おかしな2人
「じゃあ留守番よろしくな。一狼」
グルゥ!
見送りに来た狼達の先頭にいる一狼に声をかけると、一狼は喉を鳴らして応えてくれる。あぁ、この感じはなんか癒されるな。日本ではペットなんて飼ったことはなかったが、ペットと話がしたいと言うのはペット好きなら皆が考えることだと思う。
そして、実際に話が通じるというのは思った以上に嬉しいものだった。
「二狼達もちゃんと訓練しておくんだよ。帰ってきたらチェックするからね」
「ちょっと桜さん!二狼達はわたくしの従魔ですのよ!」
「え~いいじゃん別に。警備員さんが強いにこしたことないでしょ。…入ってきた強盗にあっさりと撃ち殺されちゃうような警備員じゃ意味ないでしょ」
「あ…」
ちょっと頬を膨らませながらしゅんとして俯く桜。
そうか…もちろん忍狼化計画もあるんだろうけど、桜が二狼達の育成に熱心だった理由って。
「うちの実家の警備員が弱かったからか……」
うちの警備員がもっと強ければ、父と強盗達を問題なく取り押さえられた。そうすれば俺も無茶をする必要はなく死ぬことはなかっただろうし、桜も父に使われて俺を刺すこともなかった。
「うん…そのおかげでこうしてここでソウ様と楽しく暮らせているけど、次に同じことがあったらこんな奇跡はもう無いよね」
「そうだな…桜が正しい。葵、ここは桜の好きなようにさせてやれ」
「はぁ……確かに桜の言うとおりですわ。仕方ありませんわね、ただし二狼達が潰れないように適切な訓練をお願いしますわ」
「うん!ありがとう蛍ねぇ!葵ねぇ!」
葵が苦笑しつつ桜の頭を撫でるとぱっと明るい笑顔に戻った桜が葵に抱きつく。
「お前たち!訓練に関しては桜の言うことを聞きなさい」
「「「「「「「「バウッ!」」」」」」」」
主である葵の指示に元気よく返事をする二狼~九狼。その尻尾はなぜかぶんぶんと振られている。とにかく構ってもらえるだけで嬉しいらしい。 これを見ると狼達に対するパジオンの対応がどれだけ酷いものだったかが簡単に推測できてしまう。
だがうちの狼になった以上、訓練は厳しいかもしれないが寂しい思いをすることはないと思う。警備は恒常的にしてもらうつもりだし、場合によっては何頭かずつ塔探索にも連れて行くことも考えている。なにより、狼達の毛並みは洗ってあげたら見事に艶々になっていて、触るとモフモフでとても気持ちがいいのだ!
一狼は俺にしか本格的にモフモフさせないが、二狼以下はうちのメンバーになら誰にモフモフされても大喜びである。うちの女性陣も暇なときは手の空いている狼を招き入れて傍らに置いてモフモフしている。まさに需要と供給だろう。
「よし!じゃあ行こう。まずは冒険者ギルドに行ってウィルさんにお金を返して、それから工房に行く。システィナ、お金はちゃんと持った?」
「はい、ちゃんとこちらに」
そういってシスティナは双子山のちょっと下辺りをぽんぽんと叩く。その勢いで双子山がぷるぷると震える……
「た、確かローブの内側にぶら下げてるんだったよね。一応確認を…」
もみもみもみ…
「あっ…ちょ、ご主人様…また」
う~ん、やっぱりこの双子山は名峰だ。システィナとはしばらくご無沙汰だったからローブ越しでもなかなか……は!こういう時にはいつものが来る!
背筋を走る悪寒に突き動かされ、俺はシスティナの双子山を揉みしだきながらぬるりとシスティナの背後に回る。
その過程で俺の体を掠めるようにぶぉんと重々しい音が通り過ぎる。
「あぶな!だが、初めてかわした!蛍、敗れた『ごん!』…り!」
脳天を襲った衝撃に地面と盛大なキスをかました俺はよろよろと起き上がりながら顔を上げる。
「く…か、かわしたはずなのに…なぜ」
「馬鹿が。さっさと手を放して逃げればまだ可能性はあったものを」
「申し訳ありません主殿。これも修行のうちと言うことで」
「く、葵の一撃を囮にしたのか…む、無念」
その後、蛍に引きずられながら移動したらしい俺が意識を取り戻したのは冒険者ギルドにほど近くなった頃だった。
「目が覚めたなら、しっかりと歩けソウジロウ。ウィルマークに情けない姿を見せるなよ」
「てて…了解。たんこぶはシスティナが治してくれたの?」
幻痛がした気がして頭を撫でるがたんこぶすら出来ていなかったので、多分そうなんだろうという確信はある。でも一応確認してみると、システィナがにっこりと微笑んでくれたのでやっぱり間違いない。
「ありがとうシスティナ」
「ソウ様も懲りないよね~。変なタイミングで揉まなきゃ突っ込まれないのに」
「それは違うぞ桜。やっぱり揉みたい時に揉まないとね。それに油断さえしなければかわせるかもしれない可能性も出てきたし、これからも積極的に狙っていく所存です」
「ふふ…ソウジロウ様らしいです」
苦笑しつつも頬を赤らめるシスティナも別に嫌がってる訳じゃないから問題なし。こうして馬鹿やれるのも俺達が仲が良い証拠だしね。
うんうんと1人頷きながら冒険者ギルドの前まで来ると、何やら中が騒がしい。
「なんでしょう?ソウジロウ様、ひとまず私が様子を見てきますのでちょっとこちらで待っていてください」
「あ、情報収集だったら桜も行く」
「そっか、じゃあ2人ともよろしく頼む。気を付けてね」
「はい」
「は~い」
ギルドの中に入っていく2人を見送りつつ中をうかがうと、どうやらカウンター辺りにいる誰かを野次馬が取り囲んでいるらしい。騒動の張本人らしき人物は野次馬の壁の向こうに隠れていてここからは見えない。だが、場の雰囲気は殺気立っていないから血生臭い感じにはならないと思う。
後はシスティナと桜が戻ってくれば、大体の事情はわかるだろう。冒険者ギルドに著しく不利益を与えるようなら奴ならうちの姐御に懲らしめてもらおう。
「冒険者ギルドも発足以来一気に広まったしね」
「しかも登録は今のところここのみだからな」
「となればいろんな方が集まりますわ」
「……変なのが混じるのも仕方ないか」
そんなことをしみじみ話しているとまずシスティナが戻り、その直後に桜が戻って来た。
「お疲れさま、どうだった?」
「うん、どうやら男女2人組の探索者が登録に来たけど、ランクがGランクからスタートするのが気に入らなくてゴネてるみたいだよ」
「もちろん、ここの受付嬢は『例の』方達なので全くとりあってないのですが……相手の方もちょっとおかしな方達で全く引かなくて、今ウィルマーク殿が対応に出ようとするところでした。それに…ちょっと気になったのですが、もしかしたら…」
「もしかしたら?」
「いえ!今はいいです。後でもう少しはっきりしたらお伝えします」
「そう?わかった。さて…と」
『例の』笑う受付嬢をものともしないとはなかなかの強者だな。ウィルさんならなんとかするかも知れないけど、一応様子を見に行った方がいいか。っていうか俺もそいつらを見てみたいし。
「じゃあ、ちょっと見に行ってみようか」
俺達はギルドに入ると野次馬の壁の空いているところを縫うようにして前へと進む。周りの冒険者にちょっと睨まれたが、雪のスキルの【殺気放出】を試しに使ってみると何かを感じたらしくビクッとして半歩避けてくれたので比較的簡単に前まで出れた。どうやら刀経由の劣化スキルでもちょっとビビらせるくらいは出来るらしい。
「だから何度も言ってるじゃあないか!この聖戦士たる僕が底辺ランクGからスタートするなんてあり得ないって!」
「全くもってその通りです。シャフナー様なら最初からSランクでもいいくらいです!だってこんなに格好いいんですから!」
おぉ…なかなかに尖ってるな。どれどれ。
『シャフナー・ゲボルグ 業 9
年齢:21
種族:人族
職 :性戦士』
キラキラな茶髪をさらさらと靡かせて、白銀色の防具に身を包んだぱっと見がイケメン風の男がシャフナーか……っていうか、絶対また職に読解補正かかってるなこれ。
自分でもさっき言ってたしきっと『聖戦士』というのが窓に表示された職なんだろう。
で、隣できゃいきゃい言ってる金髪縦ロールで偏平胸の女が…
『ステイシア 業 -3
年齢:19
種族:人族
職 :侍祭』
「あ…あの子侍祭だ」
思わず呟いた俺の言葉をシスティナが目敏く聞きつけてやっぱりと漏らしている。さっき言いかけたのはこのことだったのか。そうするとあのシャフナーという男が契約者ということになるのか。あんな馬鹿そうな男だけど侍祭と契約できるなら一角の人物なのだろうか。
「何度も申し上げました。当ギルドはまだ発足したばかりです。今の段階で最初からランクを上げるなどという特例を作る訳には参りません。どんな方でも例外なく最初はランクGからです。あなた方が自分で言われているような優秀な方ならば、それこそすぐにランクも上がるはずです」
ウィルさんが性戦士と侍祭を説得している。言っていることは至極もっともで反論の余地などないように思えるんだが。
「うん。その通りだ。だからそのすぐ上がる分のランクを前払いしても同じことじゃないか。僕の言うことは間違ってないよね、ステイシア?」
「もっちろんです!非の打ちどころがないほどの完璧な理論です!シャフナー様」
あ…ダメだこいつら。完全にイタい子達だ。そんな歳にもなって全く分別がついてない。これは何を言っても無駄だ、人の言うことなど全く聞かないタイプ、説得出来ないキャラだ。
ウィルさんもちょっと頭を抱えたそうな顔してる。ウィルさんには借りがたくさんあるし、何とか助けてあげたいけどあんまり絡みたくない人種なんだよなぁ。
『どうするソウジロウ』
『さっきみたいに雪の【殺気放出】でなんとかならないかな?』
『直接、雪がやるならばともかく雪経由で主殿がやるくらいならわたくしの【威圧】の方がまだましだと思いますわ』
『それでなんとかなると思う?』
『あれだけお馬鹿さんだと、威圧されていることにすら気が付かないのではありませんこと?』
『あははは!それありそうだね。桜ならさくっといけるけど?』
『こらこら、こんなところでの殺害を仄めかさない!』
『は~い』『………』
っていうか雪からまで、なんか『無念』的なのが伝わってくるし。ちょっと迷惑な客くらいでヤっちゃうのはさすがにダメだから!
とは言ってもどうしたものか。
どうやってウィルさんを助けようかと考えていると不意に性戦士の視線がこっちを向く。そして一瞬目を見開いた後、前髪をさらりと掻きあげながら気持ち悪い微笑みを浮かべつつこっちへと歩いてくる。
なんだなんだ?なんとかしようと思ってはいたが、まだ何にもしてないのになんでこっちに向かってくるんだ?しかも笑顔がキモい。
性戦士はキモい顔をしたまま俺の前までくると止まった。性戦士の後ろでは侍祭がローブの袖を噛んでいるが何がしたいのかは不明だ。そして、やっぱり俺に用なのか。まだ何にもしてなかったのになんで目を付けられたのかが全くわからない。
なんか心を読むようなスキルを持っている可能性も考えておく方がいいだろうか?
「どきたまえゴミ男」
「…………は?」
俺と同じくらいの身長だろうか。俺の目の前に来た性戦士は目線的には俺のやや上であり、俺を見下ろしてくる。だが、その身体がなんだかプルプルしているので僅かに視線を落とすと踵が浮いていたので無理をして見下ろしているらしい。うん、馬鹿な上に器も小さいな。
「聞こえなかったのか?どけと言ったんだ」
「…ギルドから出て行ってくれるなら喜んでどきますが?」
「えぇい!うるさい!さっさとどけ!」
「っと!とと…」
性戦士はそう言うと俺の左肩を右手で無理矢理横へと押しのける。…なんなんだ?いったい何がしたいんだこいつ。
俺をどかした性戦士を睨みつけてやるが、既に性戦士の脳裏からは俺の存在は消え失せているらしく、既にこっちを見てもいない。
「初めまして、美しすぎるお嬢さん達。僕は聖戦士にして侍祭を従者に持つ勇者シャフナーと申します。よろしければお名前をお聞かせくださいませんか?」
あぁ…なるほど。性戦士の意味はそのままそういう意味だったか。それにしても勇者とは大きく出たな。
周囲も侍祭付きだという言葉に反応してどよめいている。やはり侍祭というのはこの世界では大きなステイタスになるらしい。性戦士の後ろで金髪縦ロールがふふんとうっすい胸を張っている。
っていうか、自慢してないで侍祭云々は隠せと言いたい。
『ねぇねぇ、ソウ様。この気持ち悪い人、いきなり何言ってるのかな?』
『それはね桜。俗に言うナンパってやつだ』
『ええ!すっごぉぉい桜ナンパされたのなんて初めてだよ!』
いやいや、あんたつい最近まで刀だったんだから当たり前でしょうが。
『そうだな、私も刀の時は私を取り合う男たちもいたが人になってからは初だな』
おお!さすがは蛍。名刀蛍丸として浮名を流してきたらしい。
「申し訳ありませんがどいてください!大丈夫ですかソウジロウ様」
「ああ、大丈夫大丈夫。ちょっと押されただけだから」
シャフナーを押しのける様にして駆け寄って来たシスティナに問題ないと頷いて安心させる。
「さて、どうしたものか」
俺の嫁達が美女、美少女揃いなのは間違いないのでこういう輩が寄ってくるのはある程度覚悟はしていた。ただ、今までは刀娘達の綺麗なだけではない鋭利な雰囲気に気圧されて実際に声を掛けてくるような奴はいなかった。
蛍や葵の胸元をいやらしい目で見ているシャフナーにむかむかとしているのは確かだが、かと言ってこの場をどうやっておさめたらいいかというのがよく分からない。
相手が強いかどうかが俺にはよくわからないが、蛍あたりに頼んで瞬殺…じゃなくてちょっと痛い目に合わせて放り出してしまっていいものだろうか。
「失せろ。お前のような器の小さい男に名乗る名などない。行くぞ2人共」
目の前のシャフナーに冷たい視線を向けて言い放った蛍が葵と桜を促してこちらへ歩いてくる。
「待ちたまえ!そんなに照れる必要などない。いくら僕が聖戦士で、侍祭付きの勇者であっても臆することはない。君たちは僕の目にかなったんだ!安心して僕の胸に飛び込んでいいんだよ!」
「う~ん…あなたの目にかなったとかどうとかどうでもいいんだよ。私達の目にはあなたが全くかなってないんだからさ。だから、目障りだからさっさと消えてね。じゃないと【ちょんぱ】しちゃうぞ」
「こら!簡単にちょんぱするなって言ったろ」
お前も【殺気放出】スキル持ってんじゃないかぐらいの剣呑な空気を一瞬だけ纏った桜に軽く拳骨を落す。放っておいたら本当にやりかねない。
「へへへ…ごめんな、さい!」
そう言って笑いながらお腹に抱き付いてくる桜は、どうやらそう言われるのを分かっていてやっていたらしい。
「な…な…」
桜の空気に当てられて一瞬固まっていたシャフナーは、俺を助けにきたシスティナ、俺に抱き付いて来た桜、俺と視線を合わせて苦笑している蛍と葵を見てプルプルと震え出した。
「なんだお前は!どっから出て来た!この僕の女達に近づくな!」
「いや…さっきお前と話したし、いつから彼女達がお前のものになったんだっての」
正直呆れてしまって言い返すのも馬鹿らしいが俺の嫁達の名誉のためにもしっかりと否定しておく。
「ええい!黙れ!お前には聞いてない!なんだお前は、なよっとした身体に派手なだけの貧相な装備、覇気のない顔!お前のような奴が彼女たちのような美しい女性を……ははぁ、分かったぞ!お前は奴隷として彼女達を買ったんだな!安心してくださいお嬢さんたち。僕があなた達を奴隷の立場から解放してあげま……ぐぼ!」
「それ以上の主殿への侮辱は許しませんわ!」
おお!速い。気が付いたら、風魔術を発動して加速した葵が一瞬でシャフナーの懐に飛び込みブレストプレートの境目あたりの鳩尾を抉り込むように拳で打ち抜いていた。
一瞬で意識を刈り取られたシャフナーは口から涎を垂らしながら前屈みに崩れ落ちていく。
文字通り胸に飛び込んできて貰えたんだからさぞかし本望だろう。
「シャフナー様!!」
それを見た侍祭が慌てて駆け寄って来て回復魔法の詠唱を始める。最近じゃシスティナはほとんど無詠唱なのでなんだか新鮮だ。それにしてもなんか全然自称勇者が回復してない気がするけど…
「あれって【回復魔法】だよね?」
「侍祭ならば一応【回復術】だと思うのですが…ただあんまり…」
同じ侍祭として言いにくいのか言い淀むシスティナ。なるほど…大したことはないってことか。スキル表示で行けばせいぜい【回復術(微)】ってところか。既に完璧な人体の造りを理解しつつあって【回復術+】な上に、大きな魔力を持ち、しかも無詠唱なシスティナとは比べるまでもないと。
「ステイシア様。こちらが発行されたお二人のギルドカードです。説明が必要ならば後日また起こし下さい。それからギルドから人を出しますのでシャフナー様を宿までお送りします」
ここぞとばかりに出て来たウィルさんがなし崩し的にGランクのギルドカードを押しつける。
「すまないがよろしく頼む」
更に、ギルドの職員に担架を持ってこさせるとさっさとシャフナーを乗せギルドから運び出してしまった。やるなぁ、ウィルさん。見事な対応だ。
ギルドを出ていく侍祭ステイシアが鬼の形相でこっちを睨んでいたのが怖かったが、関わり合いになりたくないので気づかなかった振りをしておいて、フンと鼻を鳴らしそうな勢いの葵を労っておく。
「ありがとうな。葵」
「いえ、お恥ずかしい姿をお見せしてしまいましたわ」
別に俺は自分のことを馬鹿にされる分には、あまり気にしないからそこまで怒っていなかったんだけどね。こうして代わりに怒ってくれる人がいるのは素直に嬉しい。
「お騒がせしてすいませんでしたフジノミヤ様」
「いえ、いいですよ。災難でしたねウィルさん」
「ええ、ですがああいう輩が来るだろうという『てんぷれ』をフジノミヤ様に教えて頂いていましたので慌てずに済みました」
一応冒険者ギルド立ち上げ時の注意事項に、よくありそうなテンプレをいくつか事例として教えておいたのがどうやら役に立ったらしい。
「お役に立てたみたいで良かったです。今日は先日の代金を支払いにきました」
「ああ、はい!そんなお急ぎにならなくても良かったのですが」
「分かってはいるんですが、どうも借金をしている状態というのが落ち着かなくて」
「ははあ、分かります。私も商人ですからね。負債を抱えた状況というのは居心地が悪いものです」
「それを言ったら今の冒険者ギルドはまだまだ収益は上がってないんじゃないですか?」
そんな俺の問いかけにウィルさんは笑顔で首を振る。
「とんでもないです!確かに一気に支店にまで手を広げたため、まだ初期投資の半分も回収できていませんが、確実に収益は上がってます。それにそれよりも冒険者ギルドが出来たことで探索者達はもとよりギルドに依頼を出す街の方達からも喜びの声が届いているんです。そのことが何よりも私は嬉しいんですよ」
「そうですか。それは本当に良かったです。私の思い付きのような話のせいでウィルさんが苦労しているのではないかと不安だったものですから」
本当に嬉しそうな顔しているウィルさんにそんな心配は杞憂だったと分かって胸を撫で下ろす。
「商売をしてこれだけのたくさんの方に喜んで貰えたのは初めてなんです。こんな仕事を紹介してくれたフジノミヤ様には感謝しかありません。さて、またシャフナー様達が戻って来られても困るでしょうから用事を済ませてしまいましょう」
「おっと、そうでしたね。ではよろしくお願いします」
その後別室でウィルさんに借金を返すと、念のために裏口から出させて貰いリュスティラさんの工房へと向かった。




