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第34話:喪失

 それでも、生きねば。

 深い深い、その密林の奥地に……その存在はいた。

 その(かたわ)らに、最近見つけたお気に入りのカワイ子ちゃん達を(はべ)らせ。


 田井中達が、今までに乗り越えた戦いを……()()()繰り返し繰り返し思い返し、それを酒の(さかな)にしながら。


 ハタから見れば、それは一種のハーレムだった。


 一度は、一部の男女が夢見て。

 一部の……純愛を貫くタイプの男女ならば嫌悪する。


 そんな状況の中にその存在はいた。


「ビークックックッ……()()()()そろそろ終わるとしよう」


 そしてその存在は。

 繰り返し見る事に飽きたのか。それとも新しい遊びを思いついたのか。酒を脇にどけ、己を取り巻くカワイ子ちゃんをやんわりと振り払い、まるで地の底から響くような声で……宣言する。


「試運転は、最終段階。かつてこの世に存在した我の我による我のための宇宙帝国……その再建国神話の序章もいよいよ大詰めだッッッッ」


     ※


 ――梅が、死んだ。


    ――キャサリンが、死んだ。


       ――アカネが、死んだ。


          ――ハルキが、死んだ。


 その事実は……田井中達の心に、衝撃をもたらした。

 中でも梅にゾッコンであった浅井兄は、(ひと)()を気にせずその場で(むせ)び泣いた。


 なぜなら梅は、彼の欠点を。

 今までまったく女にモテなかった彼の、そのモテなかった原因の一つである欠点――緊張した時の(ほう)()癖を許容してくれた唯一の女性だったからだ。


 彼女が彼に言い放ったそれは、どこまでも科学者らしく。

 (ゆえ)に人によっては、難色を示す意見だったかもしれない。

 しかしそれはどこまでも論理的で、反論を許さない……浅井兄にとってはまさに女神の預言の(ごと)きモノだった。


 だが、己の存在意義を決定づけてくれたも同然の女性は。

 己のDTを(ささ)げるとまで、心の中でだが(ちか)った、女神の(ごと)き人は……もうこの世にいない。


 その、(くつがえ)しようがない事実は。

 浅井兄の心の根幹部分をズタズタにし。


 同時に、そのズタズタとなった心に刻まれた隙間に。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


     ※


「…………アカネちゃん……梅ちゃん……ウソ、だろ……?」


 一方、そんな浅井兄の異変に気づかないままに。

 田井中達は、ただただ衝撃と悲しみを覚えていた。


 田井中にとってアカネは、掛け替えのない友の一人。

 ジャンルは(ちが)えど、天才であるが(ゆえ)に孤独であった……その(むな)しさを共有できる大切な友人だった。


 妻との仲に問題が起きれば、彼女は(しん)()に相談に乗ってくれた。

 逆にアカネに相談され、彼女の夫――母校の後輩がかつて所属していた剣道部に仮入部し、畑違いにも拘わらず全国大会の助っ人になった事もあった。


 そして梅は、田井中にとって、ほぼ同時に入局した同期の仲間だった。

 出会って早々、彼女が入局して初めて開発した銃火器系忍具に、田井中が「右にほんの少し曲がっているな」と、イチャモンとも取れる指摘をしてしまったがために、一時期険悪な雰囲気となったが……アカネが仲裁に入った事で、田井中に悪意や敵意などはない事を。そしてこの世がそもそも完璧ではないから、(いっ)()(じん)が一発目から完璧なモノを生み出すのは(まれ)な事。そして生み出せないからこそ、人はさらに上を目指そうとするという真理を(さと)り……それ以来、梅は田井中にしか扱えないような様々な銃火器系忍具を開発し、田井中がその力を極限まで引き出し今後開発する忍具のためのデータを取る……そんな関係に落ち着いた。


 そして、そんな彼女達の死を前にして……田井中は悲しみのあまり顔を(ゆが)めた。


     ※


「きゃ、キャサリン先輩!! ハルキ先輩!! そんな!! ウソだ!! ウソだああああああぁぁぁぁぁぁ――――――ッッッッッッ!!!!!!!」


 椎名は。

 今は亡き先輩達の死を(いた)み涙した。


 未来人であるが(ゆえ)に。

 未来の情報をうっかり話して、未来が予測不可能な動きをしてしまわないよう気を張りすぎて、失敗しまくり、その(たび)に田井中に叱り飛ばされ、落ち込んでいた己を(はげ)ましてくれた先輩達。


 彼らがいたからこそ、今の自分がある。

 だからいつかはその恩を、未来に帰る前までには返そうと思っていた。


 だが、その先輩達はもういない。

 その事実は、椎名の心に……行き場のない悲しみをもたらした。


     ※


「う、梅さーん!! アカネさーん!! キャスさーん!! ハルキさーん!!」

「そ、そんなッッッッ!!!! う、ウソだと……ウソだと言ってほしいでござるよぉぉぉぉーーーーッッッッ!!!!」

「…………そん、な……みんな!! みんな!!!!」


 ウニ。クロダイ。そして堕理雄は。

 突然の仲間の死を前にして……その両目に涙を浮かべ絶叫した。


 いったい何が起こったのか。

 敵の気配は一切なかったハズだ。

 まさかサマレが死に(ぎわ)に反撃したのか。


 しかし原因が分かったところで。

 もう二度と、彼女達が立ち上がる事はなかった。


     ※


「…………梅……キャサリン……アカネ……ハルキ……ウソだろ……?」


 そして如月も。

 突然の仲間の死には、さすがに動揺した。


 いきなりの出来事であったのも、もちろんあるだろう。

 彼は悲しみを覚えたが……それ以上に混乱もしていた。


 次元孔崩壊忍具『クズセール』を使用した事によって発生した煙幕。

 その中に敵意や殺意を放つような存在はいなかったハズ。にも拘わらず、一瞬の間に仲間が亡くなったのだから無理もない。


「いったい、何があったっていうんだ……?」


 そう遠くない場所に落ちていた眼鏡。

 そしてその持ち主である梅を、視線だけで交互に眺め……彼は悲しみと、混乱のあまり、田井中と同じく顔を(ゆが)ませた。


     ※


 そして、生き残ったみんなは。

 仲間の死を(いた)み、中には涙を流した者もいる局員達は。


 いつまでも死を(いた)んでいても、仲間は生き返らない事。

 そして、このままでは遺体の腐敗が進む、もしくは腐敗する前に、未知のUMAが現れて遺体を食われてしまう、残酷な自然の摂理の存在に(あと)になって気づき……一時的に梅達の遺体を、守るために……事件を解決した(あと)に、必ず迎えに来る事を(ちか)ってから、その場に埋葬する決断を(くだ)した。


 浅井兄はそれに、梅の死を(いた)むばかりに最初は反対した。

 だが動物に食われるよりはマシである事、そして埋葬したくないと思うのは浅井兄だけじゃない事実を如月に告げられ、心が張り裂けそうになるのを感じつつも、最終的には埋葬する決断をしてくれた。

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[一言] う、うおおおおおおおおん!!!!!(号泣)
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