忍具デスッ!」
「隠れる事ができたおかげで、お前が今も放っている精神波動を完璧に遮断する新忍具『サエギレール改』を作り、量産するだけの時間がロジカルできたぜ!」
アカネ、キャサリン、ハルキの補足が後に続く。
ちなみにハルキの言う『サエギレール改』とは、元々は騒音を起こす特殊能力を持つ異星人対策として開発された『サエギレール』を、文字通り改造した代物だ。
なぜか珍妙なデザインになったが……それはご愛嬌であるッ!!
「ふ、フザけた真似を……ん? 量産?」
ビッグフットが、怒りに震える。
だが途中で彼は、ハルキの言葉に引っかかりを覚えて……その違和感の正体は、すぐに明らかとなった。
「う、梅ぜん゛ばい゛ィィィィ――――――ッッッッ!!!! お゛、お゛れ゛は……お゛れ゛は――」
「うわ~~ん!! みんな生きてる~~~~ッッッッ!!!!!! 俺今とっても嬉しいっスよォォォォォォ~~~~ッッッッ!!!!!!」
アカネ達に『サエギレール改』を被せられた事で正気を取り戻した、浅井兄の号泣を上回る……同じく『サエギレール改』を被せられた椎名の歓喜の声が、その場に響き渡った。
「おほー! みんな生きてて私も嬉しいですよぉー!」
「ドンドンパフパフ~! 拙者も凄く嬉しいでござる~~!!」
『サエギレール改』を同じく被せられ、正気を取り戻したウニとクロダイも、涙を流しながら仲間の無事を喜んだ。
「ああよかった。作戦成功したんだね?」
そして、田井中が梅に持ちかけた作戦の内容を知っていた堕理雄は、被せられた『サエギレール改』に手を添えながら、今まで仲間に、作戦が作戦なために言えなかった事をようやく明かせ、安堵した。
敵を騙すにはまず味方から、とは言うものの、実際に、敵を騙すためとはいえ、味方を騙し通すのは、堕理雄のような良心的な人にはとても心苦しいのである。
「というか如月。お前は驚いたりしないんだな」
そしてそんな中で田井中は、正気でいるメンバーの中で唯一、梅達が生きていた事に対し、軽く安堵の溜め息をついただけであった如月に話しかけた。
すると彼は、田井中を横目に見ながら「あの梅が、ただで殺されるような女じゃないと……お前もよく知っているだろう?」と口角を上げながら返してきた。
「ああ、そうだな」
田井中も口角を上げながら、同意した。
「ぎ、ぎざま゛ら゛ァァァァ――――――ッッッッ!!!!!!」
まんまと死んだと騙され、さらには支配下に置いたハズの、数人のIGA局員を奪り還され……ビッグフットは激高した。
「こ、こうなれば……駒を全て奪われる前に全滅させてやろうッッッッ!!!! かかれッッッッ!!!! アガルタへの侵入者共よッッッッ!!!!」
そして彼は、怒りに任せて最悪の命令を下し――。
――再び、戦いは幕を開けた。
※
――クナイが飛ぶ。
――手裏剣が飛ぶ。
――斬撃が飛ぶ。
神代にまで遡る伊賀忍者の長い歴史。
その中で紡がれ、そして数々の敵を騙し、殺害してきた数多の秘伝の奥義が戦場で炸裂する。
いや、それだけではない。
IGA局員の中には特殊能力者もいる。
彼らの引き起こす、摂理を超えた超常現象が地下世界を震わせる。
田井中達は、それらをなんとか躱しつつ、参課が開発した『サエギレール改』を味方へと被せていく。被せられた者はすぐに正気を取り戻した。その内の何人かは被せられた『サエギレール改』を、恥ずかしさのあまり取ってしまいそうになったがなんとかそれを阻止しつつ……少しずつ、仲間を奪り還していく。
その最中に、味方の攻撃を浴びる事もあった。
しかし田井中達の反撃は、この程度では止まらない。
実力者が参課局員達の最初の盾となり、それを突破した味方を新人組が足止めしその隙に参課局員が『サエギレール改』を、突破した味方に被せる。一人でもタイミングを間違えば全滅してしまいかねない絶妙なコンビネーション。それを、田井中達は一切の乱れもなく継続する。
味方が少しずつ戻ってくる。
そのおかげで、田井中達の負担が少しずつ減ってくる。
このままいけば、味方を全員、奪り還せる。
正気に戻った誰もが、そう思い始めた……その時だった。
突如、田井中と如月の力が抜けたのは。
突然の事だったため、本人達でさえも。
いったい何が起こったのか分からない。
そして、その隙は。
未だにビッグフットの支配下にある味方にとっては……充分に相手の必殺を可能にできる瞬間だった。
「ッッッッ!? 田井中さん!! 如月先輩!!」
堕理雄の絶叫が、地下世界に響き渡る。
それを聞き、すぐに手の空いた局員が、田井中達を守ろうと動き出す。
だが遅い。
このまま駆けつけても。
――着いた瞬間に、二人は味方に殺されている。
その場にいる全員が、最悪の結末を脳裏に浮かべた。
しかし手が空いた者は、それでも二人を守るため駆けつけようとして――。
「ワオオオオオオオオオォォォォォォォォォォ――――――――――ッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!」
突如、戦場に……謎の咆哮が響き渡った。
と同時に、襲いかかろうとしていた味方の動きが一瞬鈍る。
参課局員は、その隙を見逃さない。
田井中と如月に襲いかかろうとしていた多くの味方を、ビッグフットの精神波動から奪り還す。
「ッッッッ!?!?!?」
その咆哮の効果は、ビッグフットにまで及んでいた。
意識はある。麻痺しているようには思えない。だが体が、一瞬動かなくなる。
まるで見えない圧力――精神波動とはまた異なる力で押さえつけられているかのようだった。
(な、んだ!? いったい何が起こった!?)
混乱するビッグフット。
すると、そんな彼の疑問に答えるかのように。
戦闘中に突如、脱力してしまった田井中と如月は、
「これは……カゲさん、だな」
「ああ。あの咆哮……間違いない」
再び口角を上げながら、心強い味方が駆けつけた事に心の中で感謝し――。
――勝利を、確信した。
次回、多すぎちゃってどうしよう!?
田井中「ところで梅ちゃん。透明になる液体って……あれか? 魔人探偵が口から吐いた?」
梅「フッ、ご明察だ」




