蛍 VS ディアゴ
もやもやした気持ちを晴らせそうな気がして思わず蛍さんに呼びかける。
こんな戦いの最中にいきなり声をかけるなんて戦っている当人には邪魔でしかないはず。それなのに、そんなことは充分に分かっているにもかかわらず戦闘中に笑顔を見せている蛍さんになんだか無性に振り返って欲しいと思ってしまった。思ってしまったら止める間もなく声を発していた。
そんな俺の呼びかけを背中で聞いた蛍さんは一瞬だけ驚いたように動きを止めたが振り返ることはなく更に楽しそうな笑みを浮かべて戦いを続行していく。
やっぱり邪魔をしてしまった…戦いについては蛍さんなら負けっこないし1対1に横やりを入れるような敵もいないのだから俺はその戦いの行方をちゃんと見守りさえすれば良かっただけのことだったのに…軽く自己嫌悪に陥っていると蛍さんの思念が届く。
『ふ、心配するなソウジロウ。我の主はお前しかおらぬ。男の妬心はみっともないぞ』
え…嫉妬?戦闘中のためか『意思疎通』で返ってきた蛍さんの言葉に思わず固まる。
しばしその言葉を反芻してみると頭の中から胸の中に何かが落ちてきてすとんとはまる。
あぁ…そうか。俺は俺以外の男と楽しそうに闘っている蛍さんを見て嫉妬しているのか。このもやもやした気持ちは蛍さんが取られるんじゃないかという不安と、ディアゴに対する嫉妬だったってことか。
しかもそれを一瞬で蛍さんに看破される俺……うわっ!恥ずかしすぎる!どんだけ蛍さんLOVEなんだ俺。でもこっちの世界に来るまで彼女なんかいたこともないし、胸を焦がすほど好きになった相手もいない。免疫が全くないなら仕方がないと言えば仕方がない。よな?
『ふふふ…よいよい。嫉妬して貰えるというのは存外、嬉しいものだと分かったしな』
むう…この際嫉妬してたことは誤魔化しようもないし認めるけど、それにしたって随分気安い感じなんじゃないかと思う。あいつは赤い流星の幹部の1人で目下敵対中の中ボスなんだけど。
『わかっておる。ただ女としては全く食指は動かんが、刀としてみればこやつの考え方自体は悪くないというだけのことだ。
基本我らはどこまでいっても根本は武器じゃからな。武器の役割というのは突き詰めて考えれば結局は自らの我を力尽くで通すためのもの。その武器の有りようとこやつの考えが似ていたのでな、ちょっと話に付き合ってもよいと思っただけじゃ』
蛍さんの言うことは分かる気がする。善か悪かなんて結局は主観的なものでしかない。俺達にとっては盗賊は許せない人間でも盗賊達にとってはそうではない。そしてどっちが正しいかなんて答えはない。もしその答えが出せるモノがあるのならそれはこの世界を産み出した存在ぐらいなものだろう。
後の判断はその場その場で個人個人が判断するしかない。日本の法律なんてものはたまたま多くの人が正しいと思ったことをまとめたものに過ぎない。
そう考えれば自分がやりたいことを好き勝手にやり、誰かに殺されたときは相手の好き勝手に負けただけというディアゴの『お前らが俺らを許せねぇんなら殺しゃあいい。俺は俺で好き勝手やる。どっかで負けて殺されりゃあそれまでのこと』という言い分はいっそ清々しい。
それなら俺達は俺達の考えに基づいてあいつらを許さなければいいだけだ。
そして、その考えと武器としての本来のあり方がちょっと似ていたから蛍さんはディアゴに対してあんなかんじなのだろう。
武器というものは本来、獲物を狩るために、誰かに言うことをきかせるために、国を広げるためになどと常に相手の意志を無視して使用者の望みを押し通すために使われる。むしろそれ以外の理由は与えられていないと言ってもいい。
そして、それは自分の我を押し通すディアゴの生き方と同じだ。
「蛍さん…」
似たような考えの相手と戦いにくいなら俺が戦ってもいい。そういう思いを込めて蛍さんの名前を呟く。
『誤解するなよソウジロウ。儂はな、この世界に来て話すことを覚え、人の身体まで得ることが出来た。そしてお前やシスティナ、弟子達、ウィルマークや商会のやつら…
たくさんの人と繋がりを持つことが出来た。そしてそいつらが笑っているのが嬉しい。皆と共にあるのが楽しいと思っている』
「うん、わかるよ蛍さん」
呟いた声は音としては蛍さんには聞こえないだろうが想いとしては伝わっているはずだ。
『だからなソウジロウ。そんな儂の楽しみを奪うやつらはやはり許せんよ』
「うん。俺もそう思う」
「という訳でそろそろギアを上げていくぞ」
蛍さんの動きが目に見えて一段階早くなる。
「ちょ!ちょっと待てって!という訳というのはどういう訳だ!!」
ディアゴはその速度の変化にかろうじて対応しているようで縦横無尽な蛍さんの斬撃を手甲で受け流している。ディアゴは俺と蛍さんの会話は分からないのでいきなりギアを上げた蛍さんに戸惑っているのだろう。
それにしても蛍さんの攻撃をあれだけ受けてまだまだ壊れる様子がないところをみるとあの手甲はなかなかの業物っぽい。果たしてあれは防具なのか武器なのか…
『武具鑑定』
『獅子哮
ランク: C+
錬成値: MAX
技能 : 物理防護+ 気弾』
おおっ!どうやら武器扱いらしい。しかも閃斬よりランクが高い上にスキルが2つも付いている。更に武器のくせに防御系スキルが付いてやがる。あれがあるせいで蛍さんの斬撃に対応出来てるってことか。
気になるのはもう1つのスキルだが…
「ほう、まだついてこれるか。ならば更にギアを上げるぞ」
「な!まだ早くなるってのかよ!冗談じゃねぇ!」
ディアゴは蛍さんの宣言に焦ったように叫ぶと逆に自分から蛍さんへと向かって行く。蛍さんのペースで責められ続けたらジリ貧になると理解したのだろう。その思い切りを即決出来るのは戦闘経験が豊富だからだろう。
素早い左ジャブ2連発からワンツー、上半身に意識を向けさせて足払いからの突き上げ。目まぐるしく動き回りつつ的確に相手の死角に潜り込んでいく立ち回りは悔しいが参考にしたいほどだ。
「惜しいな。これだけの才を持ちながら弱者を虐げる盗賊でしかないとはな」
「盗賊であることは否定しねぇが、俺自身は弱ぇやつらを手に掛けたことはほとんどねぇぜ。そんなことしたって楽しくねぇしな。やっぱ強ぇ相手と肌がひりつくような戦いじゃねぇとな」
なんとなく予想はしていたがこいつは戦闘狂、いわゆるバトルジャンキーってやつだ。
「ほう残虐非道な赤い流星の幹部とは思えんが…部下達がやっていることを知っていて見逃していたならそれは結局弱者を虐げているのと変わらんがな」
「まあ!否定は!しねぇ!よ!」
途切れることのない攻撃の合間に言葉を挟むディアゴの顔は喜悦に歪んでいる。
「く!それに!しても!当たらねぇな!」
当たり前だ。俺がどんなに頑張っても未だに訓練中に蛍さんの胸に触れたことがないんだぞこの野郎!
「なら、とっておきだ!」
ディアゴは流れるような連続攻撃で蛍さんの足元に潜り込むと足払いを掛ける。だがそんな攻撃を蛍さんが喰らう訳もなく着物と裾をふわりと靡かせて軽く跳躍をして蛍さんは足払いを避ける。
「当然そうくるよな!喰らいな!ハッ!」
「な!?」
「蛍さん!!」
ディアゴの気合の声と蛍さんの疑問符と同時に蛍さんが空中で弾かれる。
しまった!さっきの鑑定で出てたのはそのままの意味だったのか!
足を払ったディアゴは本当に足を払うつもりはなかったのだろう。蛍さんを跳ばせることだけが目的だったらしい。ディアゴは蛍さんの足を払った体勢のまま合わせた両手を突き出している。
合わせていると言っても合掌ではなく手首だけを密着させ指はまるで獣の牙のように…いやあの形になると装着していた手甲が獣の頭部のように見える。
なるほどそれで獅子哮か!まさしくあれは獅子の咆哮だったって訳だ!
俺はそんなことを考えながら吹っ飛ばされた蛍さんの下へと走る。だが弾かれて床を転がっていた蛍さんは俺が辿り着く前に何事もなかったかのように立ち上がっていた。
「ふむ、その技は面白いな。一体何を飛ばしているのだ?」
「…マジかよ。調子が良ければ岩とか割れる一撃なんだが?」
そっか…刀の特性を持つ蛍さんは人の形はしていても本当の人とは比べものにならないほどの耐久力がある。なんとか岩を砕ける程度ではさほど深刻なダメージは受けないってことか。とにかくダメージがあまりないみたいで良かった。
「さて……お前に1つ選択肢を与えてやろう」
「あぁ?なんだそりゃ」
蛍さん?
「このまま戦いを続けて死ぬか。それとも盗賊から足を洗い、盗賊行為を行う者を見逃さないと約束をして更に武の道を歩むか」
「……………なんだと?」
楽しげだったディアゴの顔が一瞬怒りに歪んだ後、思い直したように思案する顔に変わる。このままでは蛍さんに敗北して死ぬということは分かっているのだろう。ディアゴにしてみればそれはそれで力が及ばなかっただけのことなので問題はなかった。だからこの楽しい戦いを目一杯楽しんで死のうと思っていたのではないだろうか。
そして、その気持ちに水を差すような蛍さんの言葉に一瞬怒りを抱いたがよくよく考えてみれば悪い話ではないと思い直したのだろう。
「…俺自身が盗賊行為を行わず、もし盗賊行為を行う者を見かけた場合は退治するとかすればいいということか?」
「そうだな。ようは世間一般で言われるような悪いことはするなということだ。それさえ守るならいつでもお前の挑戦を受けてやることを約束するぞ」
その蛍さんの言葉にディアゴは獰猛な笑みを浮かべた。
◇ ◇ ◇
結局、ディアゴは盗賊から足を洗うことを受け入れた。
もともと盗賊家業自体をまじめにやっていた訳ではなく、たまに強い奴と戦えるということと兄姉に誘われたからというのが理由だったらしい。
今後は赤い流星と自分からは一切関わらない。盗賊行為を行わない。盗賊行為を意味もなく見逃さない。この3つをシスティナの『契約』スキルで誓約させた。
システィナが言うにはこれだけ重い内容の契約だと私欲による殺人、強盗、強姦あたりをしたらよくて半身不随くらいのペナルティが課せられる可能性が高いそうだ。
それから窓を出させ俺の『読解』の能力で名前を変えた。ディアゴの名前は広く知れ渡っているためこの名前のままでは日常生活すらままならない可能性があったからである。
代わりの名前は考えるのが面倒くさかったので手甲の名前と関連づけて『シシオウ』と付けた。
後で呼びづらいことに気がついたが俺にはさほど関係ないので改名をするつもりはない。
肩の刺青は蛍さんが肉ごと斬り落とした後にシスティナが回復させるという力技で消したのでこれでディアゴの顔を知らない人にはこいつがディアゴだということは分からないはずだ。
「ソウジロウ様。あともう一つ。あの手甲が武器扱いならば所有者がディアゴのままになっているはずです。ソウジロウ様が窓の名前を書き換えたので一度別の人が装備した後に再び装備し直せばおそらくシシオウで登録されると思うのですが…」
「そっか…この世界は武器の所持登録も身分証としては結構使うんだった。どうする?」
俺の問いかけに蛍さんとさっきの戦いについて反省会をしていたディアゴ改めシシオウは「あぁ?」と言って振り向くと両方の手甲を外して俺へと放り投げてきた。
「おわっっと、とっ!」
無造作に放り投げられた手甲をかろうじて二つともキャッチすることに成功した俺は自分の武器を粗末に扱うシシオウを軽く睨みつける。
「やるよ。武器から足がつくのもめんどくせぇし、今回見逃して貰った礼だ」
「え?」
やるって…これを?C+ランクでスキルが2つもついたレア装備をそんな簡単に?
「そんな顔すんじゃねぇよ!そいつは昔俺が討伐した副塔の塔主がドロップしたもんだ。生まれたばかりの副塔にたまたま出くわしてよ。
たった2層のしょぼい塔だったんだが運が良かったらしくてな。それを手に入れてから剣を捨てて格闘主体に乗り換えたんだ。謂わば今の俺そのものみてぇなもんだ」
「ば!馬鹿!そんなもの受け取れる訳…」
慌てて突き返そうとした俺にシシオウが くはは! と笑う。
「良いんだよ。俺はこれから名前すら変えてシシオウとして生きていくんだからな。ディアゴだった時のもんはもういらねぇ!
シシオウが使うべきものはシシオウが自分の力で得たものだけだ。なんだったらこの服も全部置いていくか?」
そう言ってタンクトップとズボンとパンツを脱ごうとするシシオウの頭頂に蛍さんの峰打ちが落ちる。
「ってぇ!冗談に決まってんだろうが!さすがにおれだって裸で外をうろつくつもりはねぇよ!」
「かといって武器も無しにどうするつもりだ。金はあるのか?」
蛍さんの問いかけにシシオウはちょっとだけ考えてから俺に向けて手を差し出した。
俺はどこかほっとした気持ちで獅子哮を返そうとするが、シシオウは首を振ると獅子哮を持つ俺の手を指さした。
「え?」
「それくれよ。それも結構な業物だろ?」
「いや…だけどこれ武器じゃなくて防具だぞ」
確かにリュスティラさん謹製のこの手甲は魔鋼製で物理耐性が付いたかなりの業物であることは間違いないがそれはあくまでも防具としてである。積極的に攻撃に使用していった際にどんな不具合が出るか分かったものではない。
「俺には充分だ。それに……その獅子哮は俺からの宣戦布告だと思ってくれ」
「は、宣戦布告?盗賊はやめるんだろ」
「ちげーよ。そうじゃねぇ!あんた蛍って言うんだろ?こいつが呼んでたからな。
で、俺はその蛍にマジで惚れた!こんなに強ぇ女は初めてだ。いつか蛍を倒してお前から蛍を奪う。
だがせっかくそれが出来たところで盗賊行為になっちまうと困るからな。ここでしっかりと宣戦布告しておこうと想ってな」
はぁぁぁぁぁぁああ!!何言ってんのこいつ。俺の蛍さんに勝手に惚れるのはまあいい。むしろ蛍さんに惚れない男なんて本当に男なのかと声を大にして問い詰めたい。
だが蛍さんを俺から奪う?そんなの認められる訳ないだろうが!ふざけんなと言ってやる。
「ふ「いいだろう」…けん……な?」
え?
「お前が誓約を守り、死ぬほどの鍛錬をしていつか儂に勝つことが出来たなら考えてやってもよいぞ。
だが、その時には儂の前にまずソウジロウを倒してから頼むぞ」
「ホントか!後で嘘とは言わせねぇぞ!」
「ああ言わぬ。
今ある力の差を儂への想いでひっくり返せるようならそれほどの想い。一考する価値ぐらいはあろう」
蛍さんがすっげぇ楽しそうに笑いを堪えながら俺を見ている。くっそぉあれは完全に遊んでる顔だ。だが結局のところ俺は蛍さんを確実に守るためには蛍さんの遊びに乗っかるしかない。万に一つの可能性を潰すためにシシオウが蛍さんと戦えないように俺がシシオウを止めるしかないからだ。
「うぅぅぅ~!くそ!分かったよ。その話受けてやる。システィナこれ持ってて」
システィナに獅子哮を渡すとせっかくリュスティラさんに作ってもらったまだ数えるほどしか装備してない手甲を外してシシオウへと投げる。
「おっと!…へへへ、やっぱり思った通り良い手甲じゃねぇか。これなら問題ねぇ」
「ふん、シシオウ。これも持って行け。餞別だ」
俺の手甲を装着して使用感を確認しているシシオウに蛍さんが腰に付けていたポーチを投げる。あそこには今日倒した魔物達の魔石がいくつか入っている。確か2階層と4階層は蛍さんが拾っていたから階層主の物も二つ入っているはず。それだけあればここでディアゴだったときの財産を全て捨てて行ってもしばらくは困らないだろう。
「こりゃありがてぇ。これからしばらく魔物を狩ってから移動するつもりだったんだがこれですぐにでも旅立てるな」
「ほう、すぐにフレスベルクを出るのか」
「まあな、近いうちに兄貴達がフレスベルクを襲うような話をしてたからな。今回俺の部隊が壊滅したことを把握したら予定が変わるかもしれねぇが今は巻き込まれたくないしな」
おいおい、なにさらっととんでもないこと言ってくれてんだこいつ。大事件だろうが!
「シシオウ。ならばここを出る前に最近フレスベルクに出来た冒険者ギルドで登録をしていけ。今はフレスベルクにしか店舗は無いが探索者達の互助組織でな。儂らが後押ししている組織だから協力しろ。店舗は近いうちに主塔がある街へ、その後も順次街々に広がっていくはずだ。役に立つこともあろう」
「へぇ、そんなんが出来たのか。せっかくの蛍の忠言だ、ありがたく従っとくか。
じゃあ俺からも忠告だ。俺の兄貴たちは筋金入りの悪だから気を付けな。だが本当に厄介なのはその兄貴たちに知恵を付けてるパジオンって男だ。こいつと知り合わなきゃ俺達は地方でちまちま行商人を襲う程度の小悪党だったはずだからな」
なるほど…一番厄介なのは幹部の中でも参謀の男ということか。
「じゃあそろそろ俺はいくぜ。がんがん鍛えてくっからその乳磨いて待っとけよ蛍!」
「っざっけんな!あの乳は俺のだ!」
シシオウは俺の魂の叫びを笑いながら背中で受け流し通路の先へと消えていった。
俺は今までにない疲労感を感じて大きなため息を吐く。
「すまんなソウジロウ。しっかりカタをつけるつもりだったんだがな」
「ううん、いいよ。なんとなく分かったから」
「そうか……」
「うん」
「あの…私は良く分からないんですが何故あの幹部を逃がしてしまったのですか?」
蛍さんと二人で完結しようとしていたところに申し訳なさそうにシスティナが疑問を投げかけてくる。
まあ、システィナにしてみれば死ぬ思いで兇賊を倒し休憩して駆けつけたら訳も分からずディアゴの治療や契約を強制され、なんだかさわやかに盗賊の幹部を見逃すという訳の分からない状況である。
「すまんなシスティナ。これは完全に儂の我儘じゃ。あやつがなんとなく儂ら武器に似ているように思えてな」
「武器に似ている…ですか?」
「うん、蛍さんや桜は今でこそ人化で人の身体にもなれるけど元は刀という武器だよね」
システィナは頷く。
「武器は……自分で所有者を選ぶことが出来ないんだ。どんなに自分をうまく使って欲しくても、どんなに悪いことに使って欲しくなくても自分を握った人に従うしかない」
「…さっきの人は兄や姉に盗賊であることを強いられていたと?」
「う~ん俺には正直分からない。その辺の感覚は蛍さんが感じたことだからね」
「見逃してしまって大丈夫なのですか?」
「儂は大丈夫だと思っているがもし何かあれば儂が存在をかけて奴を殺す。だから一度だけ見逃してやってくれ。
多分だがあいつは戦うのが好きなだけで性根は腐ってない。兄姉達の下から離せば面白い男になりそうだと思ってな」
そう言って蛍さんは小さく頭を下げた。
「…わかりました。蛍さんがそう言ってご主人様がそれを認めた以上私がどうこう言えるはずもありませんし、私もご主人様と同じくらい蛍さんを信じていますから」
「そうか、すまんなシスティナ。儂もお前をソウジロウと同じくらいに信用しておる」
「私もだよシス」
『私もですわ!』
うん、俺の嫁達は本当に素敵な女達だと言うことが分かっただけでもあいつを見逃した価値があるような気がしてきた。
「よし。いろいろあったけど取りあえず塔に巣食ってた盗賊達は一掃した。盗賊達の武器と所持品を回収して街へ帰ろう」




