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第17話:追跡

 秘密警察IGAの主な任務は、なにも日本の敵性存在の無力化だけではない。

 確かにIGAのルーツは伊賀忍者であり、任務の中には、高い戦闘力を活かしたゲリラ戦などの戦闘行為もあっただろう。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 それ以前に戦闘行為が本領であれば……ただの戦士でいいだろう。


 ならば忍者の本領とは何か。


 それは彼らの名称から分かる通り――忍ぶ者。


 世界の裏側に(ひそ)む、雇い主の敵性存在の情報を集める諜報活動である。


「フッ! 久しぶりに……我らが『宙影(そらかげ)』にコマンドを送信! 壱課局員が()()()逃がした敵を追跡させろ!」


 IGA肘川支部内にあるモニタールームに、梅の指示が(とどろ)く。

 すると彼女の部下は一斉(いっせい)に「ラジャー!」と答え、己の前に置かれたキーボードを目にも()まらない速度で叩いた。


     ※


《コマンド、受信しました。これより敵性存在の追跡を開始します》


 地上からのコマンドに、軌道上を地球の自転と同じ速度で周回している人工衛星の一つが反応する。人工衛星はすぐ、指定された複数のエリアへとカメラを向け、映した映像を拡大した上で、地上のIGA肘川支部へと送信する。


 これこそ、IGA参課が開発した中で(もっと)も巨大な物。

 世界規模で言えば宇宙開発競争の激化、そして(せま)い範囲で言えば異星人の襲来を何度も何度も経験した日本を、宇宙から来る脅威から守るべく、数代前の参課課長の発案で開発され、種子島の宇宙センターの協力によって打ち上げられた、光学兵器にして情報収集衛星でもある『宙影』だ。


 ちなみに光学兵器でもある、と話したが……悲しいかな。

 (じつ)はこの人工衛星には、局長および三人存在する課長の内の二人による使用許可さえ出れば、大抵の宇宙船を破壊できる光学兵器が搭載されているものの、相手の方が数段格上だったなどの理由で報復を恐れた、課長や局長の判断で兵器の使用の許可が今まで下りず、まったく活躍する機会に恵まれなかったというとても()(びん)な経歴があったりする。


 とにかくそんな人工衛星『宙影』はコマンドに従い、敵性存在の放ったプテラノドンの、空からの映像を地上に送信し続けた。


     ※


「こ、これは……どこからどう見ても翼竜だなッ」


『宙影』より送られてきた映像を確認するなり、梅は瞠目(どうもく)した。

 シャドーピープルが出てきた時点で、すでに異常なのだが、だからと言ってなぜここで絶滅したハズの生物が登場したのか。二次元存在と有機生命体。両者に共通するモノが分からず、梅は言葉に詰まる……のだが、すぐにピンと来た。


「フッ、なるほど。今度はコンガマトー……もしくはローペンと言ったところか」


 コンガマトーとは、アフリカ南部の原住民に伝わる存在。

 現地語で『ボートをひっくり返し沈める者』。単純に言えば悪魔と同義な意味の名前を持つ、ジュラ紀の翼竜の(ごと)き容姿だと言われている未確認生物である。


 一方でローペンとは、パプアニューギニアで目撃されているという未確認生物である。その名前は、現地語で『悪魔の飛行生物』という意味であり、その翼長は、およそ三メートル。口には鋭い歯があり、さらに性格は凶暴で肉食。まさに、悪魔の異名に相応(ふさわ)しい生態だ。


 ちなみにこちらは、翼竜の(ごと)き容姿だと現地人に伝えられているワケではない。

 ローペンという存在を見いだした創造論者が己の説を証明するためだけに翼竜説を(とな)えているにすぎないが……(なん)にせよ、そう言われている事に間違いはない。


 とにかく、先日現れたシャドーピープル。

 そして今回現れたコンガマトー、またはローペン。


 どちらも未確認生物。

 世間ではUMAと称される存在。


 もしかして今回の『肘川市内の動物の生息数変動事件』には、彼らUMAの存在も関係しているのだろうか。


「フッ! (なん)にせよ、翼竜の帰還場所を特定できればこっちのモノ! 弐課局員の情報によれば、民間人も襲われているらしいが……そのほとんどは事件を調査していたIGA局員を狙って現れた! これが偶然であるハズがない!」


 梅は、モニターに映る複数のカメラ映像を注視しながら断言した。


「ならば翼竜の帰還場所には、必ず彼らを操る存在がいる!! そしておそらく、そいつこそが今回の事件の黒ま――」


 しかし、その台詞は最後まで言いきれなかった。


 なぜならば。

 モニターに映っていた翼竜の内の二匹が。


 ――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 まさかの事態を前に、梅は絶句した。

 彼女の部下も、同様に言葉を失った。


     ※


 同時刻。


「あー、驚いた」


 肘川市のとある路地に、一人の少年がいた。

 彼は一見(いっけん)、どこにでもいるような平凡な少年だった。


 しかし彼には……否。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「危なかったな、木下」

 一人の生徒が、彼に声をかけた。


「まさか異世界から帰った(あと)に、ワケが分からん生物が襲ってくるとはな」


「そうだね、加藤君」

 木下と呼ばれた生徒は言った。


「まったく。ようやく犯人が判明したというのに……ねぇ?」


     ※


 同時刻。


「ユウトー! (なん)なんだこの生物は!? 伝説の魔獣アブソリュートヘルフレイムドラゴンのような翼が見えたからドラゴンの(たぐい)かと思ったけど……歯が()えたクチバシがあるぞ!? でもなんか()せっぽちだなぁ。食べられる部位あるかな?」


「ちょ、フィア!? 俺がいた世界に来るなり何して……いや何それ!?!?」


 別の道路には、異世界より転移してきた男女がいた。

 しかし転移直後に、赤い長髪をたなびかせる女性の方が、豪快(ごうかい)に空に斬撃を飛ばしたせいで……さっそく騒動が起きそうだった。

クズオ「ッ!? な、なんだか寒気がしまさぁッ」

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― 新着の感想 ―
[良い点] コンガマトーにローペン、作中で言及される翼竜型UMAのチョイスが実に渋いですね。 忍者の流れを汲む秘密組織とシャドーピープルを始めとするUMA達の戦闘が、「影に生きる者同士の戦い」という感…
[一言] 木下とフィアまで!!!wwww これは、ユウトと勇斗の夢の共演もあり得るか!?ww
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