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魔剣師の魔剣による魔剣のためのハーレムライフ  作者: 伏(龍)
第3章

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夜目

 リー リー リー    ウキャキャキャキャキャ   ウォウゥゥゥ    バサバサバサ  


「夜の森なんて初めて入るけど気味の悪いもんだね」


 俺達は盗賊達が寝静まった頃が良いだろうと出発はかなり遅くした。日本時間で言えば深夜の2時から3時だろうか。当然辺りは真っ暗で俺の目にはほとんど何も見えない。

その分音だけは良く聞こえる。虫の声や魔獣らしき獣の声、俺達に驚いて逃げ出す何か。人がいないにも関わらず様々な音に溢れる山林の中を木々の間から差し込む僅かな星明かりと先行しているはずの桜のパーティリングの反応だけを頼りに登っていく。

 

「そうですね。盗賊に身をやつせばこのような場所にしか住めなくなると分かっているのに何故盗賊になるのでしょうね」

「難しいね。盗賊に身を落とす理由はいろいろ考えられるけど…」


楽して良い思いをしたいとか、暴力が好きだとか、国に追われた反乱分子とか、後は貧しいから仕方なくとか?


「でもどうしても盗まなくてはいけない事態に陥ったとしたって人を殺したり、女の人を辱めたりしていいという理由にはならないよ」

「はい、もちろんです」


 そんなことを極小さな声でやりとりしていると前を行く蛍さんが右手を横に伸ばした。止まれの合図だ。


「無駄話はそこまでにしろ。ここからは更に慎重にいく」


 振り返って俺達にそう伝えると蛍さんは僅かに腰を落として慎重に下草を掻き分けていく。驚くべきは草の生い茂る山中を歩いているというのに蛍さんはほとんど音を立てていない。

 それなのに蛍さんが切り拓いてくれた道を追いかける俺達はどう頑張っても僅かに音をたててしまう。様々な音が溢れるここではその程度の音は紛れてしまって問題はないのだろうが相変わらず大きい技量の差に若干へこむ。


 だが、今はへこんでいると命取りになりかねないので気持ちを無理矢理切り替えるために、前を行く蛍さんの形の良いお尻に意識を集中する。

 考えられないほどの動きが出来る程の能力を持っているはずなのに柔らかくて張りがあって、滑らかでいてすべすべ。そして傷はもちろんシミ1つすら全くない俺だけが知っている至高のお尻だ。

 あ、ちなみに桜のお尻は最高のお尻でシスティナのお尻は究極のお尻だ。


 その至高のお尻が俺の目の前でふりふりと……うん、実に丸くてエロい。つまり『まろい!』


「!」


 俺が心中で絶賛の言葉を叫んだと同時に蛍さんのお尻が俺の顔面を直撃した。いつの間にか傾斜がきつくなってきたため前を行く蛍さんのお尻と俺の顔の位置が近くなっていた所に蛍さんが急に止まったため俺が蛍さんのお尻に突っ込んでしまったらしい。

 鼻を抑えながら視線を上げると蛍さんが冷たい視線を向けながら呆れた溜息を漏らしていた。どうやら俺の熱過ぎるパトスが『共感』で伝わってしまっていたようだ。

 俺は てへっ と可愛らしい笑顔を見せてあげたのだが蛍さんは冷たい眼のまま再び山を登りだした。


 そんなこんなで皆の緊張を俺が捨て身でほぐしているうちにようやく先行していた桜に追いついた。

 暗闇の中だったこともありここまで来るのにゆうに1時間以上かかっている。見通しは最悪でそれなりに険しかったこの道のりを領主軍を連れて登ってくるのはやはり無理だっただろう。


 先行していた桜は木の幹に隠れる様にしゃがんでいて俺達が来たことに気が付くと顔の前に人差し指を立ててから親指で木の向こう側をくいくいと指差す。

 その指示に従って静かに移動すると俺は桜の隣の木の影に入りそっと桜が指差す方を覗きこんだ。


 どうやら桜は真っ直ぐアジトに向かったのではなく見つかりにくいように迂回しつつ奇襲のしやすいポジションに向かっていたらしい。どうりで道程が厳しかったはずだ。盗賊達も通っているのならある程度進みやすい工夫がしてあってもおかしくないからね。


 桜が選んだポジションは岩肌にあるアジトらしき洞窟を斜め上から見下ろせる場所だった。人が2人並んで入れるくらいの大きさの洞窟の入口、その前に2人ほど歩哨が立っている。

 篝火のようなものはアジトの発覚を恐れてか外には設置されていない。だが洞窟の奥の方から僅かにゆらゆらと揺れる灯りが漏れているようなので中はそれなりの広さがあり火を焚けるだけの環境があるのだろう。


 洞窟の前は僅かに広くなっているがいくつか切り株のような物があるように見えるのでこれは盗賊達が木や草を処理して防衛のために切り拓いたってことか。ただ…


『蛍さん、桜。あの洞窟の中に残りの100人が全部いると思う?』


 システィナに場所を譲ってアジトを見て貰うと同時に俺達が意思疎通で話している最中だという事前に取り決めていたサインを送る。システィナは黙って頷くとアジトの様子を見始める。


『桜、この山に鉱山跡などがあるという話は?』

『う~ん、事前の調査ではそんな話はなかったかな。フレスベルク側の山々はあまり鉱物資源が出ないって話だかな』

『となれば自然窟か。そうなるとそれだけの広さはないのではないか…全く可能性が無い訳ではないが全員がそこにいるとは思わない方がよかろう』

『じゃあどうする?』

『相手の数が少ないのならむしろ都合がいいだろう。うまく殲滅出来ればまた1人逃がして次のアジトに案内させるということも出来るかもしれんしな』


 なるほど…そもそも100人全部を相手にしたくないから奇襲を躊躇ってたんだった。相手が少ないならそれはそれでいいしっかり片付けて頭数を減らしておけばいいってことか。


『桜も前回はこのアジトを見つけたところで戻ってきちゃったからここの他にもアジトがある可能性は思いつかなかったよ。ごめんねソウ様』

『いや全然OKでしょ。そもそも桜がいなきゃアジトも見つからなかったんだからね』 

『さて、のんびりしている暇はないぞ。もたもたしていると夜が明ける』

『分かった。取りあえずあそこを潰そう。盗賊なのは間違いなさそうだからね。ただ、洞窟の中に捕まっている人がいるかもしれないから洞窟に魔法ぶち込んで終了!ってのは保留でお願いします』


 メイザの言いぶりだと襲った相手は弄んでもいいが最後は殺してから離脱という方針っぽかったがそれがメイザの方針なのか赤い流星の方針なのかが分からない。メイザは女だっただけに女を連れてくることが嫌だっただけかもしれないから一応確認した方がいい気がする。


『じゃあ見張りを倒したら桜が闇に紛れて先に見てくるよ。リュティ達に作って貰った首飾りがあるから多分問題ないと思う。中を一通り確認したら合図するね』


 確かに隠形+を持つ桜がディランさんが作った闇隠れの首飾りを使えばこの暗闇だ。気配察知を身に付けた相手でも混じってない限り見つかることはないだろう。


『了解、じゃあ蛍さんと桜で見張りをお願い。その後桜は中へ偵察。蛍さんは入り口で待機。蛍さんの合図で俺とシスティナも洞窟入口まで行く。桜の合図を待って全員で突入』

『いいだろう』

『桜もいいよ』

『わたくしも承知いたしましたわ』

『じゃあ、作戦開始。システィナには俺から伝えておく』




(では、私達は蛍さんからの合図を待って洞窟まで行けばよいのですね)

(そう。見張りが2人なら蛍さんと桜であっさりと片がつくはず)


 ちゅ


(あ……その、えっとその後は桜さんが中に捕まっている人がいないかを確認して)

(そうそう)


 ちゅ…れろ


「あん…」

(こら!システィナ。大きな声出しちゃ駄目じゃないか。見つかっちゃうよ)

(あの…ご主人様。耳元で囁くのは状況からして構わないのですが……耳にいたずらするのはちょっと)


 っと、システィナの可愛い耳を間近に見てたらいつの間にかについ甘噛みしてしまったようだ。


『ソウジロウ。またお前は悪さをしておるな。戻ったら覚悟しておけよ』


 げ!どうしてこの場にいない蛍さんにばれた?あの蛍丸の峰を使った脳天落としはかなり痛いから出来れば勘弁して欲しい。


(ご主人様!合図です)


 と!やばっ!そっちは見逃したらまずい。あわてて洞窟をみると確かに入り口付近に小さな蛍火が揺れている。


(よし!行こうシスティナ)

(はい!)


 俺達は木の陰から抜け出すとやや下りの斜面をバランスを崩さないように、大きな音を立てないように気をつけながら降りていく。気持ちは焦るがここは焦ってミスをする方が痛いので慎重にゆっくりと降りていく。

 なんとか下まで降りると今度は全力で入り口まで走って洞窟の入口を挟んで蛍さんの反対側へと滑り込む。システィナは蛍さんの隣だ。

 俺の側は1人で寂しいが、刀娘たちとは多少離れていても意思疎通が取れるので刀娘と声でしかやりとりしか出来ないシスティナが蛍さん側である。


 かたわらを見ると見張りに立っていた盗賊が首から血を流してうち捨ててある。システィナ側の方にも投げ出された足が見えるのでおそらく蛍さんと桜がクナイの投擲で1人ずつ仕留めたのだろう。


 なにげにクナイは大活躍してるな。

 桜はたまに1人でリュスティラさんたちのところへ出かけては装備の話で盛り上がっているらしく、当初は10本だったクナイも今は倍以上持っているらしい。

 気がつくとリュスティラさんから結構な額の請求書が届くので出来れば買う前に相談してくれとお願いしているのだがいつも元気の良い返事だけで実行された試しがない。


『蛍ねぇ、ソウ様聞こえる?』


 っとそんなことを考えてるうちに桜から連絡が来た。

 刀の柄に手をかけつつ蛍さんとほぼ同時に聞こえてる旨の返事をする。


『洞窟の中は10メートルくらいの通路の先に大きな空洞があってそこに20人くらい雑魚寝してるみたい。奥の壁際に篝火が1つだけだから奇襲の際は桜が篝火を消せば中の盗賊は蛍ねぇと桜で潰せると思う』


 なるほど、でもそうなると逆に暗闇の中で俺とシスティナは邪魔になるだけだな。


『桜、他に部屋みたいなものはあるか?』

『…えっと、うん。2カ所くらい壁から布が下がっている場所がある。もしかするとその向こうにも部屋みたいのがあるかも。っていうか気配があるから誰かいるね』


 だとすると幹部級の盗賊が女を連れ込んでる可能性があるか…攫われてきた人達の牢屋的な位置づけの可能性も考えるとその2カ所は一番最初に速攻で制圧した方がいい。


『よし!じゃあこうしよう』





 俺とシスティナは武器を構えて洞窟に入ってすぐのところに待機していた。まだ奥からは何も聞こえてこない。

 システィナが視線で俺に問いかけてくる。


「大丈夫。まだ合図は来ない」


 ここまで来ればもう今更だろう。小さな声でシスティナに報告するとそのタイミングで桜の声が脳裏に響く。


『ソウ様行くよ。10秒前』

「システィナ10秒前」

「はい」


 俺の合図でシスティナが眼を閉じる。俺は洞窟の中から視線を外して洞窟の外を見て盗賊が急に帰って来たりするような事態に備える。


『5、4、3…』

「2、1…」


 ガシャン!


 何かが倒れる音と同時に振り向くと洞窟の奥から漏れていた灯りが徐々に消えていくのが確認出来るのと同時にざわざわと中が騒がしくなっていく。


「システィナもういいよ」

「はい」


 少しでも戦闘の不利がないように、本当に念のためだがシスティナには暗闇に眼を慣らしておいてもらっていた。 


『状況報告。こっちの部屋には男が2人寝ていたが捕まっているような感じはなかったので処理した。これから部屋から出て雑魚の掃討に入る』

『こっちも報告~。こっちは男女1名だったけど、女の人に声かけたら普通に盗賊の人だったからこっちも2人とも【ちょんぱ】したよ。桜も部屋から出て蛍ねぇの手伝いしま~す』


 俺が立てた作戦は単純なもので先に布の向こうの部屋を桜と蛍さんに確認して貰った後に灯りを消して盗賊達の視界を奪って一気に殲滅するというもの。

 ただ、気配察知などで敵や味方の位置が分からない俺とシスティナは同士討ちが怖いから突入しない。そもそも完全な暗闇の中で戦う術を持たないのは盗賊も俺達も同じである。


 ん?だけどさっき外を見てたときも洞窟内を見ている今も結構見えてる気がするんだけどどっかから光が入ってきてるのか?

 もしかして……中の方ではがちゃがちゃとした音と共に悲鳴や怒声が聞こえてくるがまだ出口の位置を把握してこっちに出てくる盗賊はいない。なら今のうちにちょっと確認してみるか。『顕出』


 … 


『富士宮 総司狼  業:-7 年齢:17

 職 :魔剣師 

 技能:言語

    読解

    簡易鑑定

    武具鑑定

    手入れ

    添加錬成

    精気錬成

    夜目  

    魔剣召喚(0)

 特殊技能:魔精変換』


 

 おおう!何故かこのタイミングで『夜目』とか覚えてる。何故覚えたのか思い当たる節は……全くない。………こともない。


 あれか?もしかして俺に新スキルを授けてくれたのは尻神様か!!あの至高のお尻を一心に参拝したお陰でこの俺に新しいスキルが!

 くっ今すぐ尻神様にお礼のマッサージをして上げたい。


「ご主人様!何人か来ます」

「っと、了解!」


 システィナの声にトランス状態を脱した俺は素早く窓を砕くと意識を通路の奥へと向ける。『暗視』と言うほどによく見える訳ではないが、『夜目』を獲得した俺には洞窟の壁に手を付けつつよたよたとこっちに向かってくる盗賊達3人が見える。


「右の壁沿いに1人、左の壁沿いに2人。よく見えてないみたいだけど星明かりを背負ってる俺達のシルエットくらいは向こうからも確認出来ると思うから見えてるつもりで行こう」

「はい」 


 せっかくの夜目による利点を活かす為には入り口付近まで相手を待っていては駄目だ。俺はシスティナの脇を駆け抜けると左の2人の方へと向かう。

 盗賊達からは俺の影と足音くらいは確認出来るかもしれないが戦闘が出来る程の情報ではないだろう。


「だ、誰だてめぇら!俺達を赤い流星と知ってのことか!闇討ちなんかしやがって絶対ゆるさねぇぞ!おめぇらの家族、友人、知人全部調べ尽くして殺してやるからなぁ!」


 …本当にこいつらの語彙ってこれしかないのか?この状態なら普通はまず命乞いが先な気がするんだけどねぇ。


 ま、許す気は欠片もないけど。


 すれ違いざまに先頭の1人の首を左の閃斬で落とす。


「おい!ノンケル!どうした?…う、うわぁぁぁぁぁ!!」


 前の男が急に言葉を途切れさせたことで身の危険を感じたのか、現状を把握しきれていない後ろの1人が恐怖にかられて意味不明なことを叫びながら短刀をめちゃくちゃに振り回してくる。


 危ないなぁ…取りあえず近づくと怖いのでさっきの男、ノンケル君(頭部抜き)の襟首を持って投げつけてやる。


「なななななんだ!なんだ!うあああ」


 首のないかつての同僚に抱き付かれて混乱しているところを念のため背後から近寄って葵で心臓を貫いた。

 

 がくりと男の力が抜けたのを確認してから葵を抜き、血糊を払って納刀する。

 ていうか暗闇で片方だけが自由に動けるっていうのはこんなにも一方的な戦いになるのか。そうそう暗闇で戦うような事態にはなりたくはないけど地球と違って夜が暗いこの世界で有難いスキルを身に付けられたかもしれない。

 尻神様に深く感謝しなければなるまい。なんなら尻神教を立ち上げてもいいくらいだ。


「ご主人様!大丈夫ですか」


 おっとどうやらシスティナの方も片付いたらしい。

 どうやって倒したかはちょっとスプラッタ的なものが壁に張り付いてるからあまり考えない様にしよう。

 

「システィナ。ちょっと訳あって暗くても大分見えるようになったから俺はこのまま蛍さん達の援護に行く。

 システィナはここで外を警戒しててくれるかな」


 システィナ1人残していくのは不安だけど連れて行く方が危ないので仕方ない。それに今までとは逆に俺達が中にいる訳だから外から魔法を打ち込まれたり入り口を塞がれたりするのはまずい。


「その必要はないぞ。ソウジロウ」

「蛍さん!」

「こっちは片付いたよソウ様」

「桜も」


 もう中の20人を片付けたのか?いくら気配察知があって暗闇でも動けるからって早過ぎるでしょ。さすが自慢の刀娘達だ。

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魔剣師の魔剣による魔剣のためのハーレムライフ 小説1巻~3巻 モーニングスターブックスより発売中 コミックガンマ+ にてコミカライズ版も公開中
― 新着の感想 ―
戦闘中に余計な事考え過ぎ。 戦闘描写が長い。
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