第28話:友人
一応彼女はあの話に登場した天才の一人という設定であります(ぇ
それから田井中達は、地底世界アガルタ……もしくはそのモデルとなった世界の探索を続けた。
しかしシェイプシフターを倒された事で、敵が警戒を強めたのか。
シェイプシフターを倒してからしばらく経っても、新たな刺客は現れなかった。
そしてそうこうしている内に……地底世界かもしれない場所であるにも拘わらず夜になった。
頭上に見える太陽は映像なのか。
梅は凄く気になったが「みんな、連戦でそろそろ疲れただろうし、ちょうどいいから一度ここで休憩にしようか」と堕理雄に提案され、その案に自分の部下と弟子組、さらには田井中達、主力メンバーまでも賛成したため、彼女は大人しく休む事にした。
「フッ、だが普通に休むのも味気ない。見張り以外の者には、我々参課が最近開発した安眠枕『スグネレール』のモニターになってもらおうかッ」
「いや、味気なくていいんじゃねぇか?」
田井中は、相変わらずの梅のぶっ飛んだ思考に呆れたが、非戦闘員達の体力の事を考えると、安眠枕の存在は願ったり叶ったりかもしれないとも同時に思った。
「俺は遠慮する」
そんな中で、如月はキッパリと梅に告げた。
「それは確かによく眠れるし、目覚めた時に頭がスッキリしてはいるが……緊急時にすぐ起きられないからな」
「なんだ。如月は使った事があるのか」
「ああ。前にモニターになってくれと言われてな。だがおかげでIGAから連絡があったというのに、すぐに起きられなかった」
訊いた田井中は、如月の返答を聞くなり、自分も使用はやめようと心に決めた。
※
結局、安眠枕『スグネレール』を使用して森の中で休憩をする事になったのは梅と、彼女の部下であるキャサリン、ハルキ、そして如月の弟子たる浅井兄の四人。使用せずに休憩する事にしたのは如月、クロダイ、ウニ、椎名の四人だ。田井中と堕理雄、そして梅の部下たるアカネは最初の見張り番である。
「そういえば、田井中さんとアカネさんって同級生でしたっけ?」
周囲への警戒を維持したまま、堕理雄は田井中達に訊いた。
警戒する事だけに集中するのも、もちろん、身の安全のためにも大事であるが、気を張り詰めすぎた事で、いざという時に気疲れし、反応が遅れてしまう可能性を考え、適度に脱力するために振った話題である。
「ああ。そうだ」
「そういえば……こうしてゆっくり話す機会がなかったよね、田井中くん」
「会う時はいつも事件の時だったからな。仕方ねぇよ」
堕理雄の質問に、二人は適度な緊張感のまま答えた。
その声色を聞いて、堕理雄は、この程度の緊張感なら敵に遅れはとらないだろうと安心し、さらに話を続けた。
「そういえば言ってなかったんですけど……田井中さんの事は、初めて会ったあの時より前から知っていました」
「私の推薦だよ」
すると間髪入れずに、アカネが補足した。
「田井中くんは、銃器の扱いと近接格闘に関しては天才だったからね。もしIGAに入ったら、如月くん並みに大きな戦力になるかもしれなかったから……同級生の誼で推薦させていただきましたッ」
「……お前の推薦だったのか」
まさかのスカウトの裏事情が発覚したが、しかし田井中は驚かなかった。
いろいろと、腑に落ちたのである。
かつて田井中は、探偵であると同時に殺し屋でもあった。
それも犯罪者専門の、世界規模で暗躍していた殺し屋だ。
当然の事だが、己の痕跡を一切残さないよう細心の注意を払っていたハズだ。
にも拘わらず、あの日。
初めて堕理雄と如月に出会った日。
なぜか彼らは田井中の存在を知っていた。
如月に至っては、田井中と互角以上の実力を持っていた。
標的がバッティングしたにしては、過剰な戦力だと言ってもいいくらいに。
さらに彼らとの戦闘後に、己の同級生と再会したのならば……嫌でも、同級生による推薦という可能性に至ってしまうのだ。
「ある日、友達から……田井中くんの悪い噂を聞いちゃって」
アカネは、さらに話を続けた。
「田井中くんが、殺し屋をしてるって。私は最初、信じなかったよ。確かに田井中くんは銃火器に関しては天才だし、銃を扱う仕事に就くかもしれないと、思ってはいたけど」
しかしそれは、もはや雑談の範疇を超えた告白だった。
言葉を紡ぐ度に……アカネの声が震える。それを耳にした堕理雄は、すぐに話の方向転換をすべきだと判断したが、その前に彼女は話し始める。
「でもあの時、世界中で起こってた、裏社会の犯罪者の殺人事件の一部の現場からして……田井中くん以外に犯行は不可能じゃないかと思えて。それで、噂を聞いた友達と、先代の参課課長にも頼んで、事件を独自にプロファイリングして……それで、田井中くんが殺し屋をしてた事が判明して……世界にはいろんな物事の考え方があって、一筋縄じゃいかない事もあるのは分かってる。だから私が、一方的に、生意気な事を言うのもなんだけど……田井中くんがしてきた事は褒められた事じゃないと思ったし。それにあのまま、誰の後ろ盾もない状態で……裏社会で、たった独りで生き続けて……人知れず死んだりしたら、私や他の友達も悲しいし、それに田井中くんの家族だって……だから、伊田目局長と堕理雄課長に相談して、それで……次に、田井中くんが狙うと思われる犯罪者を特定して、堕理雄課長と、田井中くんを止められると思う如月くんに、あの時に出向いてもらいました」
「…………スマン、アカネちゃん」
スカウトの裏側にあった友人の想いを知ると、さすがの田井中もバツが悪そうな顔をした。
世界には、罪を犯したのに、法で裁く事ができない存在がいて。
そしてそんな彼らの被害に遭った者達の涙を拭えるのは、自分しかいないのではないか……いつからかそう思い、田井中は、探偵業と並行して殺し屋業も始めた。
家族や友人にその事を教えなかったのは。
彼らを巻き込みたくなかったから。そして彼らに、悲しんでほしくなかったからだ。しかし今はどうだ。その友人を悲しませているのは過去の己の所業のせいだ。
そう思うと、さすがに反省するしかなかった。
「それと、俺や家族の事を想ってくれて……ありがとよ」
しかし、謝るだけではいけない。
ここまで真剣に自分やその家族の事を想ってくれた事への感謝も伝えなければ、友人に対して失礼だ。
反省と同時に、そう感じて。
田井中は素直に……照れ臭そうにアカネに礼を言った。
「謝ってくれればいいんだよ。あと他の、田井中くんを心配していたみんなにも、ちゃんと謝ってね」
「……先が、長ぇなぁ」
「文句言わないのッ」
「…………ホッ、良かった」
最初に話を振った身として、緊迫した空気にしてしまった事に責任を感じていた堕理雄だったが、まるで己の学生時代……とはまた違う感じではあるものの、それなりに学生同士のような軽い感じの会話になったため、安堵した。
「ほぅ。という事は……アカネさんが私と田井中を引き合わせてくれたのか」
しかしその直後。
突然後ろから梅が話しかけてきたせいで、再び堕理雄の身は驚愕で硬直した。
直後にアカネが「キャッ!?」と悲鳴を上げる。いきなり上司が現れる、というシチュエーションは、上司部下間でもなかなか慣れるモノではないのである。
「フッ、アカネさん。私はあなたに感謝している。田井中という、私達参課の開発した銃火器系の忍具の素晴らしいモル……もといモニターを推薦してくれた事に。そして、出会った当初、私と田井中がつまらんすれ違いで喧嘩しかけた時に、仲裁に入ってくれた事にもなッ」
「あ、い、いえいえこちらこそどういたしまして」
「オイ梅ちゃん。今モルモットって言おうとしなかったか?」
「フッ、気のせいだ」
「いや言おうとしてただろ」
「いやいや田井中さん!?」
すると、ようやく硬直が解けたのだろう。
困惑した顔で、堕理雄は梅を問い詰める田井中に訊ねた。
「なんで寝ていたハズの梅ちゃんが起きていた事に驚いてないんですか!? え、まさか気づいていたんですかいた事に!?」
「?? 気配で気づかなかったのか、普津沢?」
「ここまで高い気配察知能力を持っているのは、IGA局員の中ではあなたと如月先輩と伊田目局長とカゲさんくらいですよッ」
「如月くんに田井中くんをお願いして、正解だったみたいね」
「フッ、IGA局員としては頼もしい限りじゃないか普津沢先輩」
驚く堕理雄と、平静な田井中のやり取りを見て、苦笑するアカネと、面白そうに二人を眺める梅であった。
「あ、そうだ」
とその時だった。
田井中は、梅に話そうかと思っていた事があったのを思い出し、ついでにこの機に話そうと……表情を引き締め、話を切り出した。
「梅ちゃん、そういえばシェイプシフター……いや、それよりも前、元いた世界でUMAと戦っていて思ったんだが――」
田井中「そういえば、なんで起きてるんだ梅ちゃん?」
梅「フッ、ここがアガルタ……我々の想像を超えた科学力を持つとされる首都シャンバラがある世界だと思うと興奮してなかなか眠れなくてなッ!」
アカネ「なるほど。スグネレールは興奮状態の人には効果が薄い、と」(メモメモ
堕理雄「梅ちゃんらしいや」




