主塔めぐり
インタレスの塔の壁材を採取してからも、俺達は性戦士との対決まで塔めぐりを続けた。出来ればディランさんの資料の為にも主塔の壁材は全部集めて持って行きたい。
2日目
行ったのは探索者の街アーロン。フレスベルクの方が探索者は多いんだけど、フレスベルクは混迷都市という名称が有名になりすぎてるので次点でアーロンがこう呼ばれているらしい。
この街はウィルさんがフレスベルクの次に力を入れて支部を建てている途中の街で、登録とランクアップ以外の業務はほとんど本部と変わらなかった。
冒険者達もかなりの数が詰めかけていて、ギルドが順調に浸透していることが実感出来た。
ここの塔は四角いビルのような形の塔で、選択型。見かけの高さは10階建て程度だが、現在は51階層まで扉が出ていた。普通に1階層から入り、蛍、雪装備の俺と五狼、六狼で3階層までを突破して壁材を回収して撤収した。選択型の低階層なら、大分安定して戦えるようになっているみたいで俺も少しは強くなっているんだということが実感出来た。
3日目
この日に行ったのは賭博都市ダパニーメ。ここはその名の通りギャンブルの街だった。聞いた話によると宿に泊まるだけでもサイコロを振って無料から5割増しをギャンブルするような街らしい。
さすがに塔関連ではギャンブルの要素が入ることはなかったので探索自体は問題なく終わった。ただ、この塔は俺達が初めて入る変遷型だったのでちょっと緊張して臨んだ。
変遷型は1日ごとに内部の構造や魔物の種類、配置、数が変わるので入ってみるまでその日のレベルが分からないのが特徴のため、入ったはいいけど入ってみたら手に負えない高層レベルの魔物が出ることもあって危険だからだ。
もっとも変遷型では、日付が変わると同時にベテランのパーティが塔に入ってその日の塔のレベルがどのくらいなのかを調べてくれるので、それを聞いてから他の冒険者達は塔に入るらしい。
そのため日によって混雑具合が全然違うようだ。敢えて言えばこのランダム感がギャンブルと言えるかもしれない。
俺が行った時はザチルの10階層相当ということだったのでなんとかなると判断して探索をした。
一応念のため、レベルが高かった時のことを想定してこの日は七狼と八狼に加えて、一狼と二狼にも同行して貰っていたのも正解だった。
変遷型はボスを倒しても次の階層への階段が現れないのでその階層をクリアしたら一度出て、同じ階層を繰り返すしかない。俺達は今回はそこまでするつもりはないので蛍雪装備の俺と狼達で主を倒した後に壁材を剥がして撤収した。
そして、もう1つ大事な特徴としてここの変遷型の主塔はなんと外観すら毎日変形する。俺達が行った時は単純に凸型だったけど、日によっては地球で言う太陽の塔みたいな形だったり、球形だったこともあるらしい。
今度来るときはみんなで来て是非、この街にしかないというカジノで遊んでみたい。
この日は変遷型だったため1階層で終わってしまったので、午後の時間でもう1つ塔を回ることにした。せっかく一狼達も連れて来てたしね。
選んだのはミレストルの街、ここは武芸の街と呼ばれている。何故かというとこの街にあるミレストルの塔は対応型だから修行に適しているかららしい。
対応型は、パーティの能力を塔がざっくり鑑定してそれに見合ったランクの敵がいる階層へと繋ぐと言われていて、ロビーに扉は1つしかない。パーティごとに繋がる階層が違うのは確かで、前の組のすぐ後に扉をくぐっても会えることはないんだそうだ。
ただ、塔の鑑定自体はかなり大雑把らしくたまに全然レベルに見合わない恐ろしく強い魔物が配置されることもあるので、常に油断できない戦いが出来るのが強さを求める人達に人気の秘密らしい。
俺達もすぐ前の組と間を置かずに扉を開けたけど、すぐ前に入った冒険者と会うことはなかった。そして、対応型の名に恥じずこの塔での戦闘は結構しんどかった。
微妙に狼の攻撃が通じにくいゴーレム系や、魔法が使えない俺に対応してなのか物理耐性が高そうな甲殻系の魔物ばかりがもう出てくるわ出てくるわ。
結局、楽に勝てる戦いは1つも無かった。蒐集した魔石ランクにもEが混じることもあったくらいなので、ザチルの15階層から20階層くらいの魔物がいたのかもしれない。
そして案の定、階層主戦は特に厳しかった。出て来たのは大きな木盾と棍棒をもった『単眼巨人』という階層主。
図体がでかく俺達の攻撃は基本下半身にしか届かなかった。しかも盾持ちとか……結局、大層な時間をかけて少しずつ削っていくしかなかった。
一狼以外の狼は一撃喰らうと危険なのでつかず離れずで攪乱して貰って、一狼と俺で足を削る。やっとの思いで膝をつかせてからは後ろへ後ろへと回り込むようにしてちくちくして最後は一狼が首を噛みちぎってとどめをさした。
一発でも喰らうと詰みそうだったので回避優先で攻撃は受けてなかったが、長時間の緊張を強いられる戦いに精も根も尽き果ててしまった。
でも、蛍はその戦いをとても褒めてくれた。なんでも有効な攻撃手段がない相手に、効果の薄い攻撃を集中を切らさずに積み重ねて勝利したことが良かったらしい。
今までは武器の性能に頼ることが多かったからそういう戦いが出来たことを評価してくれたみたい。これはちょっと嬉しかった。途中で心折れて逃げようかと思ったのを堪えた甲斐があった。
それにしても対応型の塔は意識しているいないにかかわらず自分の苦手としているタイプの魔物が出てくることが多いので、安全性さえしっかり計算できるなら訓練には適しているのは間違いない塔だった。
システィナがいれば回復術が使えるから訓練するにはちょうどいいかもしれない。もろもろ片付いたら訓練に来よう。蛍もこの塔に通う冒険者達の空気感が気に入っていたみたいだしね。
ここの冒険者はなんか、ストイックに強さを求める感じで侍っぽい空気感なのでその辺が気に入ったんだと思う。
心にそう決めて、階層を上がるとその日はもう限界だったので壁材を採集して撤収した。
塔を出た所で気が抜けたのか膝が笑って歩けなくなってしまったので少し休んで帰ろうとしたら、一狼が背中に乗せてくれるというのでお言葉に甘えた。とても気持ちよかった。またお願いしよう。
あ、ちなみにミレストルの塔の外観は1階建ての平べったい円形の塔だった。
そして、4日目の今日。俺たちは主塔めぐり最後の塔。宗教都市 ルミナルタへと向かった。
◇ ◇ ◇
「なんかこうして歩くのも久しぶりな気がするね」
「はい」
俺の右隣で嬉しそうに頷くシスティナ。
「やっとソウ様と一緒に動ける~」
後ろから俺の首にしがみついてぶら下がる桜。
「あの年増女はいないがな」
左隣では颯爽と歩く蛍。
『このまま、まっすぐ塔へ向かいますか?我が主』
『おん!』
そして、俺達の前をゆらりゆらりと尻尾を揺らしながら先導してくれている一狼と九狼。以上が今回の遠征メンバーだった。
これは、リュスティラさんにシスティナの魔断と手甲の修理をなるべく急いでほしいとお願いしておいたおかげで、昨日無事に修理が完了したのでシスティナを連れて行けるようになったこと。
性戦士への情報操作が終わり、昨晩めでたく性戦士から……ていうかあいつの名前忘れたな、まあいいか。とにかく昨日俺達の下へ奴からの果たし状が無事に届いた。内容としては長々と自分を賛美する言葉が羅列してあったが要約すると5つ。
1.侍祭の契約を用いた決闘を申し込む。
2.私が勝ったら君が奴隷のように扱っている女性たちを解放し、栄えある我が聖戦士パーティで引き受ける。
3.万が一にも私が負けたらなんでも言うことを聞いてやる。
4.あ、ついでに私が勝ったらお前は公衆の面前で土下座をして私への無礼を詫びろ。
5.期日は2日後、冒険者ギルドの裏にある訓練場予定地。
と言う訳の分からないものだった。そもそも俺はお前に無視されただけで無礼を働く余地すらなかったんだがな。
決闘には予定通り向かうが、もちろんこの条件をそのまま飲むつもりはない。条件については当日詰める予定。
という訳で桜の任務も無事に終了したので今日の同行と相成った。葵も行きたがってはいたが、アイテムボックス作成の実験がとても面白いところに差し掛かっているみたいで今は外せないらしい。
なんだかとっても楽しみだ。明日は一日空きそうなので、自主練が終わったら工房に顔を出してみようと思っている。
「そうだね。今日で主塔めぐりもひと段落するし、ルミナルタは変遷型だからさくっと終わらせて観光でもして行こう。システィナ、おいしいお店とか分かる?」
「はい、肉料理で有名なお店があります。後は甘味がおいしいという評判の店もありますね」
「いいね!さっすがシス!分かってるぅ。じゃあさっさと用件済ませちゃおうソウ様!」
「うぐ!暴……れるな桜!く、苦しいから!」
俺の首にしがみついていることを忘れているのかぐいぐいと首を絞めてくる桜の腕をなんとか解除する。
「あはは!ごめんねソウ様。一緒に出掛けるの久しぶりだから嬉しくて、つい」
「まあ、ここんとこ桜には嫌な仕事を任せてたからね。死なない程度なら構わないよ、くっつかれること自体は俺も嬉しいしね」
「へへぇ、ソウ様はえっちだもんねぇ」
「否定はしない!」
にやにやしながら小ぶりだが張りのある胸を俺の腕にあててくる桜に胸を張って肯定。
「あははは!だからソウ様好きだな。同じスケベでも性戦士殿はむっつりな上に下衆いんだよね」
ほほう……それは気になる情報ですな。是非とも聞いてみたい。
「ソウジロウ。無駄話は一旦終了だ。塔に着いたぞ」
おっと、残念。その話は後で教えてもらうことにしよう。
ルミナルタの塔は同じ変遷型でもダパニーメのように外観は変わらない。外観はパルテノン神殿風一択である。その外観はそれなりに荘厳であり、世界遺産を生で見た時のような感動がある。だからこそそれを利用した宗教がこの街ではいくつもある。
ルミナルタの塔を本殿として主張している宗教団体は二桁に軽く到達し、三桁に届こうかという勢いらしい。
この街の領主は宗教に対して寛容のようで数多の宗教が乱立していても全く気にしない。但し、街で活動をするのならば初期登録料を払って登録した上で、100日ごとに更新料がかかる。ルミナルタは塔での収益よりもこっちの収益の方が圧倒的に多いらしい。
「なんだか騒がしいねソウ様」
「はい、ロビーに人が集まっているようです」
「うへ、なんかやだなぁ……塔に来てロビーがざわついてると嫌なこと思い出すよ」
「大丈夫ですよソウジロウ様。きっとあれはどこかの宗教団体の集会ですから」
「え?そんなこと塔でやっていいの?」
塔は領主管理の財産みたいな一面があるから、どこの塔も係員をロビーに常駐させて最低限の管理をしている。当然この街もそうだと思ってたんだけど。
「もちろん駄目ですよ。ですが、ルミナルタの塔を自分たちの宗教の本殿だって言い張る人達がたくさんいますから」
「本殿だって言い張るためには実績が必要だってこと?」
「はい。でも実際には裏で領主に使用料を払って時間借りしてるみたいです」
登録料、更新料、塔の賃貸料……なるほどね。確かに塔の魔石の収益よりも儲かりそうだ。せっかくだから覗いて見るか。
俺達は人でごった返すロビーに潜り込む。
『我々は塔に生かされているのです!塔は討伐してはなりません。守るべきものなのです!』
遠くの方でシスター服みたいなのを着た女性が声を張り上げている。遠くて顔ははっきりと見えないけど、周りの人達の声を聞いてみるとどうやら、あそこで演説をしてるのは『塔の巫女』『塔の御使い』『女神の化身』などと言われている人らしい。
『私達聖塔教は塔を祀り、祈りを捧げることで恩恵を得ることが出来るのです!さあ!私達の聖塔教に入信し共に祈りを捧げましょう!されば奇跡はあなた達の下にも降り注ぐことでしょう!』
シスターが両手を上げると、身体が淡く光った……ように見える。俺の見間違いか?だけど周りの人達も何かを感じたのかどよめいている。
「確実に光っているな。魔力も感じる」
蛍が俺の内心の疑問を感じたのか見間違いじゃないと教えてくれる。
……あれ、ていうかなんか身体がぽかぽかする。
「まさか……いえ、でもこんなところに彼女がいる訳がない」
「システィナ?どうかした?」
「……あ、いえ、なんでもありません。きっと私の勘違いです」
「でも」
「お前ら何をやっている!ロビーでの宗教活動は禁止されていると何度言えば分かるんだ!さっさと解散しないか!」
俺が更にシスティナに聞こうと思ったら入り口から警備兵らしき男たちあが3人ほど突入してきて信者たちをロビーから追い出していく。おそらく許可を得ていた時間が切れたのだろう。完全な出来レース、茶番だ。
その辺は教団も信者も慣れたものなのだろう。特に抵抗することもなく次々と入り口から出ていく。さっきのシスターの顔をちゃんと見てみたくてしばらく人の流れを見ていたが人混みに紛れて帰ってしまった後だったのか、見つけることは出来なかった。
「ソウ様、扉あったよ。サクッと終わらせてご飯食べに行こうよ」
「……うん。そうだな。桜、一狼達と先に行って係の人に今日の難易度確認しといて」
「了解!一狼、九狼いこ!」
『かしこまりました我が主』
『おん!』
桜達が走っていくのを見送ってから隣のシスティナに声をかける。
「今、俺に何か言っておきたいことはある?」
「ご主人様……いえ、大丈夫です。ちょっと知人に似ていると思った人が居ただけですので。ありがとうございます」
「……うん。分かった。じゃあ行こう」
「はい!」
システィナの表情に特に思いつめたものなどは感じなかったので俺はシスティナの肩を軽く叩くと桜の後を追いかけた。
塔の攻略の方は、桜に確認してもらったところザチルの20階層程度ということでちょっとレベル高めだったけどこのメンバーなら何とかなるという判断で探索をした。
蛍さんを刀として使ってるので若干火力不足ではあったけど、桜もシスティナもいままでの鬱憤を晴らすかのように無双してたので、問題なく戦えた。2人共確実に前より強くなっている。
一狼も進化後の身体に慣れて来たのか戦いを重ねるごとに速く強くなっているのを感じる。今までの戦いが確実に力になっていると感じられるのはモチベーションを維持する意味でもとてもいいことだ。
一応、階層主だけはちょっと怖かったので蛍に人化して貰って俺は雪だけを装備。
出て来た階層主は斧を2つ装備した牛人とゴブリンメイジのコンビだった。近接のミノと後方火力のゴブの組み合わせはなかなか面倒かと思ったけど、蛍とシスティナがミノを引き付けている間に桜と一狼、九狼があっという間に後衛に詰め寄ってゴブリンメイジを瞬殺してくれたので、後はみんなで取り囲んでフルボッコしたら比較的楽勝だった。
何気にうちのパーティはバランスがいい。フルメンバーなら穴がないのでもう少し思い切って上層に挑戦できるかもしれない。特に最近はシスティナと桜、葵、実質蛍すら抜きで戦闘をしていたので余計にパーティのありがたみを実感出来た。
取りあえず塔探索は予定通りここで終え、壁材を採取した。その後はみんなで食事を楽しんで、街を散策して帰った。葵には申し訳ないがかなり楽しかった。




