第16話:制空
如月さんの奥義を全て知っていれば、もっと派手にできたかもしれん(ぇ
「おほぉー!! さすがに空中戦は私の管轄外ですよぉー!!」
IGA壱課所属局員の一人であるウニは逃走していた。
背後より凄まじい速度で迫りくる、謎の三匹のプテラノドンから。
彼女は踏んでも潰れない特殊なウニや、己のウニの如き髪型を武器とした戦法を得意とするのだが、さすがに制空権をとる相手とは相性が悪いのである。
「おほー!! これは相手がうまく飛び回れないような狭い場所に誘い出して倒すのがセオリーってヤツで――」
「こ、これはさすがにムリゲーでござるぅ~~~~!!!!」
そしてウニが、改めて相手と互角以上に戦える戦術を考えている時だった。別の道から同僚であるクロダイが飛び出し、そのまま同じ道で合流した。
「おほー!? クロダイさーん!? まさかと思いますがあなたの方も翼竜にでも追われているんですかー!?」
「ま、まったくその通りでござるよウニさーん!! というかアレはいったい何でござるかどう見たって絶滅したハズの翼竜でござるよぉ~~!!」
合流するなり、現状の理不尽さに対し嘆く二人。
その後ろで、二人が合流した結果六匹となったプテラノドンが微妙にタイミングをズラして降下する。二人が咄嗟に避けると、プテラノドンは地面スレスレで再び上昇し、また降下する。おそらく二人を仕留めるまでこの流れは止まるまい。
「拙者の釣り竿も……さすがにこうも複数の敵が相手じゃ、一匹を捕まえた後に他の個体に拙者がやられるのは目に見えてるでござるぅ~~~~!!!!」
「…………んんー? クロダイさーん、ちょっとお耳を拝借ー!」
そしてさらに嘆くクロダイの言葉を聞いた……その時だった。
ウニの中で閃きがあった。と同時に彼女は、クロダイだけに聞こえるよう小声で耳打ちした。またシャドーピープルのような存在がいるかもしれないからだ。
「…………ナイスアイデアでござるウニさ~~ん!!」
ウニの言葉を聞くなり、クロダイは口角を上げた。
と同時に、その場ですぐに急ブレーキをかけ、自分達に迫りくるプテラノドン共を見据え――その内の一匹を釣り上げた。
しかし、一匹だ。
あと五匹も残っている。
このままでは二人にその五匹が襲いかかる……と思ったその時だった!!
「おほー!! これなら私も空中の敵と戦えますよー!!」
なんとウニが、クロダイが空中に張った釣り糸の上を疾走した。
現在、IGA局員が装着する事を義務づけられている参課特製シューズ『スッベラーン』の恩恵だけでなく、かつて大道芸人などに化けていた大先輩達と、ほぼ同レヴェルの身体能力があってこそ可能な絶技である。そして彼女はバランスを崩す事なく釣り糸の上を駆け上がり……手にしたウニを他の個体へと投げつけた。
まさかの反撃をされ、プテラノドン共は焦り、急ブレーキをかける。
そしてウニは、そんな彼らの動きを見逃さない。動きが鈍ったその瞬間、的確に相手へと手にしたウニを投擲する。数個ほど外したものの、最終的にはクロダイが釣っている個体以外の個体を仕留めるに至った。
「それじゃあクロダイさーん!! 後はよろしくお願いしまーす!!」
「ドンドンパフパフ~~♪ お任せあれでござるよ~~!!」
クロダイが釣っている個体以外の個体を仕留めるなり、ウニは釣り糸を駆け下りクロダイにハイタッチした。
そして、クロダイが釣っている個体は――。
※
同時刻。
「ふぅ。田井中並みの反射神経で厄介だったが……倒せん事はないな」
如月は、己を襲撃したプテラノドンを見事に斬り伏せていた。
ちなみに襲撃された時、浅井兄も一緒にいたせいか、六匹のプテラノドンが襲来したが……浅井兄がかろうじて仕留めた一匹と合わせ、なんとか五匹仕留める事に成功した。
「いよいよ事件もひと区切り。早く梅に連絡するか」
そして如月は、近くでグッタリしている弟子を見やりながらコッソリートを操作し……同僚へと連絡した。
※
同時刻。
金髪の女性を襲撃し、そして今度は椎名を襲おうとしていたプテラノドン共は、仲間を田井中に射殺されて警戒しているのか、さらに彼らから距離を――。
「お前らの癖は、とっくに把握済みだ」
――とろうとした瞬間、田井中はコルト・パイソンの引き金を引いた。
バスッという小さい音がすると共に、残ったプテラノドンの内の一匹の翼に風穴が空いた。風穴を空けられたプテラノドンは、突如襲いかかった激痛のせいで翼の制御を忘れ、そのまま真下に墜落した。
そして次に田井中は、最後の一匹へと視線と銃口を向け……そのまま静止した。
すると、空中に残ったプテラノドンは、これ幸いとばかりに回れ右をして、そのまま猛スピードで飛び去った。
「し、師匠!?」
まさかの田井中の行動を見て、椎名は仰天した。
「な、なんで逃がしたんスか!? 師匠なら余裕で命中させられたっスよね!?」
「わざとだよ」
田井中は、涼しい顔をしながら言った。
「シャドーピープルのような二次元の存在と違い、ヤツは空を飛ぶ。ならばIGAの空からの〝目〟で簡単に捉えられる」
弟子にそう説明しつつ、田井中はコッソリートを起動した。
相手にできる限り逃げる隙を与えないために、素早く番号をタップする。連絡をする相手は、もちろん決まっている。
「梅ちゃん、追跡頼む」
『フッ、任せろ!』
コッソリートの向こうで、梅は余裕たっぷりな声でそう言った。
次は梅ちゃんのターンです。




