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魔剣師の魔剣による魔剣のためのハーレムライフ  作者: 伏(龍)
第3章

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62/203

窮地

「蛍ねぇ!とりあえず3人、足止めたよ」


 いつの間にか逃げる3人組の前に回り込んだ桜が刀を構えてこちらに声をかけてきたのは木々が生えていた場所を抜け切り立った岸壁にぶつかったところだった。

 盗賊達はどうもその岸壁自体を目印にしていたらしくそこから方向を転じて更に逃げようとしたが直線で逃げ続けていたならばともかくそんなロスの大きい動きをしたら桜から逃げ切れる訳もなかった。


「くそ!なんて足の速さだこいつら。山での足の速さを買われた俺達よりも速ぇなんて…」

「おい!ゲインのやつは?」

「あいつなら大丈夫だ。あいつは足の速さに加えて絶対に方向を見失わない『絶対方位』のスキル持ちだからな」

「それなら最低限の仕事はしたことになる。任務失敗で頭に殺されることはないだろう」

「後は俺達がなんとかして戻るだけ…か」


 

 漏れ聞こえてくる会話を聞いているとこいつらはどうも盗賊達の斥候部隊らしい。そして同時に大所帯故に分散して山中に散っていた盗賊同志の間をつなぐ伝令役も兼ねているのだろう。

 盗賊達はそれぞれに短刀を取り出して構える。脚の速さを売りにしているだけあって軽さと携帯の利便性から短刀なのだろう。



「まずいな…一気に片付けて前の1人を追うぞ」


 蛍さんがそう言うと俺が何かを言う間もなく走り出してしまう。同時に盗賊の向こう側で桜も動き出す。

 くそ!やっぱり止まらないか。俺達も行くしかない。


 葵と閃斬を抜いて慌てて走り出すが俺達が戦闘に加わる前に3人の盗賊は既にこと切れていた。1人は桜のクナイを喉に受け、1人は蛍さんに袈裟懸けに斬られ、最後の1人は桜に首を刎ねられて。           

 驚くべき技の冴えである。なんかよく分からないが、いつもよりキレてる気がする。

   

「桜!もう1人を追えるか?」

「なんとか!ついてきて!」


 岸壁に沿ってすぐさま走り去っていく蛍さんと桜に「待って」と声をかける暇すらない。


「システィナ大丈夫?」

「はい、まだ走れます。今はお二人から離される訳にはいきません!」


 さすがシスティナ。現状をよく理解している。刀としての性質に引っ張られてなのかイケイケの2人は強いし頼もしいがどこか危なっかしい。俺達に何が出来るかは分からないがいつでもフォローが出来るように近くにいなくてはならない。


 幸い岸壁沿いは草木が生えていないので先を行く蛍さん達をそうそう見失うこともないし、多少薄暗くても足下には不安はないので全力で2人を追いかけることが出来る。


「ご主人様、気をつけて下さい」


 そうして2人を追うこと数分、ひたすら前を見据えながら走り続けそろそろ全力疾走を続けるには俺達の息が保たなくなってきた頃システィナが注意を促してきた。


「え?何を」

「やはり気づいて無かったのですね。落ち着いて左側をご覧になって下さい」


 ん?左?………


「うおっ!」


 走りながら左側を見た俺の視界に入ってきたのは虚空…そして雄大なパノラマだった。


「いつの間にか左側は崖になっています。下の方からは水の音が聞こえてきますので屋敷の脇を流れる川の源流の一つがこの下にあるみたいです」

 

 えっと…逃げる敵を追って来た道がかたや岸壁、かたや崖。道幅はせいぜい5メートル程度。これって前後から挟まれたら危なくない?


「…なんか嫌な予感がしない?」

「はい…何事もないといいんですけど」


 この状況に敵が気づいたら俺達は袋のネズミ状態になりかねない。これ以上の深追いはやばい。


『蛍!桜!止まれ!これ以上深追いはするな!今回はここまでで撤収する!』

『ふ、馬鹿を言うなソウジロウ。今やらねばずっと怯えて暮らすことになるぞ』

『そうだよソウ様。仮にやつらをこの山から追い出すことに成功したっていつ報復の為に戻ってくるか分かんないんだよ。そんなんじゃ安心して夜にえっちぃこと出来ないよ』

『駄目だ!それでもこれ以上は許可出来ない!「俺達は今日からフレスベルクの街に避難する!」


 正直桜の言葉にちょっと動揺しかけたが、2人を止めるためには今揺れる訳には行かない。俺達で出来る最善は尽くした。後は状況が変わるまで待つしかない。

 俺の強い意志が込められた言葉に足を止めていた刀娘達にやっと追いついたので最後は口に出してしっかりと宣言する。きっと刀娘達の闘争本能だなんだって言うのは俺の言い訳に過ぎない。ここまでずるずると深追いしてしまったのは逃げたくないという俺の小さなプライドと自分の家から離れたくないという甘さが原因だ。


「…分かった。ならばソウジロウとシスティナはこのまま屋敷に戻り荷物をまとめてフレスベルクで宿を取るなり賃貸で家を借りるなりしておいてくれ。私達は後から合流する。なぁにこのリングがあれば何処にいても探せるからそれで問題なかろう。

 では気をつけて帰れよ。よし、いくぞ桜」


 そう言って踵を返そうとする蛍さんの手をとっさに伸ばした俺の手が掴む。


「ソウジロウ!」


 身体を突き刺すような怒気を孕みながら振り返った蛍さんの顔は今までに見たことが無い程に怖い。

  ヒュン!


 え?何か今蛍さんの背後を……

視線を足下に落とすと蛍さんの背後の地面に刺さっていたのは…矢?

 あ、危なかった。たまたま俺が蛍さんの手を掴まなければちょうど蛍さんの頭部を貫いていたかもしれない。


「蛍ねぇ!上に気配が!」

「むう!前を追うことに夢中になりすぎたか」


 桜の声に慌てて上を振り仰ぐと岸壁の上から大勢の人がこちらに向かって矢を構えているのが見えた。

 くそ!やっぱり罠だったのか!一体いつどこで俺達が今日夜襲にくることを知ったんだ!


「ソウジロウ様!とにかくここは駄目です。急いで戻りましょう!」


 システィナの叫び声と共に明けの空に矢の雨が降る。


 まずいまずいまずいまずいまずいマずいマズずいマズいマズいマズイマズイ!


「蛍さんこっち!桜も!システィナも壁に寄って!」

「はい!」


 呆然としている蛍さんたちを急いで壁際に誘導する。上から打ち下ろす以上は壁際に寄っていれば狙いは付けにくいはずだ。


 トトトトトトトトトトトトッ


 目の前に矢が突き刺さっていく。だが、思った通り壁に近くなればなるほど本数が減る。各自の手甲で頭上を守っていればなんとかなりそうだ。蛍さんは手甲装備がないので俺が頭を抱え込むようにして急所を守る。


「ご主人様。このまま来た道を戻りましょう。森まで戻れば上からの矢は防げます」

「分かった。絶対に壁際を離れないように気をつけて!後は場所によっては斜め下に俺達を狙えるポイントもあるかもしれないからその辺も警戒!行くよ!」


 ゆっくりとだが確実に歩いて行けばなんとかなる。弓矢だって無限じゃない。これだけ無駄打ちをしていればすぐに在庫が尽きる筈。それまで凌げばいい。


 カラン…


 そう考えていた時期がほんの僅かだけ俺にもありました。


「まずい!みんな戻って!!」


 岸壁を転がり落ちてきた小石を見た俺の叫び声にとっさに反応した皆が壁伝いに引き返す。それと同時に背後でドドドドォォと地響き、そして砂塵。俺達が戻ろうとした道の先に岩や土砂が降って来たためだ。これで完全に退路を塞がれた。

 上から狙われている以上土砂を乗り越えることも撤去も厳しい。これで嫌でも前に進むしかなくなってしまった。


「ごほっ!ごほっ!大丈夫かみんな!」

「は、はい!」


 ゴゴゴゴォォン!!

 

 女性陣を獅子哮で庇いながら声をかける。だが更に少し離れた道の先でまたも轟音…

 …ちっ!前も塞がれた。完全にこの山道で閉じ込められた。


「くそ!」


 どうする!どうする!あいつら完全に俺達を殺しに来てる?


 いや…これだけの大掛かりな仕掛けだ。きっとこの罠は討伐にきた領主軍に対する備えだったのではないだろうか。だがなんらかの形で領主軍が攻めてくることがないこと、俺達が夜襲を仕掛けることを知った盗賊達がその罠を俺達に使うことを決めたってことなのかもしれない。


 まあ、そんなことが分かったってなんの役にも立たないんだが。今にして考えればあの洞窟の盗賊達も囮替わりの捨て石だったのだろう。そうであるならば桜の『手ごたえがなかった』との言葉にも納得できる。



「ご主人様!!」


 そんな今はどうでもいいことを考えることで現実逃避していた俺の耳にシスティナの切羽詰まった声が飛びこんでくる。

 はっとしてシスティナを見た俺はその視線の先を見る。


 ……あ、終わった。


 思わずよぎったその言葉の先にあった光景は頭上に降ってくる大小さまざまな岩の数々だった。


 それを見て真っ先に思うのは、この世界に来てまだひと月程度なのに死んでしまうのはせっかく俺らしく生きられる世界に送ってくれた地球の神様に申し訳ないということだ。

 この程度の経験しかしなかった俺の魂ではたいした情報も回収できないだろう。…でもこの世界に来てからは本当に毎日が充実していた。地球の神様には感謝の気持ちしかない。

 

 

「葵、お前の言う通りだったすまない。そしてソウジロウ…死んでしまったら儂を恨めよ」

『な!何を…山猿!』

「え?」


「ごめんねシス。桜調子に乗ってたみたい。でもお願い!ソウ様を死なせないで!」

「え?さくらさ…」


 え…何が……身体が…


 気が付くと宙を舞っていた。




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