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魔剣師の魔剣による魔剣のためのハーレムライフ  作者: 伏(龍)
第3章

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50/203

5階層攻防戦

 部屋に入るとそこはレイトーク1階層でみたような安地部屋と大差ない10畳ほどの四角い部屋だった。右の奥に6人組の集団がいて、左の奥に4人組の集団がいる。いずれも鋭い目つきで俺達を値踏みするように観察し、うちの女性陣を見て口元に下卑た笑みを浮かべている。

 俺的にはこの時点で完全アウトなんだが…


 とりあえず奥の奴らに軽く頭を下げ、休憩に来ただけという体を装い入り口付近に腰を下ろす。あいつらの近くに座ろうとはちょっと思えない。カモフラージュのため背負い袋から水筒と携帯食(干し肉的な物)を出すと皆に配る。

 そのついでに奴らをざっと簡易鑑定していくが予想通り、いや予想外に1人を除いて全員の職が盗賊になっていた。


 そのまま談笑しながら携帯食を囓っていると4人組がこちらへ歩いてくる。ここでやる気だろうか。むしろここで襲ってくれた方が10対4になるので23対4より楽でいい。


「こんにちは。5階層は初めてですか?」


 話しかけてきたのは優男と言っても良いような細身の男だった。人によってはイケメン認定を得られるかどうかという感じで軽鎧を身につけ腰には長剣を下げているが……なんていうか似合っていない。正確には馴染んでいないと言った方が正しいだろうか。

 そいつが空々しい笑顔を振りまきながら親しげに話しかけてきたのである。


「いえ、5階層には最近ですね。今まではずっと4階層で戦っていたんですが、それがいい経験になったようで5階層でもそれなりに戦えそうなので思い切って主討伐に挑戦してみるつもりです」


 とりあえず5階層の主に挑戦しにきた初心者に毛の生えた程度の探索者を装って返事をしておく。


「そうですか。私達も似たようなものです。今までは対応型の塔に入っていたので自分たちの実力がここでは何階層なのかを調べようと思って行けるところまで行くつもりなんですよ」


 対応型の塔は入り口を入るとそのパーティの実力に近しいレベルの魔物がいる階層へ飛ばされるという変則的な塔でこの世界にも1つしかない。もし本当にそこに入っていたとしたら確かにザチルの塔なら何階層まで行けるかを調べるのは必要なことだろう。


「対応型ですか。確かミレスデンの塔でしたっけ?」

「……あ、はい。確かそんな名前でしたね。ではそろそろ私達は主に挑戦して上に上がりますので失礼いたします」


 軽く頭を下げて部屋を出ていく4人を見送って小さく溜息を吐く。さて、どういうことだろうか『兇賊』くん。

 そう、唯一盗賊ではなかった男。それがあのエセイケメンだった『兇賊』…盗賊からの派生職だろうか?名前の凶悪さから考えれば盗賊の上位職っぽい。今回の集団のナンバー2かもしれない。


「どうやら、我らの情報を本隊に伝える役目だったようだの。この先にいる集団に合流したようだ」


 なるほどね。獲物の品定めをしてたのか。獲物の人員構成、強いのか弱いのか、装備は?その辺を自らの目で確認して本隊に伝える役目。ならばさっきの応対で俺達はさぞおいしそうな獲物に見えただろう。 

 極上の美女が3人、装備も明らかに魔材を使用したレア装備であることはある程度の人にはすぐ分かるだろうしね。


「これは確実に襲ってきますね」


 システィナの目が据わっている。赤い流星に対しては容赦する気は欠片もなさそうだ。


「さて、後方部隊があいつら6人になりそうだけどどうしようか?」

「ふむ、あの程度の敵6人だったら儂1人でなんとでもなろう」

「了解。じゃあ俺も前衛に回る。本格的に相手を潰すのは後顧の憂いを断ってからにしよう。いいねシスティナそれまでは突っ込まずに後ろに敵を通さないように立ち回るんだ」

「…はい」


 システィナの防衛力なら問題ないだろうけど赤い流星に内心では激怒しているっぽいシスティナが1人で突撃したりしないか少し不安だったからちょうど良かった。じゃあぼちぼち行きますかゴミ掃除に。


 俺達は視線だけで意思を確認し合うと荷物を片付けて立ち上がる。一瞬ビクッと部屋の中の男たちが反応したのは自分たちも動くつもりだからだろう。

 そのまま特に後ろに意識を向けないようにしながら部屋を出て主の間のある方に向かう。


「長い通路で前後からで間違いない?」

「だろうな」

「この道は先日5階層を抜けた時と同じ道です。この先のT字路を右に曲がればしばらく別れ道のない通路になります」


 さすが侍祭様、一度通った道は忘れないらしい。


「多分そこでビンゴかなぁ。前の集団的にも後ろの集団的にも」

「そうですね。多分そこの通路の先が十字路になっていますのでそこに兵を伏せているのではないでしょうか」

「シス正解。確かに気配の塊が2つに別れてるから間違いないね」


 これで襲撃を受けることはほぼ確定しているが『いつ』受けるかは特定出来た。本来ならそれを活かして逆にこちらから奇襲をかけたいところなんだが万に一つ、億に一つ程の可能性で冤罪の可能性がある以上こちらから仕掛けるのは躊躇いがある。

 この辺が平和な日本で育った弊害だろうか。日本では死刑反対論者が『冤罪だったらどうする』を死刑囚全員に適用して騒ぎ立てていた。確かに冤罪の可能性がある人に関しては徹底的にやればいい。だけどどう転んだって冤罪の可能性のない死刑囚もいるのに死刑制度自体を無くそうとするのはナンセンスもいいところだと思う。

 おっと俺の個人的な考えなんかどうでも良かった。人それぞれの考え方があって当然だしね。ただ俺は俺が悪人を容赦なく斬るための理由が欲しいだけだ。


「よし。じゃあ気を引き締めて行こう。一度に相手する人数は少ないとはいえ相手は5倍以上だからね。全員無理はしないように」

「うむ」

「はい」

「オッケー」






「ここで止まって貰おうか」


 十字路の両脇からぞろぞろと出てきた男たちの中から髭面の男が1人前に出て来て俺達を制止する。

 時を同じくして後方から駆け足の音が聞こえてきたので後ろの6人も予定通り俺達の退路を断ちに来たようだ。


「何か御用でしょうか。私達は主の間に行きたいのですが」


 システィナが同じように一歩前に出て丁寧に対応を始める。


『皆、無いと思うけど弓にも気を付けておいて』

『『『 応 』』』


 俺の共感によるイメージ伝達を正確に読み取ってくれた刀娘たちから了解の意が届く。


「たいしたことじゃない。置いて行ってほしいだけだ」

「置いて行って欲しい?何をですか?」


 髭の男は気丈に話を続けるシスティナを見て下卑た笑い声をあげ周囲の男たちと顔を見合わせて笑う。


「そこの冴えない男の命以外全てだよ。たいして可愛くもねぇ男なんてケツの穴すら役にたちゃしねぇからな!ギャハハハ!」


『火遁:槍衾』


 瞬間、キレた桜のパワーアップした3本の炎槍が先頭にいた盗賊共に命中した。前に出ていたのは通路を塞ぐために4人。そのうち脅迫していた髭以外の3人が黒焦げになっている。


「な!なんだ…ひっ」


 ほぼ無詠唱状態で放たれる桜の魔法とその威力に理解が追いつかずに慌てる髭の男が引き攣った声をあげる。何故なら一瞬目を離した隙に目の前に驚くほど冷たい眼をした女が自分の喉元に刀を突き付けていたからだ。


「お前ごときがソウ様のことを馬鹿にするな」


 次の瞬間髭の頭が宙を舞う。

 ちょっと予定とは違ったがまあいいか。あと19人きっちり仕留める。


「いくよ!」


 一言告げて走り出す。見てはいないがちょっと遅れてシスティナも続いている。後ろからは既に悲鳴が聞こえているので蛍さんも桜とほぼ同時に動き出していたらしい。

 桜は髭男にとどめを刺した後は速度を活かして攪乱しつつ火魔法を各所でぶっ放している。威力が高すぎるものは俺達がいて使えないので『火遁:爆』をピンポイントで打ち込んでいるらしい。


「くそ!兄貴がやられた!俺達も行くぞ!相手は女3人の4人組だ、さっさと片付けてお楽しみといくぞ!ぐあ!」

「させるか馬鹿」


 迂闊に前に飛び出してきた勘違い男の首を閃斬で斬り飛ばす。だが盗賊達が後ろからどんどん詰まってくると一撃で勝負を付けるのは難しい。通路の幅の関係上、最低でも1人で2人は相手にしなくちゃならないからだ。だが後ろに敵をやる訳にはいかない。蛍さんなら1対6でも負けないだろうが後ろから増援が来るようだと戦いにくいだろう。


「システィナ!後ろに行かない様にすればいい!」

「はい」


 システィナは魔断のリーチを活かして盗賊達近づけさせずに短剣や長剣を捌いていく。守りに入らせたシスティナは相変わらずの安定だ。

 俺もあまり突っ込み過ぎないようにシスティナとの位置関係に気を付けながら一度に2人の盗賊を相手にする。右からの上段を葵で受け、左からの突きを閃斬で叩き落とす。葵で剣を受けながら閃斬を叩き落とした剣に滑らせるように斬り上げて行って相手の首を薙ぐ。左の敵が入れ替わる前に水平に受けていた相手の剣を葵の剣先を下げて受け流し相手の体勢が前のめりになったところで閃斬を脳天から落とす。


 正直しんどい。視界を一か所に集中しすぎることなく常に広く俯瞰的に保ち続けるのはかなり精神力を削られる。1剣1刀を使いこなすための特訓はしてきたつもりだがまだまだ付け焼刃の段階で時折俺が見逃した攻撃を葵が共感でフォローしてくれなければまだまだ1対2の状況で常に戦い続けるのは無理だろう。

 こんな時は戦闘系のスキルがないのが悔やまれなくもないが刀娘達の代償だと思えば嘆くつもりはない。スキルなんかなくても強くなれる!


「待たせたなソウジロウ。一旦下がれ」


 とは言いつつも後ろから聞こえた頼もしい声に心底安堵しながら相手の攻撃を弾き返したタイミングで下がる。その穴にはもちろん蛍さんが黒髪を靡かせながら入っていく。


「ぷはぁ!」


 下がった瞬間にいつの間にか止めていたらしい呼吸が再開される。自分でも気づかなかったがかなり限界だったらしい。だからこそそれに気付いていた蛍さんは俺に一息つかせるために交替を申し出てくれたのだろう。

 情けないがこれが今の俺の実力だということだろう。荒くなった息を必死に整えつつ戦線に問題がないことを確認すると後ろを振り返る。


「さすがは蛍さん」


 後ろを塞いでいた男たちが綺麗な斬り口で漏れなく2つ以上になっているのを見て思わず呟く。

 さて、のんびりしている場合じゃないか。ここで俺が戦線に復帰すれば一気に押し込める。


『主殿!きゃつらの後方から魔力の気配がいたします!おそらく火の魔法ですわ』

「ち!仲間ごと焼くつもりか!『桜!後方に魔術師がいる!火の魔法を打たれる』」


 後半を共感で伝わるように強く状況をイメージして心中で叫ぶ。


『了解!任せてソウ様』 


 桜の意思にはっとして目を凝らすと何故か天井と壁の境目部分に張り付いている桜が青みを帯びたクナイを脚甲から取り出し投擲するところだった。桜のクナイは目で追うのも難しい程の速度で後方にいた魔術師が放った直後の火球に狙い違わずに命中する。

 するとボォン!という鈍い爆発音と共に火球が爆発。魔術師を巻き込んで消えた。


 おおぉ!なんだ?何したんだ桜。


「呆けるなソウジロウ。一気に行くぞ」


 っと疑問は後で解消すればいい。今はあいつらを殲滅するのが先だ。

 その後の俺は、まずシスティナと交代してシスティナを休ませた。言いつけ通り守りに徹していたためか俺ほどには疲弊していなかったがそれでも交代した後は後ろから荒い息が聞こえていた。

 交代する時に息が整ったら今度は蛍さんの位置に入ってくれるように言ってある。そこにシスティナが入るとどうなるか……

 そう。桜と蛍さんが自由に動けるようになる。


 そうなればもうただ大勢で奪うコトに慣れきった盗賊ごときに俺達は止められない。あっという間に通路を塞いでいた盗賊達は全て物言わぬモノとなって動かなくなった。


「こ…れ、で全…部?」


 乱れる息を必死に整えながら死屍累々の通路を見て桜に視線を向ける。


「う…んと。あと3人隠れてるかな」

「ふん…そこの右の通路に隠れている奴ら。さっさと出てこい!」


 気配察知が使える2人がいると言っているのだから間違いなくそこにまだ隠れいているのだろう。ざっと死体を数えてみてもやはりいくつか数が合わない。それに右肩に流星の刺青がある男も出て来ていなかったはずだ。


「くくくく……おいおいマジかよ。俺の部下20人を囲まれた状態からたった4人で?しかも無傷で?たまんねぇなぁ」


 肩を震わせながら出てきたのは細身の長剣を担ぐように持ち剣の腹で肩を叩いている筋肉隆々の大男だった。

 上半身は防具らしい防具は皆無で黒のタンクトップのような衣服を身につけている。下半身は皮のズボンらしきものを身につけ脚甲を付けてはいるが防具らしきものはそれくらいしか身につけていない。そして右の肩には確かにウィルさんに聞いていた流星の刺青がある。


 多分間違いない。おそらくこいつは赤い流星の中でも高位の幹部のはず。ここまで来たら確実に処分しておきたい。


「た、助けてくれ!」


 俺の密かな決意を打ち消すように情けない声が響く。生き残っている3人のうち幹部を除いた2人、更にそのうちの1人が後ろ手に手を縛られもう1人に背後から剣を突きつけられている。

 よく見てみれば剣を突き付けられて助けを求めているのはさっき安地部屋で話しかけてきたイケメン風の兇賊だった。

 剣を突き付けている男は神経質そうな顔を無表情に固めたまま兇賊の肩を片手で抑えもう片手で剣を突き付けている。


 う~ん、確かに俺の鑑定能力と盗賊だって情報がない状態だったら先に行った普通のパーティが先に襲われて捕まってる様に見えるのか?正義を重んじるパーティなら手を出しにくい、最悪でも動揺を誘えるってことなのか?


「とんだ茶番だな」


 呆れて呟いた俺の一言に兇賊の表情が変わる。怯えたような目で助けを訴えていたのがにぃーと口角を上げると粘ついた笑みを浮かべる。


「ほう…後学のためにどこで気が付いたのか教えてもらいたいものですね」


 俺の言葉に既に正体がばれていることを悟った兇賊がいつの間にか解けていたロープを床へと落しながら後ろの男から長剣を受け取る。


「強いて言うなら最初から…ですよ」


 前情報と簡易鑑定でほぼ確定だったので嘘ではない。


「ほう…つまり最初から私達がここで仕事をしていることを知っていたということですか」

「…もう1つ言わせて貰えば対応型の塔の名前はミレスデンではなくてミレストルですよ」

「はぁっはぁ!なるほどなるほど。変に設定に凝り過ぎたせいで逆にボロが出たパターンですか。まぁ次回以降の参考にさせて貰いますよ」


 こいつら仲間が軒並みやられて残り3人になったくせに随分と余裕だな。俺達の強さも知ってるはずなのにそんなに自信があるのか?


「さて、下っ端の再編成もしなくてはならないですし…そろそろ片付けますか。とは言っても私だけではちょっと厳しいと思いますので…ディアゴ様お手伝い願えますか」

「いいぜぇ。久しぶりに面白い獲物だしな。手伝ってやるよ」


 今、確か…『簡易鑑定』。


『ディアゴ 業 98

  年齢:29  

  種族:人族 

  職 :盗剣士』


 やっぱりそうか!


「刺青のやつは副頭目のディアゴで間違いない。これはある意味チャンスかな、出来ればここで確実に潰しておきたい」

「任せておけ。今回は儂がやってやる」

「ではあの兇賊は私が」

「じゃあ桜は最後の1人を貰うね」


 え?あれ?なにその割り振り的なもの。俺は補欠的なポジショニングですか?普通で行けば回復担当のシスティナを後ろに残すのが正解じゃないでしょうか……


 あ、駄目だこれ。システィナの目が完全に据わってる。ここはひとまず嫁達に任せよう。下手に手を出すと後が怖い。


「葵、なんか怪しい動きとかあれば教えて。後ろの無表情のやつは魔法を使う」

『承知いたしましたわ主殿。このわたくしはほんの僅かな魔力の動きも見逃しませんわ!』


 張り切っている葵だが実際問題としては1対1の戦いになった以上は不意打ちがなくなったため魔法に関してもさほど問題はない。ただ俺自身が戦いに参加しないので何らかの役目を葵に与えておかないと後でまた拗ねるのでご機嫌取りのようなものだ。


 同じハーレムでも奴隷ハーレムとかなら命令とかしちゃえばいいので、こんな苦労はないのだろうが一夫多妻系のハーレムだと大前提として嫁同士の相互理解必須の上で、あとは同じくらい俺と各嫁達の関係を良好に保たないとうまくいかないと思っているのでちゃんと全員を気に懸けるように日頃から心掛けている。


 っと言っている間に戦いが始まる。まずは桜が先陣か。相手はさっきからずっと無表情な肌の白い男。体格はひょろっとしていて荒事に向いているようには見えない。簡易鑑定では…


『実験体121(作:パジオン)  業 -(自我喪失)

 年齢: - (20代相当)  

 種族: - (人族ベース) 

 職 :人造魔術師(改造ランクC)』


 こいつら……殺す奪うだけじゃなくて人体実験までしてやがる。素体がさらってきた村人なのか、配下の盗賊達なのかは知らないが少なくとも100人以上…

 マジで救えないクズ共だな。


 システィナ辺りが激昂すると危ないから、とりあえず今はこの情報は知らせずにおこう。実験体も境遇には同情するが俺達で救えるとはとても思えない。ただし、機会があれば同じような境遇の者達が2度と出ないように計画を潰すことは俺の中で約束しておいてやる。


「桜!相手は魔法を使うから気をつけて!」

「りょ~かいソウ様!」


 桜が自分の分け身である刀を手に実験体の後方へと高速で移動すると今までのように喉を掻ききるべく刀を振るう。

 だが赤い血をまき散らすはずの刀は何かに遮られ実験体の喉へと届いていない。どうやら魔法で高密度の空気の壁を作り出して盾にしているようだ。


「へぇ!風の魔法にそんな使い方があるんだ。おもしろ~い」


 桜は刀が通らないのを確認すると反撃を警戒してすぐさま間合いを取る。それにしてもどうやら実験体は魔法を使う際に詠唱が必要ないらしい。これは多分改造により人としての余計な常識や雑念が無くなっているため普通の人に強固に根付いている固定観念の縛りが無いからだろう。

 固定観念がなければ詠唱によってイメージ力を補強する必要がない。だから無詠唱で魔法が使える。逆に考えられるデメリットとして実験体は自我を喪失しているせいで自分で魔法を考え出すことが出来ないのではないだろうか。


「じゃあ、これはどう?『火遁:爆』」


 桜の魔法が実験体の直近で爆発する。実験体が爆炎の向こうで吹っ飛んでいるのが見える。やったか?

 と思ったのも束の間爆炎の名残の向こうから何かが飛んでくるのが見える。


「っとと!」


 桜はそれを高速移動で舞うようにかわす。


「空気の刃?爆炎の煙が無かったらやばかったかもね~」


 ウィングカッター的なもの?ていうか結構強くないかあの実験体。防御は風の鎧で攻撃は見えない刃。しかも無詠唱とか。桜は大丈夫だろうか…見た感じまだ余裕はありそうだが。

 爆炎が晴れるとそこにはやはり無表情のまま立ち尽くす実験体が直立している。白い肌が若干赤くなっているのは桜の火魔法を完全にはシャットアウト出来なかったせいか。


「あんまりソウ様を心配させるのも可哀想だからそろそろおしまいにするよ」


 おっと、共感で不安が少し伝わってしまっていたらしい。桜は一瞬だけ俺に嬉しそうな視線を向けると可愛らしく片目を瞑ってみせた。うん、可愛い。心配はいらないらしい。

 桜は刀を消すと両腕をクロスするように両腰にあてて低く構えると腰帯に仕込んでいたクナイを何本か抜き放ち実験体へと駆け出していく。


 実験体はのっそりと右手をあげると再び風の刃を飛ばしてくるが桜は不可視の刃をあっさりとかわして跳躍。左手に持っていたクナイ2本を一度に投擲。投擲されたのは薄茶色のクナイと黒いクナイ。

 当然実験体は風の鎧を展開して防御しようとするが桜の投げた薄茶色のクナイはその鎧をいともたやすく貫いて実験体の肩口に刺さる。その衝撃で体勢を崩した実験体に2本目の黒いクナイが今度は腹部に刺さる。クナイのダメージで風の鎧が展開出来なくなっているらしい。


「ほい、とっどめ~!」


 桜の右手が振りぬかれ更に2本のクナイが放たれる。一本は黒いクナイで胸の中央へ吸い込まれ、もう一本の赤みを帯びたクナイが眉間に刺さる。と同時に爆裂した。

 なるほど、桜の新装備のクナイか。さっきの火魔法も水属性のクナイで相殺してたのか。で今回は風の鎧を地属性のクナイで無効化して鎧がなくなったところで追撃のクナイを叩き込み最後に火属性のクナイを急所に当てる。これは喰らった方はたまらないな…

 当然実験体も顔の形すら分からなくなった状態でゆっくりと倒れていった。


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