第25話:異界
説明回になってしまった。
ちなみにバード少将関連の情報は一部変えています。
この世界にはこの世界の独自の歴史がありそうですしね。
『ッ!? 何だ、この嫌な感じは』
田井中達がマハンバを倒してから数分経った頃の事。
秘書の手を借り、ようやく地下水路の出入口の一つへと辿り着いた男――田井中達には、カゲさんと呼ばれている者は眉をひそめ、電子音声の声を発した。
全体集会の時にも、スピーカー越しに聞こえた声だ。
『もしも、先ほどアメリカから届いた伊田目局長からの報告が事実だとしたら……マズい事態になったかもしれん。早く助けに行かなければ、IGAが全滅しかねんぞッ』
※
現在。
「「「「「「「「「「「ッッッッ!?!?!?」」」」」」」」」」」
薄暗い地下水路に最初いたハズが、明るい光が燦々と降り注ぐ、謎の密林へ突然転移したという異常事態が発生し、田井中達は驚愕した。
転移前に何かに気づいていた梅でさえ、本当にこのような事態になるとは思っていなかったのか、顔が引きつっている。
「フッ、まさか本当に転移してしまうとはな」
密林の真っ只中に突然転移し、驚愕しながらも……とりあえず背中合わせとなり死角をなくそうと、すぐに動き出す田井中達に倣い、動きながら梅は言う。
「知っての通り、アメリカにある魔の三角地帯ことバミューダトライアングルは、飛行機や船舶が行方不明になる、謎の場所として有名ではあるが……その原因だと考えられるモノの一つに、その海域で発生した電子雲がある。電子雲とは、原子に束縛された電子が、まるで量子の如く、ぼんやり存在している様を例えたモノで、当たり前だが実際の雲のように目に見えるワケがないが、そんなミクロな世界にて電子雲は、時に時空へと干渉しワームホールを発生させる事が分かっている。俗に言う神隠し……今時の言葉で言えば異世界転移の原因でもあるのではないかと個人的に思うがそれはそれとして」
全員がとりあえず背中合わせになったのを確認しながら、梅はさらに続けた。
「先ほどの薄いピンク色の霧……フッ、私には、第一次世界大戦と第二次世界大戦の間の期間、すなわち戦間期にてアメリカのバード海軍少将が指揮した『ハイジャンプ作戦』での出来事しか連想できんな」
「ハイジャンプ作戦? 梅ちゃん、それっていったい?」
「フッ。南極点と北極点の上空を飛行機で、余裕で飛行する事で、バード少将が所属していたアメリカ軍の力を世界に見せつけるための作戦ですよ、普津沢先輩」
堕理雄の質問に、梅は周囲の気配を探りながら答えた。
「当時はナチスドイツを始めとする国家が世界の覇権を奪おうと力を溜めていた時代でしたからね。今でこそアメリカは世界の警察などと言ってはいますが、当時はまだまだ戦乱期。どう事態が転ぶか分からない時代でしたから、そういう作戦が、当時は当たり前のように敢行されたワケです。そして肝心の『ハイジャンプ作戦』についてですが、北極点上空を通過しようとしたまさにその時、バード少将とその部下が乗っていた飛行機が光る霧に包まれ……どうも北極上空でロストしたらしいんですよ」
「ロスト? 梅、いったいどういう事だ? まさか、俺達みたいに変な場所に飛ばされたのか?」
「フッ、まさにその通りですよ如月先輩ッ」
周囲に敵性存在の気配がないと分かり、肩から力を抜いた如月に梅は言う。
「ああ。ようやく思い出した」
するとその時、田井中が梅の話に割り込んだ。
「IGAに入局する前……出張でアメリカの裏社会で活動していた時にそんな話を聞いた事がある。今までホラ話だと思っていたが……梅ちゃん、それは〝地底世界アガルタ〟の事だな?」
「フッ、さすが田井中。かつて世界中で活動していただけはあるな」
同僚が知っていた事に歓喜し、梅は思わず口角を不気味に上げた。
「地底世界、あがるた? え、師匠、それなんスか?」
初めて聞く単語だったため、椎名は周囲の気配を探りながらも、頭上に疑問符を浮かべた。
「え、お前アガルタ知らねぇの?」
浅井兄が、信じられないと言わんばかりに目を見開いた。
確かに、アガルタという単語は、ゲームなどで取り上げられたおかげで、今ではヲタクを始めとする人達も知っている。なのに、それを知らない椎名はいったい何なんだ、と思うのも無理はない。
「インドやスリランカの伝説に出てくる都市の名前だ」
椎名の質問に、田井中は答えた。
「地球の中が実は空洞で、そこには様々な動植物や、地底人が統治する国家が存在するらしい。そしてそんな世界に、バード少将は地底人によって招かれたそうだ」
「フッ、そこでバード少将は驚くべき体験をしたらしい」
田井中の説明を、梅は引き継いだ。
「彼と部下はまず、霧のようなモノによって突然視界を奪われ……気づけば、今の我々のように密林地帯へと転移していた。そしておそらくだが……その霧は先ほど我々を襲った霧と同質のモノ。バミューダトライアングルにも存在する、電子雲が含まれた特殊な霧……もしかするとバミューダトライアングルでロストした飛行機や船舶も、我々のようにアガルタに行ったのかもしれんな。とにかくその霧の影響か、方位磁石は役に立たず、とにかくその場所から脱出しようと密林上空を飛んでいると、驚くべき事に絶滅したハズの生物……マンモスやサーベルタイガー、さらには神話の存在だと言われていた巨人をバード少将達は目撃したらしい」
「お、おほぉー!? ぜ、絶滅したハズの生物に巨人ー!?」
「ドンドンパフパフ~。も、もしや肘川市内で拙者達が戦ったコンガマトーやローペンやマハンバは……この世界の存在って事でござるかぁ!?」
話を聞いている内に、アガルタの環境と今回の事件の間に、共通点がある事に気づき、ウニとクロダイは驚愕した。
肘川市内の動物の数の変動の原因と、外来種が出入りした原因、さらにはUMAが出現した原因は、おそらく先ほど彼らを襲った霧である。それも、IGA局員を狙うようUMAを操っていた謎の存在によって操作された霧だ。それに彼らは巻き込まれ、別の場所へと転移したのだ。
本当にここが、伝承にある地底世界アガルタならばの話だが。
しかし周囲の状況、そして先ほど自分達に起こった異常事態からして……ここがアガルタ、もしくはアガルタのモデルになった世界である可能性は高い。
「フッ、さらに言えば……先ほど田井中も言ったアガルタに住んでいる地底人……便宜上、アガルタ人にしようか。それにもバード少将達は会った。というか彼らに招かれたのだから会うのは当然だな。とにかくバード少将はそこでアガルタ人に、これから地上で行われるであろう戦争に対する警告を受けた。当時アメリカは核兵器を開発していたからな。当然と言えば当然の警告だな。そして、その警告を……バード少将は帰還後に上官に伝えたのだが、無視された」
「まぁ、ハタから聞けば荒唐無稽っスからね。無視されるのも納得っス」
「いや、そうじゃないんだ椎名」
椎名の意見を、田井中は否定した。
「無視どころの話じゃない。俺が聞いた話が本当なら……バード少将はもっと酷い事をされた」
「え、どういう事っスか?」
「フッ、椎名青年。バード少将の伝えた警告はな……無視されたどころか、上層部は北極・南極に地底世界アガルタへの出入口が存在する事を確信し、その技術などを奪うべく、南極と北極へと侵攻したのだよ!!」
「「な、なんだってー!?」」
無視どころか、これからの世界の動きを憂いたアガルタ人から受けた警告を報告した部下を、アガルタの技術を奪うため、アガルタの存在の有無を確認するために利用していたという、非人道的なまさかの事実が発覚し……椎名と浅井兄は揃って某ミステリー調査班の如き声を上げた。
「お、おほぉー? さ、さすがにそれは……」
「アメリカは自分達の力を過信してるでござるな~~」
「…………なんとなく、オチが見えた気がするな」
一方でウニ、クロダイ、如月の三人は苦笑した。
こういう過信した存在が、最終的にどういう結末を迎えるのかを、今までの任務の中で嫌というほど見てきたからだ。
そしてそんな彼らと同じく、自分が頼っていた力を過信してきた存在を嫌というほど見てきた田井中は、一度溜め息をついてから、
「……ご想像の通り、アメリカ軍はアガルタ人が操る未確認飛行物体によって壊滅した」
と告げた。
「フッ、その事からUFOは地底人のモノではないかという説も戦時中は生まれたが」
梅はさらに補足した。
「まぁみんなも分かっている通り、異星人が乗っているタイプのUFOはもちろん存在するがな。ちなみにこれは余談だが、北極と南極がどこの国にも属していないのは、このUFOによる反撃があったからだとも言われている。まさにオチと言うより墜ちと言うべき結末だなッ」
「誰がうまい事を言えと」
田井中は苦笑した。
信じるかどうかは、あなた次第!(ォィ




