第24話:越境
超 展 開 ! ! Σ(・□・;)
「梅ちゃん、ツラヌケールの反動の問題は解決したって、前言ってなかったか?」
梅により開発された忍具『ツラヌケール』と如月の突き、そしてクロダイの援護により、なんとかマハンバを倒した後、田井中は右腕の付け根を左手で押さえつつ梅に訊ねた。
「ッ!? ……フッ、どうやらツラヌケールは、私でも手に負いきれんほどにまで強力な武器になったようだなッ」
部下と共にマハンバ、そして堕理雄が仕留めた、元透明な敵――まるで猿の如き見た目をした存在の、体長などを細かく記録していた梅の体が一瞬硬直する。
マハンバの驚愕の事実でも判明したのかと、田井中達は一瞬思ったが、わずかに彼女の顔を流れる冷や汗からして、おそらく反動の問題の解決を今まで忘れていたんだろうなと、さすがに、椎名や浅井兄でも察した。
いや、彼女は彼女で忙しいのだから仕方ないかもしれないが。
「……まぁそういう事にしておいてやる」
田井中は溜め息をつくと、改めて己の右腕の、外れてしまった骨の関節を嵌めるべく左手に力を込め――。
「田井中、それは俺が後でやってやる」
――ようとしたその時、マハンバの血をモロに浴びたので、大空間内にいくつも立っている柱の一本の陰で、新たな執事服に着替えている如月が声をかけた。
「それは自分がやるより他人が、それも人体の構造を理解しているヤツがやった方が確実だ」
「……そうだな。後で頼む」
人体の構造は、田井中もある程度理解している。
だがそれでも他者から見れば、自力で治したつもりでも微妙な感じになっている場合もある事を知っているため、彼は素直に如月の申し入れを受け入れた。
「おほー、なんかこういう友情って良いですねー」
「ま、まさかウニさんもそっち方面の方だったとはッ! いや、拙者もこういうの嫌いというワケではないでござるが」
「……クロダイ先輩達、何言ってんスか?」
「何ってそりゃ、腐ってる方のフジョシなハナシじゃ……は? お前、そういうの知らねーの?」
まさか椎名の生きた時代に腐女子は存在しないのか。
いやしかし、彼がこの時代に来る事ができたのは腐女子な魔女のひ孫のおかげでもあるハズ。ならばなぜ彼はそんな台詞を言うのか……とにかく椎名のそんな謎な発言を聞き、浅井兄は首を傾げた。
「フッ、そういえば普津沢先輩が仕留めたという……透明だった敵だが」
報告し忘れていた事があるのを思い出し、梅は、地図を手に大空間内を調査中の堕理雄を一瞥してから言った。
「これはおそらく……インドに出没したと言われている『モンキーマン』だッ」
「…………猿人スか?」
「いや、猿人つか普通の猿だろ見た目」
参課局員が開発した拘束具『カナシバール』で動けなくなっている謎の敵こと、モンキーマンを見ながら、椎名と浅井兄は言った。
「フッ、確かに直訳すればそうだ。もしかすると古代の猿人の生き残り、または、新たに生まれた猿人の可能性もあるが……とにかく警察が出動するほどの大騒動を二〇〇〇年代に引き起こしたメジャーなUMAだぞ? 知らなかったか?」
「そういえばそんな事件があった気もするな」
着替え終わった如月に腕を治してもらった田井中が、口を挟む。
「と言っても、アメリカにいるUMAマニアな友人から聞いた事だが……そういやそいつは『モンキーマンは透明になれるベルトをしている』とも言ってたな」
「ああ、なるほど。透明だったワケだ」
堕理雄は納得した。
「透明になれるベルト……いきなりSFになったな」
如月は眉をひそめた。
「ああ。そこは私も気になっていた」
梅は腕を組みながら、地面に置いた、モンキーマンが装着していたベルトに視線を向けた。E以上は確実にある驚異のバストが腕を組んだ事で強調され、主に浅井兄の視線を集めた。
「このベルトは……どこぞの青春宇宙ライダーのように、ボタンを押してなんらかの機能を発動させる、しかも、最初の装着者以外の者が使用できないようなセキュリティ機能付きの驚異のベルトだ。フッ、もちろん田井中が言うように、透明にもなれる……が、なんとなくそこんところも青春宇宙ライダーとそっくりだな。下手すれば年代的にライダーの方がパクリだと言われかねんぞ」
「梅、話が逸れてるぞ」
「おっと。フッ、これは失礼」
如月の指摘を聞き、梅は苦笑しつつ話の軌道修正をした。
「とにかく、このベルトは我々参課が作るならともかく、猿人が持っているにしては違和感バリバリ……まさにオーパーツと呼ぶべき代物だ」
「…………正体は分からんが、少なくともそのエテ公は……他のUMAよりも今回の事件の中心に限りなく近い存在って事か」
「フッ、ズバリそういう事だ」
梅は田井中に人差し指を向けながら、肯定した。
「だが残念ながらモンキーマンは当分目を覚まさんだろう。弐課が調合した睡眠薬はなかなか効くからな。ここから先は我々の足で捜査するしかない……が、普津沢先輩、そろそろ何か見つけましたか?」
「ああ。ちょうど見つけた」
堕理雄は親指を、ある通路に向けながら言った。
「肘川の地下の地図に載っていない通路だ」
※
「そういや、他の通路からあの終点の大空間を目指しているハズのチーム……結局来なかったな」
堕理雄が見つけた謎の通路を、堕理雄を先頭に一列に並んで進む中で、田井中はその事に気づいた。
ちなみにモンキーマンは、拘束したまま参課局員がおぶって運んでいる。全局員が事件解決に動いている関係上、放置するワケにはいかないからだ。
ちなみにみんな、マハンバとの戦闘があった大空間を終点と呼んでいるが、それは水の出入口たる川から見ての終点であり、目指すべき場所、という意味での終点というワケではない。そして現在、田井中達が進んでいる水路が川の氾濫に備えた物である以上、出入口がたった一つだけであるハズがない。他にもあの大空間へと繋がる通路は存在する。
しかしマハンバとの戦闘中も、そして謎の通路を見つけるまでの小休憩中も、別の通路から他のチームが来る気配はなかった。
まさか、マハンバよりはマシだけど、それなりに強い敵が待ち構えていたのか。それとも通路があまりにも長かったのだろうか。
「やられた、って事はないと思いますけど……とても心配ですね」
堕理雄は表情を険しくした。
「一応向こうのコッソリートに留守電でも入れて……あれ?」
そしてすぐに彼は、コッソリートを操作しようとしたのだが……画面に【Warning】という文字が出ているのに気づき……険しい表情のまま頭上に疑問符を浮かべた。
いったい何が起こったのか。
まったく分からず、彼は困惑したが、突然参課局員が血相を変え「う、梅課長! きょ、強力なプラズマ反応がッ」と報告したのを聞き、すぐに事態を察した。
そのプラズマの正体こそ分からないが、おそらくそれが、コッソリートの画面に出た【Warning】の原因だろう。
電子機器はプラズマを発生させるレヴェルの強力な電磁波に弱い。コッソリートはその電磁波を検知し、使用不能になったのである。
「フッ、敵による攻撃k……ッ!? な、んだあの霧ぅわっぷ!?」
しかし梅は、敵が電子機器封じの戦術を使う可能性を、すでに予測してたため、慌てず騒がず、その戦術の無効化のためにあらかじめ用意していた発明品を使おうとした……のだが、なんとその直後に、信じられない事態が起こった。
いったい何がどうしてこうなったのか、まったくもって不明だが。
通路の先より、突然猛スピードで流れてきた、薄いピンク色の濃密な霧が彼女達に襲いかかったのである。
まるで津波の如く襲いかかってきた謎の霧に対し、彼女達は何もできなかった。
しかし、慌てはするものの、無駄に動く事だけは決してしない。下手に動いて隣にいる誰かとぶつかり合ってしまえば、さらなるパニックを引き起こすからだ。
「……フッ、なるほど」
そんな中、梅は冷静に事態を分析していたのだろうか。
姿はまったく見えないものの、薄いピンク色の霧の向こう側から、得意げな声が聞こえてくる。
「おそらくコレは……電子雲を含んだ霧。我々の発明品が使えなくなるワケだ。魔の三角地帯ことバミューダトライアングルで、飛行機や船舶が行方不明になる原因らしい、と言われているくらいだからな。その電磁波は半端じゃない」
「バミューダトライアングル? なんで電子雲とかいうので、飛行機や船舶が行方不明になるんだ?」
梅の推測を聞き、田井中は頭上に疑問符を浮かべた。
「フッ、それはな田井中。電子雲が時空を歪めてワームホールを……おっと、そうだとするとマズいな」
梅はすぐに田井中の質問に答え……ようとしたのだが、その最中に、彼への返答が何を意味しているのかを悟り、顔を強張らせた。
すると、次の瞬間。
電子雲入りの霧が、いきなり晴れた。
かと思えば、彼らの目の前の光景が。
鬱蒼とした密林が広がっている光景へと変わった。
なぜ、こうなった(;゜Д゜)




