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魔剣師の魔剣による魔剣のためのハーレムライフ  作者: 伏(龍)
第4章

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進化の考察と付与

「それは確かに主殿のミスですわね」

「返す言葉もないよ。でも、誰も気にしなかったし…」

「そうですわね。一狼の他には確か四狼と九狼も雌だったと思いますわ」

「そっかぁ…魔物に性別があるとは思わなかったな」


 俺達は今、リュスティラさん達の工房から屋敷へと向かって歩いている。結局レイトークでは4階層に上がった後に壁を剥いで脱出。

 

 ギルドの出張所に顔を出して塔で死んだ冒険者達の武器や遺品を引き取って貰った。特に自分達で使いたいような武具があった訳じゃないので全部渡してきた。


 それから、転送陣でフレスベルクに戻ってリュスティラさん達の工房に助っ人に行ってもらっていた葵を迎えに行って、その帰り道である。


 葵は進化した一狼を見て一瞬だけ驚いた表情を浮かべたが、俺達が何か言う前に「より綺麗になりましたのね一狼」と声を掛けていた。どうやら魔力の質が変わっていなかったのですぐわかったらしい。


「それでどういたしますの?」


 改名するかどうか…か。一狼から九狼までの流れのある名前にようやく馴染んできたところだったんだけどなぁ。


「取りあえず屋敷に帰ってからみんなに相談してみるよ。桜ももう帰ってるだろうしね」



― ― ― ― ― ― ― ― ― ―



「進化…ですか。叡智の書庫では出てこない知識ですね。この世界ではまだ世間に広まっていない知識なんだと思います」


 屋敷に戻った俺達は桜が戻ってきているのを確認して一狼達も含めて全員をリビングに集めた。


 最初一狼を見たシスティナと桜は驚いていたが、話せるようになった一狼とすぐに打ち解け、桜は一狼の毛艶を増した毛皮に埋もれて今は至福の表情を浮かべている。


「そっか…魔石は売ればお金になるんだからわざわざ従魔に与える人はいないのかもね」

「魔石を体内に取り込んで……ですか」


 顎に手を当てて考え込んでいたシスティナが多分ですがと前置きをして続ける。


「ご主人様。以前、塔の外にいる魔物からは魔石が取れないという話をしたのを覚えていますか?」

「うん、確か塔の外では死体が残る代わりに魔石が残らないって奴でしょ」

「ソウジロウ、システィナが言いたいのはそこではあるまい。確か『魔物は塔外に排出されると体内の魔石の力を使って環境に適応するために身体を変化させる』と言っていたな」

「はい。それがこの世界での有力な仮説です」


 ああ、確かに言ってたかも。同じ狼系魔物でも草原では草狼、森では森狼、山では山狼、それぞれ環境に適した身体に変化するんだったっけ。


「一狼、その辺は何か分かる?」

『すまない。詳しくは分からないのだ我が主。ただ、私が私のなりたいものになるためには高品質な魔石がいると漠然と思っただけなのだ』

「また新しい魔石を上げたら進化出来ると思う?二狼達に上げた場合はどう?」

『……多分だが無理だと思う。今の私では再度の変化に身体が耐えられないだろう。おそらく同じ理由で二狼達も難しいのではないかと思う』


 なるほど…俗に言うレベルが足りないってやつかな。


「ご主人様、多分一狼はご主人様の従魔として、この屋敷を守る従魔として相応しい自分になりたかったんだと思います」

「システィナの言いたいことが分かりましたわ。すなわち今回の一狼の変化も『適応』ということなのですわね」


 葵の言葉にシスティナが頷く。


「だからホワイトナイト…白の騎士か。なんか嬉しいな、ありがとう一狼」

『勿体無いお言葉です。今後ともよろしくお願いします我が主』

「うん、こちらこそ、よろしくな」



 一狼が正式に俺の従魔になったってことで俺が覚えたらしい【友誼】というスキルについてもシスティナに聞いておいたんだけど、正直あまり使えないスキルだということが分かった。これは魔物と友好関係を築いた後に従魔にすることが出来るスキルらしい。


 普通はまず戦って勝つとかして、従魔にしてから仲良くしていくのがテイムの基本なのに【友誼】はまず仲良くなってから、魔物が従魔になることを納得してくれたら従魔に出来るという順序が逆のスキルだった。

 

 基本的に、魔物は容赦なく襲ってくる訳でそこには意思疎通が出来た試しがない。今回の一狼の件だってもともとテイムされていた魔物だったから意思を交わす余地があっただけだ。


 だから俺の従魔が今後増えることは多分無いかもしれないな。塔外に喋れるような魔物がいれば可能性もあるけど、今のところそんな話は聞いたことないしね。



「一狼、自分が進化出来る様になったかどうかは自分達で分かるものなのか?」

『……私はなんとなくわかった。としか言えない。私の勘だと二狼達はもう少し足りない気がするが二狼達がどう思っているのかはわかりません』

「そっか、じゃあ二狼達の中で進化…ていうか今魔力があればもっと強くなれそうだと思っている子はいる?」


 今回集めた魔石は売らずに持って帰ってきているので、二狼達の中に進化出来そうな狼が居るなら渡すことも出来る。


『『『『『『『『『………』』』』』』』』


 どうやら一狼の言う通り、二狼達自身にまだ進化がどうとかいう感覚はないようだ。だとするとこの問題は一旦ここまでか…


「わかった。じゃあ、二狼達はもしそんな感覚になったら一狼経由で構わないから教えてくれ。必要な魔石くらいこっちでも準備出来るし、自分たちで取りに行きたいなら俺達も手伝うから」

『『『『『『『『ガウ!』』』』』』』』


 よし。後の問題は、あれだな。


「えっと…一狼と、四狼と九狼だけ残って後は警備に戻ってくれ」


 狼(雄)達が一声鳴いてぞろぞろと外へと戻っていく。後はリビングに残っているのは俺とシスティナ、刀娘達と狼(雌)達だけだ。


「……あの、な。これは完全に俺のミスなんだけどお前たちに付けた名前が……ちょっとだけ実態に合ってない名前だったんだ。だから希望があれば名前を変えてあげることも考えてるんだけど」

「ぷ…ソウ様、そんなこと気にしてたの?わかってないなぁ、鈍いソウ様も可愛いけど」

「え、どういうこと?」


 一狼に埋もれながら笑う桜に聞き返すと桜は手を伸ばして一狼の頭を撫でる。


「それは桜が言うことじゃないんだよね。一狼、言ってあげて」

『はい。…我が主。私達は名前の変更を望みません』

「え!どうして?一狼とか四狼とか九狼も、どう考えたって男の名前なんだよ!女なら女らしい名前の方がいいんじゃないの?」


 一狼は四狼と九狼と目を合わせて互いに頷くと、念話を返してくる。


『我々、魔物には名を付けるという概念がありませんでした。そんな我々に我が主は名前を付けてくれました。それがどんなことを意味する名前でも我々には関係ないのです。

 我々に初めて贈られた名前、それが我々には無上の喜び。この名前を変えるなどもはや考えられません。我々からこの大切な名前を取り上げるのはどうかご容赦下さい』


 一狼達が頭を下げて懇願してくる。それほどまでに俺が手抜きで付けた名前を大事にしてくれているとは思わなかった。正直申し訳ない気持ちが大きい。でもそこまで思ってくれていることも素直に嬉しいと思う。


「桜だって、ソウ様が付けてくれた名前だもん。誰になんて言われたって、それこそソウ様が変えたいって言っても絶対に変えさせてあげないよ」

「桜…」

「ふふふ、主殿は気を遣いすぎるのですわ。この子たちに名前を付けた時の喜びようを見ているのですからこうなる結末は分かっていましたわ」

「葵まで…分かった。もちろん、一狼達がそれで良いなら俺は無理に変えろなんて言わないよ。でも俺がもう少し考えていればもっと相応しい名前を付けてあげられたのは間違いないんだ。だからお詫びも込めて何か女らしいアクセントになるような装備を考えてプレゼントさせて貰う。これは決定事項だからちゃんと受け取ってほしい」

『…ありがとうございます、我が主』

『『オン!』』



◇ ◇ ◇



 四狼と九狼を警備に戻してから、ひとまず緑茶を啜り一息つく。システィナが淹れてくれる緑茶はどんどん品種改良が進みますます日本のお茶に近づいてきている。


 まぁ、品種改良といっても栽培している訳じゃなくていろんな所から似たような茶葉を複数集めて、俺の意見を聞きながら茶葉をブレンドして俺好みのお茶を探してくれているんだけどね。

 日々、お茶が美味しくなる毎日……かなり癒される。


 一狼も警備に戻そうとしたんだけど、桜が激しく抵抗したため未だに桜の抱き枕と化している。一狼が警備につけないことで困ったような視線を向けて来たが、ちょっと我慢してくれと目線でお願いしたら『かしこまりました我が主』と了解の意を俺だけに念話で伝えて来た。


 相手を限定して話せる念話はかなり便利だ。うちのパーティ全員に是非欲しい。スキル修得の魔石とか巻物(スクロール)とかゲームならありそうなんだけど、今のところこの世界にはないらしい。

 アイテムボックスが落ち着いたらリュスティラさん達にまた話を振ってみようかな。どうせ駄目もとだしね。



「さて、葵と桜は今日別行動して貰ったけどどうだった?」


 葵はディランさん達の手伝い、桜は性戦士の様子を確認しに行ってもらってたのでどうだったのかを確認しておきたい。


「はいですわ。わたくしの方はなかなか面白い体験でしたわ」

「へぇ、アイテムボックスは出来そう?」

「残念ながらその辺はまだなんともですわ」

「まあ、そりゃそうか…まだお願いしたばっかりだしね」


 ちょっとがっかりした俺に葵がしなだれかかってくる。


「主殿、そんなにがっかりすることはありませんわ。わたくしの感触ですけどなんとかなりそうな感じはありますから」


 おお!魔力操作の権威、葵先生が言うなら本当に可能性はありそうだ。


「今のところ塔の壁材をどうやって加工するかを検討しているところです。どうも塔の壁材には通常の釘のような物は使えないみたいですの」

「刺さらないってこと?」

「いえ、押し出されてしまうのですわ」


「それは、塔の壁が傷つけられても自動で修復されていくのと同じことでしょうか」

「多分そうですわ。完全に切り取った壁材は塔とは独立して切り取られた時の形に戻ろうとするみたいですわね」


 全員のお茶を淹れなおしていたシスティナの質問に葵が答える。

 その答えを聞いた蛍もお茶を啜りながら口を開く。何気に蛍も緑茶は好きらしい。あくまで酒の次で、基本的にお酒飲んでるから滅多に飲まないんだけどね。


「ならば、もっと大きな、ブロックのような形で壁材を持ってきた方が良いということか?」

「いえ、例えば立方体の形で壁材を持って来て、中をくりぬいてもいずれ埋まってしまうと思いますわ」

「でも、持ってきた壁材の板を割れば2つにはなるんだよね?」

「そこが不思議素材ですわね。一瞬で完全に切り離すとそこで形態が固定されるのですわ」


 う~ん……つまり中に物を入れられる形にするためには板を組み合わせていかなきゃいけないのに接合する方法が無いと。あれ?でも釘的な物は駄目だけど接着剤的な物なら?


「葵、この世界の接着剤的なものでは駄目かな?」

「さすがですわね主殿。明日以降はその辺の道具をウィルマーク殿に調達して貰って試してみる予定ですわ」

「いいね。なんか1日でそこまで検証出来たってことは意外と何とかなりそうじゃない?」

「そうはうまくいきませんわ主殿。壁材は塗料なんかもあんまり受け付けません。接着剤もおそらくはなんらかの不具合が出ると言うのがディラン殿の予想ですわ」


 そっかぁ。やっぱりなかなかうまくいかないな。


「だから、そんなに気落ちしないでくださいませ」


 葵が形の良い胸を押し付けて励ましてくれる。うん、十分俺のマイサンは元気づけられているよ葵。


「壁材を箱の形に組み立てて、外から手で押さえた状態で中に物を入れたら僅かですが容量の増大が見られましたわ」

「え!本当に!」

「ええ、おそらくきちんと接合して作ればもう少しまともな感じになりそうですわ」

「おお!接合の問題さえクリアすればいいなら望みがありそうだ」


 これはテンションが上がる!明日からの壁材集めにも気合が入るってもんだぜ。


「葵、明日からもしばらくディランさんを手伝ってあげてくれる?」

「……主殿と一緒に戦えないのは寂しいですが、あそこで作業するのは嫌いではありません。主殿の頼みならお受けしますわ」

「ありがとう!葵」

「ふふふ、それに工房のお手伝いをしていてちょっと面白いことが出来る様になりましたわ」


 葵が艶のある唇を弧にして何かを取り出す。


「…え?それって」


『魔石(無) ランク:G』


 ただの低ランクの魔石に見えるんだけど…


「見ていて下さいませ」


 そう言うと葵は魔石を手のひらに乗せたまま何かに集中していく。


「…なんて鮮やかな魔力の流れ。見ているだけでうっとりとしてしまいます」


 システィナが呟く。どうやら葵は魔力を使って何かをしているらしい。しばらくそうして2分程だろうか、何かをしていた葵だが大きく息を吐くと若干疲れた様子で俺にその魔石を渡して来た。


「主殿、鑑定してみてください」

「え?」


 さっき鑑定したんだけどな……『簡易鑑定』


『魔石(風) ランク:G』


「…………え!……風属性の魔石になってる…」

「はい、きちんとした付与のスキルではないので効率は悪いですが、魔力操作の応用で魔石に属性付与が出来る様になりましたわ」


 いや…事もなげに言うけれども、それって物凄くすんげぇことなんじゃないのか?ていうかシスティナとか固まってるし。


「えぇ!葵ねぇ凄いじゃん。そしたらもう、生活魔石とか買わなくていいね!葵ねぇに言えば全属性の魔石作り放題だよ。無魔石なんて塔に行けばいくらでも取れるし、転売したらお金にも困らないんじゃない?」


 素直な桜の感嘆の声で我に返る。確かにこれは凄いことだ。それだけに対処を間違えると危うい。


「えっと…葵。このことは誰かに言った?」

「そうですわね…工房で一度試した時に、ディラン殿がその場にいましたわ」

「ディランさんは何か言ってた?」

「『それで商売する気がねぇんなら、絶対に誰にも言うな。俺も言わないでおいてやる』とおっしゃってましたわ」


 うん、さすがディランさんだ。ディランさんがそう言うなら、そこから漏れることはまずない。


「葵さん、その作業は続けて出来ますか?」

「…そうですわねぇ、効率が悪くて消耗が激しいので1日に10回ってところですわ」


 葵のその言葉を聞いたシスティナが僅かに天を仰ぐ。


「葵さん、私からもお願いしますのでそのことはどうか内密にお願いします」

「それって凄いの?システィナ」

「はい、普通の付与術師は優秀な者でせいぜい1日に2回です。低ランクの魔石を複数まとめて付与しても1回なので一概には言えませんが1日に生み出せる属性魔石は最大でも7、8個程度だと思います」

「葵なら1日でその十倍近い属性魔石を作ることが出来る。しかも全属性…」


 やっぱり大っぴらにする訳にはいかないなこれは。葵がそうそう簡単に攫われたりするとも思えないけど、欲に目のくらんだ奴らが血眼になって葵を手に入れたがるのが目に見えてる。


「当面は、うちで使う分だけをお願いするから外ではやらないこと。後は全員口外禁止にする」

「はい、もちろんそのつもりですわ。ただ、わたくしの時のような苦労を主殿にはもうさせたくありませんわ。必要な時にいつでも言って下さいませ」


 あ、そうか…


 葵を擬人化させるために必死で属性魔石を買い集めていた俺のことをずっと葵は刀の状態で見ていたんだった。


「ありがとう葵。雪の錬成にも必要だし、生活魔石もうちはたくさん使ってるから頼ると思う。無理はしなくていいからよろしく頼むな」

「はい!ですわ」


 葵は工房でリュスティラさんとディランさんが武器やアクセサリにいろんな効果を付与する様子を見て属性付与を覚えたのだろう。


 アイテムボックス作成の助っ人に出したはずなのにとんでもない副産物を持って帰ってきてくれたものだ。


 これでうちでは生活魔石と添加錬成用の魔石には困らなくなった。ただ、葵にも負担が大きいみたいだから無理をさせないようにしなきゃいけない。元気な時、1日に1回か2回寝る前にでも作って貰う感じで十分だろう。



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