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魔剣師の魔剣による魔剣のためのハーレムライフ  作者: 伏(龍)
第3章

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命乞いの代償

 対決の日、空はどんよりというほどでは無いが薄い雲が空全体を覆い隠した曇り空だったが雲の向こうの太陽の位置はなんとか分かる。敵の指定された時間は今日の昼。

 普通に考えれば正午ということだろう。だが、この世界に正確な時計などない。だから太陽の光が中空を多少過ぎた時間に出発したとしても遅いということはないはずだ。

 だから俺とシスティナは準備と休息に時間をぎりぎりまで使って、フル装備で屋敷を出た。


 俺の装備は

 右手に持つために左腰に『葵』。右腰に『閃斬』。

 頭には魔銅製、耐衝撃付与の『鉢金』。

 腕にはシシオウから押しつけられた耐衝撃、遠隔攻撃付与の『獅子哮』。

 脚には魔鋼製、敏捷補正付与の『脚甲』。

 胴には魔鋼製、耐魔付与の『鎖帷子』

 後は帷子の上から皮のコートを羽織っているのと、バスターソードから創ってもらった重結の腕輪が両手両足に装備されている。


 自慢する訳ではないが装備面はかなりのものだと自負している。装備品の力を自分の力だと勘違いさえしなければ足りない実力を装備で補うのは当然で誰に文句を言われる筋合いはない。命は1つしかないんだから見栄や意地で死んでしまったら元も子もないしね。


 俺の隣を歩くシスティナの装備は

 武器は両手持ち武器である槍、斧、槌兼用、魔鋼製、魔力増幅+付与の『魔断』。

 頭は俺と同じく魔銅製、耐衝撃付与の『鉢金』。

 腕は魔鋼製、魔力対応型耐魔付与の『盾手甲』。

 足も俺と同じく魔鋼製、敏捷補正付与の『脚甲』。

 そして胴は魔鋼製、耐魔付与の『胸甲』に加えて『耐水のブラ』。更に領主から追加報酬で貰ったローブを耐水のブラと胸甲の間に着ている。


 これは簡易鑑定したら『水龍の鱗衣』と言うらしくなんとランクはAだった。実はこのローブは水龍レイクロードドラゴンの鱗をローブの生地の間にふんだんに仕込んであるらしく、水に対する適性が信じられないくらい高い。

 鱗に魔力を通せば水中をかなり自由に動けるのはもちろん、僅かな間なら体表に薄い膜を張って呼吸も補助してくれる。そしてもちろん龍の鱗だけあって普通に防御力が高いというチート装備だった。


 もちろんそんな効果はシスティナは知らなかったらしいのだが回復術の魔力を纏わせていたために偶然その効果が発動し、そのお陰で俺とシスティナは無事に屋敷まで流れ着けたらしい。


 そんな鱗を持つ水龍レイクロードドラゴンは基本的に棲処の水底から出てくることはないようだが稀に現れたとしても水場付近ではほぼ無敵で人の力でどうこう出来るような魔物ではないと言われている。

 では何故そんな水龍の鱗を使った装備があるのか……それは塔の階層主として上層でたまにポップすることがあるかららしい。だが水中では無敵の水龍も周囲に水が無い状態ではポップと同時に自重に耐え切れずまともに身動きが取れなくなってしまいろくな反撃も出来ずにサンドバック状態でほぼノーリスクで簡単に鱗を剥げるという冗談みたいなオチがある。


 だが本来、塔の中の魔物は死ぬとすぐに塔に吸収されてしまうのでドロップ品は魔石だけというのが原則でありいくら鱗を剥いで持っていても水龍を倒した時点で消えてしまう。

 しかし、塔の魔物の素材は魔物が死ぬ前に塔外へ持ち出して本体との繋がりを切ってしまうことでドロップとして入手が出来るという裏技があるらしい。

 普通は魔物一匹分の素材を確保するためだけにいちいち外に出たりはしないし、魔石と素材を天秤にかけたら魔石の方が嵩張らないし実入りも良いのでそんな裏技を使う必要はないのだが、稀に出る高額素材魔物と遭遇した時は素材の採取を狙うこともあるそうだ。

 もっとも魔物を生け捕り状態にしたまま殺さないように素材採取するか、引き摺って行って一緒に塔外に出なくてはいけないのでよほどの実力がないと難しい上に魔物を外に連れ出すのはどこの塔でも禁止されているようだ。

 手負いの魔物を外に連れ出してまかり間違って逃げ出されれば大惨事になる可能性があるので当然だろう。 


 っと大分話がそれてしまったが、ようは俺が言いたかったのは最終的に俺達は戦いも辞さないつもりで更に決して負けるつもりはないということである。


「システィナ、どのくらいまで時間の猶予があると思う」


 俺はことさらにゆっくりと歩きながら隣にいるシスティナに聞いてみる。システィナはそうですねと呟きながら周囲と空を見た。


「どうやら屋敷を出たところから監視されてるようですので、方向さえそれなければそれなりにゆっくり行っても問題はないかと思います」


 システィナの視線の先には空を旋回している一羽の鳥影。


「なるほどね…じゃあ牛歩戦術といきますか」

「牛歩戦術?……なるほど。牛という生き物の歩みが遅いことに例えてるのですね」

「そうだね。もしくは巌流島に向かう宮本武蔵?」

「……日本の剣豪ですか。あ、この方も二刀流だったのですね」

「はは、ほんとに凄いな。システィナの叡智の書庫は。地球の話題を出しても即座に反応してくれるから気を使わなくていいし、なんだかほっとするよ」

「ふふ、遠慮なくお話ししてください。私もいろいろなことを調べるきっかけになって楽しいですから。

 でも、他の方のいるところでうっかり地球の話をして不審がられないようにしてくださいね」


 屋敷の中以外で話すときはなるべくこっちの世界で通じない言葉は使わないようにしているので僅かだけどストレスがある。あんまり屋敷でストレスのない会話に慣れてしまうと外でぼろが出そうで怖い。


 目的地はフレスベルク北にあるザチルの塔の更に北である。いつもなら回り道になるが街に寄り、冒険者ギルドに寄ってそこから北に向かって塔に行くが今回は屋敷から街を経由せずに直接ザチルの塔方面へ向かっている。

 と言っても塔に行く訳ではないので山沿いに北上する。廃棄された石切り場もパクリット山の一部だからね。


 互いに緊張をほぐすようにシスティナと他愛もない雑談をしながらゆっくりと歩いていたがそれでも目的地にはいつか着いてしまう。

 見えてきたのはまさに岩場と言った感じの場所だった。そこら中に大小さまざまな石が転がり草木は全く生えていない。そして入り江のように切りだされた石切りの跡地はなんと言うかとても見覚えのある景色だった。


 なんだったかな……あぁ、あれだ。某仮面ラ○ダーとかでよく出てくるような特撮の現場。あんな感じだった。

 主人公の周りが高くなっていてその上から悪役がガハハハと主人公を見下ろす。みたいな?まさにあれだった。このまま行けば怪人が出て来て更に周りをショ○カーがヒー!だのキー!だの言いながら出てくるのだが、今回は赤い流星幹部が出て来て、下っ端構成員が現れるのだろう。

 おそらくは交渉決裂と同時に周囲の高いところから一方的かつ一斉に弓や魔法で攻撃をしてくるのだろう。イチかバチかの特攻すら許されない不親切地形だな。


「ふん、やっと来たか…」


 そんなことを考えていた俺に正面の高台に左肩にニードルホークをととまらせた灰色のローブを来た痩せぎすの男が現れる。

 この男があのニードルホークを使役しているらしい。魔物を撫でる右手の甲に流星の刺青があるのが見えるところ見ると幹部の1人だろう。シシオウ情報によればシャアズは万能型の超人、シャドゥラは魔法が得意なインテリ、パジオンは頭は良いが不気味というなんとも扱いづらい情報だけは聞いていたが……

 それに照らし合わせればあいつが策士パジオンだろう。


「システィナ、頼むよ。無理なく出来る範囲でいいから…」

「はい。私も信じていますから」


 俺の小声での依頼にシスティナは力強く頷く。


「じゃあまずは俺からかな」


 俺は一歩前に出るとパジオンらしき男に答える。


「まだフレスベルクに来て長くない。仕方ないだろう」

「ふん!とてもそうは見えなかったがな。まあいい、さっさと話を終わらせるとしよう」


 口元にいやらしい笑みを浮かべたパジオンが手を上げる。

 同時に俺達を囲む高台の上に盗賊達がずらりと姿を現し、それぞれが弓を構えて俺達に狙いを定める。ざっと確認した限り、100人近い数がいるのでおそらくこれが赤い流星の残存兵力の全てだろう。たかが2人に全兵力を向けるとは考えづらいのでもしかしたらここで侍祭を手に入れたらまた違う場所へ移動するつもりなのかもしれない。


「手紙で伝えたとおりだ。命は助けてやる、お前の侍祭をよこせ」



「よこせと言われても侍祭はそう簡単に渡せるものではないと思うのですが?」


 一方的にシスティナを要求するパジオンにひとまずやんわりと拒絶の意を伝えてみる。


「ほう、この状況でまだそんなことを言えるとはなかなか肝が座っているな。曲がりなりにも侍祭と契約していることだけのことはある。

 だが、利口ではなさそうだな」

「どういうことでしょう?」

「我らが知らないとでも思っているのか?」


 目を細め眼光を強くするパジオン。さて、一体何を知っているのか…一応確実にばれているだろうと思われるのはメイザ一党の殺害だろう。

 ディアゴ一党の壊滅についてはばれているのだろうか?


「お前達は既に我が団の同志達を70名以上殺害している。しかも、そのうちの1人は頭領の妹だ。それだけでお前を八つ裂きにする理由は充分なのだが?」


 コロニ村で約30名、塔で20名前後とディアゴ、屋敷で20名前後とメイザ、囮のアジトで20名前後…実際には90~100名近い盗賊を討伐しているのだがやはり塔での件についてはまだ犯人が特定出来ていない。というか塔では死体が吸収されてしまうのでディアゴとその部下達が壊滅したことすらまだ知れていない可能性もある。

 だが、それよりもなによりも…


「それはお互い様でしょう。あなた方も私の大事な仲間であり、最愛の妻でもある女性を2人も岩の下敷きにしたのですから」

「馬鹿を言うな。こっちは70名強だぞ全体のほぼ半数近くをおまえらが殺したんだ。

 まあ、お前らも4人の内の2人だからな。ある意味確かに互いに半数でお互い様とも言えなくもないが?」


 ふざけんな!蛍さんや桜があんなクズ共と同列なものか!あいつらのようなゴミクズ共が70が100、200だろうと蛍さんの爪の垢ほどの価値もない!

 一気に沸点に達したどす黒い怒りのあまりに思わず刀に手をかけそうになった俺の袖をシスティナが引いてくれる。もしその動きがあと一瞬遅ければ俺は1人で無謀な特攻を仕掛けていただろう。

 システィナに心の中でお礼を言うと心を落ち着かせるべくゆっくりと息を繰り返して頭を冷やす。


「…侍祭の力は契約者があってこそ、その命令には基本的に絶対服従というのは知っていますか?」

「もちろん知っている」


 実際には契約には3種類あり絶対服従までを強いられるのは『従属契約』だけなのだがそこまで細かいことはあまり知られていないらしい。

 侍祭の力が契約者ありきなのは間違ってないし、従属契約以外でも侍祭はあまり契約者に逆らうことはないから世間一般にはそう知られているだけだ。


「システィナ『命令』だ。俺が傷つけられたり殺されたら即自害しろ」

「はい。承知しました」

「な!貴様!何をしている!」


 パジオンが焦ったように身を乗り出す。どうせならそのまま落ちてくれればいいのに。


「素直に侍祭を渡しても俺の身の安全が保証されないのでは意味がない。俺はお前たちに大事な物を奪われた。残るのはここにいる侍祭だけだ。

 だがまあ、それさえも自分の命と天秤にかければ比べるまでもない。だから侍祭を渡すこと自体はもう仕方がない。だがそれで確実に俺が生き残れるという状況になりそれを俺が納得できない限り侍祭との契約は解除しない」

「くっ!」


 正直この辺は賭けの要素が強い。俺はあいつらが侍祭を手に入れることにかなり執着していると思っている。その執着の度合いが強ければ強いほど今の『命令』によってシスティナは俺の盾としての強度を増す。

 だが、強気に出過ぎてあいつらの執着の範囲を僅かでも超えたらシスティナもろとも総攻撃を受けて殺されるだろう。もちろんそうなったところで簡単にやられるつもりはないが。


「シャアズ様。どういたしましょう?」


 パジオンが悔し気な呻き声を漏らし背後を振り返る。ここからは角度的に見えないがそこに大盗賊団赤い流星の頭領であるシャアズがいるのだろう。


「もう、いいのではないでしょうか兄上。もともと我々は侍祭などいなくともやって来たではないですか」

「シャドゥラ様。お言葉ですがこれは好機なのです。侍祭の能力はシャアズ様の安全を格段に跳ね上げます。侍祭付きだと言うだけで盗賊という身分にあってすら簡単に処分出来なくなりますし、侍祭は契約者を盲目的に守ります。

 あれだけ大がかりに仕掛けた我々の罠にかかり崖下に落ちたあの2人が今、ここにいること。それがその証明です。更に侍祭の『契約』技能を我々が手に入れれば今後は安定した収入を得られるでしょう」

「あなたが熱弁していた技能ですか」

「はい、この技能を使えば契約で縛った絶対に裏切らない配下をいくらでも加えられます。言うことを聞かない迷惑な雑兵をわざわざあの手この手で囮にして間引く手間も無くなります。

 食料問題で不満が出ることもなくなるでしょうし、今まで連れ歩けなかった女を携帯することも可能です」

「確かにそれが事実ならばありがたい能力ですが、我々にはあまり時間がないのですよ。あなたの情報では領主軍は動かないとのことですが絶対ではないでしょう?

 今回はあいつらのおかげでいい具合に間引きが出来たのでフレスベルクを攻める必要もなくなったのでさっさと次の目的地に移動したいんですよ。教団との約束もありますから」


 うわぁ、さすがに下衆いなぁ。漏れ聞こえてくるパジオンとシャドゥラの会話は胸糞悪くなるものばかりだ。教団がどうとか怪しすぎるしな。

 それにしてもあれだけ離れたところで話している奴らの会話をこれだけクリアに聞き取れるならこの方法はかなり使える。

 相手が何を考えているのかが分かっていれば交渉を思い通りに進めやすいからと思いついた方法を試してみたけどうまくいって良かった。当然この会話は後ろのシスティナにも聞こえてるはずで最終的な交渉はシスティナに任せる予定になっている。


 盗み聞きした奴らの狙いはやっぱり侍祭の契約スキルか。確かに契約スキルがあれば絶対服従を誓わせて配下を増やすことが出来るため裏切りやスパイ的な潜入を気にする必要がなくなる。それに絶対服従だから食料などの待遇についてもいちいち不満が出ることも無い。

 女性の捕虜についても同じだ。今までは連れて行ってもすぐ壊れて処分に困ったり、自棄になって暴れられたり、隙を見て逃亡されたりといったことがあったのではないだろうか。

 そうなると本拠を定めず常に移動が前提にある赤い流星では面倒ごとが増えるだけで連れ歩けなかったのだろうが契約スキルがあればその辺の行動も縛れる。

 

 奴らは言ってなかったが、領主軍のような部隊が制圧に来ても契約スキルで縛って嘘の報告をあげさせるとか、能力が高い人材を無理やり配下に加えるとか、それこそ領主本人を操り人形に仕立てるとかもやりようによっては出来るだろう。


 そんな危険なスキル故に侍祭になり契約スキルを得るためには侍祭本人の資質が最も重要視されるとのことである。簡単に悪人と契約したり、契約スキルを悪用するような人物では困るからだ。

 その辺りの選別方法は部外秘らしく詳しく教えてはくれなかったが侍祭になる際にはいろいろな試練があり、それを乗り越えた上にさらに重い誓約をしなくては侍祭にはなれないようなので侍祭の数自体がかなり少ない。契約自体も侍祭本人が慎重に見極めて決める為に生涯契約をしない侍祭というのも珍しくはないそうだ。


 今回の場合、話の流れからいって侍祭を欲しいと本当に思っているのは頭脳労働がメインの策士パジオンのようだ。少なくともシャドゥラの方はそこまで侍祭に執着していない。

 問題は頭領のシャアズがどうなのかなのだが会話に参加している気配がない。無口なのか?


 それに手応えがないとは思っていたがやはり俺達が倒してきた盗賊達の半数くらいは奴らの間引きだったらしい。赤い流星は多分今までもそうして拡大と縮小を繰り返し、団全体としての質を上げて来たのだろう。


 フレスベルク侵攻も本来の目的は間引き……おそらく雑兵を好き勝手に街で暴れさせている間に持ち去れるだけの物資を持ち去り、欲に駆られて逃げ遅れた雑兵を置き去りにして領主軍や冒険者・探索者に討伐させてしまおうという計画か。


 ということは逆に今残っていて上から俺達を狙っている盗賊達は赤い流星のそんな過酷な選別を生き残り続けている精鋭ということになる訳だ。

 確かにここに姿を見せてからも奴らは指示があるまで決して無駄な動きをしない。抜け駆けをするようなやつも不満を叫ぶやつもいない。雑魚まで練度が高いとなると正直ちょっと厄介かもしれない。


「わかりました、ではこうしましょう。一応奴の要望だけを聞きます。受け入れられる範囲であれば受け入れて契約をしたあと刺客を送るなりして処分するようにします。

 要望がどうしても受け入れられぬ場合はやむを得ませんので2人とも処分して移動を開始しましょう」

「兄上、確かにそれなら許容範囲かと」

「好きにしろ」

「はい」


 どうやら話が纏まったらしい。パジオンが再びこちらを見下ろしてくる。


「お前の要望を言ってみろ」


 さて、どうしようか。俺の方で引き延ばせるのはこの回答までだが…


「俺が欲しいのは今後の身の安全だ。だから俺が侍祭との契約を解除する条件は

【侍祭引渡後は金輪際赤い流星、もしくは赤い流星から依頼を受けた者から俺自身及び俺の財産への接触、または危害が一切加えられないこと】

 これだけだ」

「ち、シャアズ様」


 パジオンは俺の要求に小さく舌打ちすると振り返ってシャアズの意向を確認しているようだがすぐに頷きを返してこちらに向き直る。


「いいだろう。お前の要求を飲んでやる。もともとそういう話だったからな」


 よく言うな。最初から最終的に殺すのは確定だったくせに。いずれにせよ俺が出来るのはここまでか。


「…分かった。じゃあ侍祭との契約を解除する」


 俺は1つ大きな溜息をつくと振り返ってシスティナと目を合わせ僅かに頷き合う。


「ごめんシスティナ。俺はまだ死にたくないんだ…契約を解除しよう」

「…はい。仕方ありません。ソウジロウ様を死なせる訳にはいきませんから」


 悲しげに目を伏せたシスティナは無理矢理に作った笑顔のまま呪文を唱えて俺達の間に薄黄色(・・・)で半透明の契約書を宙に呼び出した。

 初めてこの世界に来た日にシスティナから見せられたものと同じだ。最下部の署名欄には俺の署名があるし、俺が改竄した跡もある。


「それでは私と同じように繰り返して宣言してください」


『侍祭システィナは契約者富士宮総司狼と契約を解除する』

『富士宮総司狼は侍祭システィナと契約を解除する』


 俺達の宣言が為されたと同時に薄黄色の契約書全体にビキビキビキとひびが入り、次の瞬間砕け散った。


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