第33話:別離
ちなみに今回登場する新忍具。
メビウスな光の巨人に登場した超兵器の一つたる、対異次元超人用のヤツを参考にして考えました(ぇ
「「「「「「「「「ッッッッ!?!?!?!?」」」」」」」」」
そのあまりにも、常人からすれば衝撃的な光景を前にして、こういう異常事態を見慣れているハズのほとんどのIGA局員が、一瞬、言葉を失った。
だが同時に、彼らは全てを理解していた。
この、空間に〝孔〟を開けて出現した〝手〟こそが犯人なのだと。
そして、堕理雄とクロダイの背後に現れたのは……おそらくクロダイの所持するルアーが、堕理雄を傷つけたという状況を作るためだろうと。
そして、そんな犯人を。
指示を出した田井中と如月が。
最初の梅への襲撃から、相手が出現するタイミングを割り出し……堕理雄とクロダイを伏せさせた二人が。
同じような裂傷を与えられる武器が、ウニの武器以外だとクロダイのルアーだけである事実に気づき……こうして罠を張っていた二人が。
わざわざ誘き寄せた相手を逃がそうとするワケがなかった。
銃声が響き渡る。
と同時に、如月による本家の技が炸裂した。
「訃舷一刀流奥義……【雁渡】ッ!!」
銃声が響くのと同時に、一瞬、如月の姿がかき消える。
かと思えば、クロダイの背後にある〝手〟の背後へと、己の影を置き去りにせんばかりの恐ろしい速度で、一瞬で移動していた。
そして、移動したのと同時。
その刃は、納刀されていた。
田井中と如月。
二人の攻撃は、この刹那の間に完了した――。
――ハズだった。
直後。フィンガースナップの音は消え失せ。
代わりに、カラン、という……乾いた音がその場に響いた。
明らかに、この空間内に出ていた刺客の〝手〟が落ちる音ではない。
そして〝手〟があった空間には……もう〝孔〟は存在しなかった。
「チッ!」
「クソッ! 寸前で引っ込まれたか!」
田井中と如月が、敵がこの空間内に残した部位を見ながら毒を吐く。まさか彼らの攻撃を躱せる存在がいるとはと、その場にいる局員全員が驚愕した。
そして、田井中達がいる空間内に残されたそれは、まるで水分が抜けた竹の表面の一部を引っぺがしたモノのように見える、長い、謎の物体だった。だが〝手〟が出てきた以上、その正体もすぐに判明する。
「こ、この成分……爪、デス! 手の爪に近いデス!」
「し、しかも表面に付着している赤黒いモノ……梅課長のDNAッ!! 梅課長を攻撃した凶器で間違いありません!!」
「これでウニ先輩の濡れ衣がロジカル拭えましたね!!」
参課局員が、敵の残したモノの成分を科学的に分析する。
未知の存在であったハズの敵の凶器の正体を、その科学力が暴き出す。
「や、やっぱり……今度の刺客は〝サマレ〟だ!」
そして敵の攻撃手段が暴かれるや否や、ようやく堕理雄はその正体を確信した。
「ッ!? サマレ!? 普津沢先輩、それはいったい……?」
しかしその名を、意外な事に梅は知らないようだった。
もしかして梅でさえ知らないようなマイナーなUMAなのか。
「昔、お義母さんから聞いた事がありますッ」
立ち上がり、周囲を警戒しながら堕理雄は説明する。
「お義父さんとの新婚旅行で、世界一周をして……そしてアフリカに寄った時に、現地の人がサマレと呼ぶ謎の存在に襲われたと。そしてお義母さんはサマレをなんとか追い払おうとしたけど……どこともしれない領域から爪で抉る攻撃をしてくる事は分かったけれども……気配がまったくしないから、最後はキレて〝壊錠〟までして……半径一キロメートルもの広範囲を、焦土に変えたらしいです。それでも、逃げられたらしいですが」
「な、なんて凄まじい話でござるー!?」
同じく立ち上がったクロダイは……あまりにもぶっ飛んだ、上司の話を聞き目を丸くした。
「ちなみに、さらにその後……お義母さんは現地の異能力者……つまり、呪術師と長い間戦ってきた、国連傘下の環境保護団体による説教を一時間以上も受けて……砂漠化が進まないように、吹っ飛ばした場所を魔法で綺麗に元に戻したそうです」
「おほぉー!? あれぇー!? 宇宙最強の魔女ですよねー!?」
そしてその後に語られた顛末には、精神的に追い詰められていたハズのウニも、さすがにツッコミを入れてしまった。
果たして最強とはッ!?
そして、最強を超えた究極とはッ!?(ぇ
「フッ、とにかく相手が次元を越える能力を持つのなら」
ようやく相手の正体が暴かれ、余裕が出てきたのだろう。
梅はいつもの不敵な笑みを見せながら、その豊満なる胸の谷間から、灰色と薄橙色の二種類の……見る者が見れば煙玉のように見える球体を取り出した。
「梅先輩、何ですかそれ?」
急変し続ける事態に、ようやく追いついた浅井兄が訊ねる。
すると梅は、まだ背中が痛むにも拘わらず、胸を張り「フッ、これは最近開発を進め、ようやくこうして試作品としては完成した新忍具、その名も『クズセール』だッ」と説明した。
「く、クズセールっスか!?」
ようやく椎名も状況に追いついた。
「簡単に、さらに説明するとだな」
いよいよ血の残量が危険水域に近づいてきたのか、少々顔が青ざめながらも……彼女は説明こそが、科学者の責務だと言わんばかりに説明する。
「先ほど我々が見た、サマレが開けたような空間の〝孔〟は……魔力の素、我々は魔素と、呼んでいるが……それや、異次元の、未知の物質……我々は、異次元物質と呼んでいるが……それらが、空間に〝孔〟を開け、そのままの状態を維持して、開いているものと、考えているッ」
梅は、途切れ途切れになりながら……科学者の意地として、説明を続けた。
「この、クズセールは……そんな、魔素や……異次元物質の、構造を崩して……半永久的に、その場における次元移動を封じる、驚異の発明品……肘川に、襲来した異星人のワープ技術……それも、空間歪曲系のヤツを、応用して作ったモノだッ。そして、理論上は……さらに強化できれば、あのmawoちゃんの、あの〝能力〟さえも完全に封じる事が、可能だッ」
「にゃ、ニャッポリート!?」
この説明には、さすがの堕理雄もニャッポリートを叫んだ。
あの能力の脅威を、彼は二度(最初のは気絶したためノーカン)目撃している。
いや、その能力の三人目の犠牲者の場合はホニャララな感じになったので犠牲になったとしてカウントしていいのか微妙ではあるが……堕理雄個人としては、あの能力は肘川市に住まう強者の能力の中でもトップ5に余裕で入るほどのチート能力だと思っている。なので、それを封じる手段が出てくるのは……驚きでしかない。
いや、それどころか。
魔力の素……魔素を崩せるのであれば、それはかつて堕理雄の家内の沙魔美の魔法を封じた首輪や、やぎ座な異星人が発動した魔法を封じる空間に次ぐ、さらなる魔術師キラーなアイテムの誕生、という事にならないか?
下手をすれば、あのOでZなショタジジイさえも無力化しかねないほどの。
「いや、ちょっと待て梅」
そんな説明が終わるや否や……如月は慌てて梅へと問うた。
「その、クズセールを使う気か? 特性を聞く限りじゃ……この世界と俺達のいた世界の間を行き来できなくなる事に……二度と地上に帰れない事にならないか?」
「「…………ああああっっっっ!!!!」」
その事実を聞くなり、さすがに浅井兄と椎名は慌て出す。
「ちょ、梅ちゃん先輩!! 帰れなくなるのは勘弁してほしいっス!!」
「梅先輩!! お、俺、こんな密林のジャングルで一生を終えたくありません!! 一生を終えるなら肘川d――」
「いい加減腹を括れ、二人共。みっともないぞッ」
しかしそんな二人の懇願は、田井中の声によって遮られた。
「日本の生態系が乱れる事と比べれば、俺達の犠牲くらいどうって事はない」
さらには如月も、弟子の不甲斐なさに頭を痛めながら断言した。
「し、師匠!? 梅先輩を止めてくださるんじゃないんですかぁーん!!!?」
その発言には、さすがに浅井兄は涙目で噛みついた。
確かに彼の言う通り、先ほどの如月の発言は梅を止めようとしたモノのようにも思えるが……如月は「ちゃんと聞いていなかったのか」と呆れながら言った。
「俺は梅に、二度と戻れなくなる事への覚悟があるかどうかを問うただけだ。俺の方は、IGAに入局した時には……すでにこういう結末も覚悟しているッ」
「う、ぐぅっ!?」
「き、如月先輩達が……とても眩しいっス!」
まだまだ精神的に弱い弟子組には、刺激が強い覚悟だった。
「おほー。さすがに貴重な人材の損失になるとは思いますがー」
「ドンドンパフパフ~♪ 地上に残った局長達ならなんとかするでござるよ~」
「戻れないのは、悲しいデスが……残る価値はありマス!」
「あのシャンバラがあるロジカル凄い世界だから、研究し放題ですね!」
「一応、旦那と娘宛に遺書を残しておいて正解だったわ」
さらには、ウニ、クロダイ、キャサリン、ハルキ、アカネのポジティブ発言まで聞いて……もう椎名と浅井兄は反論できなかった。
むしろ、自分はまだまだだと……再認識した。
「フッ、というワケ、で……サマレ諸君ッ!!」
みんなの意見を聞いて、気合を入れ直した梅が……密林全域へと届け、と言わんばかりに、全力で声を張り上げた。
「今の内に、次元の狭間から出てこないと……半永久的に、そこに閉じ込められる羽目になるぞッ!! 助かりたければ十数える内に出てこい!!」
※
サマレ達は。
フィンガースナップの音を響かせる役と襲撃する役のコンビは、梅達参課の開発した忍具の特性と、他の局員達の覚悟、そして脅迫を聞いて驚愕した。
このままでは半永久的に、今いるこの次元の狭間に閉じ込められる。
だが出てしまえば、今までのUMAと同じく倒される運命ではないか。
それも、自分達の爪を瞬時に叩き折ってみせたあの二人がいる集団に。
どちらを取っても地獄。
まさに究極の選択である。
しかしだからと言って、逃走という道はありえない。
なぜなら彼らは――。
「……拾……玖……捌漆陸伍肆参弐ぃいt――」
だが閉じ込められるか倒されるかを選んでいる場合ではなかった。
なんと梅がそのカウントを……IGA肘川支部での音声のように早めたからだ。
サマレ達は、慌てて外に出た。
するとその直後。
彼らの出現した場所が……黒い煙幕に覆われた。
※
「フッ、かかったなこのマヌケがぁ!!」
サマレ――異常に毛深いテナガザルのような容姿をしたUMAが出現すると同時に、梅はどこぞの奇妙な冒険で出たような気がする台詞を、最後の気力を振り絞りつつ叫んだ。
「我々、まで……この世界から出られなくなるような危険な、忍具を……使うハズが、ないだろうッ!! まだ、地上の不思議を研究しきっていないんだぞッ!!? 半径一キロメートル以内の空間での……次元移動の、妨害程度が関の山だッ!!」
そして叫ぶと同時に彼女は、ついにクズセールを大地に叩きつけ……周囲が黒い煙幕に覆われた。
「ええええええッッッッ!?!?!?」
「嘘だったんですか梅先輩ィィィィーーーーーーーーッッッッ!?!?!?!?」
もしや、味方まで騙す事で話の信憑性を増そうとしたのか。
その可能性にすぐに思い至り……椎名と浅井兄は思わず叫んだ。
すると同時に、田井中と如月は動いた。
今いるメンバーの中で、最も気配察知能力が優れた二人が。
煙幕をものともせず、田井中は銃口を……出てきたサマレの一体へと向ける。
如月も、一切の迷いなく煙幕の中を走り抜け……その間合いにもう一体のサマレを捉えた。
田井中と如月の迅速なる行動。
それを見たサマレは、反射的に次元の狭間に戻ろうとするが……戻れない。
クズセールの効果が、発揮されたのだ。
なぜに煙幕なのかは分からない。
もしかすると煙幕を構成する物質が異次元物質を崩壊させているのかもしれないが……深く、考える暇はサマレ達にはなかった。
その前に。
――田井中により眉間を撃ち抜かれ。
――如月の居合による袈裟斬りを受けたのだから。
そして、二体のサマレは声を上げる事なく倒れ伏し。
これで今回の刺客は全て討伐……そう、誰もが確信した時だった。
「ぐあっ!!」
「きゃあ!!」
「Yikes!!」
「うあああああああ!!!!」
予想だにしない悲鳴が。
梅、アカネ、キャサリン、ハルキの……参課局員全員の悲鳴が、煙幕の張られた密林にこだまする。
「ッ!? おい、どうした! 梅ちゃん! アカネちゃん! キャサリンちゃん! ハルキ!」
嫌な予感を覚え、田井中はすぐに梅達のもとへと走った。如月も、すぐに梅達のもとへ駆ける。
「そ、そんな……みんなッ!!」
「こ、こんなのって……こんなのってないっス!!」
「おほー!! み、みなさーーん!!」
「い、いったい……いったい何が起こったでござるかー!?」
「う、め……先輩……う、ぁ……あ゛あ゛あ゛あ゛あああああああぁぁぁぁあああああああああああぁぁぁぁああああああああああああッッッッ!!!!!!!!」
堕理雄が。椎名が。ウニが。クロダイが。悲しみと困惑を同時に覚える。
浅井兄が、あまりにも■■■■■……愛しき先輩の姿を前にして、頭を抱え慟哭する。
まさかと思い、田井中と如月も現場に急いだ。
煙幕をかき分け、二人はすぐに声のする場所へと辿り着き……絶句した。
そこには。
煙幕が晴れ始め、ようやく見渡せるようになったそこには。
胸元に風穴が空き、大量の血を流し。
地面に仰向けで倒れている梅達の遺体が……あった。
死亡確認ッッッッ(ぇ




