新魔剣
んっ…眩しい…そっか、昨日カーテン開けっ放しだった。
「おはようございます。主殿」
俺が起きたことに気が付いたのか、俺の胸に寄り添っていた暖かくて柔らかいモノが身じろぎして唇を重ねてくる。
「ん……おはよう葵。身体は大丈夫?」
「ふふ、お気遣いありがとうございます。山猿も言っていたと思いますが、わたくしたちは元は刀。ご心配は無用ですわ」
昨日は、久しぶりだったのと葵の白い肌と柔らかい肢体に抑えが効かなくなって、結局明け方近くまで頑張ってしまった。
「それに……はぁ…素敵でしたわ。刀としてのわたくしを求められるのではなく、わたくしの存在全てを求められている。そう思えるひと時でしたわ」
う、間違ってないけど改まって言われると恥ずかしいものがある。でも、ここは照れてちゃいけないところだろう。
「そうだね。葵の全ては俺のものだ。これからもずっと一緒にいよう。まだまだ頼りない男だけど支えて欲しい」
「はいですわ」
俺は葵を強めに抱きしめると今度は自分から唇を重ねる。葵もしっかりと俺を抱き返してくれるのがとても嬉しい。
「…名残惜しいけど、今日もいろいろ用事があるしね。起きてひと風呂浴びに行こう」
「ふふ、そうですわね。でも、これからはいつでも触れ合えますわ」
俺は起き上がって下着だけを身に付けると、葵の手を取った。
「おはようございます。ご主人様」
葵と二人で室内風呂を満喫し朝から錬成作業に勤しんだ後リビングに行くと、食堂からシスティナが手を拭きながら出て来て頭を下げてくる。
「おはよう、システィナ。今日もタオルとかの準備ありがとう」
「いえ、寝具の方も整えてありますのでお部屋の方も大丈夫ですから」
さすがシスティナ。後でシーツを洗濯に出して、ベッドメーキングをしようと思ってたんだけど先を越されたらしい。
「朝食の方も出来てますのでどうぞ」
「ありがとう。蛍と桜は?」
「はい、先ほど声を掛けましたので間もなくいらっしゃると思います」
システィナがそう言うのとほぼ同時に背後から何かがおぶさってくる。
「おはよう!ソウ様!あ~ん、やっとソウ様に抱き付ける~!」
「はは、おはよう桜」
背中にくっつく桜をそのままに振り向くと、そこにはちょうど蛍も到着していた。
「おはよう蛍。みんな揃ったし、まずは食事にしよう。せっかくのシスティナの料理が冷めちゃったら勿体無い」
全員で食卓に着くと、並べられた料理の数々に目を奪われる。
瑞々しいサラダ。白身魚のムニエル的なもの。スクランブルエッグ的なものに薄くスライスしたハム的なものが混ぜられたもの。朝から重くなり過ぎないように小さく整えられたサイコロステーキ的なもの。焼き上げられた3種類のパン。ドリンクもリンプルを使ったジュースに緑茶、緑茶から加工したほうじ茶、蛍さん用のお酒など数種が用意されている。
【的なもの】という表現が多いのは俺が料理をよく知らないのと、食事についてはシスティナに完全に依存してしまっているので、食材に対しての知識が全くないからだ。
ただ、フレスベルクは港町と川で繋がれているから魚介も入ってくるし、パクリット山という山もあるので獣肉も豊富に手に入る。塔があるので塔から溢れた魔物も多い。魔物の肉は日持ちしないものが多いが、食べられる物も結構あるので珍味としての魔物肉も豊富。南には広大な穀倉地帯が広がってもいるので食材には事欠かない。システィナが侍祭としての腕を振るうには最適な環境らしい。
楽しく歓談しながら朝食を終えると、全員で食後の緑茶を飲みながら今日の予定を相談する。
「今日はこの後、リュスティラさん達のところに行くけどその前にいくつか確認しておかなきゃいけないことがあるんだ。システィナ、申し訳ないけどあれを2つとも持ってきてくれる?」
「はい、ご主人様」
システィナが文句も言わず笑顔で席を立って出ていく。全然自分で行ってもいいんだが、それをやろうとするとシスティナが怒るから申し訳ない気はするけど仕方ない。
「シスが取りに行ったのって…」
桜の言葉に俺は頷く。
「うん、シャアズとシャドゥラが使ってた武器だね」
「うむ、シャドゥラが使ってた杖か…確かになかなかの力を感じる杖だったな」
「シャアズが使っていた大剣もなかなかやっかいな感じでしたわ」
「そうなんだよね。どっちもちょっと癖がある感じでさ。強い力を秘めてるのは間違いないんだけど扱いをどうしようかと思って」
そこへ大剣と杖を持ったシスティナが帰って来て2つの武器をテーブルの上に置く。
「お待たせいたしました」
「うん、ありがとうシスティナ。じゃあ、まずは俺が鑑定した結果を伝えると…」
『憎炎の魔杖(呪い)
ランク : C- 錬成値 ―
技能 : 火魔法増幅++
特殊技能: 他魔法使用不可(永続)
所有者 : シャドゥラ(死亡) 』
『巨神の大剣(封印状態)
ランク : C+ 錬成値 MAX
技能 : 頑丈(極)、豪力、重量軽減
所有者 : シャアズ(死亡) 』
「なるほど…呪いに封印か。確かに癖があるな」
蛍はどこか楽しそうに呟く。自分はどうせ使わないと思って絶対に面白がってるな、あれは。
「俺の考えとしては、杖の方は火魔法にかなりの補正が付くから桜に使ってもらうとのがいいかと思ってるんだけど」
「うん、桜は火魔法しか使えないし他の属性禁止されても構わないからいいけど…私達って武器装備出来ないよ」
「え!マジで!」
そういや、刀娘達は常に自分の刀を使って戦ってたから他の武器を装備させるという考え自体がなかった。
「そうだな、確かに作って貰ったクナイは装備出来なかった。人化しているとは言っても我ら自体が武器だからな…使うことは出来ても『装備』は出来ないのだろうよ」
「なるほどね。言われてみれば確かにその通りか…そうすると所有者登録が出来なくてシャドゥラの所有権を上書き出来ないのか」
「所有権の消去は【武器商人】か鍛冶系の技師なら出来ますので、今日リュスティラさんのお店に行った時にお願いすればいいと思います」
「へぇ、そうなんだ。確かに売られた武器の所有権を消せないと武器屋さんは転売しにくいか。じゃあ、所有権をリセットした後に装備出来なくてもいいから桜が持つ?装備しなくてもそれなりの効果は得られると思うけど」
桜は魔杖を手に持つとくるくると回したり、振ったりした後に首を捻る。
「武器としては使えないかなぁ。魔法のブースターとして背中に背負って、動きの邪魔にならないようなら持っててもいいかも」
「うん、じゃあ今日リュスティラさんの所に行くときに背負って確かめてみて」
「は~い」
で、次は…
「こっちもどうしたものかと思ってるんだけど…」
「確かに主殿が使うにはちょっと大きいかもしれませんわ」
「だよね、重さ的には重量軽減や、豪力がついてるみたいだから何とかなるけど、取りまわし的には二刀流に向かないんだよね。相手によって装備する武器を変えるとかは有りだと思うけど、常時使わないのにこれだけ大きいのを持ち歩くのもしんどい」
この大剣の長さはおそらく130~140㎝くらいある。このくらいの長さになると、腰に差しても抜けないし引きずるから持つなら背中に背負うしかない。こんなものを背負ったまま二刀流をするのは、はっきり言って無謀だろう。
「ご主人様。その、巨神の大剣について1つお伝えすることがあるんですがよろしいですか?」
「ん、いいよ。今はどんな情報でも欲しいから」
「はい。私の叡智の書庫からの情報ですが…どうもその巨神の大剣は主塔の主が落としたドロップ品のようです」
「え?」
確か、主塔ってこの世界に10本しかなくて、現在は3本まで攻略されてたはず。攻略されたのはどれも随分昔で最近では攻略できる目途が立っているような塔はないって話だったよな。
とするとシャアズはどこかでこの大剣を持っていた個人、もしくは管理していた村や街を襲ってこの大剣を手に入れたんだろう。
「塔は、主塔でも副塔でもそうですが塔主を倒すと必ず武器をドロップするという説が有力です」
「あ、確か…俺の獅子哮も副塔の塔主のドロップ品だって言ってたっけ」
「はい、そうですね。それで、お伝えしておきたいのはどうやら『巨神』と名の付く武器は主塔の主を倒した時に出る物らしいんです」
「ほう、それはつまり現状主塔は3つ攻略されているという話だったから『巨神』シリーズの武器がこれの他にあと2つあるということか」
「はい。『巨神の大弓』と『巨神の大槍』が確認されています」
つまり、残り7つの主塔を討伐した時にも『巨神』シリーズの武器がドロップされるということか。しかもどうやら武器の形態としてはそれぞれ別の物……有り得そうなのは斧、杖、細剣、格闘系、棍棒系、槌、投擲系とかかな。
「その2つもこれみたいに封印されているのかな?」
「それは分かりません。ただ、叡智の書庫からそのような情報は拾えませんので封印されていたとしても一般的に知られていないのは間違いないです。ご主人様の【武具鑑定】のスキルだからこそ分かったという可能性はかなり高いかもしれません」
「どうやら、武器のランク以上にレアな武器らしいですわね」
「ソウ様!その巨神シリーズ集めたら巨神が復活するとかないかな?」
うん、桜。そんな怖いフラグをワクワクした感じでさらっと立てるのはやめよう。ありそうでマジ怖い。もし邪神とかだったりしたら危な過ぎる。
「ふん、それはそれで面白い気はするが…そう簡単に主塔というのは討伐出来るようなものではないのだろう?その辺はあまり気にせずとも良いのではないか」
「そ、そうだよね。どっちにしたって売っ払ってしまうという選択肢はないな…」
レアな物らしいし、桜が言うような怖い効果があるかも知れないなら下手に市場に流すのは怖い。
「取りあえずうちで管理することにしよう。となれば、シャアズの報酬はもう貰ったし所有者登録は上書きしておいた方が良いか。いつまでもあいつの名前が残るのは気持ち悪いし」
見た目の割に軽い巨神の大剣を手に取ると、心の中で『装備』と念じる。
「うぉ!」
いつもなら、ひゅっ!と吸い付くような感じがして装備が完了するのに、今回は一瞬だけ何かが吸われるような感じがして、大剣が僅かに発光したので思わず声を漏らしてしまった。
「ご主人様!大丈夫ですか!」
俺の様子に何か普通じゃないことがあったのだろうと察したシスティナが心配して声を掛けて来てくれる。
だが、俺はその声に応える余裕はない。何故なら手の中の大剣の感触と感じる物に戸惑っていたからだ。その感覚はいつも感じているものと似て非なるモノ、だけど明らかに同種のモノだった。
「これは………魔剣だ」




