対応
結局あれからお風呂で1回戦×3。簡単に夕食を摂ってから寝室で1回戦×3したところで俺の体力が尽きて眠りに落ちた。マイサンの方は魔精変換があるのでまだまだ行けたのだが…
そのおかげなのかどうか分からないが泥のように深く眠った俺は夢すら見ることもなく眠り続けることが出来た。中途半端な疲れ具合で寝たら逆にうまく寝られずに嫌な夢でも見そうな気がしていたので皆に感謝である。もちろんすっきりさせて貰ったことも大きな理由の1つだが。
結局皆で昼近くまでごろごろしてしまった。もっとも俺が目を覚ました時には全員起きていたので他の皆は俺が起きるのを待っていたようだ。
その後は皆でお風呂で汗を流し、昼食を摂った。
「これからどうするかをちょっと話し合っておこう」
食卓を囲む蛍さん、システィナ、桜にそんなことを切り出したのはその昼食後だった。
「盗賊団のことだな?」
「うん。もちろんこっちから積極的に狩りに行くつもりはない」
盗賊狩りとかやってみたい気はするが定まったアジトを持たない上に大所帯の赤い流星相手ではちょっと荷が重い。
「でもあんなことをする人達を放っておく訳には…」
「気持ちは分かるけど現実問題として俺達4人では無理だよ。フレスベルクの方で本格的に討伐隊を編成するなら協力することはもちろん構わないけどね」
あんなクズ共を始末したいのは俺も同じ気持ちだが相手はまだ150人近くいる計算だ。一カ所にまとまっていてくれるなら魔法を絡めて一気に潰せる可能性はあるけどそんな間抜けなことはしないだろう。
移動するときも野営をするときもある程度分散しているはずだった。
「しばらくは難しいだろうな。コロニ村の件が片付くまでには早くても3日、復興まで視野に入れれば1週間以上かかってもおかしくない。領主の抱える兵が何人いるのかは分からぬがこの世界の情勢から推測するにそれほど多くはあるまい。
ならばコロニ村に派遣した兵が戻るまでは街の防衛はともかく外征に出ることなど無理であろうな」
「うん…俺も蛍さんと同じ考えかな。だからこっちから攻めるという選択肢はフレスベルクにも俺達にも無いんだ」
「でも裏山に逃げ込んでるなら私達の屋敷はかっこうの餌だよねソウ様」
パクリット山というのは屋敷の後ろにある山だけを言うのであって、実際にはパクリット山はアバオアク山脈の一部である。その広大な山々をひっくるめて裏山と言っていいのかどうかはこの際置いておくが、桜が言っているのは盗賊達がパクリット山辺りに向かったと聞いてからずっと俺達が懸念していたことである。
「かといって屋敷を引き払って避難するのもな…」
『自らの城も守れないのは悔しゅうございますわ』
城にいることが多かったらしい葵にとっては落城というものは受け入れがたいらしい。
「そうだよね。昨日も言ったけどここはもう俺達の大事な家なんだよな…」
「はい。ですが来るかどうかも分からない盗賊を気にしてここに閉じこもっている訳にいかないのも事実です」
ぶっちゃけしばらく働かなくてもいいくらいの貯蓄はあるので食材とか日用品の補充をベイス商会に頼んで配達して貰うようにすれば、しばらく屋敷に閉じこもっていても問題はない。ただ150人全員で攻めてこられたら俺達4人が待機しててもさすがに守りきれないだろう。
「さすがに大きめの屋敷とはいえ、屋敷1軒に全員でということもなかろう。来るとすればせいぜい数十人といったところでではないか」
そんな俺の不安を蛍さんが一蹴する。確かにちょっと大きいとはいえど家1軒にそんな大人数を送り込む必要はないか…仮にこの程度の屋敷に詰めている人間が20人程度だと見積もったとしてもその20人は普通ならほぼ非戦闘員であることが想定される。
その状況なら奇襲をかける盗賊達の側からすれば同数程度で充分制圧出来ると判断するだろう。人数が多くなればなるほど自分たちの取り分が減るということも盗賊なら身に沁みているだろう。
本当ならば屋敷の物を一旦全部引き払って街へ避難すれば安全なのは間違いない。だがいざ盗賊達が屋敷に押し入ってきた時に金目の物が無かったからと言って何もせずに帰ってくれる保証はない。
最悪の場合腹いせにコロニ村にあった一部の家がされていたように火をつけられて完全に焼失することも覚悟しなければならないだろう。
「襲ってくるなら夜だと思う?ソウ様」
「う~ん……多分ね。ただコロニ村の襲撃は朝だったみたいだから絶対とは言えないか」
「村の襲撃の時はおそらく100人以上で一気に襲撃したはずだ。少数で動くだろう今回とは条件が違うだろう」
「数の力押しが出来たから時間を気にしなかったってことか」
「となると盗賊達が来るとしても夜になってからということですね…」
う~ん…じゃあ夜は常に動けるようにしてないと駄目か。ん?ちょっと待って!だったら全員裸で寝てるとかチョーアウトじゃね?盗賊団がどっかに行くか壊滅するまでずっと生殺しってこと?
「…ご主人様。問題はそこではないと思うのですが?」
は!何故俺の考えていることがばれた?あなたは超能力者ですかシスティナ。
「な、なぜ…」
「ソウ様…あそこ膨らませて、そんな残念そうな顔してれば誰でもわかるってば」
くっ、本能に従順な身体が恨めしい。
「ならば早朝、もしくは夕方に相手をしてやろう。システィナも桜も構うまい?」
「桜はソウ様相手なら24時間365日いつでもOKだよ」
「あ、あの…私も…ご主人様のためなら」
な、なんて出来た嫁達だろう。
もう俺は彼女達抜きでは生きていけない自信がある!彼女達を守るためにも警戒だけはしっかりするようにしよう。
「よし、じゃあ。しばらくは朝はちょっと遅めに出て夕方は早めに帰るようにしよう。その上で夜は交代で見張りを置いて警戒する」
「ソウジロウ。見張りは儂と桜にまかせておけ。警戒が必要だとは言えここは我らの家だ。そんなところで毎晩見張りなぞしていては疲労が蓄積するだけだ。お前とシスティナは充分な休養を取って貰わなければ困る」
むう…やっぱり蛍さんはそう言ってくるか。いくら刀だから寝なくても平気だと何度言われても実際に毎晩寝ているところを見ている訳で、気持ちよさそうに寝ている姿を知っている身としては毎晩の徹夜を強いることはしたくないんだよな。
そんな俺の思いが顔に出たのか蛍さんが肩をすくめつつ笑う。ちょっと嬉しそうに見えるのは気のせいだろうか。
「いつも大丈夫だと言っているだろう。心配するな儂と桜で1日交代でやればよい」
「そうだよ。ソウ様はちゃんと寝て体力回復して貰わないと!朝や夕方の錬成がおろそかになっちゃうと困るしね」
「説得出来るとは思ってなかったけど…分かった。じゃあお言葉に甘えるけど何日かに一回は俺とシスティナにも見張りをやらせて欲しい。さすがに1晩丸々っていうんじゃなくて二人ずつ2時間交代とかローテーションで。
そうしないと蛍さんと桜がいないときに俺達が困るからさ」
いつも刀娘達がいてくれるとは限らない。俺とシスティナが野営時の見張りの経験を積んでおくのは無駄にはならないはず。
「ふむ、それも一理あるな。まぁもっとも我らが2人ともソウジロウの傍から離れることなどないだろうがな」
「確かにね。こっちに来てから蛍さんと桜はずっと俺と一緒だからね。もちろんそのうち別々に行動することもあるかもしれないけどそれはもうちょい先にして欲しいかな」
なんだか随分と長い間こっちの世界で暮らしているような気がしていたけど、実際にはまだこっちに来てから日本時間で1ヶ月も経っていない。もう少しいちゃいちゃさせてもらっても別にバチは当たらないはずだ。
「ふふん…よかろう。ならばいっそ今日をその日にするとしよう」
確かに今日ならたっぷりと睡眠も取れているし、時間的にこれからどこかに出かけるということもない。それなら俺とシスティナの負担は少ないだろう。蛍さんはなんだかんだ言っても俺に甘いと思う。
「了解。じゃあ今日は寝る時から2時間おきに俺と蛍さん、システィナと桜で交代しながら見張りをすることにしよう」
「はい。私もそれで構いません。ですが…そうすると今日はこの後なにを致しますか?」
俺の提案に刀娘達が頷きシスティナも了承してくれる。が…確かにこの後の予定がぽっかりと空いてしまった。もう探索に行くような時間じゃないし、寝るにも早い。
「あ!はいはいはい!それなら盗賊用にちょっと屋敷のと庭の罠を改造したいから手伝って貰おうかな」
「ちょ!ちょっと待ておい!ちゃんとそう言う物設置したら報告しとけって言ったよね!」
「え?そうだったっけ?」
くっ…『てへっ』て感じで首をかしげる桜も可愛い。はぁ…結果として屋敷の防衛力が高まるなら別にいいか。
結局この日は桜の指示に従って物を運んだり、穴を掘ったりする作業に従事したのだがどんな罠が仕掛けられているのかは最後まで教えて貰えなかった。
だが、このときの作業の疲労と夕方からの3人とのまぐわいで体力を消耗してしまったため夜の見張りがかなり辛いものとなってしまった。それでも見張りの時の注意事項や気配察知のコツなんかを蛍さんから教えて貰ったりしたので有意義な体験だったと思う。
後で聞いたところシスティナも桜からいろいろなことを教えてもらえたそうで満足そうだったが何故か教えてもらったことを俺が聞くと顔を赤くして教えてはくれなかった。




