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魔剣師の魔剣による魔剣のためのハーレムライフ  作者: 伏(龍)
第3章

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大火球と灰色狼

「主殿、見事な戦いでしたわ!」

「はは…ありがと。葵もさすがだね」


 背中に葵からの賞賛を受けながら襲い来る狼を撃退していく……数が減ってきたせいかちょっと余裕が出てきた気がするので周囲にも気を配る。

 するとちょうど後ろでシスティナが熊を倒したようなので後はアッシュウルフと取り巻きの狼数頭と他の2頭よりも若干大きめな個体の熊が1頭。後は空を旋回しつつ隙を窺っているニードルホーク。

 それらとは別に少し離れたところで伏せている狼達が10頭ほどいるがこいつらは葵のおかげで戦意喪失済みなので数には入れなくていいだろう。


「ようやく魔物達の勢いが衰えてきたね」

「はい。ですが一番手強そうなのがまだ残っていますけど…」


 俺の言葉に答えてくれたシスティナの声が少し弾んでいる。さすがにこの状況で戦い続けるのは厳しかったか。俺も多少の疲労感が出てきてはいるけど酸素濃度が高いこの世界では疲れにくい身体なのでまだ保っている。


 ……ちなみにこの世界では酸素が豊富なので火が良く燃える。桜ちゃんの火魔法が派手で高威力だったのは桜ちゃんの力ももちろんだけど、そういう理由もある。


 だから屋外でしかも木々が多いところで火魔法の得意な魔法使いが時間かけてマジで呪文唱えちゃったりするとああいうことになったりする。


「まずい!葵!システィナ!対魔法防御!」

「「はい!」」


 俺の叫びに一瞬視線を巡らし、俺と同じモノを見た2人は即座に返事をする。

 確かにあれはひと目みただけでやばいのが分かる。俺達が魔物達に四苦八苦している間にシャドゥラが時間をかけて唱えた大魔法なのだろう。高台の上のシャドゥラが掲げた両手の上に直径3メートルから5メートル程の火球が浮かんでいた。なんという元気○。あれは正義の心を持つ人にしか使えない技なんだからお前みたいな悪党が使うなと言いたい!


 だが、確かに火魔法が得意だと言うだけのことはある。あれが俺達の辺りにぶち込まれて爆発したら俺達だけでなく周囲の魔物達も無事ではすまないだろう。 ていうか多分高台の下にいる生物は生きていられない可能性が高い。たった3人相手を殺すのに自分たちの従魔ごと焼き尽くすような大火力をぶつけてくるなんて何を考えてるんだと声を大にして抗議したい。


 とにかく爆発させずに防ぐとなれば着弾する前に対処するしかない。火属性なら水属性をぶつければある程度相殺出来るはず。水蒸気爆発とかされたら泣くしか無いけどね!


「あれだけの火球となるとちょっとしんどいかもしれませんわ。なるべく近くに寄って下さいませ!『水術:多重水流壁』」


 葵が魔力操作で産み出した水の壁を5重にして展開する。おぉ!安心感が半端無い。さすが自分で頼れる女だと豪語するだけのことはある。 

 俺とシスティナは葵に接触するくらいまで近づいて壁の裏側に身を潜める。その間に魔物達に襲われるかとも思って警戒していたが魔物達もあの火球には脅威を感じているらしく怯えて動きが取れなくなるか既に逃げ出しにかかっているらしい。


 くぅぅぅ…ん


 ん?なんだ?……あ。

 葵が心を折った狼たちが怯えたまま完全に硬直状態に陥っている。このままだと間違いなく巻き込まれる。

 シャドゥラの魔法は更に大きさを増し、そろそろ発射直前という感じである。おそらく放たれるまでそう時間はないだろう。もう充分な威力だろうに念の入ったことだ。


「ご主人様!アッシュウルフが!」


 システィナの声に振り向くとアッシュウルフがこちらに向かって疾走していた。


「馬鹿!こんな時でも命令通りに動くのかよ!」


 慌てて閃斬を構えるがアッシュウルフの視線は俺達からは僅かに逸れているっぽい。なんだ?何がしたいんだあいつ。


 ガルゥ!!


 キャン!キャン!


 アッシュウルフが怯えて動けない狼たちの尻を蹴飛ばしている?蹴飛ばされた狼は鎖から解き放たれたように逃げ出している。

 あいつ……自分の部下達を逃がしているのか?


「主殿……」

「なに葵?」

「……………いえなんでもありませんわ」

「行ってください葵さん!ご主人様は私が守ります!」

「システィナさん?」

「そうか…いけ!葵。あいつらはお前が従えたも同然だ。魔物ですら自分の部下のために奔走しているのに俺達が見捨てる訳にはいかないだろ!」

「ですが、あれを防ぐにはわたくしの『いいから行け!葵!』…はい!」


 葵が走り出す。自分が心を折った狼たちを守りに。分かってるそんなの馬鹿らしいことだって。魔物と人間である俺達の命。天秤にかけることすら間違ってる。

 だが、ここであいつらを見逃したら盗賊共に負けた気がする。そして、魔物であるあの灰色狼にすら負ける気がしたんだ。そんな俺達を蛍さんは褒めてくれるだろうか……いや逆に叱られるはずだ。

 だから、やってやる!



「葵!水流壁をお椀型にしてもっと上空で火球を受けさせろ!その後は自分たちの防御に集中!」

「はいですわ!主殿」


 狼たちの下に走りながら葵が叫ぶ。


「システィナ!」

「はい!水魔石を3つ使わせていただきます」


 俺の声に応えてシスティナが腰のポーチから魔石を取り出す。システィナ用に準備していた切り札の1つで葵の錬成とは別に4属性の魔石を数個ずつ渡してあった。


 システィナはその魔石を魔断の柄の窪みに次々とセットしていく。


「ご主人様!私の魔断とこの手甲が盾になります。私の後ろから出ないでください!」

「分かった!」


 システィナの魔断には魔石をセットすることで斧、槌、槍それぞれの部分に属性の力を付与することが出来る。それを魔断の『魔力増幅+』で増幅すればかなりの効果が期待できる。

 更にシスティナの手甲には魔力を込めることで魔法を防ぐことが出来る盾を作ることが出来る効果が付いている。それらをフルに駆使すれば俺を守り切れると判断したからこそシスティナは葵に行けと言ったのだろう。

 

 情けないが俺には敵の魔法を防ぐすべがない。今はシスティナの邪魔をしない様に指示に従うことだけだ。




「兄上。これが最大です」

「やれ」


 

 葵が並列起動したままだった盗聴用の風魔術からの無慈悲な最後通告。


「システィナ!俺の命は預ける。皆で生き残ろう」

「はい!」

 

 とうとう投下された大火球が俺達の頭上に太陽のように燃え盛り揺らめきながら近づいてくる。

 システィナが発動した魔断に目視できるほどの水属性の力が満ち、更にシスティナの手甲からうっすらと光る盾が現れる。

 システィナの魔力が心配なので魔力回復用のポーションをシスティナに飲ませておく。

 後は俺に出来ることはない。システィナの背後に隠れるだけだ。


 葵さんは無事に狼たちの所に辿りつき、動ける狼たちは走らせて戦場を離脱させ、どうしても動けない狼たちは1か所に集めて新たに展開した水流壁で守ろうとしている。


「主殿!」

「やれ!」


 俺の合図で上空に待機させていた水流壁をパラボラアンテナのような形にしてぶつける。そこで威力を削ぎ、爆発の余波をなるべく地上じゃない場所に反らそうという思惑がうまく行くかどうかはこれもまた賭けだ。


 頭上で激しい光と音……そして肌を焼く熱が襲ってくる。システィナの影にいてもこの威力か!しかもまだ葵の水流壁がその威力を抑えている状態なのに。さすがの葵もいくつもの魔術を起動すれば1つ1つの制御が甘くなる。既にさっきの会話を最後に盗聴魔術は切っているし、狼たちを守る水流壁も今は最低限。

 上空の水流壁が破られると同時に自分たちの防御に全力を振り向ける予定だろう。


 その時俺は俺を見ている視線に気が付いた。


「おまえ…」


 その視線の主は少し離れた位置で熱風に晒されながらも雄々しく立ったまま俺を見ているアッシュウルフ。


「…全部逃がしたのか」


 さっと周りを見回すと怯えて動けなくなっていた狼たちが1匹もいなくなっていた。あのアッシュウルフが全て尻を蹴飛ばして逃がしたのだろう。狼の脚力なら安全地帯まで逃げ切れるはずだ。

 ならばなぜこいつはまだここにいるのか。

 他の狼を逃がしてて自分が逃げるタイミングを逸したのか?それとも未だにパジオンの意向に逆らえないのか?いくつかの可能性が脳裏をよぎる。


 だが、そんなことはどうでもよかった。多分時間にすれば一瞬だったと思う。だが俺と目のあったアッシュウルフとの間に何かが通った気がした。

 そしてなにより俺はあの灰色狼を格好いいと思ってしまった。死なせるのが惜しいと思ったんだ。


「お前も来い!!」


 だから気が付けば手を伸ばしてアッシュウルフを呼んでいた。


「お前はこんな形で死んでいい狼じゃない!死ぬならここを凌いだ後で俺と戦え!それなら容赦なく殺してやる!」


 俺の呼びかけに一瞬だけアッシュウルフが驚いた表情を見せ苦笑したような気がした。

 そして気が付けば俺は懐に飛び込んできていた灰色狼を抱えこんでいた。

 想像以上にもふもふと気持ちいい毛触りの灰色狼を腕の中に感じつつ、その直後に襲って来た激しい熱波に襲われ俺の意識は黒く塗りつぶされた。

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