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魔剣師の魔剣による魔剣のためのハーレムライフ  作者: 伏(龍)
第3章

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SS  幸せな日


 目の前には広い空間が広がっていた。

 これまでいろんな塔を昇って来たが、1階層ぶち抜きになっている階層に来たのは初めてだった。

 これだけの広さの空間に柱が一本も無いのは違和感ありまくりだが、不思議空間の塔内なので文句を言っても仕方がない。


 そんな場所で俺達は今、自分達の準備をしながらこの階層の主が現れるのを待っている。 


「まさか塔の中でレイド戦闘をする破目になるとはな…」

「はい。でも仕方ないですよご主人様。ここまで登って来たのはご主人様が初めてなんですから」


 実は俺達がここに来るのは初めてじゃなかった。数日前に一度いつものパーティでここまで到達していた。

 だけどここにきて出て来た主を見た瞬間そうそうに討伐を諦めてすぐに塔を脱出していた。なぜなら……


「お?そろそろ出てきそうだぞソウジロウ」

「了解、蛍」


 目の前の空間。その奥にいつの間にか無数の影が産まれつつある。あの影の1つ1つが高階層に相応しい力を持つ魔物である。

 そう、この階層の主は複数。いや、複数というだけなら今までもあった。ここでは複数なんて言うのもおこがましい程の数が出てくる。魔物達は言うなれば『軍勢』だった。


「みんな聞いてくれ!もうすぐ魔物達が襲ってくる!だが俺達なら勝てる!

 絶対に誰一人として欠けることなくこの階層を攻略するんだ!死ななきゃうちの侍祭達が治してくれる!

 だから無理してもいいけど危ないと思ったら必ず後退して治療を受けてくれ!」

「当たり前だ!お前に巻き込まれて死ぬなんて馬鹿らしい!最近やっとアーリがデレてきそうな雰囲気になって来たってのによ!」


 ………


「いいか!もう一回言うぞ!危ないと思ったら必ず後退するんだ!トォル以外は必ず治してやる!」

「おぉい!!俺が抜けてるじゃねぇか!」


 トォルの叫び声は完全スルーする。


「ソウ様。向こうの配置が終わったよ」

「お?ありがとう桜。今回も頼むよ。いつも無理難題ばっかりで悪いけどさ」

「ん、もう水臭いよソウ様」

「はは…確かにね。信頼してるよ」


 俺は2刀を引き抜くと前に出て魔物達の影を見据える。その後姿を見て俺の背後に控えている仲間達が武器を構えるガシャガシャという頼もしい音が聞こえる。


 ギィ ギィャ ギィ 


 魔物達も動き出すようだ。よし!俺達も行くか!


「行くぞ!」

「「「「「「おおおおおおおおおおお!!!!!!」」」」」」


「まずは先鋒!新撰組1番斬込隊!蛍!正面からぶつかり勢いを止めろ」

「承知した」


 蛍が自分の隊を率いて走っていく。身軽な者を集めたその隊はまさに抜身の刃のようだ。その先頭を黒髪を靡かせて走る蛍のその後姿はいつだって頼もしい。


「新撰組2番強襲隊!――!1番隊が勢いを止めた後に入れ替わり突き崩せ!」

「おうよ!任せとけ!」


 ――が重装備に身を包んだ一隊を率いて蛍さんの1番隊の後を追う。しなやかな筋肉に包まれた大柄なその姿は精神的な頼もしさよりも視覚的な頼もしさを感じさせてくれる。


「新撰組3番遊撃隊!――!右翼の敵に当たれ!」

「僕にお任せ!」


 職人肌の――はその小さな身体と大きな胸からあふれんばかりの元気をいっぱいに放ちながら隊を鼓舞して右翼へ走る。その明るさに何度癒されてきたことだろう。


「新撰組4番弟子隊!トォル!左翼に当たれ!しくじったら殺すぞ。隊士達はヤバいと思ったらすぐに副隊長のアーリかフレイの指示に従えよ!」

「「「はい!!」」」

「おい!お前ら!なんで俺が返事する前にこれ以上ない程の良い返事しちゃってくれてんだ!」

「はいはい、行きますよ隊長」


 隊士に引きずられるようにトォルが左翼に向かう。トォルは…まあどうでもいいか。アーリとフレイが苦笑しながらこっちを見て片手を上げているので気を付けろよと頷き返しておいた。


「新撰組5番魔獣隊!葵!前線の後ろに待機して後詰に回れ!戦況を見て魔獣隊を援護に投入!」

「お任せくださいませ、主殿!」


 雅な葵が異形の隊士を引き連れて走っていく。今となってはあの魔獣達もうちの家族みたいなもんだ。平時は屋敷の警護を完璧にこなしてくれる。葵は最年長の刀として蛍とは違った意味で皆をまとめてくれる頼れるお姉さまだ。


「新撰組6番魔法隊!――!敵の後衛部隊に各種魔法を打ち込め!味方には絶対に当てるなよ!」

「ソウジに当てるのは有り?」

「無しだ!無し!そんなツンデレはいらないよ!」

「ん…残念」


 ――は心底残念そうな顔を見せるがすぐに隊士に指示を出して呪文の詠唱に入る。あの子はベッドの上ではとても貪欲で素直に可愛いんだが…だけどあの危険思想と妄想力が魔法の才能に繋がってると思えば仕方ないか。


「新撰組影番隊!桜!戦線をかき回しつつ敵の指揮官クラスを消せ!いつも言うが無理はするな!チャンスがあればでいい!」

「了~解!ソウ様のために頑張っちゃうよ」


 それだけ言い残して姿を消す桜とその隊士達。影番隊は桜が完全管理する特殊部隊だ。

 入隊試験も桜が行う。だから数は少ないが桜の動きに曲がりなりにも付いていけるだけの精鋭部隊である。


「近衛隊と親衛隊はこの場で待機、場合によっては隊を分けて援護に行ってもらう。怪我の治療で出る時は親衛をつれてシスティナが、戦線への投入の場合は近衛を連れて――が出る。気を抜くな!」

「「はい!」」

 

 俺の両脇には2人の侍祭がいる。1人はこの世界で初めて出会った人間システィナ。本当にたくさん助けて貰った。家族以上の仲間だ。システィナがいなければ俺は多分この世界にきて2、3日で死んでいたと思う。その後も何度も命を救って貰ったし本当に感謝をしてもしきれない。


 そしてもう一人の侍祭――。彼女を仲間に出来たことも俺達にとっては大きな転機だったと思う。彼女のユニークスキルがあったお蔭でどれだけ俺達は助けられたか分からない。


「皆さん凄いですね。数では劣ってるのに圧倒してます」

「皆は俺の自慢だよ」

「違いますよご主人様。ご主人様が皆さんの自慢なんです。ね?――」

「はい。システィナ様の言う通りです」


 はは…なんて、なんて嬉しいことだろう。自分らしく好きに生きて、そしてそんな生き方を周囲が認めてくれて慕ってくれて、必要としてくれる。

 こんなに心躍ることはない。こんなに嬉しいことはない!


「システィナ!なんか無性に暴れたくなってきたよ。行っちゃっていいかな?」

「ふふふ…ご主人様ならそう言われると思いました。私が付いていきます」

「ありがとうシスティナ。よし!行こう」


 俺は走り出す。前へと。後ろでシスティナが――に後事を託しているのが聞こえる。


「待ってくださいご主人様!」


 俺は走る。前へ。


「主殿。やはり来てしまわれたのですわね。一狼、後の指揮は任せますわ」


 ガウ!


 走る!前へ!


「あ~ソウ様、また突っ込んでる。せっかく中隊長クラスを仕留めた報告に行くとこだったのに。あ、桜はソウ様に合流するから後は予定通りにね」

「「「はい」」」


 魔物が見えてくるが怖くはない。俺には皆がいる。だから走れる。前へ。


「ふん、やはり来たなソウジロウ。よし!1番隊は2番隊の指揮下に入れ!」


 気づけば初期のメンバーがいつの間にか俺の周りにいる。かけがえのない仲間であり妻であり家族。俺は…俺はこの世界に来て本当によかった!神様ありがとう!


 俺は全身を駆け巡る幸福感に身を打ち震わせながら魔物の群れの中へと斬り込んで行った。












「……………ま、……………様、………人様、ご主人様起きて下さい」

「ん?……あぁ、おはようシスティナ」


「どうされたんですかご主人様。随分と嬉しそうな顔をしてお休みでしたが?」

「え?…あ、あぁ、なんか…凄く楽しい夢を見てたみたいだ」


「ふふふ…そうなんですか?よっぽど良い夢だったのですね。あんな顔をして眠るご主人様は初めて見ました」

「そう?…うん。でも本当に幸せな夢だった気がする。うまく思い出せないけどね」


「それは残念ですね。是非どんな夢か聞きたかったです」

「うん、思い出したら教えるよ。きっとシスティナにとっても良い夢な気がする。それよりなんだっけ?」


「はい。よくお休みでしたので起こすのは申し訳ないと思ったのですがお食事の準備が出来たので…」

「そっか。そう言えばお腹がすいたなぁ」


「ふふ…じゃあ行きましょう。皆さんももうお待ちですよ」

「うん、行こう」


 差し出されたシスティナの手を取ってベッドを出る。

 システィナの背中を押すように部屋を出て扉を閉める前に部屋を振り返る。ああ、俺は帰って来たんだな…


「ご主人様?」

「あぁ。今行く」


 風に揺れるカーテンを見て何故かそんなことを考えた俺は小さな声で「ただいま」と呟き扉を閉めた。

あくまで主人公の夢の話ですので、今後登場する人物と一致しない人もいます^^;

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