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魔剣師の魔剣による魔剣のためのハーレムライフ  作者: 伏(龍)
第3章

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82/203

外伝SS   シシオウの王者な一日 1 

『シシオウ 業 98

 年齢:29  

 職 :闘拳士

 技能:剣術

    格闘術

    回避

    体力回復速度補正

    運補正(弱)』 

 

「何度見ても名前が変わってやがるな…なよっとして大したことなさそうなくせに、あいつ何者なんだ?」


 シシオウは背負ったザック以外は手ぶらで街道を歩きながら自分の『窓』を眺めて呟く。


「ま、どうでもいいっちゃ、どうでもいいんだが」


 魔鋼製の手甲を嵌めた右腕で窓を叩き割ると、背負ったザックのズレを直す。ザックの中にはアーロンの街の冒険者ギルド、アーロン出張所で請け負った魔物討伐の討伐部位が入っている。


 最近、急速に広まり始めた冒険者ギルドはフレスベルクに本部を置き、塔のある街から優先的に普及し始めている。

 選択型の塔を管理している街アーロンにおいても、本格的な稼働はまだ先だが依頼の受注と発注、素材の買取だけは仮店舗で既に開始していた。

 登録に関してはまだフレスベルクでしか出来ないため、登録のためのツアーのようなものを企画し、1日に1回転送陣を使用して登録希望者を連れてフレスベルクと往復している。その際の転送陣使用料はなんとギルド持ちである。


 シシオウは既にフレスベルクで登録を済ませた冒険者であり、アーロンで塔に入ったり依頼を受けたりしていた。そして今は、今朝受けた魔物の討伐依頼を終えて街に帰るところだった。


「まさか今更俺が、こうして堂々と外を歩くことが出来るようになるとはなぁ…」


 青い空を仰いで欠伸をするシシオウの顔は前に比べると若干だが険が取れ穏やかになったように見える。


 シシオウは昔、というかつい最近までディアゴという名前で『赤い流星』という大盗賊団の幹部をしていた。

 しかし先日、あることをきっかけに盗賊家業から足を洗うことになり、ディアゴだった時に持っていたものは名前すら全て捨て去り、シシオウとして生きていくことを選んでいた。


 その際に冒険者ギルドへの登録を勧められ、言われるがままに登録をしたシシオウだったが、これが思った以上に有難い組織だということを僅か数日で実感していた。


「これを渡して依頼を完了すれば金貨1枚、ついでに狩った魔物共の素材を売れば大銀貨数枚…か。選り好みしなければ依頼には困らねぇし、買取で無駄な交渉も必要ないから足元を見られることもねぇ」


 今までは魔物を狩って稼ぐためには、魔物の情報を集めて向かい、倒して素材を剥ぎ、街で各素材を必要とする店に交渉して売るのが当たり前だった。

 だが、このやり方では魔物を探すのにも時間がかかるし、倒して素材を持ってきても相手が買取を渋って値段を下げられたりするので、労力の割に実入りが少ないことも多いためあまりやろうとする探索者はいない。


 だが、冒険者ギルドなら魔物の出現情報などを集約しているし、魔物の被害に困っている人たちからの依頼も舞い込む。これを受ければ倒すだけでまとまった報酬を得られるし、魔物の素材も若干安めの買取額ではあるが、極端に買い渋られるようなことはなく安定して売ることが出来る。


「要は俺の腕一本で幾らでも稼げるって訳だ。確かにこれは便利だぜ。この街には選択式の主塔もあるしな。しばらくはがっつりと修行させてもらうか」


 シシオウは見えてきたアーロンの街を見て獰猛な笑みを浮かべるのだった。









「はぁ!なんで俺がそんな依頼を受けなきゃならねぇんだよ!?」


 バン!と仮設カウンターを叩くシシオウの剣幕にも冒険者ギルドの笑う受付嬢の笑顔は全く揺るがない。昔はベイス商会というところの受付嬢の専売特許だったが、ベイス商会から派生した冒険者ギルドにもその精神が受け継がれているようだ。


「フレスベルクの本部より各出張所へ通達が回っています。『シシオウという冒険者が来たら優先的に盗賊討伐等の依頼を斡旋するように』と」

「ぐっ!…あの野郎の仕業か!ってこれって盗賊が悪さしていると知っちまった以上、断ると俺の命が危ないじゃねぇか!」


 シシオウは脳裏に浮かんだ軟弱な顔の男とその侍祭の顔、そして想いを寄せる女の顔を思い浮かべて舌打ちをした。


「くそっ!わぁぁったよ!やるよ!やってやる!受注してやるからさっさと処理しろや!後、盗賊団の規模とアジトの場所!もし分かってねぇんなら今までの活動範囲と被害、付近の地図も寄越せ!」

「受注ありがとうございます。ではギルドカードをお預かりいたします。その間にあちらの部屋で今回の依頼に関する資料の方をご覧ください。申し訳ありませんが持ち出しは禁止させて頂きます」


 シシオウの乱暴の物言いにも笑う受付嬢は至って丁寧である。荒くれ者が多い冒険者を相手にするには最適な人材かもしれない。


 渋々と別室に移動していくシシオウは、盗賊から足を洗う際に違反すると強制的に罰を与えられるという侍祭のスキル『契約』によって【自身は決して盗賊行為をしない。もし盗賊行為を行う者があれば見逃したりはせず退治するために最善を尽くす。世間一般で悪事に分類されるようなこともしない】という契約をしているためこれに違反することはできない。

 契約を結ぶに至った経緯も考えると違反した際には命の危険まであり得るからだ。


「いいさ!やってやる。盗賊共をぶち殺して俺の糧にしてやればいいだけのことだ。魔物相手に戦うだけじゃ経験が偏るからな!」


 完全に負け惜しみだった。








「ち!てんで手応えがねぇ!」


 あれから1日かけて情報を精査し、自らの盗賊時代の経験なども駆使し、盗賊の規模とアジトの位置に目途をつけてわざと深夜につくように街を出た。


 シシオウが与えられた情報で、盗賊達の活動範囲や被害の程度などを調べた結果、せいぜいが10名程度までの盗賊でしかも腕利きを抱えていないだろうということまで推測が出来ていた。


 それでも念のために深夜に急襲することにして訪れたアジトと思われる洞窟で、推測通り盗賊達を見つけたシシオウは何の躊躇いもなくアジトに突撃した。

 すっかりと油断しきっていた盗賊達は、ろくな抵抗も出来ずに洞窟から出てきた順に瞬く間にシシオウに撲殺された。


 強者との戦いを求めるシシオウにとっては全く面白味のない仕事だった。


「別にこんなチンケな盗賊団が持ってるモンなんかいらねぇんだがな」


 それでも討伐を証明するためには盗賊達の武器と宝をなるべく持ち帰って欲しいと言われている。


 外で倒した盗賊達の武器をひとまとめにした後、アジトの洞窟の中へおもむろにどかどかと入っていくと洞窟の隅に木箱が1つ置いてある。大きさ的には一抱え程で大した大きさではない。


「まあ、この程度の規模ならこんなもんだろ」


 シシオウは洞窟内に燻っていた焚火の明かりで箱の中を確認し、現金や宝石、観賞用の短剣などが下の方に入っているのを見て呟く。

 この箱が溢れるくらい入っていれば大層な額になるのだろうが、この規模での盗賊ならこの程度だろうとシシオウには予測が付いていたらしい。


「ま、こんだけ余裕がありゃ、外の武器も突っ込んで帰れるか」


 ガタッ


「誰だ!」

「ひ!」


 シシオウが身構えて誰何(すいか)するが誰かが襲い掛かってくるような気配はない。舌打ちをしたシシオウは火種を持って声がした方へと歩いていく。


「やっぱりか…お前、どこから攫われてきた?」


 灯りに照らされたところに蹲っていたのは半裸の女性だった。年齢は20歳前後、青みがかった長い髪をくしゃくしゃにしているが顔立ちは整っている。そして何より両手で隠しているが明らかにはみ出している胸が特徴的だった。


「わ、わかりません。私は森の中の村で暮らしていたのですが…薬草取りの際に魔物に襲われて必死に逃げている間に…」

「迷子になって彷徨っている内に攫われたパターンか?」

「いえ、その時は親切な方に見つけて頂き、ひとまず街に連れって行って頂いて村を探して頂ける予定でした。ですが、先に大事な取引があるとかで不思議な石を経由して色んな街を巡って、私も村の外は初めてだったので一緒について回って…」

「かぁ~!転送陣経由してんのかよ!しかも複数!更に田舎者で地理も知らねぇだと?もうその商人がいないと村の最寄りの街とかわかんねぇぞ」


 頭をがしがしと掻きながらシシオウが愚痴る。


「あの、私を助けてくれた商人の方は先日ここにいた人達に…」

「終わったな…」


 シシオウは小さく呟くと、女を置いて箱に戻り、箱を担いで洞窟を出ようとした。


「が!…いてぇ!…ちょ、ちょっと待てや!この女を置いていくのも契約違反だってのかよ!」


 突如胸を襲った激痛に思わず膝をついたシシオウはその痛みの原因をすぐに契約違反の罰則だと理解する。


「いてぇ!いてぇ!分かった!分かったよ!あの女を連れて帰ってなんとかすりゃいいんだろうが!」


 シシオウがやけくそで叫ぶと胸の痛みが嘘のように引いていく。


「あの…大丈夫でしょうか?」


 どこかボーとした感じの女が心配そうにシシオウに声を掛ける。


「くそ!…こんなことになるんならあんとき戦って死んどきゃ良かったぜ!」


 立ち上がって箱を担ぎ直したシシオウは、盗賊達が寝るのに使っていたらしいその辺に落ちていた布を女へと投げる。


「取りあえず街までは連れて帰る。その後は好きにしろ!」

「あの…」

「なんだ?」

「私は世間知らずなことに自信があります。街で放り出されたらまた同じようなことになるのが目に見えてますが…」

「…くぅぅぅ!っくしょう!」


 布を身体に巻き付けながら淡々と事実を述べていく女にシシオウは今度は箱を投げ出し両手で頭を掻きむしる。


「ああ!分かったよ。お前が1人でやっていけるようになるか、ちゃんとしたところに落ち着くまで俺が面倒みりゃいいんだろ!こんな男と一緒にいるんだ。何されても文句言うんじゃねぇぞ!」

「はい、申しません」


 にっこりと微笑む女にシシオウは盛大な溜息を吐く。


「お前料理は出来るか?」

「はい、得意です」

「そりゃよかった。俺はシシオウだ」

「私はトレミと申します。よろしくお願いいたしますシシオウ様」



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