第13話:叱咤
カゲさんの名前の由来は……某伊賀忍者です(ぇ
『私は、とても悲しい』
翌日。IGA肘川支部で全体集会が執り行われた。
集会は順調に進み、そして各課長による挨拶の段となった時、室内に設置されたスピーカーから機械的な音声が聞こえてきた。集会に集まれるだけ集まった、肘川支部所属の局員達は、固唾をのんでその声に耳を澄ませた。
『なぜならば現在、肘川で発生している、様々な動物の数が変動したり、UMAが出現したりする事件において……ついに一般人の被害者が出たからだ』
小牧梨乃がシャドーピープルに襲われた事件の事だ。
幸運にも近くにIGA参課所属の局員がいたおかげで大事になる前に対処できたが、被害者が出た事には変わりない。その事を改めて指摘するスピーカーからの声を聴き、局員達はみな気落ちした。
『かつて地下鉄毒ガス事件に関わった元公安の方も己の著書の中で言っているが、我々のような情報を扱う秘密組織は……事件を起こされた時点で、敗北なのだよ』
その言葉を聴いた局員達の胸中で……悲しみと悔しさが込み上げる。
まったくもって、その通りだと思ったのだ。力なき一般人を守れずして、なにがIGAだと。
『そしてその敗北を挽回するにはどうするべきか……君達はもう、知っているハズだ。あまり動けない身ではあるが、私もできる限りサポートしよう。だからみんな……被害者をこれ以上出さないためにも……必ず、事件を解決するぞ!!』
『『『『『はいっ!!!!』』』』
スピーカー越しに入れられた活により、局員達の目に光が宿る。
と同時に彼らは、すぐに己の持ち場につき、現在肘川市で起きている事件の調査を再開した。
「如月」
そんな中で田井中は、例のダルダルマイスターなるダサい二つ名を持つ弟子と共に歩く、かつて己と殺し合った執事服のサムライへと話しかけた。
彼はすぐに振り向くと「何だ?」とシンプルに訊いてきた。
時間がないから早くしろ、と目が言っていたが、田井中は気にせず「カゲさんも動くと言っていたが……体は大丈夫なのか?」と、如月がカゲさんと直接会った事がある、数少ない人物であるがために訊ねた。
「…………芳しくないな」
如月は眉をひそめ、肩を竦めた。
「前回関わった事件で、部下を庇って負った傷がまだ癒えんらしい。それに彼も、もう歳だ。もしも実戦に出るとしたら……今回が最後になるかもしれん」
「…………そうか」
田井中は、スピーカー越しに聞こえた声の主――自分達の直接の上司でこそないが、上司である事は間違いないカゲさんの事を思いながら言った。
「悪かったな、呼び止めて」
「別に気にしていない。それよりも田井中」
今度は如月が田井中に訊ねた。
「もしもシャドーピープルが、なんらかの調査のための先兵だとするなら……弐課のピンチヒッターであり、探偵でもあるお前は、次に何が来ると思う?」
「実行部隊、だな」
田井中は即答した。
「もしくは、俺達のような存在の事をもっと詳しく探るために、シャドーピープルをまたけしかけてくる可能性もあるが……目的が分からん以上なんとも言えん」
「目的か。お前でも現段階で分からんとはな」
「もしも相手が、今まで世界中で出現した時の記録通りなら……喋れないタイプのUMAだからな。こればかりは梅ちゃんの仕事だ。いやその梅ちゃんでも、相手の思考を解析しきれるかどうか」
「いや、アイツの悪魔的な頭脳ならやり遂げそうだ」
「……そうだな。余計な心配だったな」
如月は断言し、田井中は口角を軽く上げて笑みを見せた。
今回の相手があまりにも想定外な存在だったので今まで心配だったのだが、そのUMAを解析するのは他ならぬあの峰岸梅だ。影に干渉する驚異の忍具を開発したあの峰岸梅である。ならば今回出現したUMAの思考の解析も成し遂げる可能性があると、彼らが信じるのも納得である。
「それはそうと」
とここで、如月は急に話を切り替えた。
「浅井。いい加減、田井中の弟子と睨み合うのはやめろ」
「え、師匠!? こいつが先に突っかかってきたんですよ!?」
「はぁ!? 先に俺の悪口を言ったのはどこのどいつだったっスか?」
「なああああああああんだとおおおおおおぉぉぉぉぉぉこのチビがぁ!!」
「あっ! またチビって言った! 聞きましたか師匠ぉ!? 浅井先輩が俺の事をチビって言ったっスよ!?」
…………………………凄まじいくらい低レヴェルな口喧嘩だった。
「人が気にしている事を言うなんて、そんなんじゃいつまでもモテませんよ!?」
「なっ!?!?!? なななななななななッッッッ!?!?!? おおおおおおおお前にモテ道の何が分かるっていうんだ!!!!!?」
「フフン、俺は小学生の時は人気者だったっス。常に周りのみんなを助けて、学級委員にも選ばれて。放課後にはランドセルを持って持ってと」
「メッチャモーテっつかメッチャ持ーテ委員長!!!!? いやそれ明らかにどう解釈しようともイジメだろ!?!?!?」
「はぁ!? 俺の友達をイジメっ子呼ばわりするのは同僚でも許さな――」
「いい加減にしろ椎名」
「浅井、お前もだ」
そしてその喧嘩は、それぞれの師匠によって無理やり止められた。
というか椎名の過去をこれ以上聞きたくなかった。なんだかこれ以上聞いたら、その場にいた全員のこれから先のメンタルに問題が出そうな予感がしたのである。
「俺の弟子がスマンな、田井中」
「いや、気にすんな。お互い様だ」
そして二人は、ズルズルとそれぞれの弟子を引きずりその場を後にした。
椎名と浅井兄は未だに舌ベロを出したりしていたが……師匠二人はもう慣れたのか、そのままスルーした。
※
「フン、なーにが超一流の拳銃使いの弟子だよ」
如月に引きずられている浅井兄は、椎名達の姿が見えなくなるなり毒を吐いた。
「銃の腕前がどれだけあろうと、師匠の剣術の前では屁の屁のカッパなクセに調子に乗りやがって」
「浅井」
すると、その時だった。
如月は声を荒らげ、眼光をいつもの数段は鋭くした。
師匠に想定外の反応をされ、浅井兄は思わずビクッと体を震わせた。
「田井中を甘く見るな。アイツは……俺に三発も入れた男だ」
「え、ええええええええええッッッッ!?!?!?!?!?」
そして師匠の口から語られた衝撃の過去を聞き、浅井兄は目を丸くした。
その後に如月は、当時の事を思い返しつつ「どれも掠り傷だったが、もしも年齢が逆だったら、大ダメージを負っていたのは……間違いなく俺の方だった」と付け足したが、浅井兄は驚きのあまり聞いていなかった。
なんだかUMAのインパクトのせいかハードボイルド要素が消えたぞ?(ォィ
そしてきしかわせひろさん!!
挿絵どうもありがとうございました!!<(_ _)>




