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魔剣師の魔剣による魔剣のためのハーレムライフ  作者: 伏(龍)
第3章

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絶体絶命

「はぁ、はぁ…2人とも大丈夫?」

「は…はい。ま…だ…行け…ます」

「も、問題…ありま…せんわ」


 威勢のいい言葉とは裏腹に俺達は疲労困憊していた。体力的に限界が近いこともあるし、それぞれ二桁近い盗賊達を屠って来たことで無傷という訳にも行かず所々負傷もしている。


 システィナの回復術をかけて貰えば簡単に治るような傷ではあるがまだ動けるうちは魔力を使わないように伝えてある。本当にやばい怪我をした時に魔力がなくて治療出来ませんでは困るからだ。その代わりとしては弱いが各自に回復薬をいくつか持たせてある。


「薬はまだある?」

「私は…あと1つです」

「わたくしはま…だ3つありますわ」


 うっ…それぞれに3つずつ渡したのに既に無いのは俺だけか。しかも無くなってから結構経つ。こんなところにまで実力の差が明確に出るのか…

 自分の実力は分かっているつもりだがちょいちょい突きつけられる現実はやはり苦い。


「主殿。わたくしの物を2つお持ち下さい」

「……分かった。有り難く貰っとく」


 なんとも情けないがここで変な意地を張っても仕方ない。葵から丸薬を受け取るとポーチにしまう。

 

「また来ます!」

「分かった!」


 俺達の激しい抵抗に遭い次々と斬られていく仲間達を見て気圧された盗賊達の勢いが止まった時の僅かな時間のやりとりだ。


 俺達が息を整える暇もなくすぐに仲間達の屍を踏み越えてまた盗賊達が襲い掛かってくる。しかも今回は死体が邪魔になるのを見越して槍を持った盗賊達が遠目から攻撃を加えてくるという念の入れようだ。

 どうやらこっちが安否確認をしている間に敵さんも作戦を練り直していたらしい。 


「くそっ!…単純だけ、ど!嫌な攻撃を」


 突き出されてくる槍を閃斬で防いだり斬り落としたりしてなんとか対処するが、攻撃に対する対処は出来ても盗賊自体に攻撃が出来ないため数を減らせない。

 敵は代わる代わる槍を持った者が入れ替わり、常に俺達を攻撃し続けるようにしているので一方的に俺達だけが疲労して傷を負っていく。


「そうだ!相手を休ませるな!無理に近づく必要はない!槍で突いているだけでいずれ力尽きるはずだ!」


 あの声はパジオン……あの野郎が降りてきて現場で指揮を取り出したのか。だから盗賊達は俺達が嫌がる攻撃を的確にしてくるってことか。いちいちオーバーキルな無駄の多い策を立てる微妙な頭脳の持ち主だがやっぱりいると面倒くさい。


「主殿、このままでは駄目ですわ!一度相手を乱さなくては」

『葵!ちょっと喋るのしんどいから共感でざっくり伝えるけど魔力はあとどのくらいもつ?』


 今、これ以上息を乱すと動けなくなりそうなので『共感』スキルで葵に話しかける。共感だと言いたいことは感覚でしか伝わらないから多分葵は『葵・魔力・残は?』くらいのイメージで伝わっているはずだ。


『そうですわね。わたくしも人化したばかりで慣れてなくてまだ魔力効率が悪かったので……

 多分大きめの魔術を1回使ったら後は小技程度のもので精一杯だと思いますわ』

『分かった。じゃあ、全周囲に向けて魔術を頼む。その隙を突いて3人でシスティナ側の囲みを一旦突破しよう』


 一度この囲みを抜けて仕切り直せば相手が再度同じ陣形を組むまで余裕が出来る。そして陣形を組もうとしている間にこっちから斬り込んで相手を混乱させればいい。実際にそれだけの動きが出来るだけの体力がのこっているかどうかはまた別の問題だ。


『承知しましたわ。ではシスティナさんの正面だけ残して全周囲に土魔術を放ちます』

『了解』


 葵の『意思疎通』スキルでの思念を受けて俺は了承の意を返す。どんな魔術かまでは分からないが葵ならきっと最適な魔術を使ってくれるだろう。


 この作戦がうまく行かなかったら正直もう打つ手はほとんどない。俺自身に切り札が無い訳じゃないがこの状況では使ってもあまり意味がない。

 他にも幾つか布石を打ってはいるが今のこの状況をすぐに打開出来るようなものはない。そもそも役に立つかどうかも分からないままもしかしたら役に立つかもというような布石がほとんどである。


「システィナさん。合図したら一度囲みを抜けますので正面に走って下さい」

「は……い!」


 さすがのシスティナもさすがに疲れてきている。なんとかここで立て直さないと。


「いきますわ!『土術:山嵐』」


「うぎゃぁ!」

「なんだいきなり地面から!」

「いてぇぇぇ!!」


 グッジョブ!葵!

 今、葵が使った土術は俺達の回りに外向きにいくつもの土の錐を地面から生成するというものだ。葵なら魔力そのものを操作して土に変えることも出来るはずだが元からあるものを使った方が魔力消費が軽いらしいので今回は土術を使ったのだろう。


 しかも錐の向きを外側に向けている辺りはさすがである。長くは保たないだろうが、これなら俺達に対する防壁としても機能する。一点突破でここを脱出する間くらいはなんとかなるはずだ。


「走って下さい!!」


 葵の声が響く。システィナが掠れた声で『はい!』と応えて走り出す。その後ろを葵が続く。よし!俺も行くか。山嵐の内側にいて動揺している最後の1人を閃斬で斬り捨て振り返るとシスティナの揺れる後ろ髪と葵の白いうなじを見ながら2人を追う。 



 

「あ…」…れ? 何で地面が目の前に?システィナの髪は?葵のうなじは?




「ソウジロウ様!!」

「主殿!」


 ああ…そうか。

 思いがけず地面と強烈なキスをした余韻で一瞬麻痺していた思考が再起動する。


 …ぐ!ぅ!いてぇ。

 

 左のふくらはぎに強烈な痛みを感じて地面を擦りながら顔をそっちへ向ける。視線の先では俺のふくらはぎがちょっと引くくらいにぱっくりと裂けてどくどくと血を吹いている。

 慌ててポーチから取り出した回復薬を囓るが、ここまで傷が深いとさすがに気休めにしかならない。


 …くっそ!死体だと思っていたモノの中にまだ生きているやつがいたのか。既に事切れているらしいが最後っ屁のくせに会心の一撃…敵だから痛恨の一撃?をかましていきやがった。


 俺が倒れた音に気が付いた前の2人もせっかく突破しかけていた囲みをそのままに戻ってきてしまう。駄目だ!戻っちゃだめだ!今度囲まれたらもう本当に…


「駄目ですよご主人様。あなたがいなければ私達も生きていけないんですから…足は今治しますのでじっとしていて下さい」

「そうですわ主殿。『皆で帰る』そう約束したではありませんか」

「…そうだったね」


 力なく微笑む俺に比べて2人の笑顔はまだ諦めていない。ならば足を引っ張った俺がいつまでもしょげてる場合じゃない。正直厳しいという認識はあるが最後まで足掻いてやる!


「葵さん、入り口を頼みます」

「了解ですわ!」


 俺達が突破しようとしていた部分だけは土の柵が無いため敵の侵入を防ぐために葵が立ちふさがる。だが、周りの柵も所詮は土。今もガンガンと土を砕く音が聞こえてくるので遠からず盗賊達が乗り越えてくるだろう。


 だが一斉に乗り越えてくる訳じゃないと思うからそいつらを各個撃破していけばまだ戦える。


「システィナ。とりあえず動ければいい。傷さえ塞いでくれればさっき飲んだ回復薬でなんとかなる」

「はい」


 よくよく見ればシスティナも所々に傷があって装備が血に濡れている。1人の戦いなら回復術を用いた自動回復オートヒールで傷なんか負わずにすむのに俺達の為に魔力を温存してくれているから深刻じゃない傷はほったらかしだ。


「もう少しだけ頑張ろう」

「はい。そこまで頑張ったらあともうちょっとだけ頑張ります」

「……はは、じゃあ俺はその後ほんのちょこっとだけ頑張るよ」

「ふふ…ならまだまだ大丈夫ですね」

「ああ。ありがとうシスティナ」


 システィナの肩を借りて何とか立ち上がり左足を動かしてみる。…うん、動く。

 完全に腱とか斬られてたっぽいのにちょっと引き攣る感じはあるけど思い通りに動かせる。回復術凄すぎるな。


「葵は大丈夫?」

「はいですわ。さすがにここから入ってくるお馬鹿さんはいないみたいですし」


 確かに出入り口が1つならそこから入れば狙い撃ちされるだけだ。相手の混乱が収まった今、こちらから出る場合も同じ事が言えるのが辛いところだが。


「じゃあ、乗り越えてくる奴らを1人ずつ片付けていこう」

 

 俺達は今後の方針を確認して頷き合うと武器を構えつつも体力の回復に努める。


「いいか!まだ行くな!全ての障害を壊してから一斉に掛かるんだ!落ちている槍を拾え!柵の上から槍で削って無闇に近づくな。

 少しずつで良い!手柄を焦るな!確実に仕留めるんだ」


 ……マジであいつ嫌い。チョーうざいんですけど。…っていうかやばい!


 パジオンの指示に従って葵が作った山嵐の錐の先端を半分ほど削った盗賊達が次々と錐に登ってくる。その距離直線にして3メートル程度、錐の上にいるため地上約50センチの位置でぐるりと周りを囲まれる。前衛は全員が槍装備。俺達が脱出するための出口だった部分にも槍を持った盗賊が待ち構えている。

 俺達が囲みを抜けるための葵の魔術が完全に俺達を閉じ込める檻に早変わりしてしまった。それもこれも俺がドジを踏んだせいか…



「ごめん、2人とも。もうこの状況をひっくり返せるだけ作戦も手札も俺にはない」

「謝らないで下さいご主人様」

「でも、後はひたすら戦うしか…」

「あるではないですか主殿。そんなに立派な作戦が」


 システィナ…葵…


「……だね。3人いるから1人で25人ずつくらい倒せば俺達の勝ちだ」

「さすがですわ主殿!完璧な作戦ですわ!」

「ふふふ…私も良い作戦だと思います」


 本当に馬鹿な嫁達だ…ちょっと眼から汁がとめどなく溢れそうなレベルだ。


 





 結論から言うと……


 やっぱり1人で25人は無理だった。遠巻きに槍を突いてくる盗賊達を相手に俺達はタイミングを見て間合いを詰めたり、不利を装って誘い出して仕留めたりしながら奮戦した。あの状況からでも多分10人以上は仕留めたはずだ。


 だが体力の消耗と人数の差に加えて慎重過ぎるほどの相手の戦い方に俺とシスティナの傷はどんどん増えていった。そしてそんな俺達を守るべく葵も奮闘してくれたが2人もかばって戦えば防御するので手一杯になり攻撃は出来ない。

 しかも運動量は自分1人を守る場合に比べて倍以上になるだろう。刀としての戦闘技術から大きな傷を負うことは無かった葵だが時間と共に動きは鈍くなっていった。



 そしてとうとうその時が来てしまった。



 3本の槍を相手にしていた最中さなか、疲労と左足の違和感から膝が抜け体勢を崩した俺に迫る3本の槍をシスティナが身体ごと飛びついてきて庇ったんだ。

 幸い勢いがあったため2本はかすっただけだったけど1本はシスティナの背中、左肩の辺りに深々と突き刺さっていた。


 それを見た俺は頭が真っ白になり「かひゅ…かひゅ」しか言えなくなっていた声帯を怒りで震わせた。


 狂戦士バーサーカーのようにシスティナを刺して槍を手放していた盗賊に襲いかかって首を斬り落としその勢いで隣にいた盗賊を袈裟斬りにした。


 俺の常軌を逸した姿に恐怖を感じたのか一旦下がった盗賊達を見てシスティナの下に戻るとすぐにポーチから最後の回復薬をシスティナの口に含ませた。

 だが、システィナは疲労と傷のショックからか一時的に意識が落ちているらしく薬を飲み込まない。

 仕方なく一旦薬を取り出し囓って薬草の殻を噛み砕き中の薬と混ぜ合わせるとそれを口に含んだままシスティナの口へと運び流し込む。飲め!飲んでくれ!……よし!飲んだ!


 だがなんとか回復薬を飲ませたところで状況は変わらない。


 じりじりと槍を向けてくる盗賊達を前に俺は最後の抵抗として疲労で座り込む葵と意識のないシスティナを自らの内に抱きかかえた。


 絶対俺より先には死なせない!もう俺の頭の中にはそれしかなかったんだ……

 俺の意識のある限りこれ以上2人を傷つけさせない。それだけを考えて2人を力一杯抱きしめて身体を貫く槍の感触を覚悟した。









「よく頑張ったな、ソウジロウ」

「やっぱりソウ様は誰よりも格好良いよ」


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