第20話:終点
ちょっと長くなった。
――その日。
――〝世界〟は揺れた。
※
「ッ!? な、なんすか……このゾワゾワする感じは!?」
肘川北高校の休み時間での事。
まず初めに、熊谷家の空手少女がそれに気づき――。
※
「ッ!? この気配……殺気?」
次に、同じく肘川北高校で。
足立家のパーフェクト合気少女がそれに気づき――。
※
「ッ!? この気配は……?」
別の場所では。
かつてヒグマを撃退した一屋家の主婦がそれに気づき――。
※
「ッ!? ち、近くで凄まじい戦いが繰り広げられている!?」
別の場所では。
異界からこの世界に転移した女騎士がそれに気づき――
※
「ッ!? こ、この気ヒャいは……!?」
「ッ!? なんだか嫌な予ヒャんがするねぇ」
別の場所では。
百派山夫妻がそれに気づき――。
※
「ッ!? あらあら……ようやく〝何か〟が始まったようね♪」
最後に、肘川市の某所にて。
宇宙最強の腐魔女が……それに気づいた。
※
数分前。
田井中達はついに、自分達が通ってきた通路における終点の、一歩手前まで辿り着いた。と言っても、同じような通路は肘川中にいくつも存在し、そしてその内のいくつかは同じ終点へと繋がっている。
全ては肘川および近隣地域の河川が台風などで氾濫した時に、余分な水を集め、一定の間隔で排水するために。
その余分な水を一時的に溜めるのが、現在彼らの目の前にある終点だ。
TVなどで何度か公開をされ、さらには実写作品において、古代遺跡や悪の秘密結社のアジトとして使われたりしている場所だから、知っている方も多いだろう。
そしてそんな終点の中心に……それはいた。
「ッ!? フッ、UMAが出てきた時点で登場するかもと思ってはいたが」
堕理雄の案内で、ついに終点たる大空間を覗き込んだ梅は……冷や汗をかいた。
「こ、これは……規格外でござるッ」
「お、おほぉ……まさか相手がこんなに大きいとはー」
次に大空間を覗き込んだクロダイとウニの顔が、そのまま固まった。
「な、何だあのデカブツ」
「おいおい……もはや怪獣映画だな」
同じく大空間を覗き込んだ如月と田井中が、顏を引きつらせる。
基本的に、ほとんど表情を変えないハズの二人の顔を引きつらせる相手が。
「ひ、ひぃぃッッッッ!?!?!?」
「な、なななななななんッ何なんですか梅先輩!? あのどデカいワニはぁ!?」
そして弟子二人の顔面を蒼白にするほどの相手――十メートル以上の全長はある弩級のワニが、我が物顔でそこにいた。
「フッ、私も初めて見るが……アレもUMAだとすれば、おそらくコンゴ共和国に生息しているという巨大ワニ『マハンバ』だッ!!」
アフリカのコンゴ共和国。
その北部リクアラ地方の、コンゴ川の支流のウバンギ川とサンガ川に挟まれた密林地帯。そこには、もはや怪獣と言っても過言ではない未確認生物の伝説が数多く存在する。
一番有名なのは、テレ湖のモケーレ・ムベンベだろうか。
未確認生物の中でも、特に実在する可能性が高い生物であるとされた、恐竜型のUMAだ。
そして現在、終点の大空間内にいる巨大ワニ『マハンバ』は、ムベンベと同じくリクアラ地方に存在すると言われているUMAだ。
全長は十五メートル。
一説には恐竜の生きていた時代に存在した巨大ワニ『デイノスクス』の生き残りではないかと言われているが、調べた者がいないので詳細は一切不明である。
「フッ! 面白い。まさか『怪獣無法地帯』とも言われているコンゴの巨大ワニをお目にかかれる日が来るとはなッ」
梅は驚愕しつつも、舌なめずりし……そう言った。
なんだかんだ言っても、彼女も未知なるモノの探求者。たとえ相対しているのが絶対の強者であろうとも、未知なる存在が目の前にいれば、調べたくなるのが彼女達探究者の魂の在り様なのである。
「梅ちゃん、張り切るのはいいけど気をつけてね」
田井中達を案内した堕理雄が、梅に釘を刺した。
「相手は誰も調べた事がないどころか、相対した事もないような、未知の生命体。どんな生態なのか一切不明だ。油断したら……やられるかもしれない」
「フッ、心配は無用ですよ普津沢先輩」
梅は得意げに言った。
「このメンバーは、このような異常事態を何度も経験している一騎当千にして百戦錬磨な集団だ。弟子コンビを除いてだが」
「え、ええっ!? 梅先輩!?」
「そ、そりゃないっスよ梅ちゃん先輩!?」
まさかのついでとばかりの発言を聞き、その弟子コンビは涙目になった。
「フッ、キャス子達……マハンバの分析などのサポートは任せたぞ!」
「ハイ、頑張ってくだサイ梅課長!」
しかし梅は、そんな彼らの抗議を無視した。
そして代わりに、田井中達のサポート要員として連れてきた己の部下達に指示を出す。部下達は梅達を信じているのか、これから戦いに赴く彼女達に、笑いながら敬礼した。
「フッ、じゃあみんな……ひと狩りいこうか!」
そんな部下達に見送られ、梅はひと足先に大空間に足を踏み入れた。
「一応訊くが……梅、生け捕りはしなくてもいいよな?」
「ああ、それだけが気がかりだな。さすがにアレに手加減はできんぞ」
彼女に続く形で足を踏み入れた如月と田井中が、元の真剣な表情へ顔を戻しつつ訊ねた。
「フッ、無論だ。全力で……殺す気で構わんッ。じゃなきゃ我々が殺られるッ!」
梅は堂々とした態度で答えた。
さすがの彼女も、相手の力量をある程度……その放たれし威圧感から察しているのである。
「ドンドンパフパフ~♪ まさに弱肉強食ってヤツでござる~♪」
「おほー、これはみなさんとの連携がメチャクチャ重要ですねー」
そんな彼らに続く形で足を踏み入れつつ、クロダイとウニは気合を入れ直した。
「ちょ、待ってほしいっスよ師匠達!」
「お、おい! 新人のクセに俺を置いてくんじゃねぇ!!」
そして最後に、椎名と浅井兄が慌てながら彼らの後を追った。
堕理雄は……いつの間にやらいなくなっていた。
コンゴ共和国のリクアラ地方が肘川市以上に凄いかもしれない件(ォィ




