第11話:影人
「…………フッ、まさか『シャドーピープル』が実在するとはなッ!!」
ついていた壁や地面に、細い矢みたいな物で縫いつけられた状態で参課の実験室に運び込まれたシャドーピープルを見るなり、梅は目を輝かせた。
「なぜ従来の生物が減りUMAが現れたのか……ますます謎は深まるばかりだが、それも含めて存分に研究してやろう!!」
そして、叫ぶと同時。
梅の両手に、メスやハサミを始めとする様々な手術道具が出現する。もう手品師としてもやっていけそうな早業である。
※
「というか田井中さん、よく二次元の存在を運び込めましたね」
梅達参課局員が、動けないシャドーピープルに筆舌に尽くしがたい事をしているのをマジックミラー越しに見ながら堕理雄は言った。
「誤解を呼ぶ言い方はよせ」
田井中はエネルギー切れを起こした『メチャテラース』を、手が空いている参課局員に預けながら言った。
「数日前の披露会の時。メチャテラースの前に紹介していた忍具があっただろう? 確か『装獣戯画』とかいうゲームに登場する、ゲ……何だったか?」
「ゲータウロスですか?」
忘れていた田井中に、その時の事を思い返しつつ堕理雄は訊ねた。田井中は「ああ、そういえばそんな名前だったな」とすぐに思い出した。
「ゲータウロスの等身大のロボットを造っている時に開発したその武器を、壱課の武器に転用できないかという事で、その試作品を持ってたんだが……今回ばかりは持ち歩いてて正解だった」
ゲータウロスは、本編で登場するゲーム『装獣戯画』に登場するロボットだ。
得意技は『影縫い』と呼ばれる、忍者漫画の中などでも登場する、敵の影を拘束する事で敵自身も動けなくする呪術的な技で、どう見てもケンタウロスをモデルにしたゲータウロスらしくない技であるが……とにかく梅は、そんなゲータウロスを実物大で造る計画を、様々な忍具の開発と同時に、現在進めているのだ。
その実物大ゲータウロスが登場する回は必見である。
まだ序盤しか読んでいない読者諸兄には是非とも読み進めていただきたい。
そして今回、アメリカなどで目撃されているUMA『シャドーピープル』をこの場に運び込む事ができたのは、田井中の言う通り参課が開発した、その『影縫い』の技術を転用した特殊な矢『カゲトメール』……そして、それを射出するバネ式の銃を、田井中が持っていたためだ。
「ところで普津沢の方はどうなんだ? 今回の事件の原因とか、分かったのか?」
「…………残念ながら」
田井中が問うと、堕理雄は溜め息をついた。
「一応、事件の起こった範囲の外周からその中心部を特定して、そこを弐課局員に調べてもらったんですが……木々が生えていない小山があるだけでした」
「……手詰まりか」
「あとは梅ちゃんの調査だけが頼りです。今できる事といえば……調査をしている局員全員に『メチャテラース』と『カゲトメール』を、敵に気づかれないよう渡す事ぐらいでしょうか? 他にもシャドーピープルがいないとは言いきれませんし」
調査していた局員にシャドーピープルが攻撃を仕掛けてきた事実からして、確実に今回の事件の裏側には黒幕が存在している事、そして事件が次の段階に移行した事を確信した堕理雄は、改めて気を引き締め、眼光を鋭くしながら言った。
「それしかないな」
田井中は溜め息をついた。
シャドーピープルという二次元の存在には、通常の兵器は一切通用しない。いやもしかすると、影の反対たる光を生み出す閃光弾は通用するかもしれないが、その光を集束させて発射する熱線のようにダメージを与える事などは、不可能だろう。
もうここは、偶然にも影に干渉する忍具を同時期に作っていた梅の発明品だけが頼りである。
「ところで普津沢、冨樫の容体は?」
話がひと段落したところで、田井中はシャドーピープルの被害に遭った同僚の事を訊ねた。自分が呼んだ事で被害に遭ったのだ。彼女は彼女で、反撃を受ける覚悟をした上で駆けつけたのだろうが、それでも仲間として責任を感じるのである。
「大丈夫です。椎名君よりも重症でしたが……今では梅ちゃん特製の点滴『ゲンキニナールZZ』を受けてピンピンしてますよ」
「そいつぁよかった」
田井中は心の中で胸を撫で下ろした。
梅の発明品であれば、間違いない。
安心、ではなく間違いない……からである(意味深
「あ、そうそう」
するとそこで、堕理雄は言い忘れていた事があったのを思い出す。
「カゲさんが田井中さんを呼んでましたよ」
「……カゲさんが?」
田井中は頭上に疑問符を浮かべた。
「滅多に顔を出さないカゲさんが人を呼ぶだなんていつぶりだ? というか、俺に何の用だ?」
「さぁ、それは分かりませんが」
堕理雄は肩を竦めながら言った。
「俺と同じ課長ですから、人を呼ぶ事くらいありますよ。あと、来るのは事件解決後でいいって言って――」
「師匠!! 大変っス!!」
しかし、その会話は。
同じく梅特製の点滴『ゲンキニナール00』を受けた事で回復し、ドアを強引に開けた椎名よって遮られた。
「肘北の生徒の中から、シャドーピープルの被害者が出たっス!!」
冨樫妻「フフフフ……今夜は寝かさないぜマイダーリン♡」
冨樫夫「お、お手柔らかに( ̄▽ ̄;)」




